どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「やかまし村の子どもたち」児童文学/映画…スウェーデンの子どもたちの生き生きとした日常  

長くつ下のピッピ」「名探偵カッレくん」などでお馴染みのスウェーデンの児童文学作家アストリッド・リンドグレーンの代表作の1つ。

図書館にあった青と赤の布表紙が美しい岩波世界児童文学集。

本を好んで読まなかった自分が小学1年生の頃だったか〝人生で初めて好きになった本〟がこの作品でした。

特にストーリーはなく、スウェーデンの小さな農村に住む7歳の女の子の視点で語られる素朴な日常。

赤毛のアン」にしろ「秘密の花園」にしろ、海外の児童文学作品には〝見知らぬ国の生活への憧れ〟が詰まっているものかと思いますが、本作はより親近感のある世界。

森の中の秘密基地、お誕生日にプレゼントされる壁紙の張り替えられた屋根裏部屋、タバコの箱に入れた手紙をロープで行き来させる隣の家の友達との愉快な遊び…

「自分もこの世界に住んでみたい」と思うワクワク感に満ちていて、愛らしい挿絵とともに景色が眼前に広がるようでした。

 

家がたったの3軒、子供は全部で6人と本当に小さな〝やかまし村〟。

お家はそれぞれ中屋敷、北屋敷、南屋敷と呼ばれていて何だかおしゃれ。

中屋敷には主人公のリーサと兄のラッセとボッセが、北屋敷にはブリッタとアンナという姉妹が、南屋敷にはオッレという男の子が住んでいるのですが、遊ぶ時には大抵男女グループで別れ別れに…

ときに激しく競い合う様などいかにもこの年代の男子と女子(笑)。

 

シリーズは全部で3作あって、「春夏秋冬」では季節のイベントが多く取り上げられています。

クリスマスや復活祭など異国の行事が物珍しく映りますが、〝大晦日の日に遅くまで起きているときのワクワク感〟などは自分たちの生活と全く同じ。

季節の移ろいやいつもとちょっと違う日の思い出。

あの頃は特別とは思っていなかったけど、周りも時間も気にせず没頭した友達との遊びの時間。

「石のところだけ飛んで歩いて落ちたら死ぬ」の遊び、自分も全く同じようなことをやってたなあ…訳のわからん歌を歌って友達とはしゃいでたこともあった(笑)。

ふとしたときに嬉しいような寂しいような何ともいえない気持ちが込み上げる瞬間。

大人になってから読み返すと、子どもの頃は何でもない1つ1つの出来事が新鮮だったんだなーと驚きと喜びに満ちた時間が心に蘇ります。

 

物語はなにか大筋があるわけではなく短編のような章立て。7歳のリーサによって日常の出来事がひたすら語られていきます。

印象に残っているのは、リーサがアンナと買い物に行くエピソード。

お母さんに大きな村までおつかいを頼まれる2人。

「メモしなくたって平気よ」と意気揚々と出かけるも、道中他の人からもおつかいを頼まれ、どんどん増えていく購買リスト。

帰りの道で買い忘れを思い出しては何度も店に戻ることに…

スピード感抜群で店主とのやり取りも含めとっても面白おかしい。

〝いちばん上等なあぶりソーセージ〟など購入する品物が異国情緒に溢れていて、出てくる食べ物がどれもとても美味しそう。

クリスマスの日につくるショウガ入りクッキー。夜まで遊んだ翌日の朝に出てくるあったかいミルク。

「お誕生日の日には起床と同時に朝食がベッドに運ばれてくる」というエピソードにもいいなあと憧れていました(笑)。

 

動物もたくさん登場しますが、一人っ子のオッレが犬を迎える話が感動的。

登場人物のほとんどがいい人だけれど、靴屋のスネルという癖の強いおじさんが登場。

飼い犬を虐げているスネル。

ある日スネルが足を痛めたのをきっかけに、オッレが「犬の世話を自分にさせてほしい」と懇願。

甲斐甲斐しく世話をして、荒くれ者だった犬の心を開くオッレ。

愛着が湧いてどうにもならず、お父さんが交渉して犬を買い取ることに…

短いエピソードながら少年と犬の友情に心温まりました。

 

その後オッレのお家には妹が誕生。

赤ちゃんを溺愛するお兄ちゃん・オッレがまた尊く、嫉妬する愛犬に向かって「お前はステキな犬だよ」とフォローを入れる姿が大人びていて素敵。

他の男子2人とちょっぴり異なる不思議なオーラのオッレ。

主人公のリーサは村に残るために将来はオッレと結婚するのだとなぜか決め込んでいて(笑)、幼馴染2人が結ばれるなんてロマンチックだなーと思っていました。

 

歳を重ねてから読むと、大人にとっては当たり前のことを当たり前と受け取らないリーサの視点がちょっぴり哲学的に思えることも…

学校の課題を真に受けたリーサが「おかあさんを幸せにしたいけど何をしたらいい?」と尋ねると「私はすでに幸せよ」と答えられてしまう場面。

近所のおばあちゃん宅で子猫が4匹産まれてそれを3家庭でめいめい分けて貰うも、「1匹はお母さん猫のところに残ってよかった」とリーサが呟く場面。

キュッと胸を掴まれるような優しさに満ちていて、心が洗い清められる気持ちに…

 

「春夏秋冬」の最後は村のおじいさんの80歳のお誕生日で締め括られます。

子どもたちに語り聞かせる昔話の中には、おじいさんが過ごしてきた過酷な時代が察せられるものもあって、時折現実が見え隠れします。

目が不自由だけれど子どもたちの遊びをそっと見守る姿が温かく、「家出もちょっとだけならやっても大丈夫」と後押しするのがチャーミング(笑)。

お年寄りが家族以外の人からも敬われていて”村の皆のおじいさん〟。

大人は子どもの世界に驚くほど干渉しなくて自由放任。

お話の世界があまりにも美しいので理想化して捉えがちかもしれないけど、著者リンドグレーンの子ども時代の思い出が織り込まれているという本作。

100年前にこんな暮らしをしていたのかーと、なにか感慨深いものも胸に込み上げてきます。

 

映画化もされていて、監督は「ギルバート・グレイプ」のラッセ・ハルストレム

レンタルビデオ店にあって大きくなってからみたのを覚えていますが、3冊の小説のエピソードが〝子どもたち〟〝春夏秋冬〟の2作品に割り振り。

冒頭からの〝3軒の家〟の景色が小説のイメージそのままでとにかく美しい。

三つ編みのリーサをはじめ子役の子どもたちのイメージがぴったり。

皆自然な演技で素晴らしいのですが、まとめ撮りしても追いつかなかったのか途中で体が大きく成長している子も…

オッレの妹のシャスティンちゃんも原作よりちょっと大きめの子供になっていますが、イヤイヤ期突入の暴れっぷりが大変かわいらしいです。

 

ユーモアのセンスは原作の方が抜きん出ていて、〝子どもの内的世界〟の再現度はやはり原作の主人公の語りがあってこそ。

淡々としたクールな語りの本の方がなぜか夢見心地の気分で味わえて、映画の方は逞しすぎる子どもたちの姿に「ここで自分は暮らせるだろうか」と少し現実目線になってしまいます(笑)。

けれど原作の想像を超えた景色が再現されている場面もあって、大晦日の日の〝鉛を溶かす占い〟の摩訶不思議さ、干し草小屋で寝泊まりする白夜の情景の神々しさ…

「ミッドサマー」にそっくりな夏至祭も出てきて、久々にみると「やかまし村はホルガ村だったのか!!」と驚いてしまいました(笑)。

実写ならではの情景の数々が本当に美しく、子どもの素朴な姿を捉えたハルストレム監督の初期の傑作ではないかと思います。

 

自分はリーサのような素直ないい子では全くなかったけれど、ほんのいっとき清らかな心になった気分に…

蘇る子供時代の躍動感。

食べる事、眠る事、誰かとお喋りすること…些細な日常ってこんなに愛おしいものなのか…!!と月並みながら日々生きることの尊さが胸に染み込むような、宝物のような作品でした。