年末に観た「カサンドラ・クロス」が素晴らしかったので、同じリチャード・ハリス主演のこちらも鑑賞してみました。
ジョーズに便乗したアニマルパニックものかと思いきや、感傷的で繊細な人間ドラマ。
妻子を殺されたシャチの復讐劇で、動物を傷つけた主人公は自業自得…という厳しい見方もあるようですが、自分はこの主人公、愚かだと断罪できないものがあって胸にきました。
人生のままならなさ、罪悪感と向き合って背負いこむ誠実さを感じて、リチャード・ハリスの主人公がめちゃくちゃ切なかったです。
◇◇◇
アイルランド人の漁師ノーランはシャチを捕獲して水族館に売ろうと計画。
巨大で美しいオスのシャチ・オルカを発見し銛を撃つも、誤って隣にいた妊娠中のメスに当たってしまいます。
スクリューに巻き込まれ深手を負ったメスシャチは、お腹から飛び出てきた赤ちゃんシャチとともに死亡。
怒りに燃えるオスのオルカは漁場を荒らし町を破壊。ノーランを対決に誘います…
シャチいくらなんでも賢すぎやろ…途中の展開にはツッコミどころもありつつ、追い詰められていく様はしっかりホラー。
そして何より家族を失ったオルカが可哀想で…
痛みを訴えるメスの鳴き声、涙を流しているようなオルカの眼差し…
夕陽を背にオスのシャチが妻の亡骸を浜辺まで運び、仲間のシャチたちが途中取り囲みながらも別れていくシーンの美しさと哀しさに涙が出ます。
一方漁師のリチャード・ハリスも元はそんなに悪い人ではないことが分かって辛い。
無知で軽率だったけれど、親戚から譲り受けた抵当付きの小さな船が唯一の財産。
選択肢のない人生を歩んできた苦労人だということが伝わってきます。
教会で懺悔しても罪悪感は消えないまま。
人間は間違うこともある、そのときは謝ればいい…なんて言うけれど、許してもらえるかどうかは向こう次第。
相手を傷つけてしまったことがずっと消えないこともあるのかもしれません。
取り返しのつかない過ちを犯してしまったときのどうしようもなさ、愚かだけれどそれを背負いこむ男の誠実さに胸が痛みます。
映像はアニマトロニクスと本物のシャチを両方上手く使っていて、今のCG映像よりも遥かに迫力がありました。
海と山に囲まれた閑散とした小さな町も物寂しさが立ち込めていて、絶妙な雰囲気。
後半がやや失速気味で、いい役者さんが出ているのに乗組員が何の見せ場もなく殺されていくのは残念。
けれどクライマックスの氷山だらけの冷たい海の景色は悲壮感漂っていて素晴らしかったです。
実はノーランも飲酒運転の事故で妻子を失っておりオルカと同類だったことが発覚。
ベタで出来過ぎたドラマですが、「何者なんだ!!」とオルカに向かって叫ぶノーラン。
対決の前、「シャチに会ったらあれは不幸な事故だったと伝える」とノーランは語っていました。
まるでかつての自分自身を納得させるためのような言葉ですが、瞳に映るもう1人の自分は「納得などできるか!!」と怒りをぶつけて襲いかかってきます。
人生にはままならないことも多々あって、仕方がないと諦めるしかないのかもしれないけど、割り切れないことだってある…
人間の理に支配されない怒りのシャチの姿が哀しくも美しく、胸をうちます。
ストーリーは荒削りな部分もあるけれど、文学的な感じがしてジョーズ亜流などとは到底思えない風格を感じました。
モリコーネの音楽はどことなくマカロニウエスタン風味でありつつ、心揺さぶられる美しさ。
このジャケットは誇大広告だろ(笑)と思いつつ、昔の映画のこういうビジュアル、ロマンがあっていいですね。
報われない苦労人のおっさんを演じたらピカイチ、リチャード・ハリスの個性が作品にドンピシャ。
愚かで不器用な男の苦渋のドラマが心に沁みました。