カルト的人気を誇る1976年のスラッシャーホラー。ブルック・シールズの映画デビュー作としても知られる1作。
タイトルだけは知っていたのですがずっと未見だったのをBlu-rayにて初鑑賞。
てっきりブルック・シールズが主役で「美少女がロリコン殺人鬼に追われるホラー」だと思っていたのですが全然違った(笑)。
聖体拝領の儀式の最中に起こった殺人事件。犯人は一体誰だ!?
スラッシャーというよりサイコサスペンス要素が強め。次から次へと怪しい人が出てきて犯人の予想がつかなくてドキドキ。
全体的にジャーロ映画っぽいムードで、曇天の街並みやインテリアセンスがヨーロッパ映画のよう。舞台がニュージャージー州でアメリカ映画だというのに驚きました。
思春期の女の子の繊細な感情、どこか信用できない欺瞞的な大人たち…カトリック教会を背景にした反骨精神溢れる内容で、フルチの「マッキラー」と印象が重なりました。
自分は主人公のアリスに肩入れしてみてしまったけど、観終えたあとも人間関係のあれこれに思い巡らせたくなる深い味わいのホラーで、物凄く面白かったです。
◇◇◇
12歳のアリスと9歳のカレンの姉妹。
アリスは周囲の愛情を一身に受ける美貌の妹に嫉妬している様子。
ある日聖体拝領の最中、カレンが殺されて無惨な死体で発見されます。
現場の状況からアリスに疑いがかかりますが…
出番僅かだけれど鮮烈な印象を残す、まだ幼いブルック・シールズの圧倒的美貌。

こんな妹が側にいたら堪らんやろなーと思わずアリスに同情。
母親も周囲の人もアリスに関心がなくカレンを贔屓しているように見えますが、たまたまイベントごとのタイミングで妹が注目されているだけなのかも…
〝どっちともとれる〟曖昧な人物描写に冒頭から引き込まれました。
神聖な儀式の最中に死体が発見されるシーンはショッキング。焼かれた死体の煙がモクモクと室内に立ちこめる…直接映さない見せ方が却って恐怖を煽ります。
愛嬌のない子でムカッとくるところはありそうだけど、殺人までやってしまう子なのか、難しいお年頃というだけなのか、掴み難いアリス。

そして周囲の大人たちも怪しく、誰も彼も疑わしくみえてきます。
アリスが犯人だと決めつけてかかるのはアニー伯母さん。

「私のお腹にいるときからアリスのことを嫌ってた」と母・キャサリンが言ってましたが、アリスは両親が結婚して籍を入れる前に妊娠した子だったのでしょうか。
それで伯母さんや町の人たちは誕生を祝福しなかった…この辺りハッキリ描かれていませんが、アリスが不当に爪弾きにされているようで気の毒に思えました。
〝美人の妹を持つ姉〟という立場はある意味アリスと酷似している伯母さん。アリスに過去の自分を重ねて自己嫌悪で嫌ってしまうのかなーと色々邪推してしまいました。
気弱そうな夫に終始寄りかかっていたり、娘・アンジェラはぽっちゃりめで健康管理が出来ていなさそうだったり…コンプレックスがあって自分の娘に綺麗になって欲しくないなど、どこか不健康なものを抱えた家庭に映りました。
聖体拝領時にはアリバイがあって犯行は不可能そうですが、マスクを付けた犯人に突然足をブッ刺されまくる超展開に(笑)。
大量出血した血が雨に流れる突然の阿鼻叫喚シーンに戦慄。
襲って来た犯人がアリスがいつも身につけているコートと仮面を付けていたことから、伯母さんはアリスこそ殺人犯だと警察に訴えます。
それに異を唱え娘を庇うのは母・キャサリン。

冒頭では妹だけを可愛がり、姉には無関心なように映りましたが、アリスが犯人だと疑われると娘を擁護。
施設に入れられる際にも母親らしく娘を気遣っているようでした。
アリスの被害妄想的視点でみてしまっただけで本当はごく普通の母親なのかも…と思わせつつ、町の神父と親しくしている様子が距離近すぎにみえたり、一時的に帰宅してきた元夫といい感じになってたり、男性に依存的な感じが気になりました。
アリスが初潮のことを黙っていたのも、母親を信頼できない気持ちがあったからでは…
複雑な親子関係、「エクソシスト」にも似た善悪曖昧で多面的な描写に惹きつけられました。
町で唯一善良そうな大人は教会のトム神父ですが、この人も何かが引っかかる。

冒頭では実母の形見である十字架のネックレスをカレンにプレゼントしていましたが、それだけこの一家と特別な関係だったのでしょうか。
特別美少女なカレンを気に入ってあげていたのだとしたらなんか嫌な神父。
母キャサリンと懇意にしているからあげたのだとしても結局美人をエコ贔屓してるってことだよね…
私生児で周りから祝福されないアリスのような本物の弱者に寄り添わないのは偽善的。無自覚に他人を傷つける人にも映りました。
子供たちに冗談を言って場を和ませる姿など、旧態依然とした教会から脱却しようとする〝優しい神父さん〟なのは伝わってきましたが、そんな人でも美しい人とそうでない人を悪気なく差別してしまう…そんな一面を垣間見た気がしました。
そしてアリスの父、元夫ドミニクも一癖ありそうな人物。

我が子を信じて真犯人を追う姿は一見よきパパにみえますが、アニー伯母さんの娘・アンジェラが犯人だと疑ってかかります。
あの状況でアリバイがなさそうだったのはアリスとアンジェラの2人。でも明らかに体格が違うしそんな子供を真っ先に疑うものかしら…
アニー伯母さんとドミニクは仲があまり良くないようで、「嫌いな相手の子供を犯人だと疑う」同じ穴の狢にも思えました。
そして何より新しい嫁がいるのに元妻とやろうとしてたのがどうしても引っかかってしまいます。
取り繕っているようで何だか怪しい…そんな大人たちで溢れるなか、強烈に不審な人物が1人登場。
部屋で猫を多頭飼い、シミのついたズボンを履いたデブの男性。アパートの管理人・アルフォンソのキャラが濃すぎる(笑)。

「死んだのがあの子というのが残念だ、神様はいつも美人を奪う」…アリスの前で堂々言い放つなど意地悪そうな性格。さらにはアリスの身体を触って迫るなどロリコン野郎っぽい。
しかしアリスも猫の首を絞めるわ、ゴキブリを部屋に放つわと大概な子で負けていません。
妹が死んだ時に一切取り乱すことなく、欲しかったベールをコートのポケットに押し込んでいたあたり、周囲が遠ざけるのも納得の〝ズレ〟のある子なのかなあと思いますが…
学校によると、アリスが人が変わったように問題を起こすようになったのはここ最近の出来事とのこと。
両親の離婚など子供ながらに乗り越えるのが辛い現実があって、さらに初潮も始まって難しい時期。
悪い子なのか普通の子なのかどっちだー!?計りがたい不気味なオーラも相まって揺さぶられ続けます。
ある日アリスが施設に入所しているさなか、父・ドミニクの下にアンジェラを名乗る人物から電話が掛かってきます。
アンジェラを犯人だと疑うドミニクは彼女からの自首だと思い込み指定された場所へ。
するとそこに黄色いコートと仮面をつけた人物が登場。ドミニクはナイフで肩を刺され靴で顔面を強打されて瀕死の状態に。
ドミニクは死の直前仮面をとった犯人の顔を目撃します。
果たしてその正体は…
(※以下犯人までネタバレ)
犯人は教会で働く家政婦・トレドーニ夫人だった!!
最初に神父の家に行ったときに床掃除をしてたおばちゃん、所々でちょいちょい出てて「あー!この人!」となる感じ、「サスペリアPART2」と似てるわね。

「神様が教えてくれた、親の罪は子が償うと」…何やら恐ろしい台詞を呟きますが、一体なぜカレンを殺したのか…
冒頭を見るに犯行は突発的なもので、トム神父がカレンに形見の十字架をプレゼントしたことが事件を引き起こしたのだと思われます。
自室に神父の写真を飾るなどかなりトム神父に入れ込んでいる様子だった夫人。
それがラブなのかリスペクトなのか、ハッキリ分かりませんが、唯一の心の拠り所だったことは伝わってきて、「私の推しが他の異性に惹かれることは断じて許さない!!」という激重感情があるようでした。
「親の罪は子が償う」という先の台詞からすると、夫人にとって罪深いのはカレンではなく母・キャサリンの方だったのではないかと思います。
トム神父とキャサリンは男女の関係こそないものの、神父が美人の母親にちょっぴり惹かれているのは事実で、特別優しく扱ったりすることが許せなかった。
聖職者の心を乱すフシダラな存在には罰が与えられるべき!!そんな動機だったのかなーと思いました。
トレドーニ夫人も過去に娘を亡くしているらしく、〝親の罪を子が…〟と言うあたり、夫人の娘も私生児だったのかもしれません。
罪悪感から自分に怒りが向かい、性的なものを憎悪、潔癖なカトリックの思想に傾いたのだとするととても哀しい人に思えました。
床掃除をして、手作りクッキーを用意、老神父の介護をするなど、教会という共同体に影で尽くしているはずなのに、誰も彼女の献身には目もくれず、同じ罪を犯したはずの美人のオカンがしれっと優しくされてたりする。
「あのアバズレにはあげたのに!!」という夫人の咆哮も分かる気がして、殺人鬼に肩入れしながら見てしまいました。
そしてコミュニティーから排除されたアウトロー同士、夫人とアリスの姿が重なります。
阿鼻叫喚のなか、1人凶器の入った紙袋を手にして意味深な表情を浮かべるアリス。

信用ならない大人の世界で自分も刃を抱えながら生きていくという諦観と決意の表情なのか、あるいは殺人鬼を継承したようにもみえる結末で、余韻の残るエンディング。
アリスはカレンを殺した犯人ではなかったけれど、この先何かが違っていれば殺していてもおかしくなかったのかな…嫉妬という負の感情を抱えた2人の姿が交錯します。
そこには偽善的な共同体の中で傷つけられた人たちの苦悩があって、ダークサイドに転落したようなラストの少女の姿には納得感とともに物悲しい気持ちが残りました。
全体的にジャーロっぽい雰囲気で、レインコートを着た子供など「赤い影」とイメージが重なる点もチラホラ。
監督のアルフレッド・ソウルは建築関係の仕事にも携わっていたそうで、ビジュアルセンスがヨーロッパ的。
ただジャーロと大きな違いを感じるところもあって、ジャーロだと最後の数分で犯人が判明して力技で動機が説明される…ラストで一気にどどーん!!と来るパターンが多いように思いますが、本作はトレドーニ夫人の正体が明かされたあとも30分以上映画が続き、そこが大きく違っているように感じました。
また「サスペリアPART2」のような感情移入しやすい探偵役の主人公がいるパターンではなく、視点が定まらず点在。
警察も出てくるのに一向に活躍しない。
しかしそれが独特の冷たさを放っていて、カトリックに対する挑戦的な内容といい、フルチの「マッキラー」に重なるものを感じました。
神聖な儀式の場で凄惨な殺人が起きたり、教会サイドの人間が犯人だったり、時代を考えてもかなり攻めた内容。
聖体拝領のパンを受け取るのに舌を突き出す信者の女性たちの顔つきが卑猥にみえて何だか際どい。
教会で聖歌を歌うおばさんのメイクがやたら濃かったりして、清楚装ってるけど皆アバズレじゃねえか!!って思ったりして(笑)。
犯人の目的や行動に整然としない点もいくつか残って、夫人がアニー伯母さんを襲ったのはキャサリンと見間違えたから??
ドミニクを殺したのは真相を探っていて邪魔だったから??それともキャサリンから夫も奪いたいと思ったから??
アニー伯母さんを刺したのだけ実はアリスが犯人だったりして…と思ったけど、凶器はあのナイフ1本だからやっぱりトレドーニ夫人と考えるのが筋なのかな。
勢い重視なB級ホラー的なところもありつつ、全体的には大きな矛盾点なくしっかり芯が通っているように感じました。
「人は信じたいことしか信じない」という台詞が劇中あったように、町の大人を疑わしく思ってしまうのは私の汚れた心を映し出す鏡なのかもしれません。
でもあの顔の3つある不気味人形といい、〝人には色んな顔がある〟というのがこの作品が描いている真理ではないかと思いました。
無自覚に人を傷つけたり、勝手に理想を押し付けたり、ときに大人は愚かで残酷。
嫌な部分をみせられつつも、翻って人と誠実に接することの大切さを問われているようで身に染みるものがありました。
12歳のアリスを演じた女優さんは撮影当時19歳だったとか。
全くそう見えなくてびっくり、大人びた子供の演技が上手くてすごいハマり役。
キルカウントは少ないけど伯母さんの足刺されシーンのインパクトが絶大。ビジュアル面でも光るシーンが多く、縛られた元夫が重たそうに転がされるところが地味に好きでした(笑)。
「アリス・スウィート・アリス」というタイトルから勝手にブルック・シールズがアリスなんだと思い込んでたけど全然違ってびっくり。
でも愛されていない方の少女でこのタイトルを冠しているのがまた切なく、味わい深いなあと思いました。
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