どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「バーバリアン」…女性の恐怖と抑圧が浮かび上がる、WEAPONS/ウェポンズ監督前作ホラー

「WEAPONS/ウェポンズ」が面白かったのでザック・クレッガー監督の前作「バーバリアン」を続けて鑑賞してみることに。

こっちもめっちゃ面白い!!

凄く好みの作品で、「WEAPONS/ウェポンズ」より小ぢんまりしてるけどよりまとまりがいいというか、完成度はこちらの方が高いかも。

男女の意識の齟齬や性暴力がテーマになっているようですが、重苦しさや鼻にかけたところはなく、だけど身につまされるような何か深いものが胸に迫ってくる…

複数のキャラクターを動かして大きく物語が動いたところでスパッ!!と打ち切る場面転換の妙、恐怖と共にシュールな笑いを提供してくれるところなど「WEAPONS/ウェポンズ」と全く同じで、この監督の手腕に見事にハマってしまいました。

最後はちょっとうるっときて、「バーバリアン」というタイトルがビシッとキマっている。こちらもかなり大満足の1本でした。

 

◇◇◇

就職の面接を受けるためデトロイトにやって来たテス。

民泊サイトで予約した家に到着するも、キースという男性が既に宿泊。行き違いで家はダブルブッキングされていました。

冷たい雨の夜、行き場のないテスはとりあえず屋内に入れてもらうことにしますが、見知らぬ男性と一晩中2人きりは避けたい。

しかしホテルに電話をかけても、空き宿が一向に見つかりません。

苛立つテスとは裏腹にキースはテスを歓迎。「自分はソファを使うから寝室を使ってね」と事もなさげに語り、親しげに紅茶やワインを勧めてきます。

 

一見親切そうな男性ですが、ビル・スカルスガルドがハマり役でキースが怪しい奴にしかみえない(笑)。

テスがここに泊まりにくるのを予め知ってて先に侵入して待ち構えてたんじゃないだろうか、飲み物に何か混入してはいないだろうか…嫌な想像ばかりが頭をよぎります。

危機感でいっぱいのテスと、まったく無頓着なキースと…男女の意識の差もあるのかもしれませんが、距離の詰め方が相手と全く違うことって地味に怖くて、2人のやり取りがサスペンスフル。

もし何もないにしてもちょっと鈍感な人だなあ…自分はキースをネガティブにみてしまいましたが、男性からみればテスのリアクションが自意識過剰に映って、「悪意は全くなくても他者を傷つける存在として女性から評価されがち」な、理不尽な恐怖に共感するのかもしれません。

 

バスルームに置いてある電動歯ブラシはいつからあるんだろう、財布を忘れていたのもわざとで警戒心を解くため??不穏に思わせる演出が上手くてグイグイ引き込まれます。

ところがテスが「ドキュメンタリー映画のリサーチャーの仕事がしたくて面接を受けに街に来た」と話すと、「その監督知ってるよ!!」とキースが返し、2人の距離がグッと縮まります。

そんな偶然ってある??男が事前に調べていて話を合わせてるだけなのでは…と見てるこっちは疑心暗鬼が止まりません(笑)。

 

翌日監督との面接を受け終わったテスが、帰り際に滞在している町の名前を告げると女性監督の顔が一気に曇ります。

なんだかもう面接そのものがダメになってしまいそうな雰囲気で、テスの泊まった地区は地元民も避ける超危険地域なのだとか。

ドキュメンタリー作品を撮るならその土地の事情など詳しく知っておかなきゃいけないのに、そんないわくつきの場所に何の危機意識もなく滞在してたらそりゃコイツあかんわーってなるわよね…

色々怖いシーンのあった本作ですが、一晩明けた朝に家の外に出たら廃墟と化した町が映るシーンに1番ゾゾッ。

何事もなくあの家に戻るテスが強者すぎます(笑)。

 

面接後民泊ハウスに戻ったテスは、トイレットペーパーが切れていたことからふと地下室へ降りていきます。

簡易ベッドにビデオカメラにバケツ、血のついた手形…どうみても監禁部屋としか思えない不気味な場所を発見。

恐怖したテスは急いでその場を去ろうとしますが、まるで幽霊でもいるかのように突然扉が閉まり、テスは地下室に閉じ込められてしまいます。

帰宅して来たキースに助けられ地下から脱出したテスは、急いで不気味な家から去ろうとしますが、「自分もその部屋を確認したい」と今度はキースが地下室へ…

案の定なかなか戻って来ず、放っておけばいいのに彼を探しに行くテス。

キースはサイコパス殺人鬼でテスが新たな生贄としてあの部屋に閉じ込められてしまうんだ…と思っていたら予想の斜め上行く展開に。

監禁部屋の横からさらに深い地下道が出現。キースの助けを呼ぶ声をきいてテスが奥へ進むと、化け物のような裸の女性が突然現れ、キースの頭部を強打して殺害してしまいます。

地下どんだけ深いのよ、化け物誰なのよと一気に情報が押し寄せる(笑)。一体何なんだー!?となったところで場面転換。


ここからテレビ俳優・AJへと人物視点がチェンジ。

海辺を走るオープンカーという一気に開けた空間へ…

お調査者業界人っぽいAJ。そんな彼の下に1本の電話がかかって来て、性被害を受けた女性がAJを告発したらしく、絶体絶命のピンチに陥った模様。

さっきまでとはまるで違う景色をみせられつつも、「第1幕と同じく女性への暴力を描いたドラマがなにか展開している」というのが分かって、物語に引き込まれ続けます。

 

誤解や冤罪かもしれないし、一体どっちだー??と思いながら見守るも、このAJ、かなりダメな奴っぽい。

女性と関係を持ったことは事実らしく、最初は嫌がってたけど途中からはそうじゃなかった…って、真っ黒な言い訳を披露。

自分の立場が上なのを利用して女性を追い込んだようにしか思えず、さらには「絶対に連絡を取るな」と注意されていたのに酔っ払って自己満足でしかない謝罪の電話を被害者女性に入れてしまう…

おちゃらけジャスティン・ロングがかなり嫌な奴を演じています。

 

裁判費用がかさみそうなため、AJはデトロイトにある不動産を売ろうと視察のため家を訪れることにします。(この民泊ハウスの元のオーナーはこの人だったのね)

売却のため床面積を調べていたAJは、地下室からさらに続く地下道を発見。

「占有面積が増えて家が高く売れるかもしれん!!」と嬉々として測量を続ける姿に爆笑。

「WEAPONS/ウェポンズ」のホームレスと一緒で、生活がかかってるから必死になるのは分かるけど、こんな不気味な場所に何の疑問も抱かないことにびっくり(笑)。

 

地下探索中にAJが謎の裸女と遭遇したところでまたまた場面転換。今度はレーガン政権の頃の80年代へ…

今では廃墟と化した町が、この時代では整然としたお人形ハウスのような世界で、そのコントラストに驚かされます。

かつてこの家屋の元々の持ち主だったと思われる男性・フランクがゴツいアメ車を運転しながら登場。

どうやらコイツがあの地下室をつくった犯人らしく、女性を複数人攫って来ては監禁し、出産までさせていたことが発覚する恐怖の回想シーン。

自動車産業が移転して衰退まったなしのデトロイト。沈む泥船から逃げるように住人たちが引っ越す中、フランクだけはどこへも行かなかった…

古い価値観にしがみつくしかない行き場のなさ、男の自信が崩れ去って女性に憎悪を向ける心の闇など、短いながら奥行きを感じさせるパートになっていました。

 

そして場面は再び戻って現在、裸女に監禁されたテスとAJへ…

「彼女の前では騒がずにミルクを飲んで!!」…裸女は、どうやら捕らえた大人を赤ちゃんだと思い込みお世話をしたくてたまらないようです。

そしてそれに抵抗したものは容赦なくブチ殺してしまう…殺人鬼というより最早モンスターや妖怪の類。

世話を拒絶したAJが裸女に連れ去られ、テスはその間に地下から逃亡。

AJも隙をついて裸女から逃げますが、やたら長い地下道を彷徨っていると、謎の老人が横たわる部屋に到着。

おそらくコイツが女性を閉じ込めていた監禁男・フランク。

フランクの近くにはたくさんのビデオテープが置かれていて、女性たちを犯した行為の一部始終を録画していたようです。

フランクのビデオをみて「酷い」とはっきり非難できるのに、自分のやったことについては自覚がないAJ、でも人間ってこんなものかも…

AJが詰めよると、フランクは仕舞い込んでいた銃を突然手にして自殺してしまいます。病気だったのか知らんけどやった悪行に対して余りにも生ぬるい死に方で残念。

 

一方家から出る寸前に裸女に襲われたテスは、ホームレスのアンドレに助けられピンチを脱します。

「この家のあの女は危険で夜にも探しにやって来るぞ」…そんな名物お化けみたいな扱いでいいのか(笑)。警察に通報しろよ。

しかしテスが警察に異常を訴えると警察官は全く取り合わず、テスを酔っ払い扱いして無視してしまいます。

虫ケラを見るような目で邪険にしてくる警官がめっちゃ怖い(笑)。

「WEAPONS/ウェポンズ」といい、ザック・クレッガー監督は警察関連でよっぽど酷い目にあったのかな、と思ってしまいました。

 

テスは1人残して来たAJのことが気にかかり、もう一度あの家に戻ることに…

ところがジジイの銃を奪ったAJが誤ってテスを撃ってしまい、テスは負傷してしまいます。

「俺が傷つけたんだ」「過去は戻らないが修復するしかない」…あれAJ反省できる子やん、もしかしてそこまで悪い奴じゃなかったのか、と思った矢先、裸女が襲ってくると速攻でテスを見捨てて逃走するAJ。

やっぱりクズなのかよ!!

さらには「時間を稼いでくれ」とテスを給水棟から放り投げてしまいます。

放物線上に落下していくテスを助走を付けた見事な直線落下で受け止め、〝赤ちゃん〟を庇う裸女。

あれこいつ全然悪い奴じゃなくない??母性溢れる裸女の姿に熱いものが込み上げて来ます。

ホームレスのアンドレ曰く、監禁ジジイは攫って来た若い女性を孕ませ、産まれた娘を犯してさらに孕ませて自分のコピーを増やしていったのだと言います。

おそらくその繰り返しの中で生まれた奇形児ということなのでしょうが、一体歳はいくつなのか、やたら発育が良くて不死身ボディなのはなぜなのか…

色々謎のままですが、赤ちゃんを育てることに尋常ならざる使命感を持っている様子。

あの狭い空間で授乳ビデオだけを見せられ続け、「ミルクをあげて育てる」ことだけがインプットされてしまったのか、必死で赤子を守る姿に哀愁が漂い、同情してしまいます。

哀しみを終わらせてあげようと思ったのか、裸女の頭をぶち抜き引導を渡すテス。2人の間には通じ合う何かがあったようで切ない…

全ての元凶はフランク。一体どちらが野蛮人だったのか…「食人族」のような問いかけを残すラストに余韻が残りました。

 

「WEAPONS/ウェポンズ」と同じく本作も勢い重視で、細かいところで気になる点が多数。

序盤では〝家のドアが度々空いたり閉まったりする〟という怪奇現象が描かれていて、てっきり幽霊屋敷ものなのかな、と思ってみていたら全然違ったという(笑)。 

死んだ赤ちゃんの霊たちが気付いてほしくて介入していたとか何か後付け設定があっても良かった気がするけど、オカルト要素も混ぜたらゴチャゴチャになってしまうから投げっぱなしでよかったのかな…

 

またテスが付き合いの浅い男たちを助けに1人で戻るところもリアルさに欠いていて、いくらなんでもお人好しすぎるように思われました。

冒頭ではマーカスという男の着信が何度も掛かってきて煩わしそうにしていたテス。
「戻ってばかりの人生」みたいに語っていたので、ダメンズウォーカー的な人で何事も上手く切り捨てられない不器用な人だったということでしょうか…

「自分のことだけ考えろ」と堂々アドバイスしていたホームレス男性との対比で、女性の母性的な性を描きたかったのかな、と思いましたが「ええっあんな所に1人で戻るの!?」となってここは感情移入しづらかったです(笑)。

 

そして何といっても1番のツッコミどころは、謎すぎるキース。

「30秒で地下室があるかどうかだけみてくる」と言ってたのに、どこまで行ってんのよ(笑)。地下での挙動があまりにも不審でとても普通の人とは思えませんでした。

なぜこのキースだけそんなに騒いでないのに速攻で撲殺されてたのも謎。

フランクの産ませた子供のうちの男児だったのかな、など色々考えてしまいましたが、おそらくあの親父は娘に世話をさせて生き長らえていたわけで、ただの怪しい男だったということに(笑)。

色々答えがなく投げっぱなしなところは、ある種ジャーロにも通じるものがあるかも。

多少強引ながらも、複数パートが見事に交差して暴力に抑圧された女性の意識が胸に迫って来て、理屈を超えるパワーがある。今回も驚きの連続で唸らされました。

 

こんなに面白いのにBlu-rayが出ていないことにびっくり。

もし「バーバリアン」を先に見ていたら「WEAPONS/ウェポンズ」の方は色々予測がついてしまってそこまで新鮮に見れなかったかも。

キレの良さはこちらが上、人物描写/キャラの奥行きは「WEAPONS/ウェポンズ」の方が上という印象が残りました。

この監督の次回作にも大いに期待したいと思います。