「ジャイアンツ」「課外授業」のキャロル・ベイカー主演、「人喰族」「ナイトメア・シティ」のウンベルト・レンツィ監督による1972年のジャーロ。
DVDを入手できて取っておいたのを初鑑賞してみました。

オチが何となく予測できてしまいそこは残念でしたが、怪しい人が次々に登場して飽きさせないところはいかにもジャーロ。
全体的な出来は決していいとは言えなさそうだけど、すごく深い人間の心の闇が描かれているような気がして、犯人像が個人的には大好き。
心惹きつけられるもののある1作でした。
◇◇◇
幼少期に列車事故に遭い、両親の死を目の当たりにしたことでショックで口がきけなくなってしまったマーサ。
小さな町のお屋敷で叔父と暮らしていましたが、ある日歌手となった従姉妹のジェニーが家にやって来ます。
ところが次の日ジェニーが刺殺死体としてガレージで発見。
その後も犠牲者が現れ、マーサの下にも不審な影が忍び寄りますが…
犯人が黒の革手袋をはめている最初の殺人シーン。
ガレージに迷い込んだ猫の視線を追って死体が発見、声の出せないヒロインがクラクションで絶叫するシーンがスタイリッシュ!!

近場で別の殺人事件があり、現場に悪魔のマークが残されていたことから、警察はサタニストの犯行を疑い捜査を開始。
写輪眼のような目を持った謎の男が容疑者として浮上します。

従姉妹のジェニーがゾンビやオカルトの本に興味を持っていたり…マーサの下にも悪魔教の謎の手紙が届いたり…
思わせぶりな描写が後半全く生きてこないのにはびっくり(笑)。
霧に包まれた町が不穏な空気を醸し出しつつ、家政婦のブリトンとマーサを慕っていた女子学生のクリスティーナが続けて犠牲に…
さらには心臓病を患っていたマーサの叔父もショックのためか他界してしまいます。
親しかった人たちが次々といなくなり、孤立していくヒロインが悲痛。
ゴア描写のない作品ですが、お葬式の場面が立て続けに入るのが何とも陰鬱です。
葬式の最中ヒロインの足をガン見しているのは無愛想な運転手のマーカス。挙動不審でどうにも怪しい。
マーサの主治医で独身貴族だというローラン医師もどこか胡散臭く、家政婦と逢引していたり女にだらしなさそう。
忘れ物が多く犯行現場にあとからひょっこり現れるなど不自然な行動が目につきます。
マーサが屋敷に1人きりとなった夜、見張りのズボラ警官が交代を待たずに退勤。そこに怪しい人影が忍び寄ります。
声なき絶叫が物音にかき消され、階段を登り降りして右往左往する姿など、同じく発声障害の女性が主人公の「らせん階段」を彷彿とさせる演出。
何者かに襲われたマーサは家の隣にある墓地に逃げ込みますが…
(以下真相ネタバレあり)
墓地で待っていたのは、刑事と医者と運転手と死んだはずの叔父。
全員に取り囲まれ、なんとマーサ自身が事件の犯人だったことが明かされます。
邦題が「声なき殺人者」だったのでもしかして主人公が犯人パターンかな??と予想しながら自分はみてしまい、驚きが激減して大変残念。
しかし動機まわりが面白く、声の出せない主人公が歌手になった従姉妹に嫉妬して殺害…2人女性の関係性が全編に散りばめられているのがサスペンスフル。
映画の序盤では、ジェニーがマーサに音声テープをプレゼントする場面がありました。

幼い頃のマーサが朗読会で話を読み上げている様子が録音されたテープ…朗読劇は拍手喝采だったようで、マーサも芸能志望だったか、有望な舞台女優候補だったか、そんな過去が察せられます。
ジェニーとしてはまたマーサが声を出したくなるように、元気づけようと良かれと思って贈ったものだったのではないかと思われます。
けれどマーサにとっては失われた夢を突きつけられる残酷な仕打ちだった…
映画のオープニングはなぜか闘牛場で幕開け、闘牛士たちから槍で体を刺される哀れな牛の姿が映し出されていました。

思わずギョッとする異質なオープニング。この場面がのちに回想シーンとして主人公の脳裏に蘇り、闘牛場の観客席にいるマーサとジェニーの姿が映し出されます。

殺されていく牛を興奮した嬉々とした様子で見つめるジェニーに対し、残虐さに耐えかねて目を背けるマーサ。
一見いい子そうなマーサの方が殺人に手を染めるなんて意外!!…なんて思ってしまいますが、マーサは牛の姿に自分と重なるものを見出してしまったのかもしれません。
声をあげることもできず、傷つけられていく哀しい牛…何気なく掛けられた言葉や慰めが深く突き刺さってしまうことってあるある…
ヒロインの心象風景を映し出したような冒頭映像が、あとから一際強い印象を残しました。
前半のパーティーのシーンではローラン医師とジェニーが親しげに会話している様子が描かれていて、心の拠り所にしていた親しい男性を取られてしまう…そんな焦りもマーサの中に芽生えたのかもしれません。
一見突飛とも思われるどんでん返しですが、意外にドラマがしっかり組み込まれていて、主人公の深い孤独が伝わってくるエンディングがとてもよかったと思いました。
ただ全体的には思わせぶりな描写が多すぎで、めちゃくちゃ話が掴みにくい(笑)。
連続殺人に見せかけるため無関係な家政婦を手にかけたマーサ。
さらに家政婦殺害現場でネックレスを落としたことを女子学生クリスティーナに知られてしまい、口封じのため彼女も殺害。
〝嫉妬に駆られてついやってしまった〟突発的な主人公の動機と用意周到な行きすぎた隠蔽工作がどうにも相容れず、主人公の凶悪さにびっくりしてしまいます。
その一方で、ヤク中のサタニストが逮捕されたときに「この人に襲われたか?」と警察に尋ねられると、「はっきり目撃していなくて分からない」と馬鹿正直に証言。
せっかくの罪を被せるチャンスを自らフイにするなど、行動に一貫性がないのが気になります。
そもそも自分が殺人犯なのに周囲を異様に怖がっている様子が不自然。
それも含めて全部演技だったということなのか、それとも殺人を犯したときはトランス状態で記憶が途切れてしまったということなのか…
マーサの首に絞殺紐が懸けられていた場面。
あれも巧妙な自作自演だったのか、本人が深層心理で感じている罪悪感の表れだったのか、全く分からないまま(笑)。
整合性がないのはジャーロあるあるでそれも含めて楽しかったりしますが、本作は磨けばかなり光ったんじゃないかなーと所々惜しく思われてしまいました。
絶叫でヒロインが声を取り戻す王道展開のラスト。
アリスの朗読劇で締めくくられるエンディングは多少強引ながら仄暗い余韻を残します。
両親の死のトラウマを抱えた姪っ子がいるのになぜか墓地のすぐそばの家を買った伯父さん。
仕事ぶりがやや雑でセクハラ目線を向けてくる運転手。
声の出ないヒロインに思わせぶりな態度をとりつつもあちこち浮気してる医者。
そして無神経に闘牛を楽しみ仕事の自慢話をしてくる従姉妹。
犯行は極めて凶悪ながら主人公の寄る辺なき孤独が伝わって来て、なにやら深い余韻を残す犯人像でした。
どことなくフルチの初期ジャーロに似た雰囲気の本作。
ドナルドダックの登場は「マッキラー」、麻薬中毒者が容疑者にあがるところや抑圧されたヒロイン像などは「幻想殺人」…目のクローズアップの多用も含め、なんとなくイメージが重なりました。
躍動感ある音楽と共に刺された牛が引きずられていく、かなりぶっ飛んだオープニングクレジットを見た時には「どんな映画なんだ!?」とその奇抜さに圧倒されましたが、ある意味あの冒頭が全てを決していたんだとなって、最高にカッチョいいオープニング。
見せ方がへたっぴなところは多々ありつつ、どんでん返しものとしては大健闘。
でも如何せんタイトルが…邦題に強い殺意を感じてしまう1作でした(笑)。