スウェーデンの傑作ミステリを本国で映画化した警察映画の金字塔だそうですが…
「ドラゴン・タトゥーの女」のような犯人探し系ミステリを想像していたら後半全然トーンの違う作品になってびっくり(笑)。
フリードキンばりのリアリティある映像をみせてくれたかと思いきや、アメリカの刑事ものとは一味も二味も違う光景が可笑しかったり、他にはない雰囲気が面白い。
地味なのに人間味溢れる激シブの役者陣も素晴らしく、個人的にはブッ刺さる映画でした。
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脂汗を掻きながら見知らぬ天井をじっと見つめる中年男…冒頭の病院の雰囲気がもうイイ。
入院中の男・ニーマンは謎の人物の襲撃を受け、銃剣で刺されて床は血の海に…
署内きっての名刑事マルティン・ベックが捜査にあたりますが、ニーマンは実は悪名高い警察官で、被疑者への虐待・パワハラなどを行ってきた問題児だったことが判明。
ベックたち捜査官は恨みを持っていると思われる人物を洗い出していきます。
原作では40代らしいマルティン・ベック、映画ではメタボ体型のおじいちゃん。
現場で見せる冷静な仕事人姿とは裏腹に家庭では居場所がないよう。
妻は顔を合わせるや否やそそくさと寝室に引っ込んでしまい、ソファにマイ布団を持ってくる主人公のなんと切ないことか…
その他の同僚もキャラクターが立っていて、寝ている妻を起こさずに息子のオムツを変えるフルチン刑事・コルベリは温かい人柄が滲み出ています。
そのコルベリと衝突しつつも共に働くラーソンは俺様オーラが漂う血気盛んな刑事。
地味ながら1番働いてそうなルンは、死体見てゲロった若者にハンカチを差し出すさりげない優しさが素敵。
終始眠たそうなのが気の毒、警察の人たちの激務を側で観察させられているような臨場感があります。
前半はこの激シブ面子がひたすら会話&地味な聞き込みをするドラマが続きますが、出てくる人がホンモノ感溢れる人ばかりでドキドキ。
心理描写がしっかりしていて緊迫感があり、どこか薄暗い北欧ならではの景色に趣があって全く退屈しません。
問題児警官ニーマンも家庭ではよき夫・父親だったようで、元同僚が「警察には彼のような存在も必要だ」と庇う発言をするのには複雑な気持ちにさせられます。
このサンドイッチマン富澤さん似の元同僚が「非番の日もずっと制服を着ている」というのも何だか切ない。それだけ仕事に殉じてるってことなのかもしれませんが、私生活に全く幸せがなくてどこか壊れてしまっているような…
地道に捜査を続けるうち、ニーマンが糖尿病の女性を拘留し適切な対応をしなかったため女性を死なせてしまっていたことが発覚します。
故意ではないけれど、警察はニーマンを庇ってミスを隠蔽していました。
亡くなった女性の夫もなんと警察官で、妻を失ってから業務に支障を来たし退職していました。
ベックたちが男・エリクソンの自宅を訪れると証拠としか思えない品が発見されます。
ストーリー的には伏線とかどんでん返しとかがあるわけでなくミステリらしくないのが意外でしたが、ここから一気にアクションに変わる切り返しが凄い…!!
映画の原題は〝屋根の上の男〟だそうですが、高性能銃(アメリカ製の自動小銃ジョンソン)を持って屋上を陣取る犯人。
大通りに面した広場めがけて突然警官を狙撃しまくる…!!
一般市民の反応といい、臨場感ありすぎの映像に釘付けとなります。
そうは言っても相手は1人だしすぐにやっつけられるだろうと思っていたら、かなり手強い犯人。
ヘリコプターから特殊隊員が突撃しますがあっけなく帰らぬ人に…
突撃隊の人がヘリから降りるのに援護がゼロだったり、降りた人もガスの残り香を吸ったのか突然咳き込みはじめて間が抜けたような佇まいにはちょっと笑ってしまいましたが、死体をぶら下げて旋回するヘリコプターの画がシュール。
エキストラ多数の市内での撮影はハリウッドのパニック映画にも負けないド迫力です。
警察の腐敗を描いた作品は当時珍しかったのでしょうか…「警官以外は撃たない」犯人の強い意志が切ないです。
コーヒーに浸して角砂糖を食す一瞬の小休止に、長期戦覚悟な鋼の意志が見えて実にカッコいい演出でした。
マルティン・ベックが最後に大活躍するのかと思いきや予想の遥か斜め上行く展開に唖然(笑)。
突撃に一般市民のボランティアが参加するのもアンビリバボーなスウェーデン警察。
幕引きもアメリカ映画では考えられないようなエンディングでしたが、犯人が一言も発さないまま終わる圧倒的クールさ。ヒーロー不在の寂寞感に余韻が残ります。
原作は未読ですが、どんなものなのか非常に気になりました。(これがシリーズ7作目らしいけど読むなら1作目から読みたい気がする)
メイキングをみると警察を批判する内容なのに警察官がエキストラで多数出演してくれた上、撮影地も貸してくれたようで不思議な国スウェーデン(笑)。
でもあのリアリティ感溢れる人たちは本物だったのかと思うと納得。
中東っぽい雰囲気の笛の音!?の音楽も格好良く、ひたすらシブい映画でしたが、70年代らしさと北欧ならではの独特の薄暗い雰囲気に魅せられました。