新宿シネマカリテで今月から開催されている映画フェス「カリコレ」にて、ダリオ・アルジェントのドキュメンタリー「PANICO」が上映されるとのこと。
7回ある上映のうち土日は今週のみでしたが、無事チケットを入手できたので観に行ってきました。
2023年制作の作品で、監督は「フルチ・フォー・フェイク」のサイモン・スカフィディ。
以前みたフルチのドキュメンタリーは〝フルチ役を演じることになった男性が途中フルチに扮しつつ本人像に迫っていく”…という凝ったつくりになっていて、自分はまどろっこしい感じがしてノリにくかったのですが、今作はもっとシンプル。
新作の脚本を執筆するアルジェントにカメラが同行し、本人のインタビューや過去映像、関係者の証言を交えていく…というスタイルで観やすかったです。
作品個々の掘り下げは少なめでしたが、時系列順でテンポよく作品を取り上げていってくれて、98分があっという間でした。
序盤の子供時代エピソードでは実妹が登場。
これまで一度も見たことのないアルジェントファミリー、上品で綺麗なおばあちゃま。
写真家だったお母さんのエピソードが語られていましたが、華やかな世界の仕事をやめて家庭へ…(何となく「サスペリア2」のオカンと境遇が重なりますが)母親の仕事をみて感化されたところが多々あるようでした。
最初の妻だったマリサ・カサーレも登場。
「四匹の蝿」の主人公、確かにアルジェントに似てるし、マリサさんもミムジー・ファーマーに似ていて、映画に私生活を投影しているとなって夫婦がぎこちない空気に…
自分は去年アルジェントの自伝「恐怖」を読んだのですが、アルジェント本人の回想と重なる部分が大いにありつつ、今回は他家族メンバー視点で同じエピソードが語られるのも面白かったです。
もう1人驚きのメンバーは「オペラ座 血の喝采」のヒロイン、クリスティーナ・マルシラッチが登場。
アルジェントと仲が悪かったらしく、針を目の下に貼り付けられるのからして過酷な撮影そうですが、ミケーレ・ソアヴィによると「アルジェントがノーブラで撮影したかったシーンがあったのを拒絶して険悪になった」のだとか。
そんな話だったのか…!!と驚いていたら、「監督との関係を一言でいうと?」と問われて涙ぐむマルシラッチさん…一体どんな関係だったんだー!?(笑)
気難しいダリオとやっていくのは大変で怖い思いもしたけど、こうやってドキュメンタリーには出演してくれて敬意を抱いているところもあったのかな…一筋縄では行かないアルジェントとの関係性が垣間見えたようで興味深かったです。
「オペラ座 血の喝采」以降パワーダウン、丸くなっていったという評価は皆同じなんだなーと思いました。
また讃える同業者として、ギレルモ・デル・トロ、ギャスパー・ノエ、ニコラス・ウィンディング・レフンが登場。
確か「恐怖の報酬」のBlu-ray特典にあったフリードキンとの対談にて、「アルジェントは皆好き」と発言して、フリードキンから「皆ではない」と訂正されていたレフン(笑)。
独特で相変わらず癖強そうでしたが、影響を受けたと語っていて、レフンの作品もみてみたくなりました。
デル・トロのお気に入りは「インフェルノ」。
ホットドッグ屋の親父のシーンを「全宇宙の悪意」??とかなんとか言って分析してて、さすが芸術家同士通じ合うものがあるんだなーと、面白かったです。
ホットドッグ屋、確かに度し難い不条理という意味ではあれ以上のシーンはないのかも(笑)。
隣の部屋が針金でいっぱいだったり、館の地下にプールがあったり、常人には思いも付かない狂気の世界。
アルジェント本人も自分の映画のことを〝感覚を投影したもの〟みたいに語っていましたが、現実世界のリアリティとはまた異なる、悪夢のような別世界を作り出せるのがアルジェントの凄さだとしみじみ感じ入りました。
ファンにはお馴染みのメンバー、クラウディオ・シモネッティ、ミケーレ・ソアヴィ、ルイジ・コッツィ、ランベルト・バーヴァも登場。
部屋にオスカー像置いてるおじいちゃんが見慣れない人でしたが、「オペラ座 血の喝采」で製作に入っていたヴィットリオ・チェッキ・ゴーリ。
家族としても仕事仲間としても繋がりが深かったアーシアが1番多くを語っていたように思いますが、「オペラ座の怪人」でのエピソードなど、性的なシーンにはやはり思うところがあったのね…
アメリカに進出した娘に対して拗ねてしまったり、アーシアには束縛的で複雑な愛情がありそう。
フルチのドキュメンタリーも長女と次女とでお父さんとの関係がまるで違っているのが面白かったけど、複雑な家庭事情をみせるイタリアンファミリーに圧倒。
「デス・サイト」以降の作品は取り上げられず、もう終わり!?という感じで、あっという間でしたが、最後のアルジェントの微笑みには、ずっと元気でいてまた新作を見せて欲しいという気持ちでいっぱいになりました。
上映終了後にはトークショーがあって、イタリアンホラー研究者の山崎圭司さんと合同会社是空主宰の鈴木淳一さんが登壇。
フランコ・ネロと映画に出る!?という新情報や「スリープレス」Blu-ray制作時の話、ベストアルジェント作品…など、貴重なお話がたくさん伺えてとても楽しいひとときでした。
映画で語られていたクリスティーナ・マルシラッチとのいざこざの件、そういえば「サスペリア」も「インフェルノ」も乳首透けてたわ…!!と納得(笑)。
入場特典もあって、「オペラ座 血の喝采」の別バージョンチラシがいただけました。
ランダム配布ではなく、公式サイトでどのバージョンがどの回に配布されるか告知していて、複数回みても被らないように配慮してくださってるの良心的。
グッズはTシャツ、ポスターなど売ってましたが、限定200個のアクスタを購入。
アルジェントのアクスタ…!!(歓喜)今どきのオタクになれた気分(笑)。
アルジェント初心者がみる作品というより、ファンがみて楽しむ作品のように思いましたが、テンポがよく情報量が多い作品。もしBlu-rayなど出たらもう1度観たいと思いました。
全盛期の作品を劇場でみれてない人間としては、映画館でアルジェントを味わうことができてとても嬉しかったです。
アルジェント作品、特に「インフェルノ」がまた観たくなりました。