どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「エイリアンネーター」…マッティ&フラガッソ、驚愕のイタリア製パチエイリアン

ブルーノ・マッティ監督、クラウディオ・フラガッソ脚本。「ヘル・オブ・ザ・リビングデッド」のコンビによる89年の作品。

本家に先駆けて「ターミネーター2」のタイトルでアメリカで公開しようとして問題になったのだとか(笑)。

一見馬鹿げているように思える邦題「エイリアンネーター」はズバリ作品内容そのものを表していて、エイリアンとターミネーターが同時に襲ってくるという驚愕の作品でありました。

 

◇◇◇

近未来、環境汚染により荒廃したベニス。

生き残った人々はシェルターで生活していました。

ある日水質改善にあたっていた研究所からの連絡が途絶えたため、特殊部隊が送り込まれることに…

しかし彼らを待っていたのは未知の生命体でした。

 

ベニスに地下シェルター!?のっけから驚かされつつ、特殊部隊が探索に出かけるというベース「エイリアン2」なストーリー。

バスクエスに似た風貌の女性がいるかと思えば、無言でヌンチャクを振り回し続ける男性がいて、謎すぎるメンバー構成。 

でも2の空気感がほんのちょっぴりだけ出ていて笑ってしまいます。

科学者のサラもチームに加わりますが、どことなくリプリーに寄せた衣装や髪型。

しかしなにぶん低予算なので、暗い地下道を一行がノロノロと進むだけのかったるい映像が流れ続けます。

 

時折エイリアンに出会しては戦闘。

連れ去られた仲間の行方を追うと、繭にされた恐ろしい姿が…

胸から何かが飛び出して来るかと思いきや、出てきたのは役者さんが操作しているのが丸分かりの手(笑)。

探知機が無数の反応を示すも一向に姿がみえない、あの名シーンも再現されますが、さっきまでなかった唐突な煙幕とともにエイリアンが出てくる雑さ。

何度ボタンを押してもシャッター扉が開かない…!!と焦っていたら、隣のボタンと押し間違えていただけだった…!!のシーンにはめっちゃ笑いました。

 

こんだけ話はパクっているのにエイリアンの造形はゼノモーフに寄せておらず、オリジナルデザイン。

古典的怪奇映画を彷彿させるどこか魚人に似た風貌で、特撮ものらしい雰囲気。

甲高い鳴き声をあげてはあっさり銃弾に倒れ、あまり強くはありません。

 

やがて部隊は生存者の女の子を発見。

出会い頭から主人公に懐きまくる少女サマンサ。背丈が大人とあまり変わらなくて中学3年生くらいにみえます(笑)。

「ママは怪物なんていないと言っていたけどいるのよ」…本家丸パクリの台詞の数々に閉口しつつ、罠に嵌められ異生物に襲われる2人。

監視カメラに助けを求めるも、部隊に潜んでいた裏切り者・フラーがその接続を遮断してしまいます。

 

冒頭から異様な佇まいだったサミュエル・フラーと名乗る兵士。

巨大企業チューブラー社に仕える男は、なんと同社が作り出したターミネーターでした。

序盤からどうみても怪しく、負傷して露わになったメカボディを隠そうと、ずっと腕を庇っているのが不自然の極み。(なぜ長袖を下ろさないのか)

 

事なきを得て探索を続けたサラたちはさらに驚愕の事実を突き止めます。

なんと水質改善にあたっていたはずのチューブラー社はベニスの町を汚染していた張本人。

実験により人々を異生物化させ、町を荒廃させて、美術品などの財産を独り占め。さらに恐ろしい兵器開発を進めようと企んでいたのでした。

 

真相を知った部隊を消そうと、襲いかかってくるターミネーター

ここからパチエイリアンとパチターミネーターに同時に襲われる怒涛の展開に…

撃たれても襲いかかってくるターミネーターのボディは顔の中が機械…ではなく明らかに顔の上にメイクを盛り付けたのが丸わかりの仕上がりになってますが、T- 800に近づけたい心意気は伝わってきます。

 

最後にはなぜか施設の爆破装置を起動させるターミネーター

サラとサマンサはチューブラー社が開発した謎のマシーンに乗り込みますが、なんとそれは時をかけるマシンでした。

現代の観光客で賑わう美しいベニスに辿り着いた2人。

そこにもう1台のタイムマシンを使ってやって来たフラーが襲いかかり、夜のベニスでターミネーターと追いかけっこ(笑)。

なんとか殺人マシンを撃退した2人は、現代の街に残ることに。

迫り来る無情な未来を2人は変えることができるのでしょうか…

「嵐が来る」…そんなセリフが聞こえてきそうなラスト。

2人が運河をみつめるエンドロールはなぜだか美しく、こんなC級映画なのにあの傑作に似た余韻をほんの少しばかり残していくのでした。

 

「ヘル・オブ〜」と比べると明らかに画にパワーがなく、役者さんの演技も学芸会レベルの人がちらほら。

80年代後半…イタリア映画業界はとっくに衰退、ビデオバブルも終了してホラー映画もパワーダウン。なかなか厳しい状況だったのではないかと思います。

そんな逆境の中性懲りも無く同じことを繰り返していたブルーノ・マッティの根性にはただただ脱帽。

清々しいまでの模倣のオンパレードにはなぜかニッコリさせられてしまいます。

チープ極まっているけど、「エイリアン2」と「ターミネーター」が好きな人間ならついついテンションが上がってしまう、実に愉快なパチエイリアンでした。

 

「プロメテウス」「エイリアン:コヴェナント」…リドスコやりたい放題!!拗らせアンドロイドの大暴走

シリーズものをしっかり追いかけない緩い人間なのと、この頃映画をあまり観れていなかったのと…色々あって見逃していた2作品を今更初鑑賞。

ロムルスは優等生が心配りを尽くしたような良作だったけど、こっちはリドリー・スコットが「エイリアンはワシのじゃ!!」とやりたい放題した感じ(笑)。 

「プロメテウス」は壮大なSFオーラがあって映像が素晴らしかったですが、「コヴェナント」はかなりめちゃくちゃ…でも大金かけたトンデモB級ホラーみたいでオモロかったです。

人間でもエイリアンでもなく、イケメンアンドロイドが主役というのにびっくりの2作でありました。

 

◆「プロメテウス」

人類を作ったのは誰か…大富豪の所有する船に乗って学者たちが一斉に未知の惑星へ…SFのロマン溢れるオープニングはいい感触。

CGが多用された美麗な映像。時系列的には1の前のはずなのに明らかに高度な技術が満載の船。

ロムルス」は1に近いアナログな質感を出して頑張ってたんだなーと改めて感心しつつ、さすがリドリー・スコット

プラネタリウムのようなエンジニアたちの惑星図が展開するシーンなど、ビジュアル的に美しい画が満載でそれだけでも観る価値のある作品に仕上がっていました。

 

しかし全く優秀そうに見えない学者勢のキャラクターには絶句。

いきなりヘルメット脱ぐわ、未知の生物に遭遇しても危機感ゼロで近づくわ…「燃える昆虫軍団」の博士の方がよっぽど研究者らしく見えるレベル(笑)。  

学者さんってもっとナードでギークな人たちじゃないのか…体育会系サークルのようなメンバーにびっくり。主人公カップルは堂々宇宙旅行でセックス。

 

そんな中1人陰キャオーラを放っているのが、アンドロイドのデヴィッド。

皆が寝静まってるときに1人映画を楽しむ姿に何だか親近感。

好きな映画のキャラクターに自分を重ねて髪型マネするとか、思春期のオタクみたいやね…

時折ショウ博士の夢を覗き見していたようですが、自分とは異なる親から愛されて育った女性。

博士は理知的な学者でありつつ、科学と相容れない信仰を親からの薫陶で持ち続けていたようでした。

理屈では説明できない愛を持っているところ…アンドロイドの自分と同じく子供ができない身体だったところ…彼女にどこか惹かれるものがあったのでしょうか。(コヴェナントの展開を思うと、もう少し2人の絡みがみたかった気がします)

 

この惑星にはエンジニアと呼ばれる人類の創造者が住んでいたらしく、彼らが作った謎の黒い物質が残されていました。

デヴィッドがショウ博士の夫に黒い物質を飲ませたことをきっかけに、探索は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていきます。

不妊だったはずのショウ博士は異生物を妊娠。

自動手術マシーンの活躍が本作屈指の名シーン!!…といったら怒られそうだけど、セルフ帝王切開、壮絶すぎる…!!

ブラックジャック」の自分で自分を手術する回を思い出しつつ、みているだけで痛みが迸るような映像がアメージングでした。

 

そんな中、船には100歳を超えたウェイランド社長自身も乗り込んでいたことが発覚。

人類をつくったエンジニアから不老不死の秘密を聞き出そうと画策していました。

強欲な人だけど、あんなヨボヨボなのに自ら現場へ向かうガッツは凄い(笑)。

このウェイランド社長とデヴィッドの擬似親子関係はみていて何だか切ないものがありました。

父親の夢を叶えるためだけの道具としてこの世に生を受けたデヴィット。

親が寝ている間も古代語1人でコツコツ勉強してたのに、「努力が足りない」とかあんまりだぁー。

皆の前で「あいつには魂がないから」とバカにされるのも気の毒。

ショウ博士の夫もデヴィッドに対して差別的な態度をとっていたりで、静かに暴走していくアンドロイドを応援したい気持ちが俄然湧いてしまいました。

 

船にはウェイランド社長の実の娘であるヴィッカーズも乗っており、人間離れした圧倒的美貌に彼女もアンドロイドなのでは…と疑問が沸きますが、肝心な時に逃げ出したり、いまいち強権力を発揮できていなかったりで意外とポンコツ(笑)。

アンドロイドだったらもっと優秀じゃないかなー、この人は本当に社長の実子だったんじゃないかなーと自分は思いました。

出来る弟アンドロイドほど重用されない実の娘と、どれだけ尽くしても他人だからとぞんざいに扱われるロボットと…

この2人からは哀しい親子ドラマみたいなのが感じられてとてもよかったです。

 

しかし…!!

強欲親父のウェイランドも、自分の造物主にやっとこさ会えたと思ったら、怒りを買って全てが水疱に帰してします。

唐突な地獄絵図には笑ってしまいましたが、何が悪いのか全く分からないまま突然親にブン殴られる恐怖。

人間に愛されなかったロボットと、神に愛されなかった人間と…哀しい因果の堂々巡りみたいなものがなぜだか心に迫りました。

 

結局あの黒い液体はなんだったのか…白い巨人はなぜ1人だけあそこで眠っていたのか…

分からないことだらけで、これエイリアンじゃなくても別によかったよね、と思っていたら、最後の最後にエイリアンが登場(笑)。

この惑星が1で出てきた惑星と一緒だったのかと思ったら、「ロムルス」のパンフを読むとそうではないみたいで…

コヴェナントが続編ということで数々の疑問が解決されるのかと思いきや…

 


◆「エイリアン:コヴェナント

「プロメテウス」から10年後。

植民船コヴェナント号は眠る2000人の入植者を連れて宇宙を航海していました。

またマイケル・ファスベンダーのアンドロイドが出てきた…!!と思ったら、顔だけは同じな、ウォルターという別の新型アンドロイド。

途中事故に遭って船長を失ったコヴェナント号は、偶然近くにあった良さげな星を発見して「入植するのこっちにしない?」と軽々と進路をチェンジ。

先遣隊を派遣するでもなく、マスクもせずに未開の地をどんどん進む隊員たち。

中にはタバコをポイ捨てする者も…

「プロメテウス」を上回るバカすぎる登場人物たちに絶句(笑)。

この植民船はウェイランドユタニ社のものではなさそうでしたが、子作りのためなのか隊員が皆カップル同士ってなかなか凄い。

そしてB級ホラーのようにアホな男女が死んでいき私情を喚き散らす展開がまた壮絶でありました。

 

案の定、ナメた探索をしていたら、惑星の未知なる物質(黒い粒子)が体内に入り病変するメンバーが続出。

カサンドラ・クロス」でももっとマシな感染対策してたわ!!と思いつつ、右往左往しながら床すっ転んで船を炎上させる女性はアホ極まってるけどパニックになったら人間こんなになるかしらーと謎の臨場感で笑いました。

さらに一行はエイリアンの群れの襲撃を受けますが、謎の男(アンドロイドのデヴィッド)が突然現れ、彼らを囲い込みます。

 

「プロメテウス」のラストでは、ショウ博士と白マッチョの惑星に行くことになっていたデヴィッド。

しかしデヴィットは黒い粒子をばら撒いて、辿り着いたこの惑星のエンジニアたちを全滅させていました。

そしてショウ博士の肉体を使い、新種のエイリアンを多数生ませていた様子。

どうした、デヴィッド、お前に何があった…

長髪にフード帽、暗い部屋に引きこもっては「ぼくのかんがえた最強のエイリアン」をスケッチする日々…完全に拗らせた思春期のオタク(笑)。

冒頭にあったウェイランド社長との会話をみるに、人間より劣った存在(自ら何かを創り出すことを許されない存在)として位置付けられたのが我慢ならず、新しい生命体を作って新世界の神になろうとしたのでしょうか。

バイロンシェリー、詩の作者を間違えてしまったのは、彼が壊れておかしくなったアンドロイドということなのか…都合よく記憶を改竄してしまう、ある意味人間に極めて近しい存在になれたということなのか…

ショウ博士を愛していたと言って突然涙を流したりもしますが、壮大な夢を追って愛する人を犠牲にしてしまうのは、結局彼の嫌った父親と全く同じになっている感じがして、切なく思われました。

 

コヴェナント隊を新たな生贄にしようとするデヴィッドでしたが、そこに新型アンドロイド・ウォルターが、善なる存在として立ちはだかりバトルに…

リドリー・スコット、「ターミネーター2」をやってみたかったのだろうか…と邪推してしまうチープな展開(笑)。

クライマックスはエイリアンも大暴れして監督自ら1をオマージュしたようなバトル。

全てが終わり、生き残ったヒロインが再び冷凍休眠装置の中に入ると、ウォルターとデヴィッドが入れ替わっていたことに気付いて絶叫。

(宇宙ではあなたの悲鳴は誰にも聞こえない…)

どんでん返しとはいかず早々に予想はついてしまうものの、光るマイケル・ファスベンダーの不気味演技。王道ホラーなエンディングはとてもいいなあと思いました。

 

それにしても白マッチョの巨人たちは結局なんだったんだろう…人間の上位的存在のはずなのに、デヴィッドの襲撃も予知できずあっさり全滅(笑)。

デヴィッドとウォルターが笛を吹くシーンは、一体何を見せられていたんだろう…エイリアンというよりブレードランナー味を感じるストーリー。

新種のエイリアンは、白いネオモーフがマブラヴのBETAを思い出して気持ち悪かったです。

あのラストからすると、デヴィッドがエイリアン帝国を作ることが予想されますが、そうすると旧シリーズの世界と話が繋がらないような…

別物2部作としてここで終わってもいいけれど、デヴィッドが破滅するパート3がみてみたいように思われました。

 

先日みた「ロムルス」はこの2作品にも目配せしていて、似たような黒い液体が出てきたり、生まれてきた赤ちゃんが白マッチョ似だったり…しっかりリスペクトしていたんだなあと驚き。

優等生「ロムルス」に対し、巨匠がやりたい放題した感じの2作。

なにげに両作とも2時間にまとまっているのが凄いし、そんな上映分数とは思えないくらいのボリューム感。

お腹がいっぱいになりましたが、思った以上に面白く、とても楽しい2本でした。

 

そういえば「エイリアンvsプレデター」の2もみていない…1はエイリアン映画というよりプレデター映画だった気がしますが、そのうちこちらも観られればと思います。

 

「エイリアン」1~4のぼんやりした感想と思い出

ロムルスをみて久々に「エイリアン」いいなあとなったので…

みた順番や思い出補正もありますが、どれが1番好きか…各作品のぼんやりした感想と思い出を呟いてみたいと思います。

 

◆「エイリアン2

エイリアン2

エイリアン2

  • Sigourney Weaver
Amazon

順序が逆になってしまいますが、自分が子供の頃よくテレビ放映されていたのが2。初めて見たのも2でした。

SFホラーの1に比べてアクションに振り切った作品ですが、子供の頃は2もめちゃくちゃ怖かった。

荒廃した施設で1人生き延びていたニュートの姿をみただけで、自分じゃとても生きられてないわと戦慄(笑)。

閉塞感と恐怖が同時に襲ってくる、ダクトを移動する画のインパクトが非常に強かったです。

クルー全員キャラが立っていて素晴らしいですが、めちゃくちゃ好きだったのはビショップ。

半身もがれても子供助ける姿にギャップ萌え。

ナイフをカカカッとする場面は、教室で友達と手を重ねながら鉛筆の尖っていない方で真似っこしていた思い出(笑)。

「テッド」で同じ場面が出てきたときには笑いました。

寡黙な仕事人の佇まいが格好良く、狭いダクトを1人這っていく姿にはいつもシビれます。

 

リプリーとニュートの擬似親子関係ドラマも胸熱。

エレベーターが降下する最中、体勢を整えながら救助に向かうリプリーの姿も何度見てもシビれます。

そして卵に火炎放射器を向けると襲うのをやめるクイーンの姿。

違う生き物というだけでコイツも母親なんだ…子供の頃胸に刻まれた名シーンでした。

しかしクライマックスのフォークリフトでの対決は圧倒的カタルシス…!!

これまで銃で防戦一方だったのが殴り合いのタイマンになる高揚感。

「第九地区」で主人公が着ていたスーツも好きだったのですが、剥き出しのパワードスーツみたいなのが、とにかく格好良くて衝撃的でした。

1もエポックメイキングだけど、2もその後のモンスターパニックアクションの礎を築いたのでは…と思う、大傑作でありました。

 

◆「エイリアン」

自分の親は「2などくだらん!!エイリアンは絶対に1!!」とよく豪語していました(笑)。

チェストバスターの圧倒的インパクトと、エイリアンに負けず劣らず恐ろしいアンドロイドのアッシュと…

リプリーが2のときよりもずっと弱く見えて、最後のシーンの緊迫感。2に比べると地味に思えたものの、静けさと冷たさが迫って来る、とっても怖い映画でした。

大人になるにつれ1のよさが分かってきて、リプリーが肉体的に強い人ではなく、精神的に強い人として描かれていて、2とは異なる格好良さ。

怯まず男性の上司に間違っていると主張するところ、恐怖に慄きながらも冷静に状況を判断し機転をきかせるところ…

男性器を彷彿させるエイリアンの造形、口に筒を突っ込むアッシュの暴力など、性暴力に立ち向かう女性を描いたようなドラマも感じさせて、改めて凄みを感じます。

特に仲がよいわけでもない、仕事の同僚同士のドライなムードなども、大人になると胸にきて何とも言えない孤独感と心許なさ。

静かな宇宙空間の閉塞感、密室ホラーの恐怖など、改めて革新的な作品だったんだと知る傑作。

あの池波正太郎もエッセイで絶賛しておられましたが、リアタイで観た人の衝撃はさぞかし凄かったのでしょう。

好きなのは2だけど1が至高という意見にも納得させられます。

 

◆「エイリアン3

エイリアン3(字幕スーパー版) [VHS]

エイリアン3(字幕スーパー版) [VHS]

  • 20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント
Amazon

1番人気がないけど、国内の興収はこの作品が1番高かったそうで…

「ハリウッド女優がボウズになった…!!」というのが公開当時かなり話題になっていて、ポスターのインパクトも強かった。プロモーション的には大成功だったんじゃないでしょうか。

初見はレンタルビデオで観たのだと思いますが、視聴環境のせいか画面が暗く、登場人物がハゲのおっちゃんばかりで区別がつきにくい…クライマックスの区画遮断しての攻防も何が起こっているのか、とにかく分かりづらかった。

2であれだけ頑張っていた面々がしれっと亡くなっているオープニングにはドン引き。

1と同一人物とは思えないくらいリプリーの行動が軽率で、エイリアン持ち込んどいて、医者の男といい感じになって…というのが何だか解せません。

囚人たちがあまり悪い奴にみえなくて、もっと振り切ってヒャッハーしてくれるか、凶悪な人間がみせる二面性みたいなものを描くか…どっちつかずでキャラが立っていないのも残念でした。

〝坊主頭の男だらけの惑星〟のビジュアルだけは面白かったものの、人数が多くもなければ少なくもなく、スケール感が中途半端。

昔立ち読みした「cut」という雑誌でフィンチャーが「3が好きで何百回もみたというファンに声をかけられたことがあるが、自分自身は全く気に入っていない」とか何とか語っていた記憶。

制作に大人の事情があったのを後から知って驚きました。

リプリーがチェストバスターを我が子のように抱えて落ちていくラストシーンだけは記憶に残って、好きでした。

 

◆「エイリアン4

これだけリアルタイムで劇場で鑑賞していて、思い出補正もあるのか、自分はこの4、かなり好きです。

エイリアンといえばとにかく怖い映画だったけど、4はリプリーが超人と化していて安心感があり、恐怖度はかなり低めに感じられました。

しかしグロいビジュアルの実験体生物などがバンバン登場。自分の性癖にマッチしたのかダークな世界観に引き込まれました。

キャラクターもそれぞれ個性があって、3と違ってキビキビした有能な人たち。

ポセイドン・アドベンチャー」を思い出させる水のシーンと、その後の戦闘もユニークでアクションも面白かった。

ウィノナ・ライダー演じるコールがアンドロイドだったという展開には普通にびっくり。

何かのインタビューでウィノナが「子供の頃エイリアンが好きで1作目のポスターを部屋に飾っていた」と語っていた記憶があります。

コールがコンピュータと接続して嫌そうな顔をしているところは何だかエロいと思ってみてしまいました(笑)。

 

新エイリアン・ニューボーンは賛否両論だったのかもしれませんが、自分はこちらも好きで…

大きな黒目で不思議な愛らしさ。お母さんに騙されて見捨てられてしまうのがとっても可哀想だった。

死に様が苦しそうで、望まれなかった子供の最期がひたすら悲しかったです。 

HUNTER×HUNTER」のキメラアント編や「エルフェンリート」が好きな人にはブッ刺さること間違いなしの4。 

当時ジュネ監督のことは全く知らなかったけど、「エイリアン」を撮った監督は後に出世するというジンクス…あとで「アメリ」が大ヒットしたときにはビックリしました。

ずっと宇宙を漂っていたリプリーが(別人とはいうものの)地球に帰ってくるというラストも最高にカッコいい幕引き。

グッドエンドでもないバッドエンドでもない深い余韻が残って、自分の中で「エイリアンは4で綺麗に完結した!!」という気持ちが強く残りました。

 

4作品の好きな順番は、
2>1≧4>>>3 かなあ。

でもどれも各監督色、オリジナリティがあって凄いなあとなるシリーズでした。

未見だった「プロメテウス」と「コヴェナント」もみてみたいと思います。

 

 

 

最後に映画とは関係ない思い出話。

自分が子供の頃住んでいた兵庫県に、宝塚ファミリーランドというローカル遊園地があったのですが、そこで「エイリアン・パニック」という期間限定のアトラクションがやっていました。

乗り物ではなく、広い空間を歩くお化け屋敷のようなアトラクション。

銃を持ったガイドさん(兵士役の男性2人)が付いて、10人位のグループでエイリアンのいる基地を探索する…とかそんな内容だったと思います。

夏休みに親が連れて行ってくれた遊園地。

狙いはこのアトラクションだったのですが、怖がりの自分は「エイリアンが襲ってくるなんてとんでもない、1人で外で待っている」と断ったのですが、一緒に入ることに(笑)。

怖がりすぎて記憶が朧げなのですが、このアトラクション、すごくよく出来ていたように思われます。

あの繭が出てきたり、子供だったから補正があるかもしれませんが、「エイリアンの世界だ!」となる雰囲気満点の空間。

途中では台に横たわった死体みたいなのが出てきて、嫌な予感がした自分は近付かなかったのですが、胸からチェストバスター??の人形が飛び出してきて近寄ってみていた人が絶叫(笑)。

兵士役のガイドさんが「危ない!離れろ!」とか叫びながら発砲。

どんな出来栄えの人形だったか、ちゃんと見ておかなかったことが大変悔やまれます。

最後の方は着ぐるみのエイリアン??に追いかけられて、それを銃を持ったお兄さんたちが撃退してくれながら一緒に逃げまくる。

USJの綾小路麗華さんじゃないけど、お兄さんたちが大きな銃を振り回しながらかなりの熱演。すごいハイテンションなアトラクションでありました。

当時はビビりまくりでしたが、大人になった今ならめちゃくちゃ楽しめそう(笑)。

USJでもディズニーでもどこでもいいからまたこのアトラクションをやってくれないかなーなんて思う、怖いけど楽しかったエイリアンの思い出でした。

 

「エイリアン:ロムルス」…シリーズリスペクトの良作、後半から一気に面白かった

ズボラ人間でシリーズ物をきちんと追いかけていないのですが…評判がよさそうで面白いとのこと、「エイリアン:ロムルス」を観に行ってきました。

1〜4は鑑賞済み、「プロメテウス」と「コヴェナント」は未見のまま。

時系列的には1と2の間を描いた作品らしく、復習のため1と2を大急ぎで鑑賞。

予習せずに本作からみても楽しめる内容になっていましたが、過去作とのリンクは色々あってリスペクト満載。

主人公2人以外のキャラクターに魅力がないのが残念でしたが、後半に行くほど大盛り上がりで、自分的には大変満足な良作でありました。

 

(以下ネタバレ)

1でリプリーが宇宙空間に放ったエイリアンがまだ生きていてユタニ社の宇宙船がそれを回収。

実験などを続けていましたが、制御しきれなくなって廃船に…

そこへ冷凍休眠装置を掻っ攫おうと何も知らない若者たちがやって来て、どえらい目に遭ってしまいます。

浅薄な若者たちが得体の知れない場所に侵入して殺されていく…ある意味ホラー映画の王道パターンな明快なストーリー。


冒頭では「ブレードランナー」のような雰囲気の、陽の光が射さない暗い植民惑星が登場。

奴隷のように働かされて、肺を痛める人が続出。帝愛の地下帝国のような労働環境は、どん詰まり感が出ていてよかったです。

一発逆転を狙う気持ちは切に伝わってくるものの、1のようにとことんドライでもなく、2のようにヒロイックでもなく…どっちつかずな人物描写はイマイチ。

 

坊主頭の女性からチェストバスターが出てくるのは3リスペクト!?エイリアンを出産する妊婦の女性は4リスペクト!?

キャラ配置はよかったものの、逃げてばかりで見せ場がないのが残念。

アンドロイドに苦い思い出のあるビヨンは、嫌うのは分かるにしても行動が幼稚すぎる。

リーダーのタイラーは妹の妊娠を知って発狂するかと思いきやそんな見せ場もなく、人間ドラマが希薄だったのは残念でした。

 

唯一光っていたのは、主人公レインと行動を共にするアンドロイドのアンディ。

アンドロイドなのにキビキビしてなくて、弱くて頼りなさそうなのが新鮮(笑)。

子供の頃に父親がゴミ捨て場で拾ってきた旧型アンドロイドのアンディとレインは、姉弟の絆で結ばれていました。

しかしユタニ社のコンピュータに接続してアップグレードされたアンディは豹変。

合理的判断を下す有能アンドロイドとなるも、仲間を見捨てようとする冷酷な存在に…

あんまりアンドロイド顔してない俳優さんの困り顔が絶妙で、いい奴なのか、めっちゃ悪い奴になったのかどっちだー!?となりました(笑)。

でも主人公たちもアンディを使い捨てにしようとしてたので、お互い様のような気も…

とにかく生きていくのに必死、効率重視のこんな生き辛い資本主義の世の中じゃ…現代の若者の苦悩!?を描いたようなキャラクターの対立は面白かったです。

 

エイリアンとのバトルも見せ場がたくさんあって、冷凍保存された大量のフェイスハガーが登場するシーンから絶望感が半端ない。

猛スピードで追いかけてくる画は迫力満点、体温と音に感知するのをすり抜けるという展開も如何にもホラーらしくてよかったです。

ビヨンが繭を電気棒でツンツンするシーンにはイケないものを見ているようでハラハラ(笑)。

そして何より圧巻だったのは無重力下でエイリアンを銃撃するシーン。

酸の返り血を浴びてしまうのを物凄い方法で解決するなーと感心。

宇宙空間の設定を生かした迫力ある映像で、このシーンだけでも映画館に来てよかったと大満足でした。

 

ひと段落したと思ったら最後にもう一波乱、1リスペクトな展開にもニッコリ。ヒロインが宇宙服を着込むシーンには思わず胸が熱くなりました。

オマージュを捧げた台詞の数々、食事シーンに登場する小道具など細かいところでも世界観を再現。

新しい赤ちゃんエイリアンのデザインは賛否両論ありそうですが、自分は「クレイモア」の覚醒体みたいでキモカッコいいなーと思ってありでした。

4のニューボーンは可愛らしく思えるところがあったけど、人ベースの方が嫌悪感が増すもんですね…

あの図体で母乳欲しがるところ、変態度高くて個人的にはとてもよかったです。

アッシュと同じ型のアンドロイドが再登場(イアン・ホルム!)するのにもびっくり。

 

これだけの実験結果を残していたユタニ社、実験が失敗に終わっていたとしてもまだ使えそうなフェイスハガーをあんなに放置しておくかなあ…誰かに取られないように爆破しておかないかなあ…

疑問符が浮かぶところもありましたが、面白かったのでヨシ!!

無慈悲な大企業には毎度勘弁してくれという気持ちになりつつ、姉弟が家族の絆を取り戻すかのようなラストにはベタながらホッとさせられました。

 

映画館の売店にあった関連書籍コーナー。

ニュートたちが生きてたバージョンの「エイリアン3」ノベライズ版なんて出てたのか…と気になりました。

 

3と4のような独創性には欠けているけど、シリーズへのリスペクトを感じさせて、よく出来ているなーと感心。

後半のアクションだけでも劇場でみる価値があったなーと大満足でした。

 

「スプリット・セカンド」…ルトガー・ハウアーvsエイリアン!?ジャンルごった煮のゴキゲンB級ムービー

ルトガー・ハウアー主演、「バーニング」のトニー・メイラム監督による92年のSFホラーアクション。

2008年…温暖化と異常気象により水没したロンドン。

警官ハーリー・ストーンは3年前に相棒を惨殺した殺人鬼を追い続けていた。

新月の日、犠牲者の心臓をくり抜く謎の殺人鬼の正体は…

 

時々水浸しの道路が出てくるけど、水没しているようには見えないロンドン。

革のロングコートにサングラスでキメたルトガー・ハウアーと、何となく薄暗い町の雰囲気で近未来感を出そうとする荒技(笑)。

でもこれが意外に功を奏していて中々いいムードであります。

 

殺人現場は壁が血まみれになっているなどかなり凄惨。

五芒星のような謎のマークが書かれていたり、くり抜かれた心臓がクーラーボックスに入れられて警察に届けられたり、前半は「セブン」のような雰囲気。

ストーン刑事はコーヒーとチョコレート中毒の荒くれ者…とありがちなキャラクター像ですが、ルトガー・ハウアーが茶目っ気たっぷりに演じていてチャーミング。

汚部屋で鳩を飼っていたり、元相棒の彼女と不倫していてキス魔だったりとツッコミどころ満載。

ブレランオマージュも含め本人が伸び伸びと演じられているようで、みていてとても楽しいです。


なぜか犯人が近くにいると心臓の鼓動が早まる主人公。

あぶない刑事として同僚たちからも煙たがられていましたが、ある日オックスフォードから来たインテリ刑事・ディックが新たなパートナーとして着任します。  

「現場の血のメッセージは蠍座の星列…!!」
「あんたも蠍座だから犯人の精神と同調している…!!」

頭脳派かと思われた相棒がトンデモオカルト理論を連発(笑)。

しかし暗い顔をしていた一匹狼の主人公が、新しいパートナーに出会って笑顔が増えていくの、意外とバディもの感がしっかりあって胸熱です。

 

犯人に付け狙われる主人公のガールフレンド役としてキム・キャトラルも登場。

そのまんま「サイコ」なシャワーシーン。

悲鳴があがって駆けつけたら「お湯じゃなくて冷たい水が出てきた」…ってそういうことあるある(笑)。

主人公の部屋の前が急に水浸しになっていて「仄暗い水の底から」…と思ったら、彼女がまた風呂に入っていただけだった(笑)。

狙ってなのか、真剣なのか分からない、オトボケシーンの数々に笑ってしまいます。

 

現場に残された血液を調べると、複数のDNA構造を持った新種の生物のものだと発覚。

さらに犠牲者の亡くなった場所をマップで描き出すと魔術の図式に…

なんと犯人は温暖化の異変で誕生した、邪悪な魂を持つ悪魔的超生物だった…!!

バイオ&オカルトホラーと化す後半の展開に唖然。

人間の背丈の2倍はありそうな、大きな鉤爪を持った化け物が殺人鬼だったと言いますが、冒頭の狭いトイレの個室で殺された被害者はどうやってやられたんだ!?こんな鉤爪の手で冷凍パック配達とか出来んのか!?

様々な疑問が頭をよぎります(笑)。

 

怪物が犯人だと知った2人は警察の武器庫へ…

「もっと、もっとデカい銃だ…!!」

ロンドン地下街、廃列車倉庫での決戦。

サタンとか言ってたけどめっちゃエイリアンを彷彿とさせる犯人の姿に仰天。

スティーヴン・ノリントンが特殊効果に関わっていたからなのか、化け物の造形や登場する銃火器はやたらカッチョいいです。

 

デカい銃が火を吹きまくるクライマックス。

なんか知らんけど相棒も彼女もえらい肉体派だった…!!

レトロでジャジーな曲が鳴り響く中モーターボートで3人がテムズ川を爆走するエンドロールには、ゴギゲンな気分になるのでした。

 

裏表リバーシブル仕様だった日本版VHSジャケット。

若干盛りすぎな感じもする海外版Blu-rayはめちゃくちゃクールなSF映画仕様。

環境破壊による新生物誕生を描くならもっとSFよりに…オカルティックな連続殺人鬼ものにするならもっとホラーよりに…

どっちつかずになっていて色んなジャンルがミックスされたような、かなりカオスな作品。

けれど、ロングコートにデカい銃もって水たまりをバシャバシャ走るルトガー・ハウアーだけですべてが補完されてしまう、その圧倒的存在感に感服…!!

「ブラインド・フューリー」や「サルート・オブ・ザ・ジャガー」などと比べてもずっとチープなB級ムービーだと思いますが、オモロくてとても楽しい1本でした。

 

ホラー秘宝まつり2024「デリリウム」を観てきました

72年制作、レナート・ポルセッリ監督によるイタリアの異色ジャーロ

デリリウム [DVD]

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Amazon

DVDがAmazonだと18,000円くらいになっていてレアな作品っぽいのですが、かなり人を選びそうな1本。

難解で退屈な作品かも…とやや期待薄で鑑賞に臨んだのですが、自分的にはめちゃくちゃ楽しくて102分があっという間でした。

入場特典でいただいたポストカード。犯人は足フェチ…!!

 

高名な心理学者のリュータック教授は、妻マルツィアと深く愛し合っていましたが、インポ。

拗らせた教授はミニスカートの女性を襲う殺人鬼となってしまいます。

それを知ったマルツィアは愛する夫の嫌疑を晴らそうと、自らも殺人に手を染めますが…

 

殺人シーンはさほど華々しくないものの、やたらノリのいい音楽と共に犯人の衝動が爆発していくのが謎の躍動感。

殺人の合間に女優さんがバンバン脱いでエロシーンがてんこ盛り。

人を選ぶヘンテコ映画には違いないのですが、「恐怖奇形人間」とかが好きな人には刺さるかも…

波に乗れるととことん楽しめる、愉快な変態映画でありました。

 

(以下ネタバレ)

バーで出会った女の子を目的地まで送るからと車に乗せる変態教授。

ミニスカ女性の足をチラ見しまくる、俳優さんの演技が不自然にみえたけど、この挙動不審っぷりが逆にリアルかも(笑)。

主演のミッキー・ハージティさん、元はボディビルダーだったそうで演技力は決して高くないのか、終始ワンパターンな困り顔。

「デビルズゾーン」のチャック・コナーズほどのインパクトはないけれど個性的なお顔立ちで、表情に何とも言えない哀愁が漂っています。

♪デンデデンデデン〜刺激的な音楽が流れてくると共に結構激しめな流れの川の中で殺される女性。

噴き出る水は男の射精…なのかなんか知らんけど、妙に勢いだけはある冒頭の殺人シーンからテンション爆上がりでした。

 

その後、女性に声をかけるところをバーの店主に目撃されていたため、警察がリュータック教授の下にやって来ます。(展開が早い)

しかし犯罪心理学者という肩書きを利用し、捜査を撹乱する教授。

犯人を追う側にいる人間が犯罪に手を染めているのは乱歩の「蜘蛛男」を思い出したりしつつ、ド派手なシャツを着ていてとてもカタギにみえない刑事さんたちに唖然(笑)。

一方夫の秘密を知った妻マルツィアは、夫のアリバイが確立されている状況で同じ手口の殺人を決行。夫にかかる疑いの目を逸らそうと奔走します。

サスペリア2」も真犯人とその秘密を隠そうとした者の行動が錯綜していましたが、サスペンス・ストーリーとして本作も出だしは悪くない感触。

 

冒頭の殺人の手口を真似て殺される2人目の犠牲者は、電話ボックスで首を絞められて死亡(妻の犯行)。

夜の囮捜査で娼婦を見張っている最中に殺される3人目の犠牲者も妻の手によるもの。

凶器を偶然手にしてタレコミ電話を警察ではなく教授宅にかけた女性は4人目の犠牲者に…

風呂場で衣服を体に被せられて殺されるのもヘンテコだったけど、そのあと死体が窓から落ちる凝った仕掛け!?が用意されていたのはよく分からなかった(笑)。

警察は2件目の殺人現場付近にいた駐車場係の男性が犯人ではないかと疑いますが、男性は無実を証明しようと自ら奔走。

同時に妻の抑圧された性衝動も描かれていき、インポの夫と結婚し処女だったという妻は、夜な夜なレズビアンSMプレイを夢想していました。

そこにマルツィアを愛するレズビアンの姪も突如現れ、複雑な三角関係となっていきます。

 

どんどん新キャラが登場、もう何が何やらストーリーは混乱を極めていきますが、常に珍事が起こり続けている画面には釘付け。

膝まで紐が巻きつけられた妙なデザインのサンダルを履いた女子大生と、ボーンレスハムのように細い紐で足を締め上げられるメイドさんには、変な性癖に目覚めさせられそうになりました(笑)。

また妻と姪ジョアキンのいる自宅に無言電話がかかってきてテープレコーダーから謎の音声が流れてくるシーンは訳もわからぬ不条理さ。 

ジョアキンが突然床をゴロゴロ転げ回りながらレコーダーのスイッチを切る姿はさらに意味不明で爆笑。

「どうにかなりそう」ってそれはこっちの台詞や(笑)。

 

そしてこんなにとっ散らかっているのに、妻マルツィアの夫への愛は伝わってくる謎の夫婦愛ドラマ。

自分の性癖を夫に知られたくないと取り乱したり、幸せそうなカップルを眺めて夫と付き合いたての頃を思い出したり、冴えない夫を真剣に愛している様子でした。

夫の方は鏡を見て「悪魔め!」と自らを罵ったりしていて、てっきり自首するのかな…と思ったら、いざ現場に戻ったら嘘をつきまくる。

不能の俺と別れて君は幸せになってくれ」などと手紙で言っていて愛情深い夫なのかと思いきや、平然とマルツィアを利用して見捨てようとする…

お前ホンマになんやねん(笑)ってなるけど、人間とは矛盾する生き物。

自分のダメさに辟易としながらも変わらない性を抱えて生きていくしかない…クズ親父にはどこか親しみも湧いて、言い知れぬ哀愁を感じてしまいました。

 

クライマックスではマルツィアを愛するレズビアンの姪・ジョアキンが激昂。

「どうしてあんな男が好きなのよ」「卑怯者!」鉄の鎖をぶん回し刃を脳天にお見舞いするジョアキン。

「ジャンゴ繋がれざる者」でジェイミー・フォックスが白人に鞭を振るうシーンかの如きカタルシスが、なぜだか胸に迫ってきました。

けれど最後の最後に「妻を助けてくれ」と呟く夫…嗚呼、夫婦って複雑ね…そんな気持ちにさせられる意外に味わい深いエンディング、最後まで全く息がつけませんでした。

 


今回も上映終了後にトークイベントがあって、伊東美和さんと山崎圭司さんが登壇。

これまた貴重な話をたくさん伺うことができました。

同監督作に「イザベルの呪い」というのがあって、「デリリウム」と同じキャストが集結。輪廻転生を描いた作品らしく、併せてみると不思議な味わいになるのだとか…気になります。

また「デリリウム」は各国バージョン違いがあることでも知られていて、アメリカ版はベトナム戦争のシーンが冒頭と終わりに付いているそう。全く別物でびっくり。

さらにフランス版はバスタブで殺される女性が殺されそうになってる最中に突然マスターベーションを始めるというカオスな展開があるとか…さすがに攻めすぎでは(笑)。

他にも今回みたバージョンにはないシーンのエピソードが色々、マニアックな監督の他作品の話も伺えたりで、すっかりデリリウム沼に…

メサイア・オブ・デッド」「悪魔のしたたり」にも少し触れて下さりつつ、「メサイア〜」は冒頭とラストにオンボーカル曲が入っているバージョンがあったとのこと。

デリリウム」も最後に印象的な主題歌!?が流れてきてこれが中々良い歌だったのですが、それと同時に夫婦とレズプレイのスチル写真がスライドショーみたいに延々と流れてきて…

クレジットも出ない珍妙なエンドロールに爆笑、静かな劇場で笑いを堪えるのに必死。

デリリウム」、最後の最後まで衝撃的でありました。

 

秘宝まつり、結局「悪魔のしたたり」は見れずじまいになりそうで、一押しされているセンターのおじさんが一体誰なのか分からないままになってしまいましたが…

先日みた「メサイア〜」はアート性が高くじわじわ来る恐怖が卓越していて静かなる傑作。「デリリウム」は何だかとっても楽しくてパワーをもらえる作品でした。

滅多に拝めないであろうラインナップ、劇場で味わえて感激でした。

 

ホラー秘宝まつり2024「メサイア・オブ・デッド」を観てきました

8月末から開催のホラー秘宝まつり。

昨年「オペラ座 血の喝采」が上映されるのを知って観に行きたかったのですが、スケジュールが合わず断念。

今年は「メサイア・オブ・デッド」「悪魔のしたたり」「デリリウム」の変態ホラー3本が上映されるとのこと。すごいマニアックな選出…!!

前からタイトルだけは知っていて観たいと思っていた「メサイア・オブ・デッド」をみてきました。

消息を絶った父親を追って海沿いの小さな町を訪れたアルレッティ。やがて奇妙な人々に取り囲われ、自身も正気を失っていく…

ストーリーは短編ホラーのようなシンプルな内容ですが、「ゾンゲリア」のような寂寞感が立ち込めていて大変好み。

雰囲気や色彩感覚が素晴らしく、ギョッとする怖いシーンが所々にあって、静かな作品だけれどとても面白かったです。

 


真っ暗な夜の町に浮かび上がるガソリンスタンド。「サスペリア2」のナイトホークスのような幻想的空間、観ていると寄る辺ない孤独感が押し寄せてきます。

暗闇に発砲するガソスタ店員、めっちゃ変な奴が出てきたと思ったらもっと奇妙な寄り目のおじさんが(笑)。

理屈とか全く通用しない、別の世界に連れて来られた感覚にさせてくれる冒頭から一気に心鷲掴みでした。

主人公は画家だったお父さんの自宅を捜索しはじめますが、これがまたすごいアート感覚の部屋で圧倒。

遠近法を使った巨大な絵、釣りブランコのようなベッド…こんなところで寝起きしてたら酔ってしまいそう(笑)。

 

その後も変な人が続々と登場。

画商なのに盲目のおばあちゃん。この土地にまつわる奇妙な話を語るホームレスのおっちゃん。

おっちゃんの隣になぜかテレビが配置されていて構図がいちいち面白かったです。

土地の伝承を調べている青年・トムと知り合うアルレッティでしたが、取り巻きのガールフレンドを2人も連れているトム。

この人たちも十分ヘンテコなのですが、ゾンビではなく普通の人間だったという(笑)。

トムのガールフレンドやかろうじて町に残っていた正気の人たちから少しずつ襲われて行きます。

 

本作のゾンビは人肉に喰らいつく感染系〝ゾンビ〟とは異なる佇まいでしたが、話が通じそうで全く通じない、得体の知れない人間に出会したかのような恐怖感が迫真。

肉売り場で生肉に齧り付く集団を発見するスーパーマーケットのシーン。

なんでもない日常的な場所と異常な光景が重なるのが鮮烈。

真っ暗な夜から人工的な光への場面転換、陳列棚の向こう側に佇むゾンビなど不穏なカメラワークにも引き込まれました。

そして本作イチのハイライトである映画館でゾンビに襲われる場面。

後ろの座席に少しずつ知らない人が座ってきていて取り囲まれるの、めっちゃ不条理感があって怖い。すぐに襲ってこないのが一層不気味。

そのほか天井窓に虫のように張り付いている姿など、ゴア描写は控え目なのに視覚的にインパクトのある場面がとにかく多かったです。

 

諸悪の根源は100年前に海からやってきて人肉を口にした者(神の道から外れた者!?)らしくこの辺りはラヴクラフトっぽい話の造形。

自我がありながら体からゆっくり死体に近づいていき、精神に変調をきたしていく後半は虚無感でいっぱい。

審判の日を待つようなエンディングも終末感に満ちていて、どこか哲学的な気分にさせてくれる、素晴らしい幻想ホラーでした。


上映終わりにはトークイベントが開催されて、高橋ヨシキさんとてらさわホークさんが登壇。興味深いお話をたくさん伺うことができました。

監督・脚本のウィラード・ハイクとグロリア・カッツのコンビはのちに「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」の脚本を担当したそうで、「スタウォーズエピソード4」のシナリオにも関わっていたとか。

この作品はヨーロピアンな感じだったので、意外なキャリア。

映画館のシーンはヒッチコックの「鳥」と言われるとなるほどーと納得。 

影響を受けている作品として「恐怖の足跡」もあげられていて、確かにゾンビというより得体の知れない亡霊のような佇まい、少しずつ侵食されていく感覚など、共通する雰囲気。

トム役と「海からの訪問者」の役者さんが同じ人だったのは全く気付かなかったので見直してみたくなりました。

こういう映画は絶対に忘れない…自分も記憶に残るいい映画をみたという満足感に浸ることができました。

 


入場特典でいただいたポストカード。切手スペースまで素敵☆

パンフレットも販売されていたので購入。

3作品で1冊、「メサイア〜」のところしか読んでいないけど、作品のトリビアが満載で興味深い話が盛りだくさん。

あとの2本も気になりますが、とりあえず1番みたかったのをみれてよかった…!!

思っていたようなゾンビ映画ではなかったけれど、すごいアート感覚の作品で劇場でみることができて貴重な体験でした。