どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「見えない恐怖」…イギリス製、仄暗い盲目サスペンススリラー

主人公が盲目のサスペンススリラーといえば「暗くなるまで待って」とこの作品が思い浮かびます。

昔VHSの叩き売りで拾ってみたらアタリだった静かな良作。

冒頭エルマー・バーンスタインの曲が鳴り響くなか映し出される星マークが付いたブーツを履いた謎の男。

暴力映画をみたあとの軽い足取り、飲食店で足を投げ出す傍若無人な態度。

姿は映らなくても粗暴な性格が伺えて、自分を見ようとしない富裕層や女性に対する怒りや嫉妬の感情まで伝わってくるような、静かな演出が秀逸です。

一方盲目の主人公であるサラが住むのは広いお屋敷。視力を失った姪を引き取った叔父・叔母・いとこは良い人そうです。

しかしベンツに傷を付けられた叔父が「大して働きもしないで人の生活を羨む奴が犯人だ」とこぼしたり、忙しなく動き回る庭師がずっと不愛想で優雅に映る裕福な一家の姿との対比に冷たいものを感じたり…イギリスが舞台だからか階級差を垣間見たような独特の暗さがあります。

 

ブーツに汚れを引っ掛けたというだけで??犯人の怒りを買って突然惨殺されてしまう一家。

殺しのシーンを一切映さず盲目のヒロインが現場に帰ってくるという展開がサスペンスフル。

死体の見せ方もさりげなくサッと映り込むなど大仰に見せないのが普通の映画と大きく違っていて、返ってギョッとさせられます。

サラが盲目になった理由はハッキリと明かされませんが、乗馬が趣味で落馬事故に遭ってしまったのでしょうか。密室劇かと思いきや馬で逃亡するという展開も意外で面白いです。

ジプシーの人たちの集落に行き着いて助けを求めるも犯人の落としたブレスレットを息子のものだと勘違いしたお父さんがサラを助けず小屋に閉じ込めてしまいます。

差別される側の人間も善人じゃないというのがまたほろ苦い。

酷い目に遭ってもあきらめず助けを求め続けたサラを恋人・スティーブが捜索中に発見。

保護されるサラでしたが、なんと犯人はスティーブの下で働く青年でまたも犯人と鉢合わせになったサラは殺されかけます。

 

なんかもうツイてるのかツイてないのかどっちやねん!!って感じの主人公。

死体や血の臭いで異変に気付いたりしないのかなあ、サラが視力を失ったのは最近の出来事っぽいのにこんなに機敏に動けるものなのかなあ…と細かいところで色々思ってしまいましたが、弱々しそうなのにどこか意志の強さも感じさせるヒロイン、ミア・ファローはハマり役。

以前この作品を観たときには「激突!」みたいに犯人が映らないままの方がカッコよかったなー、最後は恋人に助けられるよりもヒロイン自身がやり返してほしかったなー、なんて思ったのですが、犯人は身近にいたけどよく知らない人間だったというオチも悪くないし、泥まみれのミア・ファローは充分すぎるほど頑張ってて彼氏に助けられるエンドは現実的でよかったように思われました。

ボーイフレンドが変わらない愛をみせ、障壁を乗り越えて結ばれようとする雨の中の乗馬シーンは暗さ漂う全編の中唯一美しかったです。

 

ラストに映る野次馬たちの目線は冷たくてイヤーな感じ。

映画をみていた自分の姿を合わせ鏡に映されたような気持ちにもなって、なんとも言えない暗さが残りました。

ヒロイックで感動的な「暗くなるまで待って」の方が完成度は高いと思いますが、こちらはまた違った趣があって、ジャーロっぽい雰囲気も含めてとても良かったです。