昨年みたモリコーネのドキュメンタリーで取り上げられていて気になっていた70年のエリオ・ペトリ監督作。
アカデミー賞外国語映画賞を受賞しているそうですが、国内では未ソフト化。
観るのが困難な作品だと思っていましたが、八点鐘さんのブログで取り上げられていてなんとAmazonで配信されているとのこと。
これは今観るしかない!!と早速鑑賞してみました。
主演は「夕陽のガンマン」のジャン・マリア・ボロンテ、「マッキラー」のフロリンダ・ボルカン。
社会派ドラマの要素が強い知的な作品でしたが、サスペンスとしての作りも巧み。
犯人視点で話が進み、途中回想がインサートされるも主人公の考えが全く分からないまま話が突き進んでいく…こういう時系列交差の作品は当時は今ほど主流ではなかったかと思いますが、全く先が読めず今観ても斬新に感じられる作品でした。
(以下ネタバレ)
愛人女性を殺害する主人公。
指紋もそのままに部屋を荒らしまくり、「死体を発見した」と自ら警察に通報。
わざと足跡やネクタイの繊維を残すなど、どうみても捕まりたいとしか思えない不自然な行動が謎めいていて、冒頭から一気に引き込まれます。
なんと主人公は警察のお偉いさんで、どうみても怪しいボロンテを捜査陣はなぜかスルー。
主人公の不可解な行動は「権威ある立場にある自分も公平に捜査されるかどうか」確かめてみたかったのでしょうか。
女性の夫が犯人だと記者にウソ情報を垂れ込むなど、強かに権力を利用したかと思えば、挙がってきた容疑者を全力で庇う…主人公の行動はアンビバレントで何が目的なのか分かりません。
警察の中ではカリスマ的リーダーであるものの、愛人女性との回想では「小さい男」と罵られて動揺する情けない一面もある主人公。
強い男を演じなければならない人のプレッシャーとストレスは伝わってきて、手中にある力を使ってみたい気持ちと、自分を是正してくれる己よりも大きな存在がいて欲しいという願望がひしめき合っている…複雑な男をボロンテが見事に演じていました。
警察が1番近くにいる犯人に気付かない(気付こうとしない?)のが間抜けで、とてもシニカル。
警察官が証拠のない容疑者を大勢で取り囲んで恫喝していたり、公然と盗聴が行われていたり、警察の暗部が描かれています。
前半にあるボロンテの署内演説シーンが圧巻ですが、赤狩りを連想させるし、ザ・独裁者な佇まい。
けれど「同じ犯罪でもテロ行為であれば礼賛される」という言葉は重たく響いて、無関係な場所に爆弾を投げ込む無政府主義の青年も善人とは到底思えませんでした。
鉛の時代といわれるこの年代のイタリアの背景を知っているとより深く味わえる作品なのかもしれません。
フロリンダ・ボルカンの愛人が「私を殺して」と笑顔で囁いたあとに殺されるので、合意の上の殺人だったのかと思いきや、常日頃から尋問プレイや死体ごっこプレイなどを倒錯SMプレイをやりたい放題だったというオチ(笑)。
一方主人公が性的不能だったことも示唆されていて、もしかすると隠れゲイは主人公だったのかも…
本当はドMで誰かに叱責されたい、若い男に抱かれたい…ボルカンは主人公の願望を表した蜃気楼のような存在だったのかも…
精神世界を描いたような幻惑的な雰囲気もあって、ボルカン登場シーンは途端にジャーロっぽい雰囲気に。出番は少ないけれどファムファタールなオーラに魅了されました。
最後に主人公は警察に自分が犯人だと自白して証拠まで提出するものの、警察の威信を失うわけにはいかないと真相を葬られてしまいます。
主人公は弱みを握られて組織にこき使われるバッドエンド…かと思いきやさらに夢オチ!?
主人公が警察官たちを自宅に迎え入れブラインドを下ろすところでエンドロール。自ら捕まらない道を選んだのかなあ、偽の自分を演じ続けるのかなあ…仄暗い皮肉めいた結末でした。
モリコーネの音楽は、奇怪で滑稽で底が知れない作品そのものを見事に表わしていて、圧倒的存在感。
知的な骨太作品でしたが、雰囲気はジャーロっぽくて普通にサスペンスとして面白かったです。
amazon以外にもU-NEXTでも配信されているようです。
気になっていたレア作品、観れて僥倖です☆