どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

ルチオ・フルチの「恐怖!黒猫」…物静かなホラーだけど雰囲気は良かった

フルチが「地獄の門」と「ビヨンド」の間に撮った81年の作品「黒猫」が初Blu-ray化。

「時計仕掛けのオレンジ」のパトリック・マギーと「4匹の蝿」のミムジー・ファーマーが主演、脇はフルチ作品の常連が固めています。

ゴア描写は少なく思った以上に静かな作品でしたが、物悲しさ漂うジャッロになっていて充分楽しめました。

人々の奇怪な死が続くイギリスの小村。
村を訪れたカメラマンの女性・ジルは村人から忌み嫌われている霊媒師・マイルズの下を尋ねます。

気性の荒い黒猫を飼っているマイルズ、事件現場でもこの黒猫の姿が見られていました。

殺人猫が人を殺めているのか、マイルズが猫を使って人を殺しているのか…ジルは疑いますが…

 

猫現れるところに死あり…
ボート小屋でイチャイチャしてた男女は鍵を猫に奪われて閉じ込められて酸欠で死亡。そんな密閉状態になるか??とツッコミたくなりましたが、苦悶を想像させるイヤーな死に様ですね。

お母さんが焼死する場面が1番グロテスクで迫力がありました。

行く先々で死のトラップを設置していく猫ちゃんは名演技。撮影で指示通り動いてもらうの大変だっただろうなーと労苦が想像されつつ、可愛らしく見えてしまって恐怖度は低かったです(笑)。

それよりも光るのは偏屈ジーサンの演技。

暗い屋敷に独り住まい、いかにも付き合いにくそうな人のオーラが出ていてハマり役でした。

マイルズが超能力で猫を操っていたのかと思いきや、彼の疎外感や怒りが猫に乗り移って殺人を犯してしまった模様。最後には猫の方が力を持って制御できなくなってしまった…孤独な男の精神崩壊を描いたようなシンプルなお話だけど味わいがありました。

エドガー・アラン・ポーの原作は猫を使って人を殺す云々のストーリーは皆無で「やってはいけないことをやってみたくなる」屈折した人の精神が猫への暴力に至るという内容。

飼い主が煩わしくなった猫を殺すところはトレースされていてグロくせずにゴシックホラーな見せ方になっていてよかったです。

 

フルチの過去作からの引用(再利用)も見受けられ、ヒロインがコウモリに襲われるシーンは「幻想殺人」、壁に埋められるクライマックスは「ザ・サイキック」が重なります。

昨年みた「ザ・サイキック」はオチも含めておおーっとなったのですが、そもそもこれもエドガー・アラン・ポーからだったのね…(金田一少年の”放課後の魔術師”とかも元を辿ればそうなのかも、古典なんですねえ)

村から孤立してる爺さんの姿は「マッキラー」のような寂寞感もあり、グロがなくてもフルチらしさが感じられる。
ピノ・ドナジオの音楽も含め物悲しい雰囲気で個人的には好きな作品でした。

 

「ドクター・ブッチャー」…ゾンビと食人族とイアン・マッカロック

映画「サンゲリア」で主演を務めるイギリス人俳優、イアン・マッカロック。

特典映像などで披露されるエピソードでは気難しく撮影時には他の出演者と打ち解けられず孤立していたそう。

時を経て作品が再評価されてファンイベントなどに呼ばれても終始しかめっ面。

義理の親戚は議員で映画を検閲する仕事に関わっていたのだとか、ご本人もイギリスの劇団出身でプライドが高そう…ホラーというジャンルを心の底から軽蔑したような発言を繰り返しています(笑)。

そういう見方の人もいるけどさー、折角出演した作品が愛されてるのにもうちょっと人生楽しんだらどーなん…とか思っちゃいますが、そんなイアン・マッカロックさんのもう1つの代表作がこの「ドクター・ブッチャー」です。

ニューヨークのとある病院では遺体の一部が盗まれる事件が頻発していました。

犯行現場が取り押さえられるも犯人の職員は投身自殺、「キートー」という謎の言葉を残して息絶えてしまいます。

調査の結果犯人の出身地がモルッカ諸島だと判明し、事件の謎を追う男女4人は秘島に向かいますが…

 

サンゲリア」によく似たプロットでマッカロック演じるキャラクターの名前もピーターと完全に一致。

「島には食人文化があるけど死体しか食べない」と説明されていたのにジャングルに入ると襲われ次々と丸かじりにされていく一行。

オーガニックパンツ一丁の原住民の姿はまさに「食人族」、しかしボディが薄くて野性味があまり感じられません(笑)。

仲間が食われて大ピンチの一行でしたが、そこにさらに謎のゾンビが出現し食人族たちは一気に退散…!!

↑「サンゲリア」のミミズゾンビを髣髴させるも顔しかペイントされてなくて手抜き加工!?やたら目力があってこれはこれで独特の雰囲気があります。

 

島の調査には現地に住むオブレロ博士の協力が得られるはずでしたが、部下のガイドはなぜか違う島を案内。

タイトル:ドクター・ブッチャー……博士が黒幕ってことか…(全力のネタバレ)

なんとオブレロ博士は生きた人間の脳を死体の脳と入れ換えてゾンビを生産し、永遠の命の研究をしていたのでした。

じゃあそもそも冒頭の事件は何の話やったの??
たまたまNYに出稼ぎに来てた食人族さんがお腹すいて遺体食べちゃってただけ??

様々な疑問が頭を駆け巡りますが、食人族とゾンビが入り混ざって三つ巴の戦いになる…!!

ゾンビは人を食べないけど食人族がゾンビを食べる…!!

 

短い上映時間にマッドドクター、食人族、ゾンビと詰め込みすぎな脚本ですが、そんな内容のおかげでグロシーンは出血大サービス。

ボートのモーターでゾンビの頭部を破壊する場面や博士が行う頭部切開のオペシーンなどかなり力が入っています。

中でも出色なのは「仲間が生きてた!」と駆け寄ったら「バーサンになってた!」…からの「頭皮カツラ被ったバーサンだった…!」のシーン、まさかの三段構えに予想がつかずギョッとなります。

 

マッカロック演じる主人公は嫌がる女性を強引に調査に同行させるわ、仲間が死んでもノーリアクションだわ、島に空き缶ポイ捨てするわとさりげなく嫌な奴(笑)。

対してヒロインの女優さんは全裸で巨大岩に張り付けられるなど本筋と全く関係のないところで体を張りまくっています。

雰囲気のあるロケ地は一部「サンゲリア」と同じ場所を使用。燃やした教会をそっくり建て直すというトレースっぷり。

↑ラストシーン、本物はどっちだ!?

イタリアで制作された89分版(ゾンビ・ホロコースト)とセールスのため勝手に編集された82分版(ドクター・ブッチャー)の2バージョンが存在していて、テンポよく楽しいのは82分版の方ですがファミコン音楽みたいなやたら軽いBGMに脱力、思わず笑みがこぼれます。

「僕が出演した中で最もバカバカしい作品だ」…マッカロックさんは全く気に入ってないようですが自分は大好きです。

 

「恐怖の報酬」劇場で再鑑賞してきました

先月目黒シアターという劇場にて「恐怖の報酬」「ウィッカーマン」の2本立て上映があり、観に行ってきました。

時間の関係で「恐怖の報酬」1本しか観れなかったのですが、このブログを始めてから出会った中で1番衝撃だった作品。大きな劇場ではなかったけれど「集中して映画館でみたい」と思っていた1本なのでまたとない機会でした。

前半トラックが走り出すまで1時間。説明皆無で突き進む映像にひたすら圧倒されますが、とっつきにくいという意見も分かる(笑)。

ニトロ運搬だけでも無理ゲーなのにこれでもかと襲い掛かる災厄の数々…説明できない理不尽が、〝逃れられない死〟がひたすら襲ってくる、「オーメン」「ビヨンド」のような王道ホラーでもあると思いました。

気分が盛り上がりその後〝最終盤〟Blu-rayに収録されている特典映像を鑑賞。
「ドライヴ」のレフン監督との対談や「フリードキン・アンカット」というドキュメンタリーが丸々1本収録されていて併せてみると面白かったです。

「人は誰でも善と悪の両面を持つ」…というのがフリードキンの信条らしく、こうした人間観は各作品で滲み出ているように思われます。

フレンチ・コネクション」では麻薬組織の親玉が妻と仲睦まじくプレゼントを贈り合っている様子が描かれ悪党にも人を愛する心があるのだと伝わってくる。

反対に「エクソシクト」では善良な母親に対し「娘より自分のプライベートを優先させてないか」とふと疑いの念が湧き上がったり、一見無邪気そうなリーガンをみても「実は母親の恋人を疎ましく思っていてその潜在意識が凶行に走らせたのではないか」などと不安がよぎったりします。

人間良い・悪いにハッキリ分けて考えた方がよっぽど楽で、善も不確かな存在だと疑うと途端この世は信じられない怖ろしい場所になってしまう…

曖昧で複雑な人物描写からフリードキンは度々ペシミストと呼ばれているそうですが、一方でこうした人物像に誠実さも感じてしまう、「そんなもんだから過度に期待して生きない方が楽だ」とホッとさせられる面もあるように思います。

「どんな人間も欠点を抱えている。でもそんな人もいい行いをすることがあるんだ。」

ガメつい強盗のロイ・シャイダーが負傷した殺し屋のニーロを車に乗せて励ましの言葉をかける「恐怖の報酬」のクライマックス…
これまで自分のことしか考えてなかった男が利害を度外視した行動に出る…

善が悪をはらむなら悪が善をはらむこともあると逆説的に希望も描かれていて、こうした場面では他作品(それこそ「ウィッカーマン」など)では感じられないような温かみも感じて胸が熱くなります。

 

主人公勢が全員悪人であることをレフン監督に指摘されていましたが「最後には赦されたい」懺悔系映画の要素も色濃い作品。

大人になり年をとってくると「自分のダメさを受け入れる」マインドがいるもので決して清らかでない登場人物たちにも心惹かれます。

崩壊寸前の吊り橋の上でも何とか道を切り開こうとするセラーノをみると「なんとか渡り切ってくれ…!」と祈るような気持ちになってくる。

普段信仰心もないのに困った時だけお願いするって都合のいい話ですが、人生って結果を望みつつ何かを行うことの連続で、「エクソシスト」とも重なりますがキリスト教信仰云々が理解できなくても充分共感できるテーマだなあと思います。

”決して報われるとは限らない”残酷な結末も人生誰しもが一度は味わうもので、無情でありつつ何としても生きようとする人間の執念にプラスのエネルギーを感じる。

密林の驚異の映像とともにビシバシ伝わってくるドSフリードキンの人生観がヘタレにはグサグサ突き刺さりました。

リアリティ重視のため一切の妥協を許さずときに出演者も追い詰める…数々の逸話からフリードキンには鬼・悪魔のようなイメージがありましたが、ドキュメンタリーにて本人のご様子をみると気難しそうなタイプでは全くなくむしろ社交的で健康なメンタルしてそうな印象。(いい人そうとは言わない)

コミュ力の高いやり手テレビマンの佇まいで、実にチャキチャキしたお爺ちゃんでした。

「自分を芸術家と思ったことはない」という言葉からは相当なストイックさが伺えて、期待する若手にデイミアン・チャゼルの名前をあげているのに何だか納得。

「最も優れた映画が誕生したのは無声映画時代だ」…なるほど説明なしで突き進むあの映像はサイレント映画よりだと思ってみればいいのか…と説得力を感じました。

70年代の作品をみると今の作品にはないリアルな質感に驚きと憧れの気持ちでいっぱいになりますが、何としてでも撮り切るという執念が、妥協を許さない作り手のストイックさが作品の内容そのものとも重なり、改めて観ても凄まじい熱量の作品でした。

 

「サザン・コンフォート」…ウォルター・ヒル最高傑作!?ボンクラ小隊決死の脱出劇

81年制作、日本国内では劇場未公開だったというウォルター・ヒル監督作。

ジャケ写は戦争映画のような雰囲気ですがサバイバルホラーと言っていい仕上がり。

「田舎で得体の知れない人に襲われる」系ホラーの醍醐味もあり、個人的には今まで観たウォルター・ヒル作品の中で1番面白かったです。

1973年ルイジアナ

アメリカには州兵(National Guard)という連邦政府とは別に州の管理下にある軍隊があり、その中には「本業は別にあるけどパートタイムで軍に入る」という人たちが一定数いるようです。

アメリカはやっぱり広い国、州にも別軍隊あるなんてスゲーッとか思っちゃうけど、本作に登場するブラボー小隊は驚きのボンクラ集団。

週末だけの演習にはお遊び気分で参加。

訓練中に迷子になり地元住民のカヌーを無断で使用するも、チーム1のバカがふざけて住民に発砲してしまいます。

↑ヒャッハー!この笑顔である

小隊の持つ銃は空砲だったのですが、そんなことは露知らない住民は怒り心頭、反撃に出てチーム唯一の〝軍人〟だったリーダーが真っ先に射殺されてしまいます。

土地勘のない場所に放り出されるボンクラ兵士たち…

ジメジメした湿地帯の舞台がムード満点。

追跡者は終盤までその姿をみせず、エグい仕掛け罠が登場したり犬に襲われて負傷したりとドキドキハラハラな展開が続きます。

 

本作に登場する地元住民〝ケイジャン〟はフレンチ・インディアン戦争の頃からルイジアナ州に住むフランス系移民をルーツとする人々。

同じ国の中に全く違う言語・風習の人たちが住んでいる文化摩擦。

やたら怖く描いてしまって誤解を与える??と懸念もされそうですが、割り切ったホラー演出ですしそもそもケイジャンの人たちは作中そんなに悪く描かれてないように思われます。

1番おっかないのはマヌケ小隊のあまりのマヌケっぷり。

統率のとれてない軍隊ほどアカンもんはない。

疑心暗鬼になって地元住民に暴力振るうわ、自分たちに非があったのに「復讐だ…!!」と正義に燃え盛るわと痛々しい愚行が続きます。

♫バシャバシャバシャ〜 FPS勢もドン引きしそうな大音量(笑)

皆を鼓舞する新隊長は方向音痴!あまりの右往左往っぷりが段々笑えてきたりもします。

 

メンバーの中で比較的常識人なのはスペンサー(キース・キャラダイン)とハーディン(パワーズ・ブース)の2人。

ドゥー・ユー・スピーク・イングリッシュ??……異文化尊重もへったくれもない中、唯一対話でコミュニケーションしようとするスペンサー。

ワイルドな見た目と裏腹に繊細なハーディンは実は化学技師。
地元が合わずに引っ越してきたのに「テキサスのバカのルイジアナ版だ」…何ともいたたまれません。

州兵→ケイジャンへの無理解・蔑視もありつつ、比較的知識人の2人→ザ・底辺な他メンバー…の分断が絶望的です。


(ここからラストまでネタバレ)

湿地帯を抜けてからのクライマックス30分も全くダレず、ケイジャン奥地の村に辿り着いてからの緊張感がハンパありません。

もしかして村人全員グルなのか…観てるこっちも疑心暗鬼に。豚のように処刑されてしまうのかどっちだーー!!演出が冴え渡っていて手に汗握ります。

1人生き残りor全滅エンドかと思いきや、ラストは助けが来てグッドエンド…??

意外な終幕ですが時が止まったようなラストの見せ方も洒落ていて、もう何にも信じられない&命が助かっても心はもう帰ってこれない…

年代的にもプロット的にもベトナム戦争を批判した感ありありですが、ウォルター・ヒル監督は政治色を入れたくなかったようで役者には「ベトナムものだと思うな」と言ったとか。

アメリカの広さや格差を想像させられつつも、小難しいこと考えず第1級のサバイバル・ホラーとして存分に楽しめる作品になっていました。

それにしてもタイトル:Southern Comfort(南部のやすらぎ)って……嫌味かっ!!

 

「肉の蠟人形」1997…フルチとアルジェント、イタリアとハリウッドの狭間で…

(この記事のあと暫く更新をお休みします。)

アルジェントとフルチが共同制作するはずだったのにフルチが急死。〝ルチオ・フルチに捧ぐ…〟というテロップとともに幕を開ける1作。

昔VHSで一度みたきりだった「肉の蠟人形」を久々に鑑賞しました。

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同時期・同ジャンルで活躍したアルジェントとフルチ。

それぞれに良さがあると思いますが、アルジェントの方が音楽と映像の繋ぎのセンスが卓越していたりビジュアルの独創性が高く、後年の作品も一定のレベル!?を保てているように思われます。

映画一家に生まれたアルジェントに対しフルチは貧しい家の生まれでもっと苦労人なイメージ。

映画制作においても低予算の中で工夫を凝らして戦ってきた職業監督の面が強いように思われます。

アルジェントについてフルチは「彼は悪夢の中の住人だ」…と評していましたが、アルジェント作品は病的な人間の内面、トラウマ、家族の秘密などを描いたものが多く、その表現が大きな魅力なのではないかと思います。

対してフルチの作品は…「フランス人は私を死の詩人と呼んだ」と自ら得意げに語っていましたが(笑)、逃れられない死(運命)への恐怖、死んだあとどうなるのか…の疑念を映像にしたような、この世ならざるものの表現などに際立つものがあるように思います。

 

昨年鑑賞したドキュメンタリー「フルチトークス」では監督作「エニグマ」が「サスペリア」に似てると指摘を受けるとフルチは突然ムッとした様子でした。

若くして監督デビューし大成功を収めたアルジェントに対しては強いライバル意識があったのではないでしょうか。

仲が悪かった!?と噂されていた2人ですが、94年ローマのホラー映画祭にてアルジェントは車椅子に乗ったフルチに出会います。

晩年は糖尿病が悪化していたフルチ、病気のことは公にしたがらなかったようでアルジェントはびっくりしたそうです。

同じジャンルで活躍した先輩が撮りたい映画を撮れないまま監督人生を終えてしまうことに思うところがあったのでしょうか、「一緒に仕事をしよう」と声をかけたアルジェント優しいですね。

そうして2人で話し合い製作されることになったのが、ヴィンセント・プライス主演の1953年版「肉の蝋人形」のリメイク。

しかし撮影に入る前にフルチが急死してしまいます。(薬を飲み忘れて亡くなったそうで自殺説もあり真相は不明)

結局映画はアルジェントが製作に入りつつ監督は「フェノミナ」「デモンズ」シリーズの特殊効果を担当したセルジオ・スティヴァレッティが受け持つこととなりました。

フルチが参加した脚本には大きく変更が加えられたようで、残念ながらフルチらしさはあまり感じられない作品となっています。

 

1900年のパリ。とあるイタリア人夫婦が惨殺されベッドの下に隠れていた幼い娘・ソニアだけが生き残る。

彼女が目撃したのは鋭い鉤爪のような黄金の義手だった。

美しく成長したソニアは名高き芸術家、ボリス・ヴォルコフが営む蝋人形館の衣装係として働くことになる。しかし町では不可解な失踪事件が起きていた…

この映画の1番アカンところは肝心の蝋人形を恐怖装置として魅力的に描けていないところでしょう。

タイトルだけでネタバレにはなっているものの53年度版は「人形の中身は人間」というショックをじわりじわりサスペンスとして描き出していて効果的でした。

大きく内容を変えた2004年の「蝋人形の館」も非常に出来がよく、人形の中に紛れて殺人鬼から逃げる…など道具や設定をホラー演出に上手く結びつけていたと思うのですが、本作では1つ1つのアイテムの出来はよくても単なる背景に収まってしまっているのが残念です。

また館の主・ボリスから狂った芸術家魂が感じられず、過去の犯罪現場を再現した蝋人形を作っているのかと思いきや無関係な子供を手にかけていたりで「どういう作品をつくりたいのか」その妄執が伝わってきません。

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↑義手を隠す手袋はアルジェント作品の革手袋っぽい!?

蝋人形作成には謎の巨大装置が登場。

人間の精気を吸い取って新たな命を吹き込む…もはや芸術家じゃなくてマッドサイエンティスト(笑)。

ゴシックホラーの雰囲気を台無しにするような安っぽいCGの映像が突然あらわれます。

 

ヒロインが積極的に謎解きに挑むような人物でなく終始受け身なのも退屈なところで、全くいい男にみえない相棒役の新聞記者とイチャイチャ…

ソニアに心惹かれていた様子のボリス館長でしたが、結局自分の娘だったというオチで、もっと変態紳士な面を描いて欲しかったように思われます。

そんな中唯一素晴らしかったのは助手のアレックス。

父親に虐待されていたのをボリスに保護され慕うも新しく来たソニアに師匠を奪われそうで嫉妬。

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↑汚いものをみるような蔑んだ目でヒロインをみるヤンデレ弟子。

殴られるのは嫌だと言いつつ娼館では娼婦に叩かれ締めつけられるドMプレイに耽溺…

作中唯一愛憎と哀しみが感じられる人物でした。

 

クライマックス、ボリス館長はソニアを蝋人形にしようと迫りますが、反撃に遭いさらに嫉妬を拗らせたアレックスと乱闘になります。

肉の仮面が剥がれ最後に登場するのは…

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突然のターミネーター(笑)。どんな高技術なんだよ!

ターミネーターはあっさりやっつけられますが、なんとその直前にボリスは弟子アレックスと肉の面を交換して入れ替わっていた…!!(ターミネーターはアレックスだった)

ラストはボリスが逃げおおせた姿でエンドロールを迎えます。

フルチ作品もアルジェント作品も悪事が明るみになり犯人が自滅して終わるパターンが圧倒的に多いと思うのですが、ここもスッキリしないところ。

ヤンデレ弟子が愛する爺マスターの館と共に燃え盛り、ヒロインが笑いながら館から出てくる…そんなエンディングがみたかったです。

 

心臓鷲掴みや手首ボキーッなど特殊効果には所々見応えがあるものの、アルジェントよりも若いスティヴァレッティは「スターウォーズ」や「遊星からの物体X」が好きだったらしく、全体的にSFハリウッド作のトーンを感じさせるような仕上り。

97年の作品ですが、時代は手作りからCGへ…2004年の「蝋人形の館」はCGも上手く使って迫力ある映像がつくられていましたが、変化に乗り切れなかったイタリアンホラーの限界を感じるというか、時期的な立ち位置もあるのかどっちつかずで中途半端な印象が残ります。

全体的には残念作であるものの、デカダンな雰囲気とゴシック・ホラーの香りは味わえて、アルジェントとフルチが好きならば観ておいて損はないといえる。改めてみてもそんな印象の作品でした。

 

「幻想殺人」…映像もストーリーも鮮やかなフルチの傑作ジャーロ

「マッキラー」に先駆けてフロリンダ・ボルカンを主演に迎えたルチオ・フルチ監督による71年の作品。

評価が高いようで気になっていた作品ですが、大きな破綻なくストーリーが成立しており、悪夢の描写も圧巻。この時期のフルチは本当に凄かったんだなーと感じ入る1本でした。

ストーリーが少々複雑だったので、まずはあらすじを簡単に整理してみたいと思います。

◆◆◆

ロンドンで裕福に暮らすキャロルは隣に住む自由奔放な美女・ジュリアを殺害する夢をみました。

精神科医にそのことを話すと「奔放になりたい気持ちが奥底にあるが夢の中で彼女を殺すことで良心のバランスをとっている」などと分析されます。

しかし数日後、本当に隣家のジュリアが殺される事件が発生。

現場からはキャロルの私物が発見され警察は彼女に疑いの目を向けます。

 

キャロルは夫・フランク、その連れ子のジョーン、夫の秘書・デボラらと共に暮らしていましたが、フランクと秘書は不倫の仲でした。

キャロルの父は有名な弁護士で、彼に頭が上がらないフランクは義父の前でだけ良い夫を演じていました。

ジュリア殺害の前日、キャロル父のもとには何者かによる脅迫電話が掛かってきていました。

不倫をバラすとジュリアに強請られたフランクが彼女を殺したのでしょうか。

「キャロルの夢」は精神科医に記録が残っておりそれを事前に知ることができれば、夢をトレースしてキャロルに罪を着せることが可能です。

 

警察の捜査が進む中、キャロルは街中でみかけたヒッピー2人組が夢の中に出てきた人物にそっくりなことに驚いて後をつけます。

夢の中で彼らはキャロルの殺人をじっと見ているようでその目はなぜか盲目…という不気味な姿でした。

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ヒッピーとは直接会話せず遠くから視認し合うだけでしたが、その後なぜかキャロルは彼らにつけ回され殺されそうになります。

警察はヒッピーを逮捕しますが、他の罪は認めてもジュリア殺害だけは「やってない」と抗議します。

そんな中キャロル父が「ジュリアを殺したのは自分だ」とメッセージを残して自殺。

思わぬ犯人の自供で事件は解決したかに思われましたが…

 

(以下どんでん返しネタバレ)

 

父親が自殺する前のこと…キャロルは刑事から「脅迫の話を知ったのは?」と問われ「電話で父から話をきいた」と答えていました。

脅迫電話があったことを父親はキャロルに漏らしていませんでした。

それなのになぜ電話があったことを知っていたのか…それはそのとき掛けた側の人間(ジュリア)と一緒にいたから…刑事はキャロルと被害者の繋がりを確信します。

過去に父の仕事を手伝っていたこともあるキャロルは精神鑑定で無罪になったケースを知っており、夢の内容をでっち上げ心神喪失による無罪を勝ち取ろうと画策していたのでした。

しかし脅迫電話の一件は夢相談にもなかった出来事でキャロルが意識のはっきりした状態で殺人を犯していたことが発覚します。

キャロル父は娘と刑事のこの会話を聞いてしまい、娘が確信犯だったことに気付いた…ショックを受けて&娘を庇って自殺したものと思われます。

 

謎の2人組ヒッピーは確かにジュリア宅にいて事件を目撃していましたが、LSDでトリップしていたため記憶がほぼなく、後日ジュリアの死を知って「もしかしたら自分達がジュリアを殺したのかもしれん」と目撃者だったかもしれないキャロルを逆に殺そうとしてきたのでした。

キャロルにしてみれば「ヒッピーに目撃されてたから心神喪失で行こうと決めたのに、なんであいつら警察に通報しないんだ??」と気になって後を追いかけてしまった…そのあと向こうから襲ってくるのは不可解で追跡シーンの恐怖はホンモノだった…ということでしょう。

 

ラストはこんなので逮捕の決め手になるのかなー…って強引に感じるところも多々ありますが、てっきり夢オチか何かで終わるのかと思いきや意外に話が緻密に構成されていました。

フルチおなじみの「白いコンタクトレンズの人」が「麻薬で認知がない盲目の目撃者」というハッキリした理由づけで登場するなんてビックリです(笑)。

映像センスも抜群に冴え渡っていて冒頭の夢シーンから一気に引き込まれます。

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何かに追われてる恐怖、夢の中でスローモーションみたいに動けなくなる感じ、落下して目が覚める夢の終わり…悪夢をリアルに体感させるようなフルチの映像表現が圧巻です。

白昼夢のような後半の追跡シーンも素晴らしく、天井の高いおっきな建物(ロンドンのアレクサンドラ・パレス)をたった1人で逃げ惑う姿に非日常感と恐怖がたっぷり味わえます。

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本作はフルチが逮捕された!?というエピソードを持つことでも有名な作品だそうで、キャロルが逃げ込んだ精神病棟にて生きたまま解剖されている犬に出くわすというショッキングなシーンが登場します。

犬がホンモノにみえてしまったため動物虐待の罪を問われたものの特殊効果担当が「作り物です」と説明に赴いて事なきを得たそうですが、確かにギョッとなる場面でした。

そのほか特撮モノ感ありありの巨大怪鳥が夢に出てくる所と、追跡者とコウモリに同時に追いつめられる緊迫感たっぷりのシーンもよく出来ていて、フルチもこれが気に入って後の作品でも似た場面を採用したのかなあと思いました。

 

原題A Lizard in a Woman's Skin(トカゲの肌を持つ女)はヒッピー2人組の幻覚証言からとったようで洒落たタイトルに思われますが、当時アルジェントの「歓びの毒牙」(原題:水晶の羽を持つ鳥)のヒットに便乗して動物をタイトルに入れた作品が跋扈していたそうです(笑)。

「マッキラー」のフロリンダ・ボルカンさんは役柄的にもっと線の細いか弱い感じの女優さんでもよかったのかも…と思ったけど、上流階級なのにちっとも幸せに見えない&内側に感情溜めまくった感じがよく伝わってきて演技はすごく良かったです。

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最後にお父さんのお墓の前で流してた涙はきっと本物…

優秀だったのに女性だから跡取り弁護士にはさせてもらえず、夫には浮気され、レズの恋人からは脅しの材料に使われ…よくよく考えると踏んだり蹴ったりな孤独な人で、陰鬱人間ドラマ感じさせるところもよかったです。

この時期のジャーロのフルチの凄さが堪能できました。

 

「ボーンヤード」…超能力おばさんvs巨大ゾンビプードル

ハピネットさんの第13期ホラーマニアックスシリーズが続々と発売、知らないタイトルもあって気になるものばかりですが今月発売されたタイトルの1つがこれ。

「ガバリン」で特殊効果を手掛けていたジェームズ・カミングが監督・脚本・特殊効果のすべてを担当した91年の作品。

ジャケ写だけみるとアニマルホラーっぽいけど全然違った(笑)。

前半と後半でテンションが違いすぎてビビりますが、ゾンビものの変化球で楽しいホラーコメディでした。

 

とある葬儀屋にて東洋人の子供3人の死体が発見、その胃の中からは人肉が検出されます。犯人と思しき葬儀屋は「子供たちは不死身のキョンシーだ」などと不気味な言葉を残していました。

事件を追うジャージー警部は手がかりを掴むため霊能力者・アリーの元を訪れます。

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汚部屋に住む太っちょおばさんのアリー。

だらしない人かと思いきや物に触ると残留思念がみえるサイコメトラーエイジな能力者。

かつて妊娠中に彼氏に捨てられ流産したという悲しい過去があり、マスコミには魔女と呼ばれ追い立てられたよう…

主人公が美人女優じゃなく太ったおばちゃんってのが何ともいえない味わいで、人と違う特性を持ったためにメンタル病んで世捨て人になってしまった…意外にキャラ描写がしっかりした作品です。

 

捜査協力を決意したアリーは、警部らとともに事件の遺体が収納されている死体安置所を訪問します。

シリアスサスペンスっぽい雰囲気だった序盤から一気にトーンが変わり、保管されていた子供たちの死体が起き上がり襲いかかる…!!密室ゾンビパニックものがいきなりスタート。

本作のゾンビはキョンシーらしいのですが、皮膚は黒くただれており容貌は結構グロめ。頭でなく胸を撃つと倒せる奇行種で知能もそこそこありそうです。

けれどこのゾンビより人間のキャラクターの方が個性際立ってて魅力的に描かれてるように思いました。

安心感バツグンの老警部のおじちゃんはずっとアリーのことを気にかけていたようで、捜査協力によって彼女のプライベートが犠牲になったことを謝ります……誠実な人。

能力のせいで孤独で辛い思いをしてきたアリーはそれでも他人を見捨てられず危機に立ち向かっていきます……おばちゃんもいい人。

そしてもう1人、自殺未遂をしたダナという若い女性キャラクターも登場。

ゾンビ事件とは全く関係のないところで、安置所に運ばれてきた死体が実は生きてましたというカオスな展開(笑)、ダウナーな雰囲気を醸す女性が一味に加わります。

「小さいことを気にして将来を台無しにしたの。前は自分を強い人間だと思ってたけどそうじゃなかった。」……人生何かあったんかなー、繊細で生き辛かったんかなー……

一度は生をあきらめた人が表情を取り戻し、果敢にゾンビを撃退する姿に勇気100倍。

その他も陽気な監察医のおっちゃん、ウィリアム・ボールドウィンをだらしなくした感じの新米刑事など印象に残る顔ぶれ。

そして少ない出番ながらも場を掻っ攫って行くのは死体安置所の夜勤受付のバーサン、プーピンプラッツさん。

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規則に厳しくて口うるさい、プードル犬・フルーフソムズが唯一の友。

目力ありすぎ、ディズニー映画の悪役みたいなバーサンがゾンビのネチネチ肉を口に詰め込まれる。

ワンちゃんもゾンビ肉を食べてしまい揃ってゾンビ化、この2人だけなんで巨大化したのか謎です(笑)。

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↑プードル犬は毛のモフモフがそのままであんま怖くなくちょっとかわいい(U^ω^)

クライマックスに繰り広げられるスケールのちっちゃい「エイリアン2」みたいな攻防戦。太ったおばちゃんが走ってるのみてるだけでハアハア。

人生どん底だった女2人(自殺女性とおばちゃん)が行き詰まりから脱出していく…意外に人間ドラマが感じられる優しい風味で、ラストに流れる恋愛映画の主題歌みたいなザ・80年代風ソングになぜか感動。気分スッキリとなる作品でした。

 

バーサン役の女優さん(フィリス・ディラー)はアメリカの有名なコメディアンだそうで、ハスキーがかった声と喋り方が独特、間の取り方も絶妙でした。

ワンちゃんは「エルヴァイラ」にも出演してた子だったようで、名俳優犬だったんですかね。
特典でバーサンが「あの犬年とってて重かった」って言ってて吹き出しました(笑)。

 

91年の作品と言われると(良い意味で)もう少し古い感じがしましたが、この年代の映画の手作り感は素晴らしいですね。

こんな素敵な作品がVHSのみでカルト化してただなんて勿体ない!めっちゃオモロかったしすごく好きな作品でした。