どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「サイコ2」…意外と拾い物の続編、歪でロマンチックな男女関係が好き

ヒッチコックを敬愛するオーストラリア人監督、リチャード・フランクリンがメガホンをとった、「サイコ」23年ぶりの正統続編。

脚本は「チャイルド・プレイ」「フライト・ナイト」のトム・ホランド。

古典として観てしまったヒッチコックの「サイコ」より自分はこっちの方が面白かったかも…

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前半から1時間経ってなにーっ!!とびっくり仰天の仕掛け。そこからさらにツイストしていくラスト。

シナリオがよく出来ていて、親の呪縛から逃れられない者同士の切ないロマンス味が感じられて好き。

エポックメイキングな傑作はもちろん1作目だと思いますが、ノーマン・ベイツのキャラクターが上手く生かされていて、リチャード・フランクリン監督の中でも上位の面白さでした。

 

◇◇◇

前作のシャワーシーンから開始する冒頭。モノクロ映像からベイツ邸に徐々に色味が加わっていくオープニングクレジットがおしゃれ。

例の事件から22年後…精神病院での治療を終えたノーマン・ベイツは退院して社会復帰することに。

1作目で殺されたマリオンの妹・ライラは心神喪失のため無罪という判決に猛抗議。精神科医に「彼がまた人を殺したらあなたのせいよ!」と詰め寄ります。

 

釈放された後、なんと昔のベイツ邸にそのまま帰宅するノーマン。

「ここにいたら昔の記憶に悩まされそうだね」…と言いつつトラウマハウスに平気で戻すヤブ精神科医が杜撰すぎる(笑)。

物腰柔らかで一見すると気弱な親切男性にしかみえないノーマン。

元は親に虐待されていた子供だし、新しい人生をスタートさせようとする姿は応援したくなるもの。

前作で怪物だった主人公に感情移入させる、視点を変えたドラマ展開がとても面白いです。

 

社会復帰のため近くのレストランに就職することになったノーマン。

ベテランウェイトレスの女性が「前科のある人にもチャンスを」と掛け合ってくれたようですが、いきなり刃物だらけの厨房で働くのはいかがなものなのか…

勤務初日、ノーマンはドジなウェイトレス・メアリーと知り合います。

勤務中もひっきりなしに電話、浮気者の彼氏と揉めている様子のメアリー。

彼氏に同棲解消されて行き場を失ったメアリーに「うちにはモーテルがあるよ」とノーマンがそっと声をかけます。

勤務初日に親子ほど歳の離れた女子を誘うなんて、かっ飛ばしすぎ(笑)。

社会復帰のプロセスがあまりにも急激で不安しかありません。

一方メアリーの方もノーマンの仄暗いオーラにどこか惹かれている様子で、猫娘みたいな可愛さのメグ・ティリーが童貞のおっさんを翻弄しにかかります。

 

2人がベイツモーテルに着くと新しい管理人・トゥーミーによってモーテルは連れ込み宿と化しており、麻薬まで持ち込まれていました。

仕方なくノーマンはメアリーを自宅へ招待することに…

メアリーにサンドイッチを振る舞い、一人ぼっちでいるのが怖いと想いを打ち明けるノーマン。

母性本能をくすぐられるのかそんなノーマンに優しい眼差しを向けるメアリー。

ノーマンが引き留めたためメアリーは暫くベイツ邸に滞在することとなります。

 

そんな中ノーマンの周りで次々と異変が勃発。

死んだはずの母親からの伝言メモを電話機の下から発見。働いているレストランのオーダー用紙にも「アバズレを連れ込むな」という母親からのものとしか思えないメッセージが…

掛かってきた電話をとると母親らしき人物の声が受話器越しに流れ、家の窓辺にも時折ベイツ夫人に似たシルエットが現れるように。

さらには畳んでいたはずの母親の部屋が以前の通りに整理されて突然復活。

また亡き母の幻覚に悩まされるようになってしまったのか…ノーマン本人もそんな自分にショックを受けた様子で何だか可哀想。こちらまで追い詰められたような気持ちになってきます。

 

そんなある日、ノーマンはモーテルの新管理人・トゥーミーとレストランで激しく衝突。その後トゥーミーは古めかしいドレスを着た女性と思しき人物によって殺されてしまいます。

続いて屋敷の地下室を逢引所に利用していたカップルの少年も、ノーマン母と思しきシルエットの人物によって殺害。

やはりノーマンは治っていなかったのか…しかし少年殺人の際、ノーマンは屋根裏部屋から出られなくなっていたためこの犯行は不可能に思われます。

殺人犯は一体誰なのか、またノーマンは再び母親の人格を宿してしまったのか、果たして…

 


(※ここからどんでん返しネタバレ)

ベイツ夫人の寝室を復活させたり、母親からのメモ書きを用意していたのはなんとメアリー。

メアリーはノーマンを憎むマリオンの妹・ライラの娘だった!!

ライラはノーマンを精神的に追い詰め再び精神を狂わせて病院に送ろうと画策。

自分の娘を使って家に忍び込ませ工作させていたのでした。

母親(&殺された伯母)の復讐のため手を貸していたメアリーですが、「ノーマンはもう正常だから手を引くべき」と訴えます。

ノーマン本来の優しく繊細な心に触れたメアリーは彼に同情。

母親に支配された娘の反抗と、母親の呪縛を逃れて新しい人生を歩もうとする息子の葛藤と…2人の姿が重なるのがなんだかロマンチック。

メアリーが混乱するノーマンを抱きしめ慰める姿は慈愛に満ち溢れていてまるで本当のお母さんのよう…倒錯的なものを感じるラブストーリーにドキドキ。

「私の人生は伯母さんやママ、パパのものじゃない!!」…ライラが1作目のあとサムと結婚していたことも分かってなんだか複雑そうな家庭。

実は心理学の学生だというメアリー、ノーマンの境遇を知り突き動かされるものがあったのかもしれません。


そんな中メアリーとライラの親子関係を知ったレイモンド博士がベイツ邸にやって来て、ノーマンを狂わせようとするライラの策略を伝えます。

「ノーマン、大丈夫だよ、お母さんは亡くなっていて君は騙されてるんだ」と博士が言っても「これは母の仕業なんです」と病みモードに突入した様子のノーマン。

完全にサイコ復活、眠れる獅子を起こしてしまった!!

娘・メアリーが復讐計画から身を引いたため、ライラは自身の手でノーマンをさらなる混乱に陥れるべく、ノーマン母の扮装をして揺さぶりをかけようとします。

しかし何者かがライラを殺害。

 

一方メアリーはノーマンに家から出て自由に暮らすようにアドバイスしますが、ノーマンは黒電話にしがみつき〝母親〟との会話に夢中に…

すると今度はメアリーがベイツ夫人のコスチュームを着て、「こっちをみるのよ!!」とノーマンを一喝。

「姑vsマザコン夫の嫁」みたいな地獄絵図ですが、全員狂気がかっててカオス(笑)。

 

さらにそこへレイモンド博士がやって来て、メアリーがノーマンを狂わせようとしていると誤解。

背後から近づいたのを誤ってメアリーが刺し殺してしまいます。

「ママがまた人を殺した!!」…さらなる錯乱状態に陥るノーマン。

そんな中メアリーは地下室で母親ライラの死体を発見しノーマンに激昂、ナイフを突きつけます。

メアリーもなんだかんだでお母さんが1番だったのね…親に囚われたメアリーとノーマン、2人すれ違う姿がなんだか切ない…

メアリーにあちこち刺されるノーマンでしたが、駆けつけた警察がメアリーを射殺、一命を取り留めることに。

警察はメアリーが母親の扮装をしてノーマンを錯乱させて殺そうとしたと推理。

正当防衛の無実の被害者となったノーマンは元の自宅に1人帰されることに…

 

 

ここで終わっていても充分お腹いっぱいだったと思いますが、ここから更にもうひとどんでん返し。

騒動のあと、一緒に食堂で働いていたウェイトレス・エマ・スプール夫人がノーマンを訪ねにやって来ました。

店にノーマンを雇うように掛け合ったという親切そうな初老のおばさんですが、「自分がノーマンの実の母親だ」と突然本人の前で告白。

実はスプール夫人はベイツ夫人の妹で、ノーマンが生まれた直後スプール夫人は精神病院に入院。ノーマンはベイツ夫人の養子として引き取られたのだと言います。

今回起きた一連の殺人はスプール夫人の手によるもので、息子に害をなすものを殺そうとしたのとこと。

ノーマンはそんな夫人に毒入り紅茶を飲ませ、なんの躊躇いもなく背後からシャベルで撲殺。

スプール夫人の遺体を階上に運び込みつつ、以前の”お母さん”と会話。

嵐が来そうな不穏な空模様の中、ベイツ邸を映し出したところでエンドロールが流れます。

 

以前観た時にはこの〝実母登場〟のラストスパートが唐突で蛇足にしか思えませんでしたが、改めてみると意外とよく練られているように感じました。

トゥーミーとノーマンがレストランで喧嘩していたとき、その様子を険しい顔でじっと見つめていたスプール夫人。

息子に危害を加えるものを殺そうと決意した表情だったと思われます。

犯人がベイツ夫人のコスプレをしているように見えたのも、スプール夫人の元々の服装がかなりベイツ夫人に近しいものだったというオチ。

2番目に殺されたカップルの少年だけノーマンにそこまで害なす存在だったのか疑問に思われましたが、この犯行時ノーマンは〝ベイツ夫人の部屋を工作中〟のメアリーによって屋根裏部屋に閉じ込められていました。

メアリーが「この家には他の誰かがいる」と言っていたのはスプール夫人のことで、覗き穴から見つめていたのも夫人だったことか分かり、初めから終わりまで実は静かに家を支配していた…なかなかゾッとする真犯人でした。

 

「真犯人は僕の本当の母親だ」と途中でノーマンが呟いていたり、保安官が「ノーマンが養子かどうか知りたい」と発言していたり…所々でフラグを立てようとしていたようですが、ねじ込み方が雑で唐突感が否めないのは残念。

ノーマンが自分の出自を探るシーンなど、もう少し家族エピソードが丁寧に描かれていれば実母登場の展開にもっと説得力があったのではないかと惜しく思われます。

 

母親からの電話を取ったノーマンと母親コスプレをしたメアリーが対峙するシーン。

あの電話も実は無言妄想電話ではなくスプール夫人から掛かってきたもので、幻聴ではなくノーマンは普通に会話していただけだった…(メアリーを殺せとスプール夫人から命じられていた)

後から見返すと腑に落ちる点もあり、工夫を感じるシナリオでした。

 

最後にスプール夫人を何の躊躇いもなくシャベルでぶっ叩いたノーマンの心境はいかなるものだったのか…新しい人生を奪われたことに怒りがあったのか、もう一度母親殺しをすることでまともな自分の人格を殺し母人格を完全復活させようとしたのか…

判然としないものも残るラストでしたが、母親の亡霊と共に永遠に閉じ込められたままあろうノーマンの最後の姿、ベイツ邸を映し出した画は不気味さと共に家族の呪縛から逃れられない絶望感があって、物寂しい余韻が後に残りました。

 

次から次へと驚きの展開が連続する後半はB級風味だけど、予測できない面白さ。

実は狂っていたのは周りの人なのに、狂わされていったノーマンが気の毒。

可哀想なような、それでいてどこか滑稽なような、ブラックな味わいで楽しませてくれました。


時折斜めアングルになる画面、黒電話を上からの俯瞰で捉えた画など、カメラワークにも拘りが感じられてヒッチコックリスペクト。

繊細さ、優しさ、不気味さを網羅したアンソニー・パーキンスの名演が光っていて、その不安定さに惹きつけられっぱなし。

救世主コンプレックスを拗らせたようなヒロインも大いに魅力があって、すれ違う2人がよかったです。

意外と拾い物の続編で、リチャード・フランクリン監督の確かな腕が感じられました。