どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

フリードキンvsアルジェント…!!「クルージング」「歓びの毒牙」をみてきました

ウィリアム・フリードキン全米を震撼させた大問題作「クルージング」が11日8日から全国順次公開。

そしてなんと時を同じくして、ダリオ・アルジェントの初期作品である〝動物3部作〟も一挙公開…!!

この令和にフリードキンとアルジェントの作品が一気に公開されるなんて…盆と正月が一気に来たような祭り状態。(午前十時の映画祭では「スカーフェイス」もやっていて何だかすごい)

今週はひとまず「クルージング」と3部作の中で1番好きな「歓びの毒牙」をみるのに注力。

週末に2本とも鑑賞することができました。

 

まずは「クルージング」から。

この作品はTOHOシネマズとか全然似合わなそう(笑)。シネマートさんの大画面でみれて、大迫力でした。

以前みたときの記事では「不完全B級サスペンス」とか言っちゃって、理詰めでみてしまった気がするけど、今回はいい意味で頭をからっぽにして存分に楽しめた気がします。

大音響のおかげでとにかく音楽がよく、音と映像のシンクロが素晴らしかった。

激しいロック曲→ガールフレンドといるときのクラシック曲…彼女とベッドにいるときにもゲイバーでかかってた曲が侵食してきて、あまりに違う2つの世界を行き来するうちに、アイデンティティが揺らいでいく主人公の混沌をこちらも味わうような心地になりました。

音の良さでいうと、犯人の男性の声もイケボといってはなんだけど、今回印象に残りました。

タランティーノが「フリードキン・アンカット」で〝NYの裏側ツアーに参加している気分になる〟と語っていた、あのSM世界の臨場感は改めて大画面で見ると凄かった。 

バンダナ咥えて踊って、トランス状態になるアル・パチーノの迫真の演技にドキドキ。

後半が失速気味に思ってましたが、どんどんあっち側に行く主人公が鬼気迫っていて充分面白かったです。

結局犯人は1人だったのか、新たな殺人は誰がやったのか…善悪が曖昧で現実的な結末はやはりフリードキンらしい。

描写不足に感じられるところは多々あって、カットされた場面があるというのを知って完全版が見てみたかったと思いました。

改めてみていいなあとなったのは、コインシネマでの殺人シーン。

カウボーイハットの黒人登場→「誰なんだよ!!」の一連のシーンでは劇場が笑いの渦に包まれていました。

 

以前鑑賞した際には、輸入版のBlu-rayでみたのですが、オープニングクレジットが今回とちょっと違っていたように思います。

今回のクレジットは”GONE WITH THE WIND”のように”CRUISING”の文字がデカデカと真横に流れていくスタイル。輸入版では普通にタイトルが出てきました。

バージョン違いがあるのかと気になりました。

 

シネマートさんの愛情溢れる展示コーナー。

しっかり再現されているバンダナ(笑)。ちゃんと説明してくれる店員さん(パワーズ・ブース)、何気に親切だったなあ。

先着入場プレゼントでは缶バッチが配られていて、ギリギリでいただくことができました。

そして物販では〝特別編集雑誌 80年代アメリカ犯罪映画の世界 特集クルージング〟が販売されていて、購入。

「クルージング」公開前後の社会背景や、作品が与えた影響、犯罪映画12本、サントラ解説などめちゃくちゃ濃密な内容。冒頭ページから熱量が凄い…!!

フリードキン来日発言集にめっちゃ笑いました。

知らない作品がいっぱい、まだ全部読めていないのですが、冊子を読んでからまた作品を味わいたいと思いました。

前回みたときより格段に楽しめて、大画面でみるフリードキン映画、もう大迫力でした。

 

続いて、「歓びの毒牙」。

個人的には動物3部作の中でこれが1番飛び抜けてるように思うのですが、こちらも劇場で見ると改めて凄い…!!

冒頭の画廊のシーンの圧倒的美的センス。どんでん返しのストーリー。

これがデビュー作なんてアルジェント才能ありすぎる…!!

アルジェントの自伝を読んでもこの映画の大成功はすごく大きくて、以降も絶対に自分を曲げずに作りたいものを作れた…というところがあるのではないかなーと思いました。

何も知らずにこれ1本で見ても面白い作品ですが、ファンにとってはまさに原点。

以降の作品との共通点を見つけてはついつい喜びに浸ってしまいます。

見ていたものが正しく認識されていなかったという視覚トリックは「サスペリアPART2」、芸術作品が他の狂気を呼び覚ましてしまうところは「シャドー」、犯人の電話音声にあった謎の音を追うところは「デス・サイト」…など様々な作品が頭を駆け巡っていきます。

主人公のガールフレンド(スージー・ケンドール)が追い詰められるシーンでは、「オペラ座 血の喝采」でダリア・ニコロディがドアの覗き窓をみるところを思い出してしまいました。

場面自体がよく似ているわけではないのだけれど、誰か知らない人間が自分の内側に踏み込んでくる強烈な不安感みたいなもの…アルジェントのこういう悪夢の具現化ともいうべき映像に魅せられてしまいます。

黄色いジャケットの男に追われる夜のバスが居並ぶロケーションもやっぱり好きで、こちらも悪夢の雰囲気。

本作も劇場でみると音が抜群によく、鳥の鳴き声にこんな音だったのかーとなったり、最後の犯人の高笑いの声に一層の狂気を感じたり…DVDでみるよりも格段に作品を堪能することができました。


上映終了後にはトークイベントがあって、アルジェント研究会代表の矢澤利弘さんが登壇。

「この作品を5回以上観た方は…初めてご覧になった方は…」とアンケートをとってくださりつつ、初心者にも優しい講義に。

知らない貴重なお話をたくさん伺うことができました。

冒頭に登場する新聞スタンドの張り紙にある〝パエーゼ・セーラ〟はアルジェントの勤めていた新聞社だそうで…自伝をまた読み直したくなりました。

トニー・ムサンテを嫌っていた話は知っていたけど、さらに深い考察が。

撮影監督ヴィットリオ・ストラーロと音楽モリコーネについても解説。(改めて考えてもデビュー作でこの2人がついてるのチートすぎる)

モリコーネを怒らせた逸話も面白く、アルジェントはやっぱりゴブリンが1番…!!と思っていたけど、不穏で病んだ感じがシンクロしていて改めてみると音楽もとても良かったです。

トークの後にはサイン会も開催されて、美麗なパンフレットに名前を入れてサインしてくださいました。思い出になってとっても嬉しいです♫ 宝物にさせていただきます。

 

劇場の物販コーナー。

入場特典でいただけたポストカード。

「わたしは目撃者」と「4匹の蝿」もみたいなあ…

 

 

フリードキンとアルジェント。リアリストの鬼才と現実にはない世界を作り上げる鬼才。

「恐怖の報酬」Blu-ray特典映像ではお互いを称え合う発言がみられたりして微笑ましかったですが、今回みた2作は毛色は違えど人の心の闇に迫った作品。

巨匠2人の作品を映画館で味わうことができて、大変幸せなひとときでした。