どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

ダリオ・アルジェント ドキュメンタリー「PANICO」を観に行ってきました

新宿シネマカリテで今月から開催されている映画フェス「カリコレ」にて、ダリオ・アルジェントのドキュメンタリー「PANICO」が上映されるとのこと。

7回ある上映のうち土日は今週のみでしたが、無事チケットを入手できたので観に行ってきました。

2023年制作の作品で、監督は「フルチ・フォー・フェイク」のサイモン・スカフィディ。

以前みたフルチのドキュメンタリーは〝フルチ役を演じることになった男性が途中フルチに扮しつつ本人像に迫っていく”…という凝ったつくりになっていて、自分はまどろっこしい感じがしてノリにくかったのですが、今作はもっとシンプル。

新作の脚本を執筆するアルジェントにカメラが同行し、本人のインタビューや過去映像、関係者の証言を交えていく…というスタイルで観やすかったです。

作品個々の掘り下げは少なめでしたが、時系列順でテンポよく作品を取り上げていってくれて、98分があっという間でした。

 

序盤の子供時代エピソードでは実妹が登場。

これまで一度も見たことのないアルジェントファミリー、上品で綺麗なおばあちゃま。

写真家だったお母さんのエピソードが語られていましたが、華やかな世界の仕事をやめて家庭へ…(何となく「サスペリア2」のオカンと境遇が重なりますが)母親の仕事をみて感化されたところが多々あるようでした。

最初の妻だったマリサ・カサーレも登場。

「四匹の蝿」の主人公、確かにアルジェントに似てるし、マリサさんもミムジー・ファーマーに似ていて、映画に私生活を投影しているとなって夫婦がぎこちない空気に…

自分は去年アルジェントの自伝「恐怖」を読んだのですが、アルジェント本人の回想と重なる部分が大いにありつつ、今回は他家族メンバー視点で同じエピソードが語られるのも面白かったです。

 

もう1人驚きのメンバーは「オペラ座 血の喝采」のヒロイン、クリスティーナ・マルシラッチが登場。

アルジェントと仲が悪かったらしく、針を目の下に貼り付けられるのからして過酷な撮影そうですが、ミケーレ・ソアヴィによると「アルジェントがノーブラで撮影したかったシーンがあったのを拒絶して険悪になった」のだとか。

そんな話だったのか…!!と驚いていたら、「監督との関係を一言でいうと?」と問われて涙ぐむマルシラッチさん…一体どんな関係だったんだー!?(笑)

気難しいダリオとやっていくのは大変で怖い思いもしたけど、こうやってドキュメンタリーには出演してくれて敬意を抱いているところもあったのかな…一筋縄では行かないアルジェントとの関係性が垣間見えたようで興味深かったです。

オペラ座 血の喝采」以降パワーダウン、丸くなっていったという評価は皆同じなんだなーと思いました。

 

また讃える同業者として、ギレルモ・デル・トロギャスパー・ノエニコラス・ウィンディング・レフンが登場。

確か「恐怖の報酬」のBlu-ray特典にあったフリードキンとの対談にて、「アルジェントは皆好き」と発言して、フリードキンから「皆ではない」と訂正されていたレフン(笑)。

独特で相変わらず癖強そうでしたが、影響を受けたと語っていて、レフンの作品もみてみたくなりました。

ノエは「スタンダール・シンドローム」を評価。

デル・トロのお気に入りは「インフェルノ」。

ホットドッグ屋の親父のシーンを「全宇宙の悪意」??とかなんとか言って分析してて、さすが芸術家同士通じ合うものがあるんだなーと、面白かったです。

ホットドッグ屋、確かに度し難い不条理という意味ではあれ以上のシーンはないのかも(笑)。

隣の部屋が針金でいっぱいだったり、館の地下にプールがあったり、常人には思いも付かない狂気の世界。

アルジェント本人も自分の映画のことを〝感覚を投影したもの〟みたいに語っていましたが、現実世界のリアリティとはまた異なる、悪夢のような別世界を作り出せるのがアルジェントの凄さだとしみじみ感じ入りました。

 

ファンにはお馴染みのメンバー、クラウディオ・シモネッティ、ミケーレ・ソアヴィ、ルイジ・コッツィ、ランベルト・バーヴァも登場。

部屋にオスカー像置いてるおじいちゃんが見慣れない人でしたが、「オペラ座 血の喝采」で製作に入っていたヴィットリオ・チェッキ・ゴーリ。

家族としても仕事仲間としても繋がりが深かったアーシアが1番多くを語っていたように思いますが、「オペラ座の怪人」でのエピソードなど、性的なシーンにはやはり思うところがあったのね…

アメリカに進出した娘に対して拗ねてしまったり、アーシアには束縛的で複雑な愛情がありそう。

フルチのドキュメンタリーも長女と次女とでお父さんとの関係がまるで違っているのが面白かったけど、複雑な家庭事情をみせるイタリアンファミリーに圧倒。

「デス・サイト」以降の作品は取り上げられず、もう終わり!?という感じで、あっという間でしたが、最後のアルジェントの微笑みには、ずっと元気でいてまた新作を見せて欲しいという気持ちでいっぱいになりました。

 

上映終了後にはトークショーがあって、イタリアンホラー研究者の山崎圭司さんと合同会社是空主宰の鈴木淳一さんが登壇。

フランコ・ネロと映画に出る!?という新情報や「スリープレス」Blu-ray制作時の話、ベストアルジェント作品…など、貴重なお話がたくさん伺えてとても楽しいひとときでした。

映画で語られていたクリスティーナ・マルシラッチとのいざこざの件、そういえば「サスペリア」も「インフェルノ」も乳首透けてたわ…!!と納得(笑)。

 

入場特典もあって、「オペラ座 血の喝采」の別バージョンチラシがいただけました。

ランダム配布ではなく、公式サイトでどのバージョンがどの回に配布されるか告知していて、複数回みても被らないように配慮してくださってるの良心的。

グッズはTシャツ、ポスターなど売ってましたが、限定200個のアクスタを購入。

アルジェントのアクスタ…!!(歓喜)今どきのオタクになれた気分(笑)。

 

アルジェント初心者がみる作品というより、ファンがみて楽しむ作品のように思いましたが、テンポがよく情報量が多い作品。もしBlu-rayなど出たらもう1度観たいと思いました。

全盛期の作品を劇場でみれてない人間としては、映画館でアルジェントを味わうことができてとても嬉しかったです。

アルジェント作品、特に「インフェルノ」がまた観たくなりました。

 

「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」…不器用で誠実なおっさん主人公が愛おしかった

今年のオスカー作品賞候補だったアレクサンダー・ペイン監督作。

評判がかなりいいみたいで、近くの映画館でもまだ上映していたので観に行ってきました。

オスカー関連作って2月〜3月に公開されてるイメージだけど、なぜか本作は6月公開とかなり遅め。

クリスマスシーズンのお話なので、なんでこんな暑い時期にと思ってしまいましたが(笑)。

冒頭のユニバーサルのロゴからレトロなデザインになっていて、作品全体がアメリカンニューシネマのような雰囲気。

ラストになんとも言えない余韻が残って、地味なおっさん主人公に愛しさが込み上げる…静かだけれどとても良い作品でした。

 

◇◇◇

1970年のクリスマス、全寮制男子校のバートン校。

ホリデーシーズンを家族で過ごすためほとんどの生徒が帰省する中、行く当てなく学校に残る者たちが…

嫌われ者の教師・ハナム、はみ出し者生徒のアンガス、ベトナム戦争で息子を亡くしたばかりの料理長メアリー…3人の奇妙な共同生活が始まった…

 

ポール・ジアマッティ演じるクセの強い教師ハナム。

会話にちょいちょい古代史用語を挟んでくるのがうざったいけれど、無駄に知識披露したがるオタクみたいで親近感(笑)。

プリンストン大学に進学する予定だったボンボンのアホタレ生徒にFを付けたことが原因で校長から目をつけられてしまい、周りに迎合しないアウトロー気質もあって孤立気味。

斜視、ハゲ、体臭が強い…と美男からは程遠く、生徒たちからも馬鹿にされがちなハナム。

テストの点数で公正に評価してくれて追試まで用意してくれるってめちゃくちゃいい先生やん、と思いましたが…

教師1人が寮に残り生徒指導する役を担わなければならないクリスマス休暇、当番だったはずの教師が「母親が病気だから」と嘘をついたため、ハナムにその役が回ってきてしまいます。

 

一方料理長のメアリーは息子をベトナム戦争で亡くしたばかりで、せめて息子の通っていた学校で休暇を過ごしたいと自ら居残りを希望。

優秀な生徒だったというメアリーの息子ですが、学資金が足らなかったため進学を断念。

兵役のあと大学入学しようと考えていた矢先に戦死…とかなりヘビーな話が語られます。

メアリーを使用人だと蔑み、食卓に加わることを拒否した生徒・クンツは頭が悪いけれど親が金持ちなので、兵役を免れて好きな大学に行くことができる…

人生はちっとも平等じゃない、なんて理不尽なんだ…!!そんなムカムカする気持ちも湧いて来て、かなりシビアなアメリカの進学校の世界。

教会で集まってお祈りして、高潔な精神を説いているのに、寄付金重視で権威主義的。

こういう欺瞞的な憎たらしさをどこかユーモラスに描いているところは「ハイスクール白書」が思い出されました。

 

居残りが決定した生徒は最初は5名いましたが、途中で1人の子の親が迎えに来て「皆でスキー旅行に行こう!」という話になります。

ところが両親と連絡の取れなかったアンガスだけが旅行に行けず、たった1人学校に残ることに…

クリスマスぼっちは家族から見放された負け組…そんなムードも漂っていて何とも切ない…

冒頭の電話の会話からして家庭環境に難ありなのが察せられたアンガス。

「再婚した夫と新婚旅行に行くからアナタは帰ってこないで!」と言うオカン、なかなかしんどそうであります。

 

そんなこんなで偏屈おっさん教師とはみだし者生徒が一緒に過ごすことになったクリスマス。

実は結構似た者同士な2人。

ひねくれ者に見えるけど、根は悪い人じゃないんだろうなーというのが随所で伝わって来ます。

マイペースな人かと思いきやハナムはかなりの辛酸を舐めて来た苦労人で…アンガスは母との不和だけでなく更に複雑な家庭事情を抱えていることが明かされて…

ハナムが年若いアンガスの辛苦を想像して、少しずつ優しくなっていく過程がとても自然でした。

家族であれ他人であれ常に理解し合えるというのは幻想でしかないけれど、ほんのいっとき誰か分かってもらえる人がいることが、どれだけ救いになることか。

「自分も親と同じ病気になるかも」と恐れを告白したアンガスに「親とは別の人間だ」と諭すハナムの言葉…家庭環境に恵まれなかったハナム自身が自らに言い聞かせて来た言葉なのかもしれませんが、同じ痛みが分かる者だからこそ寄り添える瞬間、ぐっと胸にきました。

 

2人が映画館で一緒にみる映画は「小さな巨人」。 

自分がつい最近この作品を偶然観たばかりだったので嬉しくなりましたが、作中のダスティン・ホフマンと酋長も血の繋がりはない擬似親子のような関係。

嘘をついたりもするけれど根は誠実な主人公…時代の空気感を捉えつつ、2人の内面とリンクしているように思われて面白かったです。

 

料理長のメアリーは2人に加わったり、途中で抜けたりでずっと一緒にいるキャラクターではなかったけれど、彼女の助言がハナムを導いたりで、包容力のある女性でした。

彼女には気にかけてくれる実妹がいるし、生まれてくる姪か甥に未来への希望を託すこともできる…心の拠り所になる血の絆、家族の絆があって、メアリーが最も過酷で大きな不幸を経験しているけれど、アンガスとハナムにはない強さを持っている人なのかな、と思いました。

3人がお互い気遣ったり、適度な距離感で時々支え合うのがよかったです。

 

ラストは静かな日常に帰っていくエンドなのかと思いきや、予想以上にビター。

休暇中実父を訪問したアンガスの行動が大問題に…

ハナムは嘘をついて罪を被りアンガスを兵学校行きから救い出すことにします。

しかしその結果職を失い、学校から出ていくことに…

 

ハナムの嘘を知らないアンガスが最後に見送りにやって来ますが切ない…「またね」と声を掛けていたけど2人が会うことはもう2度とないんだろうな…

訳あり経歴なのを前校長が雇っていたことを考えても、ハナムの将来はこれからかなり厳しそうであります。(メアリーが最後に白紙の本を渡してくれていたけど、大きな夢をみるには歳を取りすぎている身)

見返りを求めることなく生徒の未来を救おうとした主人公の献身に心打たれつつも、なんとも寂寞感の漂うエンディング。

けれど校長室にあった酒を勢いよくペッと吐き出すおっさんの姿はなぜだか清々しく、格好いい。

夢から覚めたように現実に引き戻される寂しい気持ちと、理不尽な世界の中で自分がよしと思える選択をした主人公に奮い立たせられるような気持ちと…グッドでもバッドでもない、静かな余韻の残るラストでした。

 

湿っぽくはなく、序盤から笑える場面があって、主演3人以外のキャラもいい味出していました。

パーティーに誘ってくれた優しい事務の女性、可愛いおばちゃんでいいやん!!と思ってたら他にいい人がいたのね…善人だけど無自覚な小悪魔(笑)。

鼻持ちならない生徒のクンツは、最後にスキー焼けしてて憎々しさがちょっと中和されるのズルかった(笑)。

最初の居残り組にいた韓国からの留学生は、きっと祖国では裕福な家の子なんだろうけど、遠く離れた土地で学歴つけて成功しなければならないプレッシャーがあるんだろうなー…「持っている人間ならではの苦労」が察せられて、夜中1人で泣く姿にこちらも悲しくなってしまいました。

「友人ってやつを過大評価しすぎ」は名言、いまいち掴めないキャラだったアンガスの好感度があそこで一気に爆上がりでした。

 

でもなんだかんだ1番胸に来たのはポール・ジアマッティのハナム。

ペシミストかと思いきや利他的。不器用だけれど誠実。ギャップ萌えで実に素晴らしい、くたびれたおっさん主人公でありました。

 

公開からひと月近く経ってるのに盛況で、パンフは品切れ。

なんで今クリスマスやねん!!と思いつつ、寂しくて優しい映画の世界に心地よく浸らせてもらいました。

 

「未確認生命体 MAX」/Man's Best Friend…犬がかわいいライトなアニマルホラー

わんわん!!

チャイルド・プレイ2」のジョン・ラフィアが手がけた93年のアニマルパニックホラー。

コメント欄で教えていただいて面白そうなのを観てみました。

VHSや輸入版のジャケットをみるとシリアスホラーっぽい印象ですが、カラッとした80年代っぽい雰囲気で良い意味でB級映画

可愛いワンちゃんがたくさん登場して、犬好きにはとても楽しいライトなホラーになっていました。

 

◇◇◇

犬は人類の最良の友…

人間に寄り添う犬の姿を描いた中世絵画がハイテンポで映し出されるオープニングクレジットから掴みは抜群。

野心家のTVレポーター・ローリーは、動物虐待のスクープを物にしようと、深夜のバイオ研究所に忍び込みます。

実験のため体を傷つけられた多くの動物たち…カメラが研究所内部を捉えていきますが、そこでローリーは檻に入った大型犬・マックスと遭遇します。

ローリーが犬を解放するとすぐに懐くマックス。

しかし研究所の主であるジャレット博士が戻ってきて、ローリーはマックスを連れて大慌てで逃げ出します。

 

強盗犯を撃退し自分を守ってくれたマックスにローリーはメロメロ。

同棲中の彼氏の反対も押し切って自宅で飼うことに…

(風呂上がりにタオル持って来てくれるの可愛い)

(お外にはいたくないよ〜お腹みせポーズでおねだり)

マックスは自分を助けてくれたローリーに特別な愛情を示しているようでした。

 

一方犬を盗まれたジャレット博士は警察に通報。

実はマックスは様々な動物のDNAを組み合わせた遺伝子組み換え犬で、お金のかかった実験体なのだと語ります。

知能は高いものの精神は不安定で、薬が切れると人を襲うだろうと警告する博士。

 

徐々に明らかになっていく〝強化ワンワン〟マックスの全貌。

いきなり爪が生えてきてスパイダーマンのように木をよじ登る…!!酸性のオシッコを放ち鉄をも溶かす…!!

猫を丸呑みするシーンは残酷というよりシュール(笑)。

シリアスホラーしてなくてどこか馬鹿馬鹿しいマックスの超犬っぷり。

人並みに(犬並みに?)異性には関心があるらしく、ローリーの隣家に住むコリー犬に一目惚れ。

ベッドまで追い詰めて襲ってしまうお盛んな姿も…

懐メロテイストなラブソングがいきなり流れてくる犬のラブシーンにも爆笑してしまいました。

 

無邪気な姿を見せつつも、自分を快く思わない者の心の動きは敏感に察知。(ワンちゃんは賢い)

彼氏の車に細工したり、催涙スプレーを浴びせてきた郵便配達人を返り討ちにしたり…

同棲中のガールフレンドが何の相談もなく突然家に大型犬連れてくるとか可哀想…と思って見てたけど、犬の餌に平気で毒を入れるなんて彼氏もなかなか鬼畜。

 

ジャレット博士がマックスを探していることを知ったローリーは、自分の下に置いていては危険だと、番犬を探していた男にマックスを引き取ってもらうことにします。

しかし犬好きにみえた男も実は悪い奴で、バーナーで顔を焼かれてしまうマックス。

命からがらローリーの下に戻ってくると、そこには彼氏が新しく買ってきた小型犬が…(切ない)

激怒しローリーの彼氏に重傷を負わせるマックスでしたが、そこにジャレット博士がやって来て2人と1匹は元いた研究所へ…

薬が切れてもローリーと心通じ合わせるマックスの姿はまさにマンズベストフレンド。

しかし博士と刺し違いになって深手を負ったマックスは静かに息を引き取ってしまいます…

 

しっかり人は殺しているマックスですが、あまりモンスターしていなくて恐怖度はかなり低め。

カメレオンのDNAが配合されていたためかプレデターのように姿を消して警察を襲うのには唖然となります(笑)。

本物の犬を撮影しつつ所々で着ぐるみを使用。

編集の上手さに感心させられつつ、怒り、喜び、悲しみ、不信感…全てが伝わってくる主演のワンちゃんの演技がとにかく素晴らしかったです。

 

博士役はランス・ヘンリクセンですが、マッドサイエンティスト味は控えめで、キャラは薄味。

もう少し研究所の闇に迫るような内容があってもよかったのかも…

もしかしたら凶器と化していたかもしれない実験犬と女性の友情…犬版ショートサーキットのような雰囲気を醸しつつ、人間の身勝手さに翻弄される動物の悲哀もしっかりと描いていて面白かったです。

ラストのオチにもニッコリ。

ハートフルさとシニカルさが絶妙な塩梅でブレンドされたゴキゲン犬ホラーでした。

 

「夕暮れにベルが鳴る」…スクリーム+ハロウィン!?静かに怖い異色スラッシャー

「スクリーム」のパンフレットにて鷲巣義明さんが元ネタとして解説されていた79年のホラー。

74年に「暗闇にベルが鳴る」という作品があって、スラッシャーものの先駆的作品として知られていますが、おそらく本作も「暗闇~」に影響を受けたであろう作品。

電話をキーアイテムとして使っている点が2作品共通していますが、邦題もおそらく「暗闇~」に便乗して付けられたのではないかと思われます。

ヒロインが不気味な男と電話で応酬する冒頭20分が迫真…!!(スクリームの冒頭と確かに一致)

中盤以降は犯人視点のドラマに切り替わり、緊迫感はグッと落ちてしまいますが、何とも言えない不気味さが漂っていて、ゾクッとするホラー作品になっていました。

 

◇◇◇

ベビーシッターの仕事のため、とある家庭を訪れた女学生ジル。

子供たちは既に寝かしつけられており、居間で1人過ごしていると、突然不審な電話が…

「子供たちを確認したか?」…とだけ言い残しブツリと切れる謎の男からの電話が、何度も何度も繰り返し掛かってきます。

不気味に思い警察に相談の電話を掛けたジルは、探知機で発信元を調べてもらうことに。

「発信元はその家の2階だ!!早くその家を出ろ!!」…駆けつけた警察が2階へいくと、2人の子供たちは既に惨殺されていました。


「子供たちを起こさないでね」…と事前に依頼主に言われていたものの、こんな変な電話が何回も掛かってきたら普通子供の様子見に行かないもんかなー…と思ってしまいますが、静寂の中執拗に掛かってくる電話がとにかく不気味。

マネキンのような容貌の女優さんの見た目も相まって恐怖度はさらにアップ。

発信元が家の中だった…というくだりは「暗闇にベルが鳴る」でも「スクリーム」でもやっていたと思いますが、悪寒が走るような怖さがあります。

殺人シーンは一切なく、子供たちも全く映されませんが、それが却って不安を煽り効果的。

のちに刑事の口から語られるエピソード…「凶器を一切使わず素手で遺体がバラバラに切り裂かれていた」という説明にも戦慄させられます。


そして話は一気に飛んで事件の7年後…

子供2人を惨殺したカート・ダンカンは精神異常だと判断され、警備の薄い精神病棟に収監されていました。

しかしある日突然脱走。

その知らせを聞いた元刑事・クリフォードがダンカンの後を追います。

「ハロウィン」を彷彿させるストーリー展開ですが、クリフォードは7年前の事件で子供を殺された親から「犯人を野放しにするな、殺せ」と密やかに依頼を受けていました。

追っ手が法の番人ではなく、私刑に走る男というのも陰鬱ムードを加速させていきます。


一方、病院から抜け出てどこにも居場所がないダンカンは、場末の酒場に入り浸り、そこの常連客である女性・トレイシーに付きまとっていました。

「僕の友達になってよ」「コーヒー1杯だけ。今日がダメなら明日は?明日のいつがいい?」…冒頭のあの変な電話にも納得の、異常なしつこさ(笑)。

女性がどんなに袖にしても、全くおかまいなしで付きまとってくるダンカン。

本人は悪気ゼロで、相手の気持ちとか空気とか全く読み取れないタイプのようですが…

冒頭あれだけ凄惨な事件を起こした人の、どこか弱々しい姿。

けれどそれが逆に不気味で、いつ凶行に走るか分からないような静かな恐怖があります。

 

付きまとう相手の女性はなぜか若い美女ではなく、ドスのきいた声のおばちゃん(笑)。

でもこのおばちゃんがこの映画の中で唯一人間味溢れる人物で、ドラマ要素を爆上げしてくれているような気がします。

ベビーシッターのジルは子供を一切見に行かず、女友達との電話の会話でもどこか冷たい感じがして、包容力ゼロ。

またダンカンが収監されていた精神病院の女医は「患者の情報は全部ファイルにあるから」とまるで物扱い、電気ショックを38回やったとかエゲツない婆さん。

それに比べておばちゃんは距離を取りつつも相手を傷つけまいと優しくフォローしてくれたりして、意外に寛容な人。

ダンカンにとっておばちゃんだけが〝ママ味〟を感じさせる、縋り付きたくなるような女性だったのかも…

「僕は生まれてこなかった、存在していないから誰も僕に触れない」…といった病的な台詞からも、ネグレクトされてきた子供だったのかな、と闇深な過去を感じさせるダンカン。

何度もおばちゃんに声をかける姿は母を求める幼子のようにも映ります。


ダンカンがトレイシーに付きまとっていることを知ったクリフォードは、彼女に捜査協力を依頼。

しかし作戦は上手くいかずダンカンは逃走してしまいます。

奇声をあげながら逃げまくる中年男と、それを追いかけるデブの刑事と…地味ながら中々の地獄絵図をみせながら、映画は再びクライマックスへ…

 

終盤は冒頭のヒロイン・ジルが再び登場。

結婚し2人の子供をもうけたジルは、夫とディナーに出かけるため子供たちをベビーシッターに任せることにします。(あんな事件を経験しといてよく…と思ってしまうけど、因果が巡ってくるような恐怖)

行った先のレストランにて「子供たちを確認したか?」…7年前と全く同じ電話が掛かってきて、絶叫しパニックになるジル。

大急ぎで夫と共に帰宅しますが、子供たちは何事もなく眠っていました。

しかしその後、身体を休めようとしたジルがベッドに入り隣で寝ているはずの夫に話しかけると…

隣に身を横たえていたのはダンカン…!!(ヒロインと共に絶叫)

殺されそうになるジルでしたが、そこにクリフォードが遅れてやって来てダンカンを射殺。ジルの夫も意識を取り戻し、一家は事なきを得ます。

 


なぜダンカンは再びジルを襲ったのか…たまたま新聞に載った彼女の顔が目に留まって、思い出して殺しに行こうとしたようですが、元々彼女を狙った動機は何だったのか、不明。

因果関係や人物描写は深掘りされておらず、話の繋ぎが粗めなのは残念。

けれど「姿を現す殺人鬼」ダンカン役の俳優さんがハマリ役で、不気味ながらどこか寂しそうな姿が心に残ります。

到底理解し難い凶行を描いた序盤からの、サイコパスに寄り添ったかのような犯人視点の中盤…この落差もこの作品の面白いところではないかと思いました。


ヒロインと刑事役の俳優さんが続投した続編があって、こちらも怖いらしいのですが未見。

1は昔はビデオ店でみかけた作品だったように思いますが、DVD未リリース。1作目&2作目のお得なセットBlu-rayとか出ないかな…

 

「スクリーム」関連で面白かった1本。

これといった殺人シーンもなく、静かな作品なのにゾクッとさせられる、異色スラッシャーでありました。

 

宝物パンフレットと映画「スクリーム」の思い出

自分がリアルタイムでみたスラッシャー映画といえばこれかも…

スクリーム [Blu-ray]

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  • デイヴィッド・アークェット
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子供の頃行くのが楽しみだった近所で1番大きなレンタルビデオ店

新作入荷のコーナーに「全米で大ヒット、口コミで大評判」みたいな言葉が載ったポップが掲載されていて…

映画好きの親は格別ホラーが好きというわけではなかったけれど、店の一押しなら面白そうだと借りて帰った1本でありました。

ドリュー・バリモアの顔がジャケットに大きめで載っていたので、彼女が主役なのかなと思っていたのですが…

スピード感溢れる冒頭の電話シーンからビビりまくり…!!主人公だと思っていたドリューが惨殺されるオープニングに絶句…!!

犯人は誰なんだーー!?怪しすぎるビリーに「絶対お前だろ」と疑いまくりつつ、二転三転する展開にラストまで息がつけませんでした。

 

元ネタ云々が分からなくても、この作品が皮肉の効いた笑いを含んでいることは何となく理解。

「ホラー映画の法則」が劇中で語られながらそれが作品内で展開していくメタ的な構造。

「映画クイズに正解すれば助かる」という絶妙にオタク心をくすぐるシチュエーション。

強い女性陣がもたらすカタルシス

当時の自分には普通に〝怖い映画〟だったのですが、同時にスタイリッシュさやユーモアも伝わってきて、とにかくインパクト大な作品でありました。


そして…中学生になったとき丁度続編が公開されて、映画館に家族で観に行くことに。

冒頭の間の抜けた殺人シーンにガッカリしたり、犯人は意外ではあったもののインパクトに欠けていたり…期待値が大き過ぎたのかやや肩透かし。

大人になってから改めてみると続編としてはかなり健闘していて、親の因果を乗り越えようとするテーマ性なども感じられて良い作品だったと思うのですが、このときは1と比べると残念という感じが否めませんでした。

 

鑑賞後、映画館ではなぜか1作目のパンフレットが販売。

確か2のパンフは500円で、1のパンフは700円と異様に高値だったのですが、「1の方が価値がでるかもしれん」といって親が買ってくれたものでした。

約50ページのあじろ綴じ、中の紙もツルツルの紙ではなく厚手の藁半紙のようなちょっと変わった特殊な仕様。

しかし値段に見合うだけの価値がある濃厚な内容で、自分にとってはホラー映画を知るテキスト的存在!?に。

みうらじゅん氏、大場正明氏らの解説、ウェス・クレイヴンのインタビューなどを収録した充実の内容だったのですが、自分が1番心奪われたのは最後の「シナリオ収録&徹底解説」のコーナー。

映画のシナリオが文字起こしでまるっと載せられていて、その下段に映画文筆家・鷲巣義明さんの解説が掲載されている…というレイアウトで、とにかく文字が多い(笑)。

結末部分は袋とじになっているという拘りっぷりも粋であります。

映画「ハロウィン」の演出を踏襲している場面…監督の過去作との共通点…似たようなシーンがあるホラー作品…など事細かに解説されていて、この解説が本当に面白かった。

 

字幕では簡略化されていた部分についても拾っていて、犯人扱いされたビリーの様子をシドニーが友人たちに尋ねる場面。

「殺人鬼にされてショックもいいとこ」とスチュアートが答える台詞は、実際には「キャンディマンにされてショックもいいとこ」と答えている…そして隣にいるテイタムはキャンディを口にしている…

自分が何となくみて楽しんでいた作品に、こんなに読み取れない情報がたくさん隠されていたのか…!!と驚き。

(当時のパンフ一部転載)

これを読んで「キャンディマン」がすごく気になってしまい、レンタル店で探して借りてみた記憶があります。

 

ページの最後には「解説は筆者・鷲巣のホラーに対する想いと独断、そして知識において記したものです。異論があっても、どうかご容赦下さい。」と丁寧に注釈がつけられていました。

シドニーがゲイルをグーパンチする場面が「ダイハード」でホリーが最低レポーターを殴る場面と重ねられていたり…ビリーの犯人像が「ヘザース」のクリスチャン・スレーターと似ていると分析されていたり…

こういう独自目線で繰り広げられる雑談的内容がまた楽しかったです。

映画をみていて〝何か似ているもの〟を発見できたときの嬉しさってあったりして、発見することで〝自分はこういうものが好きなんだ〟と自分の中で再確認するような過程がまた楽しかったりもして…「スクリーム」はそうした喜びに溢れた作品だったのだと、あとからジワジワと気付かせてくれました。

 

「スクリーム」をみる前からホラー系はなんとなく好きで、チャッキーやオーメンにビビったり、デ・パルマやクローネンバーグを親と見てキングの原作を読んだり…何かと怖いものに心惹かれる性分だったと思いますが、スラッシャーというジャンルの存在を知れたのは「スクリーム」とこのパンフがきっかけだったように思います。

エルム街の悪夢」「ハロウィン」「13日の金曜日」などもパンフを読んでから少しずつレンタル。(「エルム街の悪夢」は力強いヒロイン像がシドニーの姿と重なり胸熱…!!)

他にも「プロムナイト」「悪魔のサバイバル」「フェイドTOブラック」など、レンタル店で探して巡り合えた作品がチラホラ。

のちに雑誌の映画秘宝を読むようになったり、タランティーノ作品の元ネタを知って追いかけてみたり…

繋がりを探して映画を楽しむ見方は今ではあるあるだと思いますが、ネットが普及していない時代、紙の情報は本当に貴重でした。

タランティーノ映画のパンフもこのパンフみたいに台詞全部載せで解説してくれたらなあ…と思っていました。本当に今読み返してもめちゃくちゃ力の入ったパンフ…!!)

 

スラッシャー映画黄金期&80年代ビデオブームが終わっての90年代ホラー低迷期…「スクリーム」はこのジャンルへの愛をふんだんに敷き詰めた特異な作品だったのではないかと思いますが、レンタルビデオ世代の自分にとっても特別心に残っている1本。

加えてパンフレットは目から鱗のお宝アイテムで、映画の楽しみ方を広げてくれたような特別な1冊でありました。

 

「血のバレンタイン」…アンカット版→全米公開版で初鑑賞、血みどろホラーで素晴らしかった…!!

タイトルは知っていたけど未見だった80年代スラッシャームービー。

大当たりに違いないとスティングレイさんから発売されたBlu-rayを購入、初鑑賞してみました。

期待を裏切らない出来でめちゃくちゃ面白かった…!!

炭鉱の小さな町というロケーションの素晴らしさ。独創性溢れる殺しの手口と、ギョッとなる死体の見せ方。

不気味な殺人鬼のビジュアルに、犯人予想のワクワク感。

多少強引な部分もあるものの、最初から最後まで安定して見やすい作品になっていて、大当たりの1本でした。

 

◇◇◇
バレンタインデーのお祝いに興じる小さな町。

しかしこの町には20年前に悲惨な事件が起こった過去がありました。

5人の炭鉱夫が地下で作業中、上にいた現場監督たちが浮かれてバレンタインのパーティーに行ってしまい、残された鉱夫たちが事故で死亡…

唯一の生き残り、ハリー・ウォーデンは同僚の死肉を喰らい生き延びて助け出されましたが、精神に異常をきたし、1年後のバレンタインデーに事件の関係者を惨殺。

町では度々ウォーデン事件が怪談話のように語られていましたが、若者たちはそんな過去の出来事に関心はなく、バレンタインデーを心待ちにする日々…

 

王道ホラーな〝伝説的殺人鬼〟の存在は童心に返る怖さ。

冒頭から映し出される薄暗い鉱山の景色もホラーとの相性抜群でワクワクが止まりません。

そして本作に登場する若者たちは自由奔放な学生ではなく、炭鉱で働く地元の労働者。

スクールカーストのようなものがあるわけでもなく、コミュ力高いデブの男性が皆のリーダー的存在だったり、キャラ配置がユニーク。

何もない町で刹那的に生きる若者たちの生活感漂う描写が真に迫っていて、素晴らしかったです。

 

若者グループの中で唯一浮かない顔をしているのは主人公のTJ。

ある日突然街を飛び出して行ったけれど、何ひとつ上手くいかず地元にとんぼ返り。 

なんの連絡もよこさなかったのに元カノ・サラに復縁を迫る姿は身勝手にも映りますが、サラは新しいボーイフレンド・アクセルと交際を始めていました。

TJとアクセルは元は親友同士だった様子。

(2人ハーモニカを吹くシーン、たまんねえ)

男女三角関係はどうなってしまうのか…ザ・青春なロマンスも絡んできてグイグイ引き込まれていきます。

 

そんな中次々と起こる殺人事件。

バレンタインデーを楽しみにしていたコインランドリー店のメイベルおばさんが惨殺されてしまいます。

店の飾り付けのハートが全て逆さまになっているのが病的で不気味…!!

刑事が店を捜索する中、さらっと映る真っ赤な扉窓…

さりげない見せ方が恐ろしく、乾燥機にかけられた死体がグルグルまわる執拗さ…芸術点高すぎな名シーンに圧倒されました。

若者たちに20年前の事件のことを語っていた酒場のおっちゃんは、殺人鬼人形をこしらえて皆を驚かせようとしてたら、人形が本物と入れ替わっててグサーッ…!!

ツルハシが顎を貫通し飛び出してくる目玉がショッキング…!!

「くるぞ、くるぞ」の見せ方がサディスティックかつユーモラス。

 

性に奔放な若者を狙って殺すのかと思いきや、ターゲットがてんでばらばら。

しかし犠牲者の心臓をくり抜き、バレンタインギフトとして包んで警察に送りつける手口は、異様な執念を感じさせます。

メイベルおばさんのギフトが遅れて刑事のところに届くのが切なかった…(こういうミスリードがいちいち上手い)


「バレンタインは中止!」と決断を下す警察と町長でしたが、退屈な若者たちは鉱山でこっそりパーティーを開くことに…

ここからさらに殺人のオンパレード。

ウインナー茹でてる鍋に「サスペリアPART2」の熱湯風呂みたいに顔を押し付けられて溺死するのはデイブ。

ブクブクもがいて火傷で顔がふやけていく様が痛覚に訴えかけてきて、こちらも秀逸なゴア描写。

吊るされている防護服が次々と落下して来る異様な状況の中襲われるのはシルヴィア。

後頭部を突き刺されてシャワーのパイプが口まで貫通、マーライオンみたいにそこから水が出てくるの、独創的すぎる…

 

次々と犠牲者が出るも、殺人鬼がやって来たことを知らないまま、サラたちが炭鉱の深いところまで見学へ遊びに行ってしまいます。

それを知ったTJとアクセルはタッグを組んで後を追うことになりますが…

 

後半30分、怒涛のクライマックス…!!

ロッコに乗り薄暗い道を抜けていくところから、遊園地のアトラクションに乗ったかのようなドキドキ感。

あとから電球破壊しながら追ってくるマスク姿の殺人鬼のビジュアルも素晴らしい。

赤い服のパットと白い服のサラと…1人はギャンギャン泣き喚くだけ、もう1人は果敢に立ち向かっていき、女性2人が好対照。

前半「お前はスパイダーマンのMJか!!」とイラつかせてくれたサラが後半はなぜだかカッチョよく、いいファイナルガールっぷりでありました。


しかしここまで来ると何となく予想がついてしまう犯人。

怪しいのは今彼か元彼かのどっちか…(影のあるクール男子のTJと、明るい爽やか系男子のアクセルと…この2人も好対照)

一行がハシゴを登って地上に出ようとしていたら、上から死体が降って来てパニック…!!

先頭を行くアクセルがわざと落として先に進ませないようにしたのかも…心なしか顔が笑っているような…

…と思っていたら、やっぱり犯人はアクセル!!

なんとアクセルは20年前、子供の頃にハリー・ウォーデンに目の前で父親を殺されていたのでした…

恨むならそこは狂ったウォーデンの方じゃないのか、何でお前が殺人鬼引き継ぐねん!!となってびっくり(笑)。

強引な展開ではありますが、皆と笑ったり泣いたりしていた仲間がとんでもない闇を抱えていたなんて…なぜだか物悲しさが込み上げてくるラスト。

腕を引きちぎり、謎めいた歌をうたいながら1人消えていくラストも壮絶で、どうにもできない深い孤独にのまれていく親友の姿が切ない…

エンドロールと共に流れて来るカントリー調の歌がしんみりとなる名曲で、昔話のように語られる伝説的殺人鬼…いつまでも消えない町の悲劇を感じて、哀しい余韻が残りました。 

 

今回リリースされたBlu-rayは2枚組。

この作品、公開当時厳しい検閲を受けゴア描写を大幅にカットさせられたことで有名だそう。

Blu-rayのDISC1にはゴア描写が大幅に削除された「90分全米公開R指定版」が、DISC2には可能な限り削除シーンを修復した「93分アンカット版」が収録されていて、初見の自分はアンカット版→削除版 の順でみてみたのですが…

削除版、本当にひどい。

先にアンカット版を観てしまうと比較にならず、カットされたのは本当に数分なのかと疑ってしまうほど「半分以上持って行かれた心地になる」、とんでもないシロモノでありました。

メイベルおばさんの死体はぐるぐる回らないし、目玉は飛び出さない…マーライオンは映らなくて何が起こったか分かりにくくなってるし、釘打ち機で撃たれたホリスはすぐに転倒してなんの余韻もない…

独創性にみちた特殊効果の数々と、俳優さんたちの渾身の死の演技がすべてカット。

ラストも、ヒロイン・サラがアクセルが犯人だと知っても最後に手を差し出すところ、それを振り切ってとんでもない行動にでるところがドラマを感じさせて素晴らしかったのに、雑な編集でいきなりアクセルが消えてしまって哀しみも大幅減。

 

Blu-rayの特典では監督が当時のいきさつを詳しく語っていて「貧血のバレンタイン」というタイトルには誰が上手いこと言えと…と笑いました。

後年になってようやく作品が評価され、出演者の人たちがニコニコで語るインタビュー映像にはこちらまでハッピーな気分に…

しかしブックレットの解説を読むと、日本初公開版(オリジナル・ハード版)は今回のアンカット版とはまた違った仕様で、そこだけにしかなかったシーンがあった…という伝説が語られていて、めちゃくちゃ気になる(笑)。

DISC2の特典・ギャラリーアーカイブをみると「腕を握るハリー・ウォーデン」と「ツルハシで引きずられてるハッピーのおっちゃん」のスチル写真が確かにあって、これか…!!となりました。

 

公開当時の貴重なエピソードに驚きつつ、自分は今回アンカット版の方を綺麗な映像で初鑑賞することができてよかったと思いました。

まだみれていない特典が少し残っているのと、日本語吹替版も味わいたいのでしばらくバレンタイン祭りだー!!

スラッシャー映画の伝説的作品、さすがレジェンドだけあって光り輝いてました。

 

「大砂塵」…女同士の熾烈な争い、ホラーテイストな異色西部劇

「理由なき反抗」のニコラス・レイ監督、ジョーン・クロフォード主演の54年西部劇。

アメリカの西部劇って普段あまりみないジャンルなのですが、レオーネの「ウエスタン」の元ネタと言われる作品の1つらしく、気になっていたのを観てみました。

女性が主人公で、鉄道敷設という大きな時代の変わり目を背景にしている…「ウエスタン」と共通点はあるものの、作品自体はあまり似ておらず。

主演女優2人の迫力が半端なく、ホラー映画から抜け出て来たような人たちで、なんだか怖かった(笑)。

村の黒ずくめ集団がよそ者を追い立てるわ、嫉妬に狂った女がライバルを縛り首にしようと躍起になるわ…変わった味わいの異色西部劇でしたが、面白かったです。

 

◇◇◇

西部各地で鉄道建設が始まり、地主と鉄道会社が対立を深めていた時代…

酒場を経営するヴィエナは、部下たちから慕われる女主人。

鉄道敷設の計画を知っていた彼女は前々から周辺の土地を購入し、商売を成功させる強い意志を持っていました。

しかしある日村で駅馬車が襲撃される事件が発生。

事件で兄を亡くしたエマは、ヴィエナの店の常連客であるキッド一味を犯人だと決めつけ、村人と共に酒場に押しかけます。

エマは捜査に協力しないヴィエナも逮捕しろと保安官に詰め寄り、ヴィエナは村人たちに取り囲まれてしまいます。

 

エマの言い分は証拠がないので完全な言いがかり。

よそ者の定住を嫌い、ひどくヴィエナを憎悪するエマでしたが、実は個人的な事情が…

実はキッドのことが好きなエマ。しかしキッドはヴィエナに惚れていて、恋敵が憎くてたまらない。

権力者の娘でチヤホヤされてきて、自分より目立つ女が村に来たの、許せなかったんだろうなー…厄介な女オーラが半端ないエマたん。

プライドが高くて、惚れた男が自分に振り向かないのがきまり悪く、「皆殺しにしてやる!!」の思考になるの、ヤバすぎる。

演じる女優さんマーセデス・マッケンブリッジは「エクソシスト」で悪魔リーガンの声を演じていた人らしく、迫力あるハスキーボイスでがなり立てて来るのが恐ろしいです。

 

一方キッド一味も軽薄な困った人たちで、「どうせ有罪になるならホンマに犯罪やったろ…!!」と暴走し銀行を襲撃。

偶然居合わせたヴィエナの金だけは奪わず、協力者ではないかと疑われてヴィエナはますます追い込まれることに…

お屋敷を燃やされ、あわや首を吊られる大ピンチとなったヴィエナを救ったのはギター弾きのジョニー。

実は元凄腕ガンマンのジョニーは、ヴィエナのかつての恋人。

家庭に縛られたくなかったジョニーはヴィエナと上手くいかず別れたものの、お互いを忘れることができず、この村にやって来ていたのでした。

「別れてた5年の間、他の男と付き合ってたんだろ??」…主人公たち中年カップルの会話も生々しくドロドロしています(笑)。

 

追われた2人はキッド一味の隠れ家を訪れますが、ヴィエナに惹かれているキッドはジョニーの存在が面白くありません。

キッドもイライラしてネチネチ嫌味を言い始めて、本当に面倒くさい人ばかり(笑)。

そこに隠れ家を突き止めたエマたち村の一味がやって来て、ラストは女同士の決闘に…

女性同士が銃で撃ち合う西部劇、なんだかすごく珍しい気がします。

結局生き残ったのは腕の立つヴィエナでしたが、撃ち合いになるとなぜかエマの方に駆け寄るキッド。しかしエマはキッドを撃ち殺してしまいます。

複雑すぎる男女愛憎劇に絶句(笑)。

凄腕ガンマンのはずのジョニーは完全に空気、あれだけ煽動されていた村人は女2人の対決には傍観を決め込む…ラストも異質な感じがして、単純なハッピーエンドではない不思議な余韻が残りました。

 

赤狩り時代が反映されていると言われているらしい本作。

キッド一味の少年・ターキーが匿ってくれたヴィエナを「密告」する場面は、ギスギスしていてサスペンスフルでした。

対立心や恐怖を煽って邪魔者を排斥しようとするエマのやり口はなかなかに恐ろしく、叩けるものは何でも叩きたい村人たちの姿は〝いつの時代もあるある〟。

 

一方、変化を恐れる地元の人の気持ちも分からないようではない気がして、主人公は自由で強固な意志を持つアメリカン・ドリームの体現者のように描かれていますが、見方によっては利己的なビジネスマンとも受け取れるのかも…

この時代、こういう対立が実際にあったのかな、と思わせる興味深い設定でした。

冒頭の駅馬車強盗も犯人がキッド一味だったのか結局ハッキリせず、唯一の目撃者のジョニーは口をつぐんだまま…善人不在の曖昧さが全編貫いています。

保安官は全く頼りにならず、銃をかざしながら自分の言い分をぶちまける女性2人がひたすら逞しく映りました。

 

ジョーン・クロフォードは「何がジェーンに起こったか?」のイメージしかなかったのですが、本作撮影時は49歳だそうで、モテモテの女性を演じてるのが凄い。

ギョロッとした目が大迫力、ガンマン姿が様になっていました。

赤のスカーフ、黄色のシャツ…衣装も目を引いて、茶色一色の西部劇のイメージと大きく異なり、ビビッドなカラー満載なのがユニーク。

喪服姿の村人軍団に真っ白なドレスで迎え撃つのも、対比がきいていて鮮烈でした。

 

キャストは意外に豪華で、キッド一味の1人はアーネスト・ボーグナインが演じていますが、若い頃からひと目で分かる顔の迫力…!!

ヴィエナの酒場の従業員のうちの1人はジョン・キャラダインが演じていて、女主人にどこまでも忠実な部下。

「お金持って村から出て行っていいよ」と言われても残り続け、「俺なんて家具と同じですから」と応えて主人公に尽くす姿にはシビれました。

 

原題はJohnny Guitar。

砂嵐舞うなか登場人物たちが集結していく冒頭から波乱の予感がして、「大砂塵」はなかなかいい邦題ではないかと思いました。  

ダリオ・アルジェントの自伝には、レオーネと一緒にこの「大砂塵」をみたというエピソードが語られていたので、レオーネのお気に入り作品だったのでしょうか。

エマが屋敷のシャンデリアを撃ち落とし、火を燃え立たせてヒャッハーとなる場面は、なぜか「インフェルノ」のラストで暗闇の母がバンザイするシーンを思い出しました。

なぜだかホラーっぽい味わいの西部劇で面白かったです。