どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

エラリー・クイーン「Yの悲劇」を読んでみた

先月ダリオ・アルジェントの「スリープレス」のBlu-rayが発売されました。

特典盛りだくさんでめちゃくちゃ嬉しい内容だったのですが、アルジェントはエラリー・クイーンが好きでかなり影響を受けているとのこと。

エラリー・クイーン…名前は知ってるけど読んだことない…

犯人についてネタバレを喰らってしまったものの元ネタだという「Yの悲劇」を読んでみました。

全米一裕福だと噂され、同時に悪評轟く異形の一族の一員、ヨーク・ハッターの腐乱死体が発見された。死因は毒物によるものと判明する。

その後ハッター家では奇怪な毒殺未遂事件が発生し、ついにエミリー夫人がマンドリンで殴殺される。

シェイクスピア俳優ドルリー・レーンの推理が明かす思いもよらない犯人とは??

 

(以下ネタバレ)

犯人は子供…という壮絶なネタバレを喰らった状態で読んだわけですが、盲目の目撃者による証言が「身長が低い&肌がスベスベ」…ニブチンな自分でもこれは序盤で気付いたんじゃないかなあ。(←あとからでは何とでもいえる)

子供の描写が13歳にしては幼すぎて7〜8歳くらいじゃないの??と思いましたが、幼い子だとあんまりなので無理矢理年齢を引き上げたのかも。

1932年当時ではかなりショッキングな結末だったことでしょう。

 

でも面白かったのは犯人の意外性云々よりも見事な伏線回収。

犯人・ジャッキーは死んだ男主人が遺した小説のアイデアメモを真似て遊んでいただけだった…幼さゆえトレースを優先するばかりで所々合理性を欠いた突飛な事件になってしまった…このプロットの隙のなさに圧倒されました。

冒頭自殺を遂げた男主人・ヨーク・ハッターの遺体は損傷が激しかったらしく、実は生きていて真犯人なのでは??と思わせます。

子供が殺人事件をマネするよう仕向けていて実は全ての黒幕だった…金田一少年露西亜人形殺人事件みたいなオチを予想しましたが、全然そんなことはなかった。

でも長年妻に虐げられた男がその憎しみを消化するために書いた小説のプロット、それが思わぬかたちで現実の人間を殺す…「架空の暴力が伝染する」という筋書きがとても面白かったです。

 

残念だったのは人物描写があっさりめなところで、家屋や町の雰囲気なども含め「ドラゴンタトゥーの女」や横溝正史作品にあるような不気味さ、閉鎖的なコミュニティ感が全くありませんでした。

主人公探偵が「この一族には異常な血が流れている!!」と今だとお蔵入りにさせられそうな遺伝差別の台詞をバンバン口にしていて、一族の病が母親の梅毒が原因であることが示唆されていました。

…が、そんなに言う割には普通のギスギスした家族って感じで異常な家族感があんまり伝わってこない…

苛烈な性格の母親が障害のある異父姉にかかりきりで家族仲が最悪だったというけれど、一方で憎悪を撒き散らしつつ一方で愛に満ちている…こういう人の矛盾と魅力、悲劇性みたいなものが描写出来ておらず、「フェノミナ」の母ちゃんの方がよっぽど怖さと哀しみ感じさせたなーと物足りなかったです。

 

しかしビックリだったのはラスト。

犯人の少年が小説の内容で満足できなくなってしまい、そこから逸脱してさらなる残虐な犯行に手を染めようとするところは真に迫っていて怖かったです。

そしてそんな犯人をみてなんと探偵が子供を独断で処刑…!!…したらしいことがラストに示唆されていました。

元の殺人は小説が犯人みたいなものなのでこの罪では裁けない…けど確実に殺人衝動を抱えた子供を放置しておけないので毒をすり替えて殺した…

ジイさんの中では筋を通したつもりなんだろうけど真相掴んだ地点で警察に報告した方がよかったんじゃないの??…探偵が「この一族は異常だから」と子供を切り捨てて殺すという衝撃的な陰鬱エンドでした。

この1作だけだと完成度が高いオチに思えますが、このジイさん他の作品でも主役やってるみたいで主人公にするにはクセが強いように思われました。

アルジェントの「スリープレス」とは犯人像はもちろん楽器を凶器にしたところ、童謡にインスパイアされて事件が始まったところ、疑いの目を逸らすため毒入りビールを犯人がわざと飲むところ…など確かに共通点が多々見られました。

小説がもとで現実に殺人事件が起こってしまうプロットは「シャドー」とも似ています。

初期のジャッロ「わたしは目撃者」も「Yの悲劇」を題材にしているそうで、盲目の目撃者、殺人は遺伝する説、毒入りミルク…と成る程、読んでみると元ネタの宝庫でした。

古めかしく思うところも多々あったけれど、色んな形でその後のミステリや映画にも影響を与えたんだろうなーと納得の名作ではありました。