「理由なき反抗」のニコラス・レイ監督、ジョーン・クロフォード主演の54年西部劇。
アメリカの西部劇って普段あまりみないジャンルなのですが、レオーネの「ウエスタン」の元ネタと言われる作品の1つらしく、気になっていたのを観てみました。
女性が主人公で、鉄道敷設という大きな時代の変わり目を背景にしている…「ウエスタン」と共通点はあるものの、作品自体はあまり似ておらず。
主演女優2人の迫力が半端なく、ホラー映画から抜け出て来たような人たちで、なんだか怖かった(笑)。
村の黒ずくめ集団がよそ者を追い立てるわ、嫉妬に狂った女がライバルを縛り首にしようと躍起になるわ…変わった味わいの異色西部劇でしたが、面白かったです。
◇◇◇
西部各地で鉄道建設が始まり、地主と鉄道会社が対立を深めていた時代…
酒場を経営するヴィエナは、部下たちから慕われる女主人。
鉄道敷設の計画を知っていた彼女は前々から周辺の土地を購入し、商売を成功させる強い意志を持っていました。
しかしある日村で駅馬車が襲撃される事件が発生。
事件で兄を亡くしたエマは、ヴィエナの店の常連客であるキッド一味を犯人だと決めつけ、村人と共に酒場に押しかけます。
エマは捜査に協力しないヴィエナも逮捕しろと保安官に詰め寄り、ヴィエナは村人たちに取り囲まれてしまいます。
エマの言い分は証拠がないので完全な言いがかり。
よそ者の定住を嫌い、ひどくヴィエナを憎悪するエマでしたが、実は個人的な事情が…
実はキッドのことが好きなエマ。しかしキッドはヴィエナに惚れていて、恋敵が憎くてたまらない。
権力者の娘でチヤホヤされてきて、自分より目立つ女が村に来たの、許せなかったんだろうなー…厄介な女オーラが半端ないエマたん。
プライドが高くて、惚れた男が自分に振り向かないのがきまり悪く、「皆殺しにしてやる!!」の思考になるの、ヤバすぎる。
演じる女優さんマーセデス・マッケンブリッジは「エクソシスト」で悪魔リーガンの声を演じていた人らしく、迫力あるハスキーボイスでがなり立てて来るのが恐ろしいです。
一方キッド一味も軽薄な困った人たちで、「どうせ有罪になるならホンマに犯罪やったろ…!!」と暴走し銀行を襲撃。
偶然居合わせたヴィエナの金だけは奪わず、協力者ではないかと疑われてヴィエナはますます追い込まれることに…
お屋敷を燃やされ、あわや首を吊られる大ピンチとなったヴィエナを救ったのはギター弾きのジョニー。
実は元凄腕ガンマンのジョニーは、ヴィエナのかつての恋人。
家庭に縛られたくなかったジョニーはヴィエナと上手くいかず別れたものの、お互いを忘れることができず、この村にやって来ていたのでした。
「別れてた5年の間、他の男と付き合ってたんだろ??」…主人公たち中年カップルの会話も生々しくドロドロしています(笑)。
追われた2人はキッド一味の隠れ家を訪れますが、ヴィエナに惹かれているキッドはジョニーの存在が面白くありません。
キッドもイライラしてネチネチ嫌味を言い始めて、本当に面倒くさい人ばかり(笑)。
そこに隠れ家を突き止めたエマたち村の一味がやって来て、ラストは女同士の決闘に…
女性同士が銃で撃ち合う西部劇、なんだかすごく珍しい気がします。
結局生き残ったのは腕の立つヴィエナでしたが、撃ち合いになるとなぜかエマの方に駆け寄るキッド。しかしエマはキッドを撃ち殺してしまいます。
複雑すぎる男女愛憎劇に絶句(笑)。
凄腕ガンマンのはずのジョニーは完全に空気、あれだけ煽動されていた村人は女2人の対決には傍観を決め込む…ラストも異質な感じがして、単純なハッピーエンドではない不思議な余韻が残りました。
赤狩り時代が反映されていると言われているらしい本作。
キッド一味の少年・ターキーが匿ってくれたヴィエナを「密告」する場面は、ギスギスしていてサスペンスフルでした。
対立心や恐怖を煽って邪魔者を排斥しようとするエマのやり口はなかなかに恐ろしく、叩けるものは何でも叩きたい村人たちの姿は〝いつの時代もあるある〟。
一方、変化を恐れる地元の人の気持ちも分からないようではない気がして、主人公は自由で強固な意志を持つアメリカン・ドリームの体現者のように描かれていますが、見方によっては利己的なビジネスマンとも受け取れるのかも…
この時代、こういう対立が実際にあったのかな、と思わせる興味深い設定でした。
冒頭の駅馬車強盗も犯人がキッド一味だったのか結局ハッキリせず、唯一の目撃者のジョニーは口をつぐんだまま…善人不在の曖昧さが全編貫いています。
保安官は全く頼りにならず、銃をかざしながら自分の言い分をぶちまける女性2人がひたすら逞しく映りました。
ジョーン・クロフォードは「何がジェーンに起こったか?」のイメージしかなかったのですが、本作撮影時は49歳だそうで、モテモテの女性を演じてるのが凄い。
ギョロッとした目が大迫力、ガンマン姿が様になっていました。
赤のスカーフ、黄色のシャツ…衣装も目を引いて、茶色一色の西部劇のイメージと大きく異なり、ビビッドなカラー満載なのがユニーク。
喪服姿の村人軍団に真っ白なドレスで迎え撃つのも、対比がきいていて鮮烈でした。
キャストは意外に豪華で、キッド一味の1人はアーネスト・ボーグナインが演じていますが、若い頃からひと目で分かる顔の迫力…!!
ヴィエナの酒場の従業員のうちの1人はジョン・キャラダインが演じていて、女主人にどこまでも忠実な部下。
「お金持って村から出て行っていいよ」と言われても残り続け、「俺なんて家具と同じですから」と応えて主人公に尽くす姿にはシビれました。
原題はJohnny Guitar。
砂嵐舞うなか登場人物たちが集結していく冒頭から波乱の予感がして、「大砂塵」はなかなかいい邦題ではないかと思いました。
ダリオ・アルジェントの自伝には、レオーネと一緒にこの「大砂塵」をみたというエピソードが語られていたので、レオーネのお気に入り作品だったのでしょうか。
エマが屋敷のシャンデリアを撃ち落とし、火を燃え立たせてヒャッハーとなる場面は、なぜか「インフェルノ」のラストで暗闇の母がバンザイするシーンを思い出しました。
なぜだかホラーっぽい味わいの西部劇で面白かったです。