「マッキラー」に先駆けてフロリンダ・ボルカンを主演に迎えたルチオ・フルチ監督による71年の作品。
評価が高いようで気になっていた作品ですが、大きな破綻なくストーリーが成立しており、悪夢の描写も圧巻。この時期のフルチは本当に凄かったんだなーと感じ入る1本でした。
ストーリーが少々複雑だったので、まずはあらすじを簡単に整理してみたいと思います。
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ロンドンで裕福に暮らすキャロルは隣に住む自由奔放な美女・ジュリアを殺害する夢をみました。
精神科医にそのことを話すと「奔放になりたい気持ちが奥底にあるが夢の中で彼女を殺すことで良心のバランスをとっている」などと分析されます。
しかし数日後、本当に隣家のジュリアが殺される事件が発生。
現場からはキャロルの私物が発見され警察は彼女に疑いの目を向けます。
キャロルは夫・フランク、その連れ子のジョーン、夫の秘書・デボラらと共に暮らしていましたが、フランクと秘書は不倫の仲でした。
キャロルの父は有名な弁護士で、彼に頭が上がらないフランクは義父の前でだけ良い夫を演じていました。
ジュリア殺害の前日、キャロル父のもとには何者かによる脅迫電話が掛かってきていました。
不倫をバラすとジュリアに強請られたフランクが彼女を殺したのでしょうか。
「キャロルの夢」は精神科医に記録が残っておりそれを事前に知ることができれば、夢をトレースしてキャロルに罪を着せることが可能です。
警察の捜査が進む中、キャロルは街中でみかけたヒッピー2人組が夢の中に出てきた人物にそっくりなことに驚いて後をつけます。
夢の中で彼らはキャロルの殺人をじっと見ているようでその目はなぜか盲目…という不気味な姿でした。
ヒッピーとは直接会話せず遠くから視認し合うだけでしたが、その後なぜかキャロルは彼らにつけ回され殺されそうになります。
警察はヒッピーを逮捕しますが、他の罪は認めてもジュリア殺害だけは「やってない」と抗議します。
そんな中キャロル父が「ジュリアを殺したのは自分だ」とメッセージを残して自殺。
思わぬ犯人の自供で事件は解決したかに思われましたが…
(以下どんでん返しネタバレ)
父親が自殺する前のこと…キャロルは刑事から「脅迫の話を知ったのは?」と問われ「電話で父から話をきいた」と答えていました。
脅迫電話があったことを父親はキャロルに漏らしていませんでした。
それなのになぜ電話があったことを知っていたのか…それはそのとき掛けた側の人間(ジュリア)と一緒にいたから…刑事はキャロルと被害者の繋がりを確信します。
過去に父の仕事を手伝っていたこともあるキャロルは精神鑑定で無罪になったケースを知っており、夢の内容をでっち上げ心神喪失による無罪を勝ち取ろうと画策していたのでした。
しかし脅迫電話の一件は夢相談にもなかった出来事でキャロルが意識のはっきりした状態で殺人を犯していたことが発覚します。
キャロル父は娘と刑事のこの会話を聞いてしまい、娘が確信犯だったことに気付いた…ショックを受けて&娘を庇って自殺したものと思われます。
謎の2人組ヒッピーは確かにジュリア宅にいて事件を目撃していましたが、LSDでトリップしていたため記憶がほぼなく、後日ジュリアの死を知って「もしかしたら自分達がジュリアを殺したのかもしれん」と目撃者だったかもしれないキャロルを逆に殺そうとしてきたのでした。
キャロルにしてみれば「ヒッピーに目撃されてたから心神喪失で行こうと決めたのに、なんであいつら警察に通報しないんだ??」と気になって後を追いかけてしまった…そのあと向こうから襲ってくるのは不可解で追跡シーンの恐怖はホンモノだった…ということでしょう。
ラストはこんなので逮捕の決め手になるのかなー…って強引に感じるところも多々ありますが、てっきり夢オチか何かで終わるのかと思いきや意外に話が緻密に構成されていました。
フルチおなじみの「白いコンタクトレンズの人」が「麻薬で認知がない盲目の目撃者」というハッキリした理由づけで登場するなんてビックリです(笑)。
映像センスも抜群に冴え渡っていて冒頭の夢シーンから一気に引き込まれます。
何かに追われてる恐怖、夢の中でスローモーションみたいに動けなくなる感じ、落下して目が覚める夢の終わり…悪夢をリアルに体感させるようなフルチの映像表現が圧巻です。
白昼夢のような後半の追跡シーンも素晴らしく、天井の高いおっきな建物(ロンドンのアレクサンドラ・パレス)をたった1人で逃げ惑う姿に非日常感と恐怖がたっぷり味わえます。
本作はフルチが逮捕された!?というエピソードを持つことでも有名な作品だそうで、キャロルが逃げ込んだ精神病棟にて生きたまま解剖されている犬に出くわすというショッキングなシーンが登場します。
犬がホンモノにみえてしまったため動物虐待の罪を問われたものの特殊効果担当が「作り物です」と説明に赴いて事なきを得たそうですが、確かにギョッとなる場面でした。
そのほか特撮モノ感ありありの巨大怪鳥が夢に出てくる所と、追跡者とコウモリに同時に追いつめられる緊迫感たっぷりのシーンもよく出来ていて、フルチもこれが気に入って後の作品でも似た場面を採用したのかなあと思いました。
原題A Lizard in a Woman's Skin(トカゲの肌を持つ女)はヒッピー2人組の幻覚証言からとったようで洒落たタイトルに思われますが、当時アルジェントの「歓びの毒牙」(原題:水晶の羽を持つ鳥)のヒットに便乗して動物をタイトルに入れた作品が跋扈していたそうです(笑)。
「マッキラー」のフロリンダ・ボルカンさんは役柄的にもっと線の細いか弱い感じの女優さんでもよかったのかも…と思ったけど、上流階級なのにちっとも幸せに見えない&内側に感情溜めまくった感じがよく伝わってきて演技はすごく良かったです。
最後にお父さんのお墓の前で流してた涙はきっと本物…
優秀だったのに女性だから跡取り弁護士にはさせてもらえず、夫には浮気され、レズの恋人からは脅しの材料に使われ…よくよく考えると踏んだり蹴ったりな孤独な人で、陰鬱人間ドラマ感じさせるところもよかったです。
この時期のジャーロのフルチの凄さが堪能できました。