どうながの映画読書ブログ

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「群盗荒野を裂く」…革命と友情、異色マカロニ・ウエスタンの傑作

ジャン・マリア・ボロンテ主演、社会派監督として名高いダミアーノ・ダミアーニ監督による66年のマカロニ・ウエスタン。

ボロンテが「夕陽のガンマン」とまったく異なるイメージの役を演じているらしく、未見だったのを初鑑賞。

格好いいガンファイトなどはなくあまりマカロニらしくない作品だったけど、すごく面白かった…!!

メキシコ革命を舞台にした作品で、奥深い。

スピーディにアクションが展開する娯楽作でありつつ、ストーリーは二転三転してサスペンスフル。

ワイルドバンチ」が好きな人には絶対に刺さりそう。

男の友情(を超えた何か)に胸をギューと掴まれつつ、ラストの素晴らしさにノックアウトされました。

 

◇◇◇

1910年代…革命軍と政府軍の争いが激化するメキシコ。

野盗団のボス・チュンチョ(ボロンテ)は政府軍から武器弾薬を奪い、革命軍の将軍・エリアスに売りつけていました。

ある日政府の輸送列車を襲撃した際、アメリカ人青年・ビルと出会います。

野盗団に協力したビルを仲間に引き入れた一味は軍施設への襲撃を繰り返しますが…

 

冒頭の列車襲撃シーンから先が読めず面白い。

線路上に磔にされた将校。

襲撃から逃れるためには上官を轢き殺さなければならないが、その決断ができない兵士のジレンマ。(上官も俺の屍を超えていけ…とは言わない)

組織に属する人間は大変ですね…

 

結局自らも死ぬことで列車を押し進めた中尉でしたが、謎の青年ビルが運転士を殺害しなぜか野盗団に協力。

護送中の賞金首を装ったビルは「行く当てがないから」と野盗団の一味に加えてもらいます。

一体ビルの目的は何なのか…ベビーフェイスのルー・カステルがミステリアス。

自分と違って学があり、意外に度胸もあるビルをチュンチョは高く買って気に入った様子。

 

その後も矢継ぎ早に襲撃を繰り返す一行でしたが、他のメンバーも皆個性的で破天荒な者ばかり。

チュンチョの弟だというサントは神父なのに人を殺しまくるとんでもない奴ですが、一味が金儲けではなく無償で将軍に協力していると信じているピュアな人間でもあります。

三位一体を唱えながら手榴弾投げつけるクラウス・キンスキーがアナーキーすぎる(笑)。

 

気の強そうな美人・アデリータはチームの紅一点。

盗人猛々しく強奪したドレスを艶やかに着こなすも、「地主に14歳のとき暴行された」と語る悲惨な過去の持ち主で、権力者には容赦ない…!!

 

あるとき一行は政府軍から解放されたサンミゲルの村に身を寄せ、そこで機関銃を手に入れることに成功します。

革命の同志たちに共鳴し村に残ろうとするチュンチョと、「さっさと武器を売りに行こう」と金銭第一なメンバーとで意見が対立してしまいます。

権力者を倒すまではいいものの、次のリーダーを選んで自分たちでやっていくことの難しさ、自衛できる兵の育成の課題など、その先が大変なんだという村の描写が何ともリアル。

村ではチュンチョをリーダーにと推す声が上がるも、自分は読み書きできない、地元の人間じゃない…と辞退するチュンチョ。

名誉欲に溺れるかと思いきやなかなか筋の通った奴…!!

何の躊躇いもなく兵士を殺したり、ときには仲間を撃ったり…ろくでもない悪党に違いないチュンチョですが、刹那的にそのとき自分の思った通りに行動する、嘘偽りない生き様はどこか眩しく映り、不思議と魅力を感じる主人公であります。

 

仲間と別れて村に残ることにしたものの、機関銃を盗られたことを知ったチュンチョは、一味の後を追いかけて結局合流。

しかし途中出会した政府軍との戦いで一味はほぼ壊滅してしまいます。

2人残ったチュンチョとビルは武器を届けに将軍の下へと向かうことにしますが…

 

(ここからどんでん返しありネタバレ)

武器を届けると、「村が政府軍に襲われて壊滅した」という衝撃の知らせが。

「お前が金儲け優先で村の武器をここに持ってきたからだろ」と遠回しに非難され、死刑宣告されてしまうチュンチョ。

言い訳するかと思いきやチュンチョは進んで刑を受け入れます。

大局的に物が見れないアホゆえ翻弄されるけれど、筋だけは通っているから何とも見上げた奴。

ところが、そんな中ビルが将軍を狙撃し暗殺…!!

何とビルは政府軍から雇われたヒットマンで、将軍を殺るために一味に潜伏していたのでした…

 

何となくビルの目的は中盤から読めるものの、終盤さらに話が二転三転。

ギャラの10万ドルの半分をチュンチョに差し出し、2人でアメリカに行こうと誘うビル。

金貨に魅せられ、貴族的装いに身を包み人生を再出発させようとするチュンチョでしたが、駅で並んでいるメキシコ人たちを押し除けて横入りするビルの姿をみて、一瞬で我に帰ります…

金のことしか考えてないふんぞり返ったクソ野郎はくたばりやがれ…!!

突然友をピストルで射殺するチュンチョ。

最後の最後に自分を偽ることを拒否したボロンテの姿がこれまた刹那的でありつつも美しかったです。

 

いかにもこの年代の左翼映画というムードではあるのですが、説教臭くなく、視点がフラットなのが奥深いと思いました。

途中に登場した地主夫婦は、権力者サイドの人間で、農民を搾取していた悪い奴なんだろうと察せられますが、野盗団に妻が毅然と立ち向かい、夫婦愛し合っている姿をみせるところには善性を感じさせます。

一方チュンチョたち一味は表向きは正義の革命を謳いつつも、実はそれに便乗して金儲けしたいだけの欺瞞に満ちた人間だったりして、各人物の立ち位置が複雑。

どんな人間にも善と悪の一面が…のキャラクター像が魅力的です。

 

抜け目ない計画的犯行で見事ターゲットを仕留めたビルは、自分の利益をどこまでも追求する冷徹なアメリカ人ビジネスマンとして描かれていました。

「好きなものは金」と割り切った答えが清々しい(笑)。

でもチュンチョや途中アデリータにも「一緒にアメリカへ…」と声をかけていたあたり、こいつもやっぱりどっかで寂しかったんじゃないでしょうか…

ただの裏切り者キャラにはなっていなくてどこか憎めず、銭ゲバ野郎が利害を度外視して誘ったアメリカへの旅…自分と正反対のチュンチョに強く惹きつけられていたのでは…とBL脳が炸裂せずにはいられないクライマックスに悶えました。

 

年代的には反ベトナム戦争のムードと一致しそうな本作。

お互い惹かれるものがあっても、違う国に属すものどうし相容れないものもある…差別している特権階級は自分が差別しているとも思っていないけど相手の逆鱗に触れることもある…別離の結末にリアルを感じました。

祖国を見下し自分さえ良ければいい主義な友の醜悪さを目の当たりにしてふと我に帰る、ラストの何でもない展開が胸熱。

何より「自分はこういう人間だ!」と開き直ったかのような主人公の笑顔が爽快で、ありのままの自分でいることを選んだ姿に誠実さと救いを感じました。

 

原題:Quién sabe?(知ったことか)…人には理屈どうこうではなく説明できない感情で動く瞬間がある…タイトルもカッコいいですね。

(自分は邦題はそんなに悪くないと思いますが、英題:A Bullet for the Generalは完全なネタバレでよくない)

底抜けに朗らかでありつつどこかノスタルジックなメキシカンな音楽もピッタリ。

マカロニ・ウエスタン本当にいろんな作品があるなあ…と感心の傑作でありました。