全盛期をとうに過ぎた2000年公開のアルジェント監督作ですが、意外によく出来た満足な1本。
オカルト要素ゼロ、原点回帰のジャーロもの。グロ描写は控えめだけど、人が死ぬペースがとにかく早い!!117分の映画なのに90分位に感じちゃう謎の疾走感です。
まず冒頭の殺人シーンからしてかなり良い出来栄え。
娼婦が変な客につかまって帰ろうした際、誤って客の持ち物をうっかり自分のバッグに入れてしまう…
そのブルーのファイルの中には17年前の連続殺人事件の切り抜きがたくさん入っていました。
気付いて追っかけてくる男と深夜人のいない電車の中で鬼ごっこ。スピード感たっぷりの映像にドキドキです。
助けを求めた女性の眼前で電車の窓のブラインドが無慈悲に閉められるところはアルジェントらしいイヤらしさを感じてしまいます。
そして電車の急停止音と女の悲鳴が重なり絶命…映像と音のリンクもばっちり、まだまだ衰えてないと冒頭から期待値グングンあげてくれます。
ホームには娼婦から呼び出された友人が待っていて、てっきり「サスペリア」みたいに主人公交代劇になるかと思いきやこの友人もあっさり殺されてしまうのは意外。
話は警察視点に飛び、17年前にあった連続殺人事件の手口にそっくりな殺人がトリノの街で起こっている…とかつて事件を担当していた老刑事モレッティが捜査に呼び出されます。
モレッティを演じるのはマックス・フォン・シドー。
自宅でオウムを飼っている設定は先日鑑賞した「ナイトビジター」へのオマージュ??かと思ったけど、アルジェント映画はやたら鳥の出演率が高いので関係ないかも。
でもマックス・フォン・シドーのおかげでこの映画の格が軽く2、3段上がってる気がします。
加えて17年前の事件にて母親を殺された少年・ジャコモもモレッティとともに事件を調べることになります。
お母さんが殺されてる際ベッドの下に隠れていて犯人の顔は見れなかったというのですが、トラウマな記憶を再び掘り起こそうとします。
過去の事件と共通している手口は女性が動物に見立てて殺されているというところ。それもある子守唄をなぞっているらしく金田一に出てきそうな殺人ミステリの雰囲気がいいです。
朝の4時に猫の声、水に放り込んで溺れさせたとさ。朝の5時にうさぎを潰す。暴れてかみついて大人しくなった。朝6時白鳥の首をスッパリ。そうして最後の敵が死んだとき夜が明けると農夫はベッドへ。道具をしまってやっと眠りについたとさ。
不気味なこの詞を書いたのはなんとダリオの愛娘アーシア・アルジェントだそうで…どっか病んでますな。
見立て殺人が見所の1つではありますが、白鳥=バレエのプリマ 猫=バーzooで猫のコスプレしてる女性…まではいいけどウサギ=出っ歯の女性って雑すぎないか。
被害者が続々と現れる中、モレッティとジャコモは17年前に容疑者として上がっていたヴィンチェンゾという男の自宅を捜索することにします。
したためていた小説の内容が事件の内容と酷似していたこと、小柄な人物という目撃情報が合致してことから犯人とされたヴィンチェンゾはその後謎の死を遂げていました。
警察はヴィンチェンゾの墓を掘り起こしますが、なんと死体が消えている…!!
果たして犯人は模倣犯なのか、蘇ったゾンビか何かなのか…
地道に調査を続けたモレッティは重大な手がかりを発見するも犯人と思しき人物に詰め寄られ死亡、そのヒントを受け継いだジャコモが真相にたどり着きますが…(以下ネタバレ)
何と犯人は主人公の幼馴染ロレンツォでした。
17年前の事件は犯行の範囲が狭かったのに今回の事件は地域が大幅に拡大している→→犯人は昔子供だったけど今大人になってる奴!!
いくらなんでも推理飛躍し過ぎだろと思うけど、なんかコイツ最初から怪しかったです。
この作品アルジェント映画には珍しく伏線っぽいもんが回収されていて、
・子供だったジャコモは母親が殺される際にシュッシュッという謎の音を耳にしていた
→アレルギー持ちのロレンツォが薬を吸引する音だった
・主人公を狙ったと思われる毒入りビールをロレンツォが誤って飲んでしまった
→疑いをそらすため自作自演でロレンツォが飲んだ
何より怪しいのは主人公と半裸で語り合うシーン、
「父は僕に失望してる。それでも息子に期待して色んな国に送った。」…親が息子の殺人を隠して且つ更生させるため街から遠ざけてたって如何にもな話。
アルジェントの過去作「サスペリア2」ではカルロという主人公の親友ポジのキャラがいましたが、あのカルロ役を演じていたガヴリエレ・ラヴィアが本作では息子を庇う父親役を演じている…とサスペリア2を反転させたような役回りでファンはニッコリしたくなります。
途中犯人が万年筆を落としたという描写の後でロレンツォ父が手元にペンがないと探る場面もアルジェントらしからぬ余裕のミスリード。
きちんとミステリとして評価してもよさそうなもんですが、場面転換がやたら多い、それっぽい人物に疑いを散らすためとはいえ登場人物もやたら多い、説明臭いセリフもわんさか…と普通の映画に収まってないところが流石アルジェント。
犯人のサイコっぷりに深い陰鬱ドラマ感じさせるところがあるのも確かで、濡れ衣を着せられ非業の死を遂げた小人症のヴィンチェンゾの人生を思うとめちゃくちゃ可哀想です。
お母さんは息子のことずっと信じてたのに皆と見た目が違ったために余計な偏見の目にさらされ、これ以上辛い目に遭わないようにと母ちゃんが息子殺した…ってドラマが悲しすぎて、殺人鬼の息子庇ったロレンツォ一家と対比すると余計に虚しく感じます。
「この17年安眠できないまま」…スリープレスってこっちだったのかー!!っていう。
かなりの凶悪犯だったロレンツォ、主人公を呼び出したのも苦しむ姿をみて楽しみたかったから…どこか歪んだ愛を感じてしまいます。
最後は科学捜査に頼る警察も実はしっかり仕事してた…ってオチになっているようですが、証拠も取り揃ってない犯人を後ろ姿だけで判別して豪快に射殺…イタリアンポリスが1番恐ろしいわ…!!
アルジェント映画にしては破綻少なくグロも控えめ、美女が少ないのは物足りないかもしれませんが、しっかり陰鬱家族ドラマしてて所々に〝らしい〟いたぶり描写はたっぷり、ゴブリンの曲もしっかりハマってて満足度の高い1本でした。
↓↓元ネタ作品!?のエラリー・クイーンの小説を読んでみました。