「バトルランナー」のリメイク作がグレン・パウエル主演、エドガー・ライト監督で来年公開されるとのこと。
テレビ放送でシュワちゃん映画をみて育った世代としては、出来不出来はさておき87年度版の印象が鮮烈。
遊園地のアトラクションみたいなロケットジェットコースター、みのもんたみたいな司会者、体に電球つけた歌うデブ…
残酷なシーンもあるのに不思議と怖いという印象は残らず、ビジュアルと空気感に圧倒される何とも愉快な映画でした。
原作はスティーヴン・キングがリチャード・バックマン名義で1982年に発表した長編小説。
昔図書館で借りて読んだのですが、映画とは全く違う暗くて重いトーンにびっくり。
内容をかなり忘れていて、今回リメイク版の予習も兼ねて改めて読んでみました。

主人公視点でノンストップで繰り広げられるサスペンスアクション。
この頃のキングは勢いがあって面白い!!
「死のロングウォーク」ほどの恐怖度や哲学性はないものの、SFディストピア感に満ちていて、読みやすくて読み応えのある1冊。
シュワちゃん映画とは全く異なる余韻のラストに唸らされました。
◇◇◇
主人公ベン・リチャーズは28歳の子持ち男性。
安全管理の碌にされていない原発作業所で薄給で働いていましたが、ある日退職を決意。
その際上司に楯突いたのが原因で爪弾きにされ、再就職が困難となってしまいます。
その後生まれた1歳半の娘が病気を患い、治療費を稼ぐため危険なテレビ番組出演に応募することに…
自身は働けないまま、体を売って生活する妻を忸怩たる思いで見守るばかり。
〝市民を守ろうとした警官〟という分かり良いヒーローだった映画版と異なり、〝男らしさを失った主人公〟に哀愁が漂います。
世界観も映画版より生々しいディストピアになっていて、猛烈な格差社会で物価高にあえぎ医療費を払えない一般市民の姿がシビア。
その鬱憤の矛先を逸らそうと誰かをスケープゴートにした殺人テレビ番組が連日放送。
出演者のポートレイトが醜く捻じ曲げられ、〝石を投げてもいい奴〟となって一斉に皆で攻撃されるのにゾゾっとさせられます。
どうしてもシュワちゃんのイメージが強く、読んでいると玄田哲章の声で脳内再生されてしまう主人公ですが、映画のような豪傑ではなくもっと〝普通の人〟の印象。
体力はあって腕っぷしもそこそこ、でもそれよりも読書を嗜む知性や機転の効く頭脳、反骨精神に溢れ〝筋を通す〟一本気なところが格好いい。
窮地に陥ったときも皮肉めいたユーモア溢れる台詞を吐くのがとってもクール。
〝まともな主人公からみた狂った世界〟という視点に終始していて、説明臭い描写を挟むことなくゲーム進行とともに世界を描き尽くす筆致が鮮やかです。
「ただのバカではゲームが楽しいものにならない」…テレビ局からもそんな内面を見染められて番組出演者として選抜されるリチャーズ。
ゲームのルールも映画版と大きく違っていて、全米中を逃げ回るという〝リアル鬼ごっこ〟。
1時間ごとに100ドルの賞金がプールされ、1か月逃げおおせると10億ドルのボーナスが与えられる…というものの、捕まると処刑されるデスゲーム。
目撃情報にも懸賞金が懸けられ全国民が敵に…疑心暗鬼になり町中が敵に見えて追い詰められていく様が迫真です。
ホテルの窓から通行人を観察していて、「歩く速度がなんか変」「人の数が増えてる」と違和感に気づくシーンが鳥肌ものでした。
絶体絶命になったリチャーズは貧民街で会った黒人兄弟に命を救われることとなります。
テレビや政府の発表に不信感を抱く兄・ブラッドリーは、かねてから図書館で公害について学ぶ意外な切れ者。
「フリテレは俺たちを殺す道具だ。手品を見てる客が助手のブラウスから菓子がこぼれるのに気を取られてると、その隙に手品師はズボンからウサギを引っ張り出して帽子に押し込む、いってみりゃあれと同じよ」…台詞回しがいちいちカッコいいです。
次に手を差し伸べてくれるのはブラッドリーの友人・エルトンですが、登場シーンから何とも頼りない。
いじめられっ子気質なのか押しに弱く、クセの強いオカンと同居していてややマザコン気味。
息子を心配したお母さんが警察に通報してしまい阿鼻叫喚の地獄絵図に…
でもそんな彼の最期のハッタリの言葉が功を奏してリチャーズのピンチを思いがけず救います。
出番が少ないもののキング作品らしいキャラクターで、強い印象が残りました。
協力がバレて追われることになったブラッドリーは結局無事だったのか…エルトンの母親はどうなったのか…主人公視点で一貫しているため人伝えの情報しか得られず、想像の余白が残るところが却って切ないです。
後半は大掛かりなアクションに突入。
偶然出会した主婦の女性・アメリアを人質に取り逃走を続けるリチャーズ。
「手製爆弾をつくった」とハッタリをかまして飛行機をハイジャック。人質とともに大空に飛ぶも、深手を負った上に眠気にも襲われて大ピンチに…
金持ちサイドのキャラクター・アメリアが味方に立ってくれるのが意外。
〝過酷な世界を知らないだけで悪人ではない〟と描かれているのが面白く、主人公に惹かれるものがあったのか最後の台詞〝もしかすると…〟の一言にも一体何が言いたかったんだー!?と気になりまくりでした。
決して美人ではないという奥さんも愛情深い気丈な人柄が窺えて、いい男はいい女にモテるものなのね…
一方番組プロデューサー・キリアンとの心理戦にはハラハラ。
映画版と違って黒人男性のキリアン。食えないやり手ジジイなのは同じですが、原作の方が底知れない切れ者の印象。
「妻と娘は強盗に襲われ死んだ」…突然キリアンから絶望的事実を知らされたリチャーズは、自暴自棄になり、ハンターとして再就職してほしいというキリアンのオファーに心揺さぶられます。
本当に強盗に襲われたのか…それともテレビ局が手を回したのか…こちらも謎が残りますが、主人公が家を空けた結果妻子が死んでしまったのがあまりにも悲劇的。
守るもののなくなったリチャーズは決断を下すことにしますが…
(※以下ラストまでネタバレ)
小説のチャプターが時限爆弾の爆発カウントのようになっていて、その地点で結末が何となく予想できてしまうのですが、乗っ取った飛行機もろともテレビタワーに突っ込み自爆するリチャーズ。
改めて読むと9.11が頭をよぎる鮮烈な情景。
主人公も家族も死んでしまって圧倒的バッドエンドですが、踏ん反り返っていた支配者側に思い切り一発喰らわせてやったというカタルシスも同時に残ります。
「皆煮詰まっていてあとはきっかけだけだ」という先のブラッドリーの台詞。
50セントを貸してくれた警官の人間味と”奴がやりとげるのを見たい”と語った本音、そしてアメリアの同情。
結局何も変わらない気もするけれど、自由を選んだ主人公の気骨に、絶望だけでは終わらない何かを感じるエンディングでした。
比較して87年の映画版。
このシリアスな原作をあれだけ豪快にアレンジしたのがすごい(笑)。
でも「バトルロワイヤル」「ウェドロック」に先駆けた首輪爆発のアイデアが面白いし、出てくるガジェットもこの年代ならではのロマンがあってワクワク。
原作では見られなかった他のメンバーとの共闘する様が加えられるなど、味付けは悪くないように思います。
立場の異なる女性が味方になってくれる展開もある意味原作に忠実で、捏造やフェイク動画制作の過程も、原作の恐怖ポイントをしっかり押さえているように感じました。
カルト宗教の集まりのような異様なハイテンションの観客には圧倒(笑)。
逃走中、これができたら100万円、SASUKE、風雲たけし城…自分が知っている人気テレビ番組にもこれに似た空気感が多少なりともあった気がします。
誰かを裁くことに悦びを感じる群衆の姿は今のネット社会とも重なって、現代社会への風刺は今みても通用する面白さ。
さらに司会者のデーモン・キリアンのキャラが胡散臭いことこの上なく、みのもんたと重なります(笑)。

視聴者のハートを鷲掴みにする脂ギッシュでねちっこいMCが何とも嫌らしい。
表舞台とバックヤードで全然態度が違うところなど、こういう業界人いそう…と納得しながら見てしまいます。
素晴らしい空気感のSFなのに、間が抜けていてイマイチ引き締まらないのは、刺客のストーカーたちが弱っちいから…
ホッケーマンのサブゼロ、チェーンソーマンのバズソー、豆電球野郎のダイナモ、火炎放射器を操るファイヤーボール…皆ヘッポコすぎる(笑)。
その中でもやはりオペラを歌う電球デブ、ダイナモのインパクトが強烈!!

こんな奴出てたらそりゃ皆テレビみるわーと納得、しかしその後碌に活躍を見せないまま情けなく退場する姿に唖然。
「みろ、サブゼロだ!!これでただのゼロだな!!」「やめろ、クリスマスツリー!!」…日本語吹替の台詞のなんと活きのいいこと(笑)。
勢いよく登場してはあっけなく散っていく奇天烈キャラがとにかく楽しく、なぜか捏造バトルの方がリアルで残酷というチグハグさにも笑ってしまいます。
ラストは最高にスカッとするエンディングで締めくくられるも、勧善懲悪でヒーロー&ヒロインがキスして終わるストーリー。
結局安直なハッピーエンドを与えておけば満足するでしょ…とこちらを見透かしたような幕引きが皮肉めいていて、改めて見ると意外に深いような気がしました。
流されっぱなしのオーディエンスが実は1番タチが悪い!?なかなかパンチのきいたラストのように思えます。
フルチの「未来帝国ローマ」が「バトルランナーにパクられた!!」と悔しそうに語っていましたが、グラディエーター的世界観、視聴率レースに必死なメディアの暴走など確かに似ているところがあるかもしれません(笑)。
キング原作「ランニング・マン」が1982年、「未来帝国ローマ」は1984年、映画「バトルランナー」は1987年。
「未来帝国ローマ」がキングの原作を参考にしたのでは…というのにはフルチが「読んだ憶えはない」と一蹴していましたが…
デスゲームものの先駆としてはエリオ・ペトリ監督の「華麗なる殺人」とその原作「七番目の犠牲者」が1965年。
映画の方の「バトルランナー」は1975年の「デスレース2000」に空気感が近しい気もします。
エドガー・ライト監督によるリメイク版は原作に寄せるのかと思いきや、予告を見るともっと軽やかな雰囲気。
シュワちゃんだと強すぎで、グレン・パウエルだと明るすぎる…原作のイメージではフレッド・ウォードとかだとどうだったかなーと思いながら読みましたが地味でちょっと年上かなあ…
リメイク版「ランニング・マン」がどんな作品になっているか楽しみです。
シュワちゃん映画と原作は全然違うという印象でしたが、改めてみると意外と映画版は原作のエッセンスを異なる形で表現できていたのでは…と思いました。
ネットやテレビをみすぎて現実をみなくなるとダメ!!自分で考えることが大事!!
ストレートに迫ってくるSFディストピアもので、本も映画もそれぞれ面白かったです。
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