どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「マシンガン・パニック/笑う警官」…マルティン・ベック映画化作品、完全に別物でなんじゃこりゃ⁉

スウェーデンの警察小説、マルティン・ベックシリーズの最高傑作として名高い第4作目「笑う警官」。

なんとウォルター・マッソー主演でアメリカで映画化されているとのこと。

サブウェイ・パニック」に便乗したかのような邦題ですが、制作されたのは73年とこちらが先のようです。

スウェーデン独特の寒々しい雰囲気ってアメリカ映画だと出すのが難しそう…自分はフィンチャーの「ドラゴンタトゥーの女」も物足りなく感じてしまって、観る前から嫌な予感がするなーと思ったら、清々しい位別モノになっていてびっくり(笑)。

舞台はサンフランシスコ。70年代アメリカの雰囲気は素晴らしいけど、脚色がダメダメで残念映画になっていました。

 

◇◇◇

ある男を尾行していた若手刑事のエバンス。 

バスに乗ると、しばらく経って乗ってきた客の1人が突然マシンガンを乱射し、乗客たちは凶弾に倒れてしまいます…

 

冒頭から刑事が尾行している場面を映し切ってしまっていて、真相を探る楽しみが激減。

原作だと2階立てバスの2階から犯人が突然現れて…というのに説得力があったけど、こっちは後部座席で犯人が銃組み立ててるのに誰も気付かないのが不自然な気も…

どうしても本と比較して色々思ってしまいますが、制御不能のバスがサンフランシスコの坂道を下って舗道に激突する場面はなかなか迫力のある画が撮れています。

 

事件の調査に乗り出すのはエバンス刑事の上司だったジェイク・マーティン。

主人公の名前、マルティン・ベックに合わせる気もさらさらない(笑)。

この主人公のジェイク、女性を突然ビンタして情報を聞き出そうとしたり、同僚の刑事に冷たかったりと、かなりの荒くれ者。

ウォルター・マッソーのイメージにも合ってないような…

主人公の家庭が上手くいってないのは小説と同じですが、仕事の愚痴をベラベラ奥さんにぶちまけるジェイク。

「寡黙で忍耐強い原作マルティンはどこなのよ!?」とびっくり仰天な人物像になっていました。

 

そしてジェイクの相棒刑事としてレオというキャラクターが登場。

立ち位置的にはコルベリとラーソンを併せたような人物です。

女好きで色目使いまくり、仕事は雑で態度は横柄…とこちらもかなりの問題児。

それにしても髭面のブルース・ダーンインパクト絶大。ユーモラスな演技も上手くて原作とは別モノで面白いキャラクターでした。

 

複数の刑事が聞き込み調査をしていくところは原作と同じなものの、聞き込み先がポルノ小屋、ゲイバー…と70年代アメリカの風俗を映し出したような場所ばかり。

仏教徒のような格好をしたヒッピー集団が現れたり、ポン引きの男と娼婦の喧嘩に出会したり…話はつまらないけど、当時の生活感溢れるディテールの部分はフリードキン映画のような臨場感で面白いです。

同僚刑事役がルイス・ゴセット・ジュニアだったり、聞き込み先の看護師役がジョアンナ・キャシディだったり、キャストも何気に豪華。

タレコミ屋のジジイからヤクの売人まで、役者陣の顔は皆本当に素晴らしかったです。

 

聞き込みだけじゃ画が地味すぎると思ったのか、ベトナム帰還兵による立てこもり事件が話の本筋に全く関係なく挿入。

死んだ若手刑事が過去の未解決事件を追っていたという真相は原作と同じなものの、隠れゲイの夫が妻を殺害したという、これまた全く違うアメリカンな事件になっていてびっくり。

ジェイク本人が2年前に事件を担当しており、証拠不十分で逮捕できなかった犯人を捕まえようと躍起になりますが、死んだエバンスと同じく尾行で犯人にプレッシャーをかけて自分にマシンガンを向けてくるよう誘導するジェイク。

市民を巻き込んでいて危険だし、こんな誘いに乗ってくる犯人の頭もどうなってんのよ…と後半の脚本がダメダメで、何が起こっているのかも分かりにくい。

クライマックスにカーチェイスを無理矢理入れてくるも、アクション映画としても中途半端で、どっちつかずの作品になっていました。

 

作品の1番の見所はマッソーとダーンのチグハグコンビのバディ感!?

相棒に塩対応かと思いきや「俺の頼みを聞いてくれ」と急に頼ってきたり謎にツンデレウォルター・マッソー

「俺は年金さえ貰えればいい」とか言いつつ、ジェイクに認められたいのか躍起になって捜査するブルース・ダーン

刑事2人の食事シーン。イタ飯を食べるときは厨房の真横のテーブル、タコスを食べるときは小汚い手作り工場のバックヤード…と謎に臨場感ある現場風景がオモロかったです。

 

ネットで「笑う警官 映画」と検索するとサジェストで〝ひどい〟と出てくるのですが、どうやらこの作品のことではなく2009年に角川春樹が制作した映画が酷い出来だった模様(笑)。 

この作品は酷いというほどではないと思うけど、めちゃくちゃ面白い原作を読んだ後にみるとガッカリ。

以前観たスウェーデン製作の「刑事マルティン・ベック」(小説第7作目の映画化)の方が遥かに面白く、原作の空気感が見事に再現されていて傑作でした。

dounagadachs.hatenablog.com

 

同じキャストとロケーションならブルース・ダーンベトナム帰還兵が大暴れする映画が観たかったかも(笑)。

マシンガン・パニック、笑う警官…どっちにしてもタイトル詐欺…!!