どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ジャーロ」…いつもと違う冷淡さのアルジェント

2009年のアルジェント監督作。

映像といい音楽といいラストの幕引きといい「らしくない」作品でファンサービスたっぷりだった「スリープレス」とは大違い。

以前観たときには物足りなく思われたのですが、改めて観るとこれはこれで味わいがあって悪くないかも。

陰鬱ラストに余韻が残る作品でした。

北イタリアの都市トリノで外国人美女ばかりを狙う誘拐殺人事件が続発。

犯人の手口は偽造タクシーを走らせ女性を隠れ家に拉致するというものでした。

冒頭トップバッターで犠牲になるのはなんと日本人女性。(雨の中タクシーに乗る姿が「サスペリア」っぽい)

監禁された女性は散々首と顔を切り刻まれた挙句捨てられてしまいます。

次に標的となったのはモデルのセリーヌエルサ・パタキ)。

突然消息を絶ったセリーヌを探して姉リンダ(エマニュエル・セニエ)は猟奇殺人事件専門のエンツォ警部(エイドリアン・ブロディ)を訪ね、2人で捜査することに。

先の日本人女性が犯人に遺棄されるも奇跡的に息を吹き返し、死に際に言葉を遺します。

音声を録音していたエンツォ警部は知り合いの日本人に翻訳を頼みに行きますが、「タスケテー」しか言ってないのに「仏教の魂について語っている」などとトンデモ翻訳をする魚屋のお兄ちゃん(笑)。

メッセージの中には「犯人はオウショク」という謎の言葉があり、それをきいたリンダが「犯人は黄疸なのでは」と神推理。

黄疸患者のカルテを調べようと病院を訪れると犯人と鉢合わせになりますが運悪く取り逃し。

判明した犯人の住所に向かうも監禁場所は別の場所で何も得られないままになってしまいます。

一方妹のセリーヌは逃亡をあきらめておらず勇猛果敢に犯人に挑み一度アジトから脱出。

しかし再び捕らえられてしまい、姉リンダの情報を伝えることで犯人と取引しようとします。

リンダの下にやって来た犯人は「外国行きの航空券と薬を用意すれば娘の居所を教える」と交渉を持ちかけてきました。

リンダがそれに応じようとした矢先、エンツォ警部が現れ、揉み合って犯人は転落死。

結局セリーヌの監禁場所は分からずじまいになってしまい、リンダはエンツォに「あんたのせいよ!」と罵詈雑言を浴びせかけます…

 


男女コンビによる犯人探しですが「サスペリア2」のような楽しい掛け合いは皆無、終始どんよりした雰囲気の本作。

犯人の顔があっさり序盤から登場するのも驚きで、犯人予想の楽しみは全くないというかそこには全く重きを置いていないようです。

エイドリアン・ブロディは特殊メイクで犯人と1人2役だったそうで、これを聞くとまた違った味わいがあるように思えます。

エンツォ警部は幼い頃母親を目の前で惨殺されたという悲惨な過去の持ち主。

ある日偶然再会した犯人をメッタ刺しにするも警察からは一切お咎めなし…なのにはビックリですが、「誰も俺と組みたがらない」と語り警察の地下に1人引きこもる姿はまるでオペラ座の怪人

被害者女性を一刻も早く助けたいというような熱意はまるで感じられず、けれど犯人の薬だけはしっかり捨ててたり、ラストも逮捕のことなど頭になくハナから殺る気満々にみえたりとどこか独り善がりに映ります。

 

かたや娼婦の母親に捨てられ修道院に引き取られるも持病で見た目が違うことをからかわれてイジメに遭い、美しい女性に憎しみを向けるようになった犯人。

かたや母が殺された光景が忘れられず女性を狙う殺人犯への憎悪を燃やし続ける警部。

「自分は人から理解されない」と心を閉し暴力で感情を消化しようとする人間というところでは同じで、そんなこんなで1人2役だったのかもしれません。

パートナーだったはずのリンダから罵られるエンドが仄暗いけれど印象に残る名シーン。

犯人の交渉に乗ったとして本当の居所を喋ったとは限らないというエンツォ警部の指摘はもっともで、リンダもリンダで思慮を欠いていて短絡的だと思うのですが…

〝信頼〟の「ダークグラス」に対しこちらは不信、利己的で冷たーい感じが突き刺さります。

セリーヌは地下駐車場の車のトランクに閉じ込められており、見回りの警官が気付くのか気付かないのか、どっちだー!?ってところでエンドロールが流れてきて、いつも犯人の破滅でババーンと終わることが多い気がするアルジェント作品の中では異端な感じのする幕引き。

どっちともつかない不確かさ、厭世的な感じが残って、でもこれはこれでカッコいい終わり方だと思いました。

 

捜査の協力者がいる部屋の壁に「続夕陽のガンマン」のポスターが貼ってあったり(大師匠レオーネ)、通り過ぎる街にある映画のポスターが「ジュノ」だったり(主人公たちがアルジェントについて語る場面がある)、細部が個人的には気になりました。

タイトルの「ジャーロ」は”イタリア製サスペンススリラー”のジャンルそのものを指すとともに、〝黄色〟を意味する言葉。犯人が「オウショク」なのもそこからとったのか複数の意味が込められているようですが、そんなタイトルと裏腹にジャーロらしさは全く感じられない作品。

アルジェントにとっては新境地を開拓しようという意気込みのあった作品だったのかもしれません。

改めてみると色々想像を巡らせることができて味わいのある1本でした。