どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「あなたの死後にご用心!」…ボー元ネタ!?臆病な人間が裁かれる天国

アルバート・ブルックス主演&監督&脚本。メリル・ストリープ共演の91年のコメディ。

(海外版のDVDジャケ写はカルト宗教の広告みたいですが…)

「ボーはおそれている」のパンフレットにて元ネタ作品として解説されていたのですが、クライマックスのシーンが確かに激似。

自分の生前の行いがスクリーンに映し出され「天国行きに相応しい人間」かどうか判断される…相応しくない人間はもう1度生まれ変わって現生をやり直す…

結構ブラックな内容で、キリスト教というより閻魔大王の裁き、仏教の輪廻転生に近しいものを感じて、世界観が大変面白かったです。

ロマコメとしてはイマイチで、ラストもう一捻り欲しかったなーと残念だったのですが、90年代らしい明るさとトチ狂ったホラー味の両方が混在していて、かなりユニークな作品でした。

 

◇◇◇

サラリーマン・ダニエルは気弱だけれどジョークを連発しながら職場で笑いをとる〝道化師的存在〟。

波風立てずに生活しているからか周りからの評価は決して悪くない様子。

しかし誕生日に同僚から貰ったCDを聴いてドライブしていたところ、バスに激突してあの世へ…

白い服を着たおじいちゃん・おばあちゃんたちに囲まれて勢いよく車椅子で運ばれて行くオープニングタイトルが鮮やかでお見事。

ジャッジメントシティ」なる町に連れてこられたダニエルは、〝進歩した人間〟として天国に行くか、学びが足りないとされて再び下界で生まれ変わることになるか…天上人たちの裁きを受けることになります。

 

人間界に似ているものの、快適さが重視された巨大アミューズメントパークのような雰囲気のあの世の世界。

食事を頼むとすぐに絶品料理が出てきて、どれだけ食べても太らないのは羨ましい(笑)。

裁きに携わる天上人たちは「愚かな輪廻転生の輪」から抜け出せた上級天使のような存在だそうで…下界の人間が3%しか脳を使ってないところ、この上級人間たちは47%も脳みそを使っているのだとか(笑)。

 

ところがこの天上人たち、バリバリ人を見下してきてあんまりいい人にみえません。

もし天国行きになったとしてもここで労働しなきゃいけないパターンもあるのか…と思うと上級天使になるのがあまり魅力的に思えなかったりして(笑)。

ルールだらけの天国、威圧的な天使という世界観がシュールでユニークです。

 

〝裁判〟では、人生の9日間にスポットが当てられ、自分の過去映像がスクリーンに映し出されて「この行いは正しかったか」などと検事にネチネチと責め立てられまくります。(このシーンがボーに激似)

審判のポイントは「恐怖を克服できたかどうか」…強い人間だったか、成功者であったかに重きが置かれていて、競争激しいアメリカ社会ならでは!?

金銭面で儲けたかどうかも激しく検事に問いただされて、ユダヤ人男性のプレッシャーあるあるなのかよく分からないけど、天国って貧しくて優しい人に開かれているわけじゃないのか…とびっくりするような世知辛さであります。

 

映し出されるダニエルの過去の日々は、「友達に意地悪されてもやり返さなかった日」、「貧乏で盗みを働いたクラスメイトを庇って自分が教師に代わりに怒られた日」などなど…

主人公優しくていい奴やん!!強い成功者タイプばっかりじゃなくて色んなタイプの人間がいて世の中回ってることもあるでしょうよ…と自分は陰キャ主人公を全力で擁護したくなりました(笑)。

交渉すべきときに怖気付いて自分の言いたいことを言えずに損したり、大勢の人の前に立つのに緊張したり…こういう点を克服できればもっと人生エンジョイできたのかも…と思う勿体ない面もチラホラ。

でも人には得手不得手があったりするもんで、「ねえ、あなた、もっと成功できたはずでしょ!?」とネチネチ責めてくる女検事がなかなか酷であります(笑)。

 

初対面では嫌味ったらしく映った弁護士のおっちゃんが意外にいい仕事をしてくれて、「暴力を我慢した」「他人を思いやる思慮深さがある」といい風に解釈して持って行こうとしてくれるのがナイスアシスト。

主人公をおおらかに受け止める父性の弁護士と、口うるさく否定を繰り返す厳しい母親像の検事。

2人のキャラクター配置が面白く、この辺りもボーがインスパイアされたところなのかなと思いました。


また主人公と対照的な存在としてジュリア(メリル・ストリープ)という女性が登場します。

社交的で自信に満ち溢れた朗らかな性格。誰とでもすぐに友達になり、ビビる主人公とは対照的に街のアクティビティをエンジョイしまくり。

このジュリアと主人公がなぜか出会ってすぐにフォーリンラブ。

天国行きの確定したジュリアと同じ道を歩みたい主人公が余計に裁判に必死になる…というラブストーリーが本筋になっているものの、恋に落ちる過程が唐突であまりしっくりこないのが残念。

前世で2人に繋がりがあったとか、説得力ある伏線があれば良かった気がするのですが…

メリル・ストリープは「主人公と真逆のなんでもこなす優等生キャラ」という点ではハマり役に見えるのですが、ロマコメの雰囲気にあまり合っておらず、ミスキャストに思えました。

 

クライマックスにはジュリアを諦めきれなかった主人公が爆走してルールを無視して彼女を追いかける…!!

そんな様子をみていた上級人間がダニエルの勇気を認めて同じ天国に行かせてあげる…!!

ラストは一見甘く感動的なようでいて、生前の主人公の人間性は否定されたままのようで複雑。

「主人公ならではの優しさ」が認められて…の方が感動的だったのではないかと思いました。

序盤に出てきたバスのお婆さんや他のキャラクターとの絡みがなかったのも残念。

好意的にみれば主人公が成長したロマンチックエンドだとは思うのですが、結局この息苦しい天国のルールにハマったままなのかー、恐れがあることって悪いことばっかりなのかなーとか自分は色々考えてしまって、個人的にはカタルシスに欠けるエンドでした。

 

傑作になり損ねた感じがしつつ、作品の空気感や笑いのセンスは大変好み。

日本に勢いがあった90年代ならでは…??ジャパニーズカルチャーがなぜか度々登場しますが、寿司屋のやり取りは〝外国人からみたらこんな感じ〟がよく出ていて意外と面白かったです。

 

なぜか1番心に残る、主人公の乳幼児時代の回想シーン。

アル中の父親と母親が喧嘩していて、泣きたい気持ちをグッと堪える子役の演技が名演技すぎて、こちらの涙が出そうになりました。

コメディしつつ、強い男らしさを求められる男性の苦悩のドラマを真面目に描いた作品ではないかと思いました。

 

死後の世界なんてないんじゃないかなー…あっても人間には想像もつかないようなもんじゃないのかなー…なんて自分は思ってますが、こんな世界があったら一度体験してみたいかも(笑)。

国内ではDVD未発売のタイトルですが、なぜかU-NEXTで配信中。〝ボー〟と併せて楽しむことができて良かったです。

 

「ポゼッション」…怖いのに惹きつけられるイザベル・アジャーニの狂気

イザベル・アジャーニ主演、ポーランドアンジェイ・ズラウスキー監督による81年の作品。

「ボーはおそれている」のあるシーンを観てこの映画が思い出されたのですが…

終始異常な不安感が漂っているところ、変な人ばかり出てくるところなど、共通点は色々あって影響を受けた作品なのかも…と思いました。

夫婦の不和を描いたストーリーですが、イザベル・アジャーニの狂気が鬼気迫り過ぎてて訳も分からず恐怖に叩き込まれます。

親子関係と夫婦関係では血が繋がってて選べない親子関係の方が怖そうに思えますが、こちらはボーにはないドロドロ感、男女の深い愛憎が感じられて、より大人の映画、という感じがしました。

 

◇◇◇
冷戦時代の西ドイツ。

夫マルクが単身赴任から戻ってくると妻アンナの様子がどこかおかしい。

問い詰めると1年前からハインリッヒという男と浮気していたらしく、開き直ったアンナは夫に憎しみをぶつけてきます。

息子を放置して家を出て行った妻を探偵に尾行させると、なんとさらに第3の男がいる様子。

苦悩するマルクでしたが、マルクはマルクで妻に瓜二つの小学校教師・ヘレンに出会い心惹かれていきます…

 

長回しを多用した滑らかに動き続けるカメラワークが流麗ながらとにかく不穏。

どこにも定まらない宙に浮いたような感覚になり、不安を煽りまくります。

どこか病的な感じのする青みがかった色調のインテリア、活気のない寂れた街並み…

カフェで向かい合わず別方向をみる2人の姿など、「分断」を象徴したような人物の構図も整い過ぎていて、底冷えするような冷気が漂っています。

妻がメンタル病んで出て行って…のストーリーは「クレイマー、クレイマー」や「ザ・ブルード」とも重なりますが、ズラウスキー監督本人の当時の私生活がそのまま反映されているのだとか。

女優の妻が子供と自分を捨てたことに対する恨み辛み、それでも捨てられない愛情の両方が同居しているようでした。

 

浮気相手のイケおじ・ハインリッヒは、意識高そうなこと言ってるけどやってることはセックスとドラッグで、胡散臭そう(笑)。

他人の家庭壊しといて「僕は全てを愛する」とかどの口が言っとんねん!!と思うけど、空手チョップを決めて謎ポーズでサム・ニールを下すシーンが可笑しくて笑ってしまいます。

頼れる大人の男かと思いきや、アンナの深淵を目の前にしては取り乱してボロボロ…滑稽な道化役として描かれていて、意外にもこの映画の息抜き的存在。

 

妻役のイザベル・アジャーニはどこまで演技なのか分からない、まさに取り憑かれたような迫力。勘弁してくれ〜と見ているだけで胃がキリキリしてきます。

メンヘラに刃物持たせたらアカン!!ミンチ肉捻り出すシーンの尋常ならざる緊張感。

妻が首を切りつけたあとなぜか夫も肉切りナイフでリストカットしますが…この夫、妙に健気というか、妻の気持ちを知りたい&寄り添おうと必死なようにも見えて、「ピアノ・レッスン」といい、なぜかNTR男がハマるサム・ニール

 

妻のアパートを調査しに行った探偵は、恐ろしい怪物に遭遇してあっさりと殺されてしまいます。

唐突に登場する怪物は心の闇的なものなのか、それとも本当に悪魔に取り憑かれたのか…

夫自身がアパートに向かうとそこには怪物とまぐわるアンナの姿が…

NTRに触手モノとエロゲもびっくりな特殊性癖が炸裂…!!

巨大タコ?イカ?とまぐわる美しいアジャーニの姿が衝撃的。 

ひっそりと怪物を生み育てていたアンナですが、ラストには遂に完全体の姿で登場。

新おにぃ爆誕…!!(ここめっちゃ怖い)

妻の浮気相手も自分だった…!?どうやらアンナは「自分の理想とする夫」を作り出したようですが、実体がないのか弾丸もなぜか当たりません。

 

一方で夫・マルクも、息子の小学校教師・ヘレンに妻の理想像を見出したのか、マルクの目にだけヘレンがアンナと瓜二つの女性に映っているようでした。

白いドレスを纏った天使のような清らかさのヘレン。

家事育児を黙々とこなし、夜のベッドでは激しく愛し合わないが深く心通わす…マルクも自分の理想の妻像を作り上げていたようでした。

夫婦生活とはお互いに相手の理想像を演じること…「ゴーン・ガール」もこんな話だった気がしますが、無意識に相手に自分の望みを押し付けてしまったり、役割を演じるのに疲れたり…

色々とっ散らかっているけど、中核は抑圧された夫婦生活を描いた、意外にシンプルなストーリーのように思われます。

 

夫マルクの職業はスパイであることが示唆されていて、かなりストレスのある生活を送っていそう。

舞台がベルリンの壁を前にした西ドイツというのも意味深で、高き理想を掲げた共産圏での自由のない生活…

ロシアとドイツに挟まれて分裂を繰り返してきたポーランド出身の監督ならではの辛苦が反映されているのか、重苦しい閉塞感が全編を貫いています。

 

ラストに生き残るのは夫婦お互いの〝空っぽの理想像〟の方…

壁(ドア)の崩壊を暗示しつつも、サイレンや爆撃音が飛び交う「戦争の音」が不穏に鳴り響いてきます。

清く美しい理想はまやかしで、戦火がまたやってくる…

全く意味がわからないけど、今みると予言的な感じもして余計に恐ろしいラスト。

最後には人間以外のものに見えてくる緑の目のヘレン。

知らぬ間に異星人が地球が乗っ取っている…誰かが誰かに成り代わっている…「V ビジター」や「SF/ボディ・スナッチャー」のような”vs共産主義の脅威”の雰囲気も感じつつ、東欧の国の人が描くとレベルの違う恐怖をみせられたようでした。

 

少ししか登場しないキャラクターも支離滅裂ながらユニークで印象的。

片足ギプスのマージはいいように使われてて一見気の毒に見えますが、ちゃっかり親友の夫を誘惑していたりで単純ないい人ではなさそう。

探偵2人は同性愛者だったことが発覚。よく分からんけど2人深く愛し合ってたことが伝わってきて、巻き込まれたのが気の毒でした。

ハインリッヒは浮気相手の男を監督が悪意を持って描いた感じもしますが、信仰心ある彼の母親が息子の魂がないと呟きながら自死するシーンは暗くて絶望的。

アンナが教会でキリストの磔刑を見上げる場面。

自分の中に善の面と悪の面があって、魂が2つある場合は天国に行くのか地獄に行くのか…

キリスト教に疑問を呈した(信仰に絶望した)姿なのかな、と思いました。

 

フィルム越しに妻の本音が語られる場面も複雑な構成で難解ですが、監督である夫と女優である妻の特異なコミュニケーションを再現したものなのでしょうか。

バレエ生徒を叱責するサディスティックな姿がおっかないですが、「これであの子はもっと上手くなるわ」…芸術のため己の全てを捧げる人の生活って大変そうです。

「1人では生きられないけど誰も愛せなくなった」…清々しいまでの妻の本音(笑)、でも空虚な現代人あるある。

利己的でありたい悪しき気持ちと、利他的でありたい善の気持ちと…両方の気持ちに板挟みになることはあって、真剣に悩んでる姿がどこかいじらしくも映りました。

 

アンナが地下通路をのたうち回るシーンは改めてみると思ったより短かった…(早く終わってくれと思いながらみてしまう)…あまりの迫力にただただ圧倒されるばかり。

グロい怪物が登場するけどB級ホラー感はなくサイコホラーの趣。ボーみたいに狙いすました感じもなく、話に違和感なく溶け込んでるのが凄いです。

 

生理やら更年期やら…男性からすれば急に機嫌が悪くなる女って悪夢でしかないでしょう(笑)。

その理不尽な恐怖はビンビンに伝わってきました。

絶対に関わりたくないヤバい女オーラが凄まじいですが、真剣に狂ってる姿がある意味真摯で「一体どうしたんだ…」と思いながらグイグイ惹きつけられてしまう…

アジャーニの美しさと狂気に魅せられる作品でした。

 

刑事マルティン・ベック「バルコニーの男」…一気にシリーズものの広がりをみせる第3作目

スウェーデン発、警察小説の金字塔とよばれる「刑事マルティン・ベック」。

昨年鑑賞した映画が面白かったので、原作小説を読んでみようとシリーズを順番に追っていますが、今回は3作目。

ストックホルムの公園で発見された女児の死体。

その僅か2日後には別の少女の遺体が発見され市民は戦慄。

捜査に乗り出すベックだったが、犯人を目撃していたのは強盗犯と3歳の男の子だった…

 

獲物を探すように早朝から往来をじっと見続けるバルコニーの男。〝犯人視点〟の大胆なオープニングが実に映画的、不穏な空気に満ちています。

スウェーデンの初夏は夜中の3時頃から21時頃まで明るいそうで…日が出るや否や覗き行為に出る不審な男、夜まで外遊びする子供達の姿など、異国の景色が日常から逸脱していて、なんとも不思議な雰囲気。

 

今作では新キャラが続々とお目見え、「唾棄すべき男」の映画にも出ていたラーソンがメインキャラクターとして登場します。

身長192センチ、体重98キロの大男のラーソン。

言動が粗暴で、同僚や市民に威圧的な態度をとってばかり。

ベックやコルベリとは仲が良くなく、警察の「ダメな面」が強調されたような男ですが、こういう直感で動くフィジカルタイプ、組織では重宝する部分もあったりするんじゃないでしょうか…

陰鬱な事件にうんざりする気持ちはベックたちと同じだったりして、「アカン奴」だけど人間らしさも感じさせるキャラクターでした。

 

少女の死体が発見された現場の公園で、同じ日に強盗に襲われた女性がいる事を知ったベックは、強盗犯が犯人を目撃しているのでは…と推測。

事件担当のラーソンに一刻も早く犯人を捕まえるように訴えます。

捕まえられた強盗犯は、女性に重傷を負わせて平然とバッグを奪うようなクソ野郎なのですが、尋問の途中から協力的になり、犯人を思い出そうと必死に…

その日公園ですれ違った全ての人間の人相を細かく覚えているのが見事。

「現金を持っている奴かどうか」「抵抗しなさそうな奴か」…入念に人間観察してから犯行に及んでいたからか、犯人と思しき人物の容貌を正確に描写してくるのにはアッパレ。

犯罪者だけどある意味プロの強盗なんだと感心してしまい何だか複雑な気持ちに…

クズのド悪党にも思いもよらない一面が…こういう人物描写はフリードキン映画のようなクールさであります。

 

もう1人の目撃者は3歳の男の子ですが、小さい子に翻弄されるおじさん刑事の姿にドキドキ。

10歳のお姉ちゃんのフォローが的確すぎて主人公より有能に思えてしまいました(笑)。

 

僅かな手がかりを細い糸を手繰り寄せるように掴もうとする警察の苦闘が描かれていきますが、ベックの相棒・コルベリが心中を語るシーンが印象的。

犯人が捕まったら…いずれ捕まるに決まっている…きっとあたかもそれが偶然のなせる技のように見えることも今までの経験から知っていた。

だが、それには犯人を捕まえるその網の目をできるかぎり小さくして偶然というチャンスに少し手を貸すことだと思っていた。

それこそが自分の務めだと認識していた。

これぞプロフェッショナル…!!と讃えたくなる仕事人の哲学に感服。

 

やがて市民の間に恐怖が広がり、自警団なるものが現れ、警官を誤って傷つける事件が発生。

「我々は酔っ払いなどとは違う善良な市民だ」と無罪を主張する自警団のおじさんのイタいこと…

正義感が暴走して他人を平気で傷つけてしまうの、今の世の中でもあるある過ぎる。

私刑(リンチ)を良しとしたら無法状態を生みかねない…こうした危惧を早くから描いていた作品の普遍性に驚かされます。

 

「法の番人」であろうとするベック。

暴力で市民を押さえつけることに懸念があり武器を携帯しないスタイルのコルベリ。

作者の警察官の理想像を垣間見た気持ちになりつつ、市民からの通報をイカれたババアの電話と一蹴したラーソンの〝怠慢〟にリアリティを感じてしまう。

多様な人物の多様な姿が描かれる刑事ドラマに今回も魅せられました。

 

大捜査陣を敷いたものの、結局犯人を捕まえるのがベックたちではなく、もっさりした警官2人が偶然犯人を見つける…という結末もこの作品らしい。(でも間違いなく網の目を小さくした甲斐あっての出来事だった)

 

特に何の理由もなく社会不適合な人物だった犯人…そうした犯人の行動を分析しようとしたメランダー…プロファイリングやコンピュータによる捜査など、60年代の作品とは思えない〝今風な刑事もの〟しているのにもびっくり。

冒頭でベックが出会した平然と性を売り物にする少女など、大戦後いち早く〝成熟社会〟となったスウェーデンの暗い部分を垣間見たようで、前2作にはないスケールを感じさせました。

 

1作目「ロセアンナ」に登場したアールベリとベックが出会った縁を大切にして親睦を深めている姿にはほっこり。

恐ろしい目にあった女性捜査官・ソニアが仕事を辞めずに続けていた事が分かり、その勇敢さに感動。

そして思わぬかたちでロセアンナのことを思い出すコルベリの哀愁漂う姿…など、過去作とリンクする場面がちらほら出てきて、「マルティン・ベックは10冊で1つの作品」という後書きの解説にも納得。

シリーズものの広がりを感じる3作目でありました。

次作はシリーズ最高傑作と名高い「笑う警官」。読むのが楽しみです。

 

「アフター・アワーズ」…ボー元ネタ!?スコセッシの〝不思議の国のアリス〟

「ボーはおそれている」の元ネタとしてパンフレットに挙げられていた作品。

マーティン・スコセッシによる85年のコメディだそうで…

時計のリューズになった首が捻られている、ちょっぴりホラーなビジュアルがユニーク。

仕事帰りのNYのサラリーマンが夜ソーホーに繰り出したものの、小さなトラブルが続いて中々家に帰れない…!!

自分も時々電車に乗り間違えて目的地まで辿り着かない…みたいな夢をみることがありますが、何もかも上手くいかない浮遊した感覚、どうにもならない焦燥感…まさに軽い悪夢を体験しているような97分。

ファンタジックな雰囲気はスコセッシっぽくないと思いきや、冒頭からのスピード感溢れるカメラワーク、音楽と映像が見事にシンクロした卓越したセンスなどは確かにスコセッシ…!!

小粒の作品ながら、圧倒的才を感じる1本でした。

 

◇◇◇

主人公はワープロ技師のポール(グリフィン・ダン)。

職場で仕事の指導をしていると後輩から「こんな仕事本当にやりたい仕事じゃないんだよね」と延々と夢を語られる…冒頭から結構理不尽(笑)。

日頃から聞き役に回ることが多くストレスを溜めやすいタイプなのか、それとも日常に退屈した主人公の心の内を表した妄想的会話なのか…よく分からないけど隠キャオーラ漂う主人公に冒頭からバッチリ心掴まれてしまいます。

会社を退勤後、レストランで本を読んでいると「私もその本好きなの」と若い美女・マーシーロザンナ・アークエット)に突然声をかけられるポール。

ボーイ・ミーツ・ガールなドラマを期待。

電話番号を交換し「今から会いに行くよ」とソーホーに繰り出すも、乗ったタクシーは大荒運転。

全財産の20ドル札が窓から飛んでいき帰りの運賃を無くしてしまい、早くも不穏な空気に…

 

冒頭から貫かれる〝何かが噛み合わない微妙な空気〟。

メモを取ろうとしたらポールペンのインクが切れてたり、自分が話している最中に誰かの電話がかかって来て話が頓挫してしまったり…

不条理が襲いまくる「ボー」と確かに似ていますが、こちらはもっと小さい日常あるあるなのがリアルです。

 

偶然出会った美女と一夜のいい思いができるかもと期待したポールですが、不思議ちゃんを通り越してかなりヤバい女だったマーシー

「元夫はイクときいつもオズの魔法使いの台詞を言うの」…何の話やねん!!な謎会話を連発(笑)。

めんどくさくなったポールは帰宅しようとしますが、小銭が微妙に足りずで電車に乗れず、お金を貸してくれるといったバーの店主とは入れ違い続け、足止めを食らうばかり。(まさにお家に帰れないアリス)

 

その後はなぜか女性に出会す度に関係を迫られまくりますが、監督は女性恐怖症か何かなのか…と思わず疑ってしまうような強烈なキャラクターばかりが登場。

60年代ルックがかわいいウェイトレスのおばちゃんは、自宅ベッドをネズミ捕りで囲んだインテリアがシュールすぎて、メンヘラの匂いしかしない。

アイスクリーム屋の女性は豪快に笑いながら意地悪してくるのがおっかない。

主人公もいい加減で失礼なところが多々あって、痛い目にあってもあまり可哀想すぎないのがまた絶妙な塩梅。

舐められまいと思って強く出たら相手がブチ切れて結局謝り倒すことになるの、アホみたいだけどありそうなシチュエーション。

 

最後に登場する女性・ジューンだけが主人公を優しく包み込んでくれて、まるで〝お母さん〟…と思いきや、町の人から匿うためにと塗料と新聞紙で身体を塗り固められてしまうポール。

自らが石膏細工と化してしまう主人公…このシーン結構ホラーしてて怖い(笑)。

 

しかし次には盗品屋にアート作品と勘違いされ、トラックの荷台に積まれて出荷。

景色は夜のソーホーから明け方のNYへ…最後の畳み掛けが素晴らしい。

気付けば元いた会社のビルの前へ放り出され、彫刻が砕けて中から飛び出したポールはそのまま何事もなかったかのように出社…!!  

 

「つまらない日常」である会社の景色へと戻っていく主人公の姿は、まさに夢から覚めたアリスのよう。

大変な1日を知っているのは自分だけ…朝日が昇ればまた新しい1日で、また今日をやって行くしかない…

平然とデスクに向かう主人公の姿が逞しい…!!

けれどホッとすると同時にどこか寂寞感も漂っていて、変わり果てたポールの姿に誰も一瞥もくれないまま。

皆互いの私生活なんて知ったこっちゃない、あくせく働くばかりの都会のサラリーマンの孤独。

他人に迫られ&追い回されての世界はおっかないけど、誰とも繋がらない無関心な世界はそれはそれで寂しいものなのかも…解放感と同時に冷たさが残る、鮮烈なエンディングにノックアウトされました。

 

アンラッキー続きで家に帰れなくて苛立つところ、関わった女性が理不尽に死ぬところなど、「ボーはおそれている」がこの作品にインスパイアされたというのには納得。

物語というより誰かの意識にダイブしたような映画のつくりも似ていると思いました。

ただ綿密に計算されて作られた感じがする「ボー」に対し、こちらはあまり考えずにセンス直球で作ったような印象。逆に凄みを感じました。

 

カオスだけど魅力的な真夜中のソーホーの景色。

深夜に1人出かけたような背徳感や高揚感があって、ダークなのに観ていてとても楽しかった…!!

スコセッシ、こんな映画も撮っていて凄いなあ。

 

「ボーはおそれている」…過干渉な母親と父親不在の家庭で育った子供の生き辛さ

アリ・アスター監督の最新作、前2作が好きだったので観に行ってきました。

上映時間3時間、普通に長かった(笑)。

個人的にはワンシチュエーションでしっかりホラー映画してた前2作の方が好み。

今回は主人公の精神世界を描いたドラマ要素が強めの作品でした。

ただこの監督の描く家族像は自分の家族とも重なる部分があったりして、ボーに共感もしつつ、クライマックスは観入ってしまいました。

 

(以下ネタバレ)

ボーの住んでいるアパート周辺の治安が最悪、ゾンビものかよ!!な混乱状態でびっくり(笑)。

自分が常に攻撃されていると感じる人の意識ってこんな感じ??

多分リアルを描いているわけではないんだろうなーと思いつつ、動いてないのに警察官に動くな!!と言われ続けたり、水と一緒に飲まないと死ぬ薬に恐怖したり、どんだけ理不尽なんだよ!!と所々笑ってしまいました。

 

帰省しようとしてたのに、鍵をなくして家から出られなくなってしまったのも潜在意識下で「本当は帰りたくないから」…??

オカンが癖の強そうな人なのは、もう冒頭の出産シーンで助産師さんに喚き散らしてるところからお察し。

しかしまさか死亡が大嘘だったとは…自分の葬式をでっち上げてまで息子の愛を試すオカン、恐るべし。

トゥルーマン・ショー」みたいなコラージュのポスターに自分の出会った人たちが映ってるのと、精神科医までグルだったところに1番ビビりました。

 

「正しいことかどうかアナタが考えて決めなさい」と言いつつ、意に反した行動を取ったら後からネチネチ責め立ててくる。

食の安全に拘った結果インスタントフード。変な薬にハマるどころか自ら薬つくって売り出す。

めっちゃ病んでるのにやり手ビジネスウーマンなのがすごい(笑)。

事業が息子のためを思って…の内容になっていて、それが世の母親たちのニーズと合致したのか巨大企業に成長していたのいうのがまた強烈な皮肉。

主人公一人暮らししてるやんと思ったけど、最初のアパートハウスも母親の慈善事業の系列ハウスみたいなものらしいと分かってゾッ。

頭皮にいいシャンプーも販売してるみたいだけど息子がハゲてるのはジョークなのかなんなのか(笑)。

 

束縛的な親から逃れるには自立するしかないと思うのですが、親が経済的に頼れない存在だったり、お金がない状態だと必要に駆られて働くしかない…でもそうすることで親以外の社会との接点が出来て、「ズレ」に気付けたり、自分で選択して失敗する経験を否が応でも重ねていく。

けれど本作のボーのように親が裕福だった場合、そうしたチャンスが逆に奪われてしまうこともあるというのが恐ろしいことだと思いました。

あの名前入りパジャマといい、衣食住全てを支配される怖さ…

母親視点では育てにくい子供だったとか色々推察もされますが、子を守りたい母の愛という大義の下、自由を奪い続けてしまうの、子育ての落とし穴なのかもしれないなーと、割とどこにでもある家族像を描いているように思いました。

 

思春期には出会った女の子への恋愛感情を握りつぶされ、凄まじい性的抑圧を受けるボー。    

「お父さんはヤってる最中に死んだ」「あなたはセックスすると心臓麻痺になる遺伝性の病気」っていうの、本当だったのか嘘だったのか…

自分は「キャリー」の母親を思い出したりもして、お母さんが男に捨てられたのを都合よく記憶改竄して嘘ついたんじゃないかな…と勝手に想像してしまいました。

結局ヤッても死なんかったやんと思ったけど、絶頂した女性の方が死んでしまって…ここは「ヘレディタリー」のガブリエル・バーンを思い出しつつあまりの理不尽さに不謹慎ながら爆笑。

母親に逆らった自分は幸福感なんて感じちゃいけないんだ…幸せになることを恐れているボーの心理状態を誇張したものなのかなと思いました。

 

不条理はさらに続いて、屋根裏にいたお父さんがチンコの化け物として現れるシーン。

徹底的に醜悪な存在として描かれる父親は、母親の男性に対する嫌悪が具現化したものではないかと思いました。(そしてボーはそうした価値観を押し付けられてきた)

「あなたのお父さんは碌でもない人間」「私だけがあなたの味方なのよ」と子供を囲って支配するのも、過干渉オカンあるある。

 

ボーも内心では母親から逃れたい気持ちがずっとあって、演劇の場面では自身の中にある父性への憧れに気付いたり、母親が嘘をついている可能性に思いを巡らせたりしているようでした。

物語に触れることで心が成長するのかと思いきや、また呆気なく泥沼へ…(そんな簡単に人は変われるもんじゃない)

母親の首を絞めて(=人生で初めて大きな反抗にでて)独り立ちするのかと思いきや、またもや「親を失望させた罪悪感」に呑まれてしまうボー。

 

大勢の人が集まったアリーナで行われる裁判のシーン。

親に否定され続けて育った子供は常に人の目線が気になってしまう…常に他人に非難されているような気持ちになってしまう…ボーの心の内を表したかのような心象風景。

ビデオを再生するように、過去に起こった嫌な出来事を事細かに憶えていて、頭の中で繰り返される自問自答。

内心では親のことを理不尽に思って腹が立っているけど、親のことをそんな風に思ってしまう自分がやっぱり悪いのかもしれない…そんな板挟み思考がギリギリと迫ってくるようでした。

案の定、母親の言い分とは全く相容れずフルボッコ、他責思考の母親に育てられた自罰思考の息子のメンタルは結局再生しないまま…

虚しく沈み込むバッドエンドに「ヘレディタリー」と同じく強い敗北感が残りましたが、そこにカタルシスも感じてしまうから不思議。

家族だからといって理解し合えるわけではない…傷つけ合うことだってある…監督の家族観にある種の誠実さを感じるというか、安堵感も憶えてしまいます。

エンドロールではあれだけいたオーディエンスがあっさりと姿を消していて、「他人(自分)のことなんか、人はちっとも見てない、気楽に行こうぜ!」「結局自分の人生を真剣に生きるのは自分しかいない」…そんな気持ちも後に残りました。

 

全体的には面白かったのですが、途中のミザリーパートと森のパートが長すぎて…もっとタイトにまとめて欲しかったと思いつつ、でもあの長さあってこその徒労感なのかな、とも思いました。

一見いい人そうだったミザリーパートの家族は、息子を失った悲しみを埋めるために他人を助けるのに奔走。

表向きには慈善的で高い理想を掲げているような人が、実は身近な人をないがしろにしていて家庭内がボロボロ…こういう人本当にどっかにいそうと思うリアルさで、人の嫌なところを滑稽に&恐ろしく描くのが上手いなーと改めて思いました。

幼い子供の目をしたホアキン・フェニックスは素晴らしい名演技。

遥か年下女子にすすめられたタバコ1本も断れないの切ない…

不機嫌な親を怒らせないように必死に機嫌をとってきて、怒ることが出来ない男の姿がひたすら可哀想でありました。

 

パンフレット、1100円と高かったですが非常に凝ったデザイン。

劇中登場するアイテムのレプリカ的なものが封入特典のように入っていて、世界観に浸れる素晴らしいつくりでした。

アリ・アスター、このまま一生家族映画を撮り続けるのかな…と思っていたら、パンフを読むと次は家族3部作とは離れた西部劇をつくる予定だそうで…他ジャンルではどんなものを撮るんだろうと次作も気になります。

 

自分の中では「ヘレディタリー」がダントツで抜き出ていて、あちらは豪快なストレートを1発決めてくれた感じ。今回は弱いジャブを連打されている感じ。

でもあとからジワジワ効いてくるかもしれません。

色々宗教的な考察とかもありそうですが、過干渉マッマはしんどいわ!!…これに共感する人は案外多いのではないかと思う親しみやすいファミリードラマ。

勝手に色々感じ入って観てしまった3時間、なんだかんだで面白かったです。

 

「ミュート・ウィットネス 殺しの撮影現場」…第2のヒッチコック!?出色サスペンス・スリラー

「ファングルフ/月と心臓」のアンソニー・ウォラーが監督・脚本・製作を手掛けた95年のサスペンス・スリラー。

コメント欄で教えていただき、面白そうなので観てみました。

特殊効果を担当する口のきけない女性ビリー。映画撮影のためモスクワを訪れている最中、本物の殺人を目撃してしまう…

「裏窓」を想起させる、巻き込まれ型サスペンスのストーリー。

緊迫感が凄い前半とユーモラスな笑いとアクションが展開する後半と…途中でトーンが変わりますが、とても面白かったです。

 

(以下ネタバレ)

捻りが効いていて一気に引き込まれる冒頭。

メイクも髪型もザ・ヒッチコック女優の女性が、女装した殺人鬼にメッタ刺しにされますが、なかなか死なない(笑)。

どうやら映画の撮影中らしいと判明しますが、虚構に虚構を重ねた、「悪魔のシスター」のような皮肉の効いたオープニングの掴みが素晴らしい。

撮影終了後、特殊効果担当の女性・ビリーが忘れ物をして1人スタジオに戻ると、今度はポルノ映画の撮影が行われていました。

そっと見ていると目の前で女優が本当に無惨に殺されてしまいます。

閉め切られたスタジオから脱出しようとするビリーでしたが、気配に気付いた殺人犯が後を追って来ます…

 

耳は聞こえるものの、発声障がいがあるヒロインは電話で助けを求めることも叫ぶこともできない…手話で助けを求めようとしても犯人に手を押さえつけられてしまうなど、設定が効果的に生かされていてスリリングでした。

異国の地ロシアが舞台というのも効いていて、終始暗めな雰囲気。

何を話しているか全く分からない警察とのやりとりがもどかしく、言葉の通じない土地でのアウトロー感も際立っています。

 

殺人はフェイクで主人公の勘違いなのでは…と疑心暗鬼になるようなストーリーにはなっておらず、ロシア2人組が真っ黒にしかみえません(笑)。

犯人グループは不法移民の女性に売春させて、ポルノ映画に出演させ、挙げ句過激なスナッフフィルムのため本当に殺害していた模様。

スナッフフィルム愛好家のドンをアレック・ギネスが演じているのにはびっくりですが、もしかしたらこの世のどこかにこんな世界があるのかも…と思わせる設定が闇深。

「怖い映画を楽しんでみている観客の自分」と「リアルな恐怖を追い求めるスナッフフィルム愛好家」が重なったりもして皮肉の効いたストーリーでもあります。

 

とにかく圧巻なのは前半約15分間の殺人犯との追いかけっこ。

主人公を前側に、追跡する犯人を後ろ側においた構図が効果的で、「殺人鬼の視界に入らない回避ポイントまで移動する」ホラーゲームのような緊迫感に手に汗握ります。

主人公が直線ダッシュして犯人が真後ろを追いかけてくる場面は画面がグワングワンに揺れて、出口が遠のいていく…まさに悪夢ってこんな感じ…!!

映像表現もユニークで見事でした。

 

後半は恐怖度が薄めになっていきますが、童顔で線の細そうなヒロインが意外に強い…!!

包丁をバンバン投げつけるわ、マッパになって覗き魔に助けを求めるわ、やれることは躊躇いなく全てやるヒロインが潔くて爽快。

さらに主人公の姉とその恋人の映画監督も巻き込まれててんやわんや。

途中助けてくれる刑事のおっちゃんが味方なのか裏切り者なのかどっちだー!!終盤の展開は「北北西に進路を取れ」のオマージュ??

ラストがちょっと雑で、ディスクの始末を最後まで見届けない組織が杜撰すぎるし、偽装殺人のやり返しをいつの間に仕込んだのか、ツッコミどころは多数。

が、「口の効けないヒロインだからこそ目の表情を読み取れた」というオチは良かったと思いました。

 

主人公の孤軍奮闘ではなく仲間のキャラが登場するのは「ファングルフ」もそんな感じだったと思いますが、この監督さん、アルジェントやデ・パルマのような変態性や孤独感には欠けてる気がします。

でも賑やかなB級映画テイストな後半も自分は好きで楽しめました。

冒頭〜前半の迸る才気は半端なく、第2のヒッチコックと呼ばれたのにも納得…!!

続けて傑作連発できなかったのは残念ですが、まさに掘り出し物の1作でした。

 

印象的な映画の食事シーンをあげてみる

映画の中で度々描かれる食事シーン。

人物の内面を描写する重要な場面になっていることもあれば、特になんの意味もなく誰かがなんか食べてるだけのシーンもあったりして…

個人的に印象に残っている、映画の中の食事シーンをいくつかあげてみたいと思います。

 

◆「フレンチ・コネクション」の高級料理vs安いピザ

麻薬取引を追跡するドイル。

あったかいレストランでステーキだのエスカルゴだのいいもの食べてる敵さんたちとは対照的に、手がかじかむような寒い中、突っ立ったまま相棒が持って来た差し入れピザに食らいつくドイル。

冷めたコーヒーをじゃーっと捨てる姿も…

執念の尾行を一層応援したくなってしまう名シーン。

 

◆「殺しが静かにやって来る」のチキンを頬張るおっさん

雪景色が舞台の異色マカロニ・ウエスタン。

主人公が訪れる無法地帯の村の酒場で豪快にチキンを頬張る賞金稼ぎのおっさん。

口に飯入れたまま喋るわ、ギットギットの油まみれの手をコートで拭くわ…汚いことこの上ないのですが、ワイルドな食いっぷりになぜか見惚れてしまいます。

 

◆「続・夕陽のガンマン」の豆煮を食べるリー・ヴァン・クリーフ

よそ宅に突然上がり込み一家の飯をスプーンでかき食らうリー・ヴァン・クリーフの迫力。

こんな鋭い眼光の人が来たらビビってすくんでしまいそう…

この男只者じゃないと一気に引き込まれる冒頭、そして確かにこいつは「悪い奴」…!!

 

◆「パルプ・フィクション」のバーガーを食らうサミュエル・L・ジャクソン

ビッグマックはフランス語で何と言うか…冒頭から始まる何の意味もない飯の雑談。

「続夕陽〜」へのリスペクトなのか、突撃したチンピラ宅で相手の買ったハンバーガーを横取りして目の前で食べるジュールス。

「スプライトで胃に流してもいいか?」…これ観るとバーガーが食べたくなっちゃいます。

 

◆「イングロリアス・バスターズ」のランダ大佐といただくシュトルーデル

とにかく飯のシーンが多いタランティーノ

ランダ大佐がミルクを飲む冒頭のシーンも「続夕陽〜」っぽかったですが、大佐とヒロインが邂逅するシーンにもドキドキ。

クリームの載ったシュトルーデルはとっても美味しそうですが、ショシャナは緊張できっと味どころじゃない。

最後によその国の名物料理にタバコ押しつけて去っていく姿が実に憎々しく、紳士な態度とすごいギャップであります。

 

◆「或る夜の出来事」のコーヒーに浸すドーナツ

じゃじゃ馬娘とツンデレ男のラブロマンス!?古い作品だけどこれ系ロマンスの元祖で面白いです。

朝食に出てきたドーナツをコーヒーにびちゃっと浸して食べるヒロイン。

それをみて「浸すのは一瞬だけ、ちょっとだけにしてみろ」と自分の流儀を教える男。

庶民の男とお嬢様にも意外な生活の共通点が…2人の距離が縮まる名シーン。

 

◆「スタンド・バイ・ミー」のパイ食い競争

幼馴染のAちゃんは「スタンド・バイ・ミー、何回見てもパイ食い競争のとこしか覚えてへんねん」と言っていた(笑)。

異質でちょっとホラーテイストな感じもしますが、自分もこのシーン大好き。

アメリカってこういうイベントを異常なテンションでやってそうな勝手なイメージ。

 

◆「フレンジー」のイギリス人妻がつくる激マズ料理

連続殺人事件を追う警部の妻は料理教室に通っているらしく、帰宅すると珍料理ばかりを出してきます。

泥水みたいな魚介のスープ、豚の足丸ごとの美的センスゼロの肉料理…

イギリスのメシマズイメージがますます加速。

ショッキングな殺人シーンと裏腹にこういうユーモラスなシーンを混ぜてきて笑わせてくれます。

 

◆「ゴッドファーザーPart2」、3人で食べる始まりのスパゲッティ

若き日のドンの回想シーン。

みかじめ料を払うかどうか話し合いになり、「俺が話をつけてくる」と語るドン。

ドンの奥さんがつくったミートスパゲッティが運ばれ、それを食べるクレメンザとテッシオ。

強い絆の生まれた瞬間…だけど内1人は裏切るんだよなあ…2人のキャラの違いが明確に描写されているのも面白いです。

1であれだけ大きなファミリーになった出発点はこんな小さな食卓からだったんだ…としみじみ感じさせる名シーン。

 

◆「月の輝く夜に」の母娘で食べるトースト

ブコメだけど、全編食べるシーンと言っていいくらい食事の場面が多い映画。

中でも印象的なのは、シェール演じるヒロインが母親と食べる「パンの真ん中をくり抜いて目玉焼きを入れるトースト」。

手料理を振る舞われたニコラス・ケイジが胃袋を掴まれて突然恋に落ちたり、家族が食卓でケンカしたと思ったら仲直りしたり…食べる=生=性みたいな映画で、観るとなぜか元気が出ます。 

 

◆「バベットの晩餐会」、人生の迷いを全て吹き飛ばす最高の食事

高齢化が進む敬虔なキリスト教徒の村。

フランス人シェフ・バベットの一級の料理が人生の良い思い出だけを蘇らせ、許しと感謝の心をもたらす…

言葉がなくても老人たちの表情で伝わる料理の美味しさ。

料理(芸術)の持つ圧倒的パワーに心が清められたような気持ちになる、至高の食事映画。

 

◆「戦場のピアニスト」の命を繋ぐパンとジャム

飢えの恐怖がひたすら迫ってくるような映画。

なけなしの食料を奪われ泣き叫ぶおばあさんと地面に落ちたそのご飯を犬食いする男…小さなキャラメルを一家で切り分ける切実な姿…次の隠れ家に移動するため一息つく間もなく大急ぎで食べるスープ…

ホーゼンフェルト大尉がくれた新聞紙に包まれたパンを受け取り、ジャムを舐める主人公の恍惚の表情にはこちらも生き返ったような心地に…

細い生命線を辿るような食事シーンに圧倒されてしまいます。

 

◆「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」、突撃する息子と食事する父

無謀な突撃を命令され死地に赴くファラミアたち兵士と、その対比として描かれる父デネソールの食事。

ピピンの歌声が鳴り響く中、食事をとるデネソールの食べ方がワイルドというか原始的というか…

ゾンビ映画のようなグロさが炸裂、悲壮感が際立っています。

 

◆「ヘレディタリー」の地獄の食卓

楽しいはずの一家団欒の食事、家庭によってはギスギスした重苦しい空気に… 

妹の死はお前のせいだと長男を責める母親。 

間に入るオトンも限界、息子が気の毒すぎて絶句。

メンタル病みまくりのオカン、フォークの持ち方がもうおかしいって…

思わずうめき声をあげたくなるような、心に突き刺さる地獄の食事シーン。  

 

◆「クレイマー、クレイマー」、父子でつくるフレンチトースト

バラバラだった父子が見事な連携をみせてつくるフレンチトースト。

その成長と絆の強さに目を見張りますが、別れが近づいていて同時に哀しさも込み上げます。

アイスクリームダメ!!のシーンも、ジャスティン坊やが可愛くて心に残る名シーン。

 

◆「カーリー・スー」の宅配ピザとポップコーン

ホームレスの父娘が主人公のコメディ。

基本毎日お腹を空かせているので食べるシーンがやたら多かった記憶。

裕福なお姉さんが注文してくれた宅配ピザにかぶりつくシーン、女の子の食べっぷりが素晴らしい。

この他にも、映画館で隣の人のポップコーンとコーラを勝手に拝借してタダ食いするシーンがあり、めちゃくちゃだけど緩いテキトーさに爆笑。

 

◆「風来坊/花と夕日とライフルと…」、豪快に豆煮を食らうガンマン

とにかく飯をうまそうに食らうガンマン、テレンス・ヒル

画面越しに臭ってきそうなくらい汚い服に身を包み颯爽と登場。

石かと思うくらい硬そうなパンを引きちぎり、フライパンごと豆煮を豪快に食らう姿に皆唖然となるも、こんなに美味そうに完食してくれたら作った方も嬉しいかも(笑)。

 

◆「マッドマックス2」、ワイルドな世紀末の食事

荒廃した未来では人間もドッグフードを食らう…!!

犬缶を頬張るメル・ギブソンがなんともワイルドで格好よく、美味しそうにみえてくるから不思議。

中身はコンビーフにみえますが…

上下関係をしっかり分かっているワンちゃんが賢くて可愛いらしく、その名演技に魅了されます。

 

◆「アルカトラズからの脱出」の変な白いパスタ

トレイに載った不味そうな刑務所メシ。

千切れたうどんにしか見えないけど、向かいの囚人が「パスタは好きかね?」と聞いているので多分パスタ。

ペットのネズミにご飯を分ける囚人と、長い麺を大口あけて啜るホモの「これからお前を犯る」のサイン…アメリカの刑務所ものあるあるが濃縮されたような印象的なシーン。

 

◆「いとこのビニー」、南部のコーングリッツ

ニューヨークから南部にやって来たポンコツイタリア系弁護士がモーテルのダイナーでいただく朝ごはん。

メニューが「朝食 昼食 夕食」とアバウトすぎる(笑)。目玉焼きとベーコンをとんでもない量のラードで焼くのにもびっくり。

ところがここで初めて口にした”グリッツ”が弁護の行末を変える突破口に。

アメリカって地域によって食文化も何もかも違うのかな…そのカルチャーギャップに驚くシーン。 

 

 

◆「脱出」、束の間のあたたかい食卓

田舎で楽しむレジャー休暇が一転して地獄のサバイバルに…

どえらい目にあって帰還した主人公たちを迎える地元の人たちの食卓。

心温かく迎え入れられ、ほんのいっとき全てが洗い落とされたような気持ちになります。

 

最後にグロ系ホラーを3つ。
↓↓↓ 

◆「ビヨンド・ザ・ダークネス/嗜肉の愛」、解体直後に食事する強者メイド

死体を愛する坊っちゃまと彼に付き従う年上のメイド。

死体をバラバラに解体して溶かした直後、着ていたエプロンもそのままに煮物を豪快にかき食らうメイドのおばちゃんが強烈(笑)。

メイドを見てオゲーッとリバースする坊ちゃん、それをニタニタ笑ってみるメイド…一体なんのプレイやねん、と困惑するもなぜか記憶に残る名(迷)シーン。  

 

◆「スクワーム」のスパゲッティ

子供の頃、レンタルビデオ店でグロいジャケ写を発見。「これ観ながらカップラーメン食べれるかやってみようや!」などと言いながら友達とはしゃいでいた記憶…(結局そのときは観なかった…)

凶暴化したゴカイが大量発生し異常を訴えるも、仕事をしない保安官はデートでミートスパゲッティを食べてる最中。

否が応でもミミズを連想させて何とも嫌らしい(笑)。

食欲をなくすような映画なのに飯関連のシーンが印象に残る1本であります。

 

◆「食人族」、食人族の飯を口にする教授

ジャコウネズミを切り裂くシーン、生きた亀をそのまま解体するシーン…目を背けたくなるような残酷なシーンが多いですが、自分が毎日食べている肉魚も命をいただいているものなのだと改めて実感させられます。

現地の調査にやって来た教授は地元の人たちから差し出された人肉を拒まず口に入れる…

違う文化の人たちを見下さず郷にいては郷に従えを実践した教授と蛮行に走った学生たちの対比…

ゲテモノ映画のようでいて、道徳の授業のような大切なことを教えてくれる作品。

 

◇◇◇

食事シーンのある映画、思い起こすとたくさんあって印象に残る場面が多い気がします。

食欲をそそられるもの、人間ドラマを感じさせるもの…それぞれ味わい深いです☆彡