どうながの映画読書ブログ

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「天界の殺戮」…宇宙を彷徨う復讐の子供たち/黒暗森林的世界観のダークSF

前回記事、「三体」に似た世界観のSFとして名前のあがっていた「天空の劫火」を読了。

続けてその続編である「天界の殺戮」を読みました。

前作を知らないまま単体で読んでも問題なさそうで、個人的にはこちらの方が面白かった。

終末SFだった前作とはまるで違うシロモノになっていて、こちらは戦争SFの仕上がり。

子供だらけの宇宙船で与えられる過酷なミッション、密室空間での疑心暗鬼サスペンス…深夜のロボットアニメ的ムードもあって大変面白かったです。

 

◇◇◇

前作にて、謎の惑星破壊機械により滅ぼされてしまった地球。

数千人の人類が銀河の《保護者》の計らいにより救出されましたが、虐殺機械を製造した文明は滅ぼさなければならない…

人類自ら処罰を実行せよと命令が下され、選ばれし子供たちが《保護者》の作った宇宙船に乗り銀河を探索することになりますが…

 

序盤は「エンダーのゲーム」と「約束のネバーランド」を合わせたような雰囲気!?

選ばれた82人の子供たちしかいない宇宙船生活が既にサスペンスフル。

メンバーは22歳以下、男子クルーはロストボーイ、女子クルーはウェンディと呼ばれ、ピーターパンにちなんで〝パン〟と呼ばれるリーダーを投票で選出。

船内は《保護者》の提供した〝マム〟と呼ばれる複数体のロボットが手厚く航海をサポートしてくれますが、本当に彼らが善意の存在なのか疑わしく思える節も…

自分たちの技術の全てを提供してくれているわけではなさそうで、過去の宇宙の歴史については質問しても答えない。

「人類が敵に捕らわれた場合、自分たちの情報がバレるリスクを避けるため」だというのですが、それって人間を手駒としか見ていないのでは…まどマギのキュゥべえみたいに不信感しかありません(笑)。

子供たちの中でも任務に懐疑的な者、復讐優先でマムに従順でいようとする者などそれぞれ意見が分かれていて、静かに不穏な空気が漂います。   

 

そんな複雑な状況の中、新たなリーダー〝パン〟を務めることになるマーティン。

前作主人公の息子という立ち位置ではあるものの、エピソードの繋がりはほぼなく誰でもよかったような気がしますが、真面目な優等生タイプの主人公。

〝マム〟に逆らわず任務を忠実にこなそうとするので、序盤は保身的な嫌な奴に見えてしまいますが、子供の頃から破壊者への復讐がミッションだと言われて育てられたらこうなっちゃいそう…迷い苦悩する姿に後半は徐々に好感度がアップしていきます。

テレサという美人の恋人と将来を約束しているマーティンですが、過去には友人・ウィリアムとも関係を持っていて、男女関係が複雑なネバーランドにびっくり(笑)。

 

そしてある日マーティンたちは遂に破壊機を作ったと思われる星域を発見。

星を観察し、万全を期して攻撃に挑みますが、予想外の反撃を受けて子供たちは多くの死者を出してしまいます。

恋人・テレサと友人・ウィリアムを一気に失ったマーティンは呆然。

リーダーを降りハンスにその地位を譲りますが、尊大で攻撃的な性格を見せるようになるハンス。

さらに宗教めいたことを口走るようになったローザが子供たちの支持を集めるようになり、緊迫した空気が立ち込めていきます。

 

ところが…!!そんな中人類と全く同じ境遇の異星生物たちが近くを航海していることが判明。

子供たちは彼らと合流し共闘関係を築くことになり、船内に新しい風が吹き込まれます。

触手のような見た目のユニークなエイリアンが登場。

単体(ヒモ)が集まって集合体(クミヒモ)になると高度な知性を発揮、匂いでコミュニケーションをとる群体動物という設定が面白いです。

ヘビっぽい見た目を苦手に思った子供たちも、心を通わせて一緒に訓練。

故郷の惑星を破壊された同じ悲しみを知って〝ブラザー〟と呼び熱く抱擁。

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」的ワクワク要素も挟み込まれます。

 

ブラザーの船と合体した人類は、機械文明の製造源と思われる星域・レヴァイアサンを発見。

マーティンたち選ばれた数名が無害な漂流者を装って星内に入れてもらう〝トロイの木馬作戦”が展開されます。

未知の惑星に降り立ったマーティンが目にしたのは、見た目も多種多様に異なる知的生命体が複数共存している世界。

その中の1人は「天空の劫火」の謎の瀕死エイリアンに似たオオサンショウウオのような見た目をしていました。

「アイツは私たちを騙し討ちした奴」と怒りを激らせる子供たち。前作を読んだ時てっきりコイツは地球に警告しに来てくれた善意の存在だと解釈してたけどそうじゃなかったのね…

 

マーティンはオオサンショウウオたちに「君たちを作ったのは誰?」と問い、この惑星系の支配者的存在、〝階段の神〟と呼ばれる上位存在と謁見します。

虐殺機械によって自分たちの故郷が滅ぼされたこと、この星がその製造元ではないかと問いただしますが、我々は無罪だと即答する〝階段の神〟。

遠い祖先が作ったのかもしれないが今の我々は全く預かり知らず無罪だ、それでも攻撃するのか…と問われ怯むマーティン。

マーティンとブラザーたちは攻撃はよした方がいいのでは…と考えを新たにしますが、司令船に残っていたハンスが〝マム〟によって格上げされた武器をもって惑星を奇襲攻撃。

かつて地球を壊されたときと同じ景色が、今度は自分たちの手によってなされた虐殺として目の前で展開されるシーンは壮絶。

戦いに巻き込まれ負傷したマーティンは司令船と合流。味方にも知らせることなく攻撃を開始したハンスを厳しく問い詰めます。

「相手は虐殺の犯人じゃなかった」と訴えるマーティンでしたが、先に攻撃しなければやられていた、復讐は仕事として達せられるべきだったと主張するハンス。

 

さらに船内では宗教的扇動を繰り返していたローザがひっそりと殺されていて、その後犯行を告白したレックスが自殺するという凄惨な事件が起きていました。

船の不穏分子だったローザをハンスが手下のレックスを唆して殺させたのでは…暗い疑惑が持ち上がります。

目的のためには手段を選ばない冷酷なハンス。仲間の信頼を失って追放されるかと思いきや、最後にもうひと展開あってどんでん返し!!

壊されたレヴァイアサンの星の中から、ごく最近作られた新しい破壊機械が発見。

やっぱりこの惑星系は虐殺の犯人で間違いなかった!!

階段の神も嘘をついていたのか、或いは事実を知らない程度の存在だったのか分からないけど、無垢なる星ではなかったようでショッキング。

 

自分の判断が正しかったと胸を撫で下ろすハンス。

仕事を終えた子供たちはブラザーたちとお別れし、新しい自分たちの居住地を探して再び旅立っていきますが、これでよかったのかと疑問の残る複雑なラスト。

罪悪感を抱きつつも自己を正当化しようとする人類の姿はとてもハッピーエンドには思えませんでした。

故郷を失い人間性も失っていつかあの機械文明と同じような存在になるのでは…

「三体」に近しいものを感じるダークな世界観で、無情な宇宙観に仄暗い余韻が残りました。

 


面白かったけど、前作と同じく色々ボヤけていて分かりにくいのが好みの分かれそうなところ。幾つか大きな疑問が残りました。

ローザが黒い物体を船内でみたと騒いでいたのは一体何だったのか。

過去には自殺した子供たちもいたという宇宙船。〝マム〟が精神的に弱いものに幻覚をみせて追い込んで間引きしていたのでしょうか。

そしてハンスはたまたま宗教の才能があったローザを利用して子供たちを団結させたものの、用済みの足手纏いになったときに手下を使って殺させた…

推測でハッキリしませんが、《保護者》も人間も無情な合理主義でゾッとさせられます。


マーティンがレヴァイアサンで出会った様々な知的生命体の正体は何だったのか。

彼らは無罪だったとマーティンは心を痛めていましたが、食物を食べない機械生物が多くを占めるらしく、ハンスは惑星全体が目を欺くための擬態のようなものだと考えていました。

肉体から離れた知性は生物といえるのか…本作の世界観で最も謎めいている部分の1つで、精神を機械に移行するなど途方もなく長い年月とともに生命がそんな風に進化することもあり得るのかも…??

機械生物たちは惑星の飾り物に過ぎなかったのかもしれませんが、《保護者》にとっての人類もきっとその程度の存在。

なにが生命で価値あるものと見なされるのか…曖昧な境界線が静かに怖かったです。

 

そして、万能の《保護者》はなぜ子供たちの意志を尊重するのか。

あんなに何でもできる超テクノロジーがあるなら人間を洗脳してロボットのように言うことをきかせることも可能なのでは…と思いますが、子供たちの投票の結果には口を出さなかったり、「復讐はやらない」となっても子供たちを殺したり暴力で脅したりはせず最低限の面倒はみてくれるようでした。

この点前作の”蜘蛛ロボットの手先になっても意志が消えないところ”とも共通していて、機械文明に対抗するためなのか、「人の自由意志」を尊重するルールを自らに敷いているようにも映りました。

一見良心的に思えるけど、選択肢は与えつつもこの道を取らざるを得ないように誘導するやり方が巧妙で、正義を訴えられると逆らいにくい…

冷戦時代のSFの”自我が亡くなる恐怖”とはまた違った味わいがあって、意志のある民主主義も間違いを犯す、1つ大義があると人間は一方向に走りがち…何か深いものを感じさせる物語でした。

 

子供たちのキャラクターは人数が多くて把握しづらいところもありましたが、反骨精神溢れるツンデレヒロイン・アリエルが人間味あって魅力的。

新リーダーに選ばれたラストでも自分と意見の異なる人を副リーダーに選んでいて賢いなあと思いました。

虐殺の罪を背負うハンスは、主人公マーティンと複雑な愛憎関係がみえて何だかBL的。

リーダーにしか分からない苦悩があって非難し合うだけでは終わらない静かな友情。

「俺の両親は箱舟に辿り着けなかったんだぞ!!」と叫ぶハンスの台詞は切ない…

お互い自分にないものを持っているのを認め合っている感じで、2人の関係性もスリリングでした。

疑うことを知り、他者を傷つける罪を引き受けながら生きることが大人になるということなのかも…暗い青春ジュブナイル小説のようなムードもあって趣深かったです。

 

ハリウッド映画やアニメだと《保護者》がラスボスになってそこに立ち向かっていく展開になりそうですが、何もかも曖昧なまま終わるのが渋い大人の味わい。

せっかくの2部作なのに2作ならではの繋がりの面白さに欠けていたり、もうちょっと分かりやすくてもいいのになーと思ったり…とっつきにくい所もありましたが、面白かったです。

dounagadachs.hatenablog.com

面白いのに知名度がイマイチっぽくて勿体ない!!

「三体/黒暗森林」に通じる冷酷な宇宙観も感じられて、深い味わいのSF作品でした。