自分が子供の頃にみた脱獄もの映画といえば「フォートレス」「大脱走」「アルカトラズからの脱出」の3本。
「アルカトラズからの脱出」はその中でも1番華がなく地味な作品だったように思いますが、静かに手に汗握ってドキドキ。
ホモの囚人に襲われたり、ネズミをペットにしてるベテラン囚人がいたり、嫌な所長がいたり…刑務所ものあるあるがいっぱいで、アメリカの刑務所ってきっとこんなところ!!という鮮烈なイメージが残りました。
改めてみると「穴」との共通点が多くて驚きますが、こちらは団体部屋ではなく完全個室の1人部屋独房。
圧迫感を感じる狭さ、時折り挟まれる運動場での開放的な景色との対比も抜群で、閉塞感が半端ないです。
冒頭、大雨の日の真夜中に収監されてくる主人公フランク・モリス。
実は主人公は無罪だとかそんな話が出るわけでもなく、バックグラウンドは明かされず極めて淡白。
けれど見知らぬ土地にやって来たアウトサイダー的主人公にしっかり感情移入できるつくりになっていて、寡黙なイーストウッドが格好いいです。
食堂に行くとうどんのようなやたら白いパスタが登場。
尖ったものNGらしくフォークはなくてスプーンで食さなければならない独自ルール…違う世界に足を踏み入れた感じがして早くもドキドキ。
移動図書ワゴンや映画鑑賞会などの様子も描かれますが、ほんの申し訳程度の余暇活動が一層自由のなさを感じさせて切実。
黒人は黒人のグループで固まっているコミュニティ構成には刑務所でもこうなるのか…とリアルさに驚いてしまいますが、図書室の手伝いを命じられたモリスはイングリッシュと知り合いに…
知的な黒人キャラクターのイングリッシュ。人種の垣根を超えて2人認め合ったことが短いやり取りで伝わってきて粋。
アツい友情が描かれるわけではないけど、決行日前日に暴力ホモを制止して人知れず助けを入れてくれるのがめちゃくちゃカッコいい。
モリスの脱獄を知って静かにほほ笑む姿にグッときます。
絵を描くのが得意なドクは、趣味の世界に没頭することで精神の自由を謳歌。
しかし所長を描いた肖像画が本人の目に留まり、なぜか気を悪くした所長は画材道具を一切取り上げてしまいます。
お前如きが無許可で俺を描くなということなのか…ひん曲がった人間性が滲み出たような高クオリティ肖像画に本人も勘づくものがあってムカッ腹が立ってしまったのか…
〝ケツの穴が小さい〟という言葉がまさにぴったりの所長。
かろうじて保っていた精神のバランスが崩壊してしまったドクが自らの指をチョンパするシーンはショッキング。
ドクを追悼しようと飾っていた菊の花を無下にした所長に激昂、ネズミ親父のリトマスまで発作で憤死してしまうのがさらに悲劇的。
趣味にペット、老い先短いジジイ2人が何かを拠り所にしつつ孤独をやり過ごしていたというのに酷い顛末。あまりの処遇に脱獄を決意するモリス。
序盤から早々に脱獄準備をしていたイメージがありましたが、脱獄開始は映画が1時間を過ぎたあたりからで、「非道な所長の支配に耐えかねて…」というのが改めてみるとしっかり描かれていました。
くすねた爪切りや溶接したスプーンで壁を掘り掘り。大胆に電気コードとドリルを拝借。ダミー人形をつくって夜の点呼をやり過ごす…
あるものを調達して創意工夫で道を切り開く、これぞ脱獄ものの醍醐味。
あの人形も〝これで大丈夫なのか!?〟という微妙なクオリティなのがまたいい(笑)。
ミスリードが上手くて、カツラっぽい頭髪に〝もう一巻の終わりだ!!〟と思いきやちゃっかり戻っていたイーストウッド…この場面には心底ひやひやさせられました。
脱獄仲間は主人公を合わせて4人。
大事な時に口笛を吹けないことに気付く、鈍臭そうな隣の房のバッツにドキドキ。
自分も絵を描くからと看守に絵の具をねだるも「俺にはわかるのさ、お前にはなにもない」と言われしまう始末。哀しいけどどこか虚ろで頼りなさそうな人物。
一度は刑期を務め上げてシャバに出るも嫌いだった看守の車を盗んでアルカトラズに送られたらしく、穏やかそうに見えて意外と反抗的な一面も…
母親が危篤なことを知って脱獄を決意したものの、土壇場になって度胸が足りず涙ポロポロ。
でも死ぬ確率高いし普通は残るよなあ…完全にタイミングを失って1人独房に残る最後までどうにも切なかったです。
あまり台詞はないけど、静かに出来るやつの佇まいなのはアングリン兄弟。
スプーンをくすねる際、看守の気を引くためにさっと会話役にまわるのが有能。
フレッド・ウォードが地味だけど渋いです。
最後はお手製のライフジャケットを膨らまし海へ…「パピヨン」とどこか重なるラスト。
火曜日に引越しすることが裏で決められていたのに、暴力ホモが独房から釈放されたため早められた決行日。
最後は運が味方したようで胸熱。
3人とも成功して助かったのかハッキリわからないラストが70年代らしくて渋いですが、晴天の海にきっと上手くいったんだよね…という気持ちに。
ラストはなぜか不気味ダミー人形が映ってエンドロール(笑)。
なんでこの画なんだ!?と思ったけど、ほんのり薄笑いを浮かべていて狼狽えた所長をあざ笑うかのよう。
〝成功かどうかはさておき勝負には間違いなく勝った!!〟というカタルシスが残りました。
改めてみると「穴」と重なるシーンが多く、人形で点呼をやり過ごすところ、鉄格子伝いに囚人が物を受け渡しするところなど、リアル脱獄あるあるなのかよく似ているなあと思いました。
どちらが凄いかといえば「穴」はもう圧倒的傑作。
「アルカトラズ〜」は「大脱走」のような華もないし、「ショーシャンク~」のような人間ドラマ味も薄いしただひたすら地味。
けれどこのシンプルに削ぎ落とされたドキュメントタッチの映像に極上のストイックさを感じて、心惹きつけられっぱなしでした。
昨年「ドル三部作」が4K上映されたときにクリント・イーストウッドのパンフコーナーがあって、「続夕陽〜」は高くて手が出せなかったのですが、「アルカトラズ〜」のパンフは550円で売っていて購入。
世間的にはイーストウッドのベストではないかもしれませんが、「ダーティハリー」よりも強く印象に残って大好きだった1本でした。