どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

新宿ハードコア傑作選「ローリング・サンダー」を観てきました

この夏シネマート新宿さんで開催されている〝新宿ハードコア傑作選〟という激渋ラインナップ。

未見の作品がほとんどの中、唯一見たことあるのがこの「ローリング・サンダー」。

確かタランティーノのベスト映画リストに入っていて、随分前にVHSで見たのですが、なんか凄い作品だった記憶。

最後の襲撃シーンが「タクシードライバー」より強烈だった憶えがあります。

これだけ未見のラインナップがあって何で1回見たことあるやつをみるねん!!って感じですが、上映スケジュールが「ミュート・ウィットネス」と近かったこともあり、珍しく映画館をはしご。

記憶が朧げなので是非この機会にスクリーンで鑑賞を…と思い観に行って来ました。

大スクリーンの劇場がめちゃくちゃ埋まっていて大盛況!!

ベトナム帰還兵の苦悩を描いた重たい内容ですが、孤独というものの本質が迫ってくるような、すごく胸に沁みる作品でした。

 

◇◇◇

ベトナムで7年間の捕虜生活を終え故郷に帰還したレーン少佐。

部下のジョニー伍長(トミー・リー・ジョーンズ)とともに英雄として地元から歓待されるも、心ここに在らずの2人。

1歳半のときに別れた息子と再会するも、失われた時間の空白は埋められないまま。

さらに妻ジャネットが州警官のクリフと浮気していたことを自ら告白。

あるはずだった家庭を失い、戦場での強烈な体験がフラッシュバック、周囲の世界から孤立していくレーン。

そんなある日家に強盗が押し入り、凄惨な暴力を受けた末妻と息子を殺されてしまいます…


めちゃくちゃ陰鬱なストーリーなのですが、主演の俳優さんと部下役を演じる若き日のトミー・リー・ジョーンズの2人がものすごいハマり役。

生気のない表情、虚ろで中身が空っぽな帰還兵役がドンピシャで、人間こんなになってしまうんだなあ…と恐ろしさを感じてしまいます。

 

何ともいえない歓待イベントの虚しい空気感。

「あなたがベトナムで過ごした日数と同じ枚数の銀貨を用意しました」ってなんかめちゃくちゃデリカシーに欠けているような…

 

さらに続く妻からの浮気の告白。

夫は死んだものと思って絶望、生活が大変だったことも伝わってきて簡単には責められない気もしますが、帰って来てすぐのタイミングで言うのにびっくり。

怒ったりせず全く取り乱さない主人公がまた恐ろしい。

好きだったお菓子について語る場面。

妻にとっては幸せな思い出も主人公にとっては凄惨な記憶に…夫婦2人の温度差が凄まじいです。

地獄のような日々が日常だった世界から帰還して、元の世界に全く馴染めないレーン。

部屋に1人いては独房を思い出すフラッシュバックが鮮烈。

主人公も含め家庭に交わろうとする浮気男との関係も何とも微妙で、静かにハラハラさせられます。

 

そんな中ゴロツキたちが突然家を襲撃してきて話は急展開。

銀貨がどこにあるのか聞かれても一向に答えようとしないレーン。

決して銀貨が惜しいのではなく、どんな場面でも自白しないよう兵士として完成されている主人公の姿が壮絶。

ディスポーザーで手を破壊されるシーンは、直接映らなくても痛みを想像させられてひたすら恐怖。

タイミング悪く帰宅して来た妻と息子が殺されてしまいますが、妻の「なぜ言わなかったの?」という台詞が主人公のトラウマなど微塵も理解するに至らないことが伝わってきて、猛烈に切なくなりました。

 

そして場面は転じて病院へ…義手の訓練を淡々と繰り返すレーン。

泣きじゃくったり家族の死を悼む場面が皆無なのが異常さを際立たせています。

 

そんな中レーンのファンだという女性リンダが登場、レーンを甲斐甲斐しく介抱し始めます。

改めてみるとこのリンダが結構出ずっぱり。

絵に描いたような美人ではないけれど、なぜか猛烈に魅力を感じるキャラクターでした。

「あなたについていくのは無理だわ!」と言ったかと思えば「愛してるわ」と迫ってきて、躁鬱を繰り返しているような主人公に依存的な危うい女性。

〝問題ありの男性〟に惹かれる性分らしいのですが、彼女もまた町で異質の存在のようでした。

男の子が欲しかった軍人の父親に育てられ、母親とは不仲…過去はあまり語られませんが、何となく抑圧された環境で育ってきた人なのかな、と思いました。

欺瞞的な周りの世界になじめず、本物の深い孤独を抱えた主人公に惹かれる姿に説得力を感じます。

 

そんなリンダの好意を利用してメキシコでゴロツキどもの居所を探りはじめるレーン。

一方不倫男の警察官・クリフもレーンの後を追い、ゴロツキ共を追跡します。

迷路みたいな柵の牛飼いのロケーションが面白かったり…追いかけっこのカメラワークがユニークだったり…でも特に何の絡みもなく撃たれてあっけなく死んでしまうクリフ(笑)。

雑な処理でこのパートだけ浮いてる気がしましたが、所々B級感があるのも面白かったです。

 

レーンは利用し終わったリンダにそっと別れを告げ、かつての部下・ジョニーの下を訪れます。

トミー・リー・ジョーンズ宅の一家団欒風景がまた何とも言えない空気感。

日本製の家電がどうたらこうたらと些細な日常の会話をしている家族。

全く悪い人たちじゃないのだけれど、のんびり朗らかムードが明らかに主人公たちと相入れてなくて何ともいたたまれない心地に…

自分の抱えている悩みや労苦が全く相手に伝わらずその意識の差に絶望してしまうことってあるような気がして、ジョニーの孤独が静かに胸に迫りました。

国のために身を捧げるも、これっぽちの配慮も寄り添いも受けられることなく、身近にいる家族とも全く通じ合えない…心を閉ざすしか選択肢がないのが伝わって来てとても哀しい場面でした。

 

「息子を殺した奴らを見つけた」…浮気した嫁のことは快く思ってなかった、主人公の僅かな正気!?が垣間見えるシーン。

キャッチボールしてる姿といい、お手製の星条旗を渡すところといい、やっぱり息子のことはこの人なりに大切に思っていたのが伝わって来てめちゃくちゃ切ない。

一方ジョニーは、新たな戦地に行けると知って急に生き生きとした表情を取り戻し水を得た魚のように…

怒涛のクライマックス!!は改めて見ると思ったよりも地味で短め。最後にはカタルシスよりも空虚さが残ります。

復讐というよりももう一度戦争をしたかった2人がまたしても生き残り。

「家に帰ろう」…冒頭でも流れた主題歌が印象的で、救いがないのに僅か心癒された気分に…美しいメロディと歌詞がじーんと胸に染み込みました。

 

ラヴィスの個性際立つ「タクシードライバー」よりもベトナム戦争色がより濃厚。ストイックな空気感が70年代らしくウェットさはなくどこまでもクール。

自分の意識と周囲の世界との差に絶望しつつも、部下のジョニーやリンダ、息子との会話などほんの一瞬交わる何かに尊さと美しさも感じました。

地味だし完成度が凄いわけではないけれど、人生の孤独の本質のようなものが胸に迫って来る作品でした。


作品単体でのパンフレットの販売はありませんでしたが、〝ハードコア傑作選〟のブックレットが販売。

16p、文字びっしりの中身で、昨年「クルージング」上映の際の特別編集雑誌にも寄稿されていた渡部幻さんによる解説がまたもや特濃。

時代背景を織り交ぜ関連作も数多く取り上げられていて、これからじっくり読ませていただきたいと思います。

 

昔のVHSジャケットは「タクシードライバー」を意識!?

このビジュアルも劇場に飾られていて、こちらのイメージが個人的には強いかも…

もっと義手が活躍するイメージがあったのですが、「ベルセルク」のガッツや「彼岸島」の明さんとは違う現実路線。リアルに痛さを感じさせる描写もとてもよかったです。

ブックレットにも言及がありましたが、ペキンパー風の雰囲気。「ガルシアの首」と確かに後半の空気感が似ているように感じました。

若い頃にみたときストーリーの中身が入って来なかったのはむべなるかな、年を重ねると沁みる1作に思われました。

 

抜群に元気をくれた「ミュート・ウィットネス」と切ない気持ちでいっぱいになった「ローリング・サンダー」。

映画館はしごして夏休みを堪能させてもらい、どちらも胸に残るとてもいい作品でした♫