どうながの映画読書ブログ

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「モリコーネ 映画が恋した音楽家」…名曲オンパレード、甘くて優しいドキュメンタリー

ジュゼッペ・トルナトーレ監督が手がけた映画音楽の巨匠・エンニオ・モリコーネに迫るドキュメンタリー。

劇場に観に行けなくて気になっていたのを遅れて鑑賞しました。

157分と長尺。

多数の著名人のインタビューで構成されていて、モリコーネの繋がっていた人たちだから当然と言えば当然なのですが、ロックアーティストや同業者(ジョン・ウィリアムズハンス・ジマーなど)も出演していて豪華な顔ぶれにびっくり。

ドキュメンタリーとしては単調で繋ぎが粗く、映画というより豪華な特典映像やテレビの特番を観ているような感じでした。

生い立ちやトランペット奏者時代を語る前半30分位はマッタリしていて正直退屈だったのですが、「荒野の用心棒」が登場するあたりで一気にスイッチが入りました。

「西部劇にオペラ調の曲が掛かるのが革命的だった」…イーストウッドらの証言も交えつつ、モリコーネ自身は「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」の2作では実力をまだ発揮できなかったという感触だったらしく、「続夕陽〜」から手応えを感じたとのこと。

「黄金のエクスタシー」が鳴り響く中、ブルース・スプリングスティーンが衝撃を受けた大好きな作品だと熱弁を振るう姿にこちらの胸も熱くなりました。

この他マカロニ勢では「復讐のガンマン」のセルジオ・ソリーマ監督が登場。

このドキュメンタリー、新規インタビューだけではなく古い過去映像も多く引用しています。

1つ1つの作品が深く掘り下げられているわけではなく矢継ぎ早に次々と作品が紹介されていく感じですが、モリコーネ本人から「殺しが静かにやって来る」のコルブッチとのエピソードが明かされたり、マカロニパートは全体の中で充実していたように思います。

 

モリコーネの卓越した点の1つとして「常に実験的であったこと」が挙げられていました。

レオーネの「ウエスタン」冒頭は〝ハシゴを軋ませる音を音楽として演奏した先駆的な音楽会〟で着想を得たらしく、動物の鳴き声、水の滴る音など様々な音が音楽として効果をあげている…改めてみると凄い取り組みだったのだと驚かされます。

ジャーロ映画も取り上げられていてダリオ・アルジェントも出演していましたが、思ったより出番は少なくあっさりめ。(アルジェントはゴブリンのようなプログレの方が合う)

でも「歓びの毒牙」の不協和音鳴り響く音楽も改めて映ると不穏で病んだ感じが出ていていいなあと思いました。

 

伝統ある音楽院出身のモリコーネは師匠や同窓生に中々認められず、冷遇されていたそうです。

アカデミックな音楽界では商業的な映画音楽は文化的に劣るものだと低くみられていたそうで…(嫌な話だなあ)

成功の裏で、モリコーネ自身は罪悪感や劣等感に苦しめられていたというのが意外でした。

それでも権威的なものに拘らず、マカロニやジャーロ、B級だろうがどんな作品であっても、その映画に合う1番の音楽を創り上げることに専念してきたモリコーネ

アーティストとしての頑固な一面も持ちつつ、誠実な人柄と根っからの職人気質が伝わって来るようでした。

映画監督とは衝突することも少なくなかったようですが、「監督の思う作品の解釈」を上回るものをモリコーネが出してくる…

アンタッチャブル」で意見が分かれたデ・パルマとも認め合えたようで、作品を/映画を愛する気持ちが一緒だと最終的には上手くコミュニケーションを成立させることができた…こういう遣り取りのエピソードが温かかったです。

甘くて優しい空気の中で1人だけ浮いていたのはオリバー・ストーン(笑)。

ズバッと言いたい放題な感じで、でもこれはこれで観たかったルートかもしれません。

オスカーでの冷遇、「ヘイトフル・エイト」でようやくの受賞に至ったエピソードも描かれていましたが、「彼はモーツァルトベートーヴェン…」と語りだすタランティーノ、いかにも大袈裟なオタクの話し方で思わず笑ってしまいました。

 

綺麗な部分をかき集めたあっさりした印象のドキュメンタリーではありますが、トルナトーレ監督は「ニューシネマパラダイス」で作曲を引き受けてもらえたこと、新人の自分を対等に扱ってくれたことをずっと恩に感じているようで、ザ・真面目、崇拝といっていいリスペクトに満ちた作品でした。

「夕陽のギャングたち」と「遊星からの物体X」がスルーだったのは残念でしたが、自分は知らない作品、観てない作品も沢山あったので興味深く観れました。

 

以下自分用メモで、ドキュメンタリー内で紹介されていた未見の作品で気になったものを幾つか挙げておきます。

◆「殺人捜査」
ルチオ・フルチと親交があったエリオ・ペトリ監督の代表作。  

アカデミー賞外国語映画賞も受賞しているらしく、ジャン・マリア・ヴォロンテと「マッキラー」のフロリンダ・ボルカンが主演とキャストも豪華。

最近タイトルを知って気になっていたのですが、本作では「音楽で印象が劇的に変わってしまう」の見本として見せつけられました。

◆「怪奇な恋の物語」
こちらもエリオ・ペトリ監督作で映像が凄く面白そうでした。フランコ・ネロがパンツ一丁で緊縛されている!?

狂った画家が死体で絵を描いているシーンが出てきて、どんな映画なのかめちゃくちゃ気になりました。

◆「ある夕食のテーブル」
こちらもフロリンダ・ボルカンが主演しているようでした。

作品の内容はよく分かりませんでしたが、全く異なるテーマを交差させたのだという流れるような曲のメロディがとても綺麗でした。

◆「アロンサンファン/気高い勇気」
どっかで聞いたことあると思ったら「イングロリアス・バスターズ」のエンドロールで掛かってた曲。

監督のタヴィアーニ兄弟、「こんないい曲書いてもらえてホントによかったわー」とノリノリでハミングしてるのが可愛かったです(笑)。

歴史物&社会派映画なんでしょうか…リズミカルで重厚感ある音楽、時代劇衣装の人たちが突然踊り出すのがシュールでどんな作品なんだろうと気になりました。

 

次々飛び出して来る名曲と迫力ある映像に、モリコーネは本当に凄かった、この時代の映画は凄いよなーという気持ちが残りました。

そしてなにより「続・夕陽のガンマン」がまた観たくなってしまいました。