どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

ダリオ・アルジェント自伝「恐怖」を読みました

2014年にイタリアで出版、2019年に英語版が出版されていたというアルジェント初の自伝本・「恐怖」の日本語版がつい先日発売。

ハードカバー400ページ強、税抜3400円とボリューミーな内容でありますが、普通の人じゃないアルジェントの書く本が面白くないわけがない…!!

テレビ作品も含め2009年の「ジャーロ」まで、監督した作品全てに言及されていますが、特に充実しているのは幼少期〜デビュー作・サスペリアあたりまで…

「おっ!」と引き込まれる劇的なエピソードを冒頭に持ってくるところもアルジェントらしく、ページを捲る手が止まりませんでした。

 

映画プロモーターのお父さんと写真家のお母さんに生まれ、芸術一家育ちだったことは知っていましたが、思っていた以上にお坊ちゃまな子供時代。

幼い頃から本の虫で大人が読むような本を次々に読破していたそう、早熟なオタクあるある。

そりが合わない国語教師から嫌がらせを受けるも、大人になって成功した暁には見事な復讐を決めてみせる…スカッとジャパンのようなエピソードには笑ってしまいました。

どうやら根に持つタイプのようです(笑)。
 
学校には馴染めなかったと言いつつも、同じ映画好きの友人とのエピソードはとっても微笑ましい。

しかしどうやら働く方が性に合っていたようでどんな仕事にも真摯。「好きなものに囲まれる」映画業界に身を置いてからは水を得た魚のように…

ホラーというジャンルが軽蔑されがちだったこと、検閲への怒りなどはフルチのドキュメンタリーでも同じようなことが語られていたなーと思いましたが、アルジェントも映画を評論する立場だった頃から陽の当たらないジャンルを慈しむ反骨精神溢れる人だったようです。

大師匠レオーネ、性格がまるで違うベルトルッチとのエピソードは映画に力があった時代の空気感みたいなものが感じられて、読んでいるこちらも胸が高鳴りました。

 

初監督作「歓びの毒牙」については、「撮る前からその映画を〝見る〟ことができた」と語る本人の才能も凄いけれど、父親の協力などがあってデビュー作から撮りたい作品を思うように撮れた…環境に恵まれたというのも大きかったのではないかと思いました。

新人時代から自分を曲げず妥協せずに戦ってきた姿勢は逞しく、「サスペリア2の人形要らんやん」→「ホレみたことか」になるエピソードもめっちゃオモロかったです。

アルジェント作品の凄いところは、悪夢や心理的イメージを見たことのない映像でみせてくれるところだと思いますが、そのためには理論的な観察はどうでもいいのだと、本人自身がキッパリと語っているところも印象に残りました。

もし首尾一貫した世界を作り上げることができたならば、たとえそれがどんなに狂気じみたものだったとしても、ある種の嘘っぽさを観客は気にしなくなる。

現実的でない世界が現実以上の迫真をもたらす…アルジェントの凄さが本人のこの言葉に凝縮されているようでした。

 

赤裸々な恋愛エピソードも破天荒で面白いものばかり。

モテモテの恋多き男でありつつ、メンヘラに執着されやすかったのか苦労が絶えなかったようです。

ダリア・ニコロディとのエピソードは思ったよりあっさりしていて意外でしたが、アルジェントの方が振り回されていたのかも…

連れ子も含め娘たちからは慕われていて愛情深いお父さんしている姿と、我が子のヌードも撮影する監督としての姿と…矛盾しているようで両方とも出来てしまう感性がやっぱり凄い。

一度組んで信頼のあるスタッフであっても「今回は合わない」と冷静にバッサリ切り捨てる現実主義な一面もあれば、前に成功したときの縁起を担ぐというスピリチュアルな面もある…背反するような監督の複雑な内面が垣間見れてとても面白かったです。

 

アジアにも熱狂的なファンがいることに感謝が述べられていましたが、「フェノミナ」のクランキーサウンド上映!?を見学していたらしく、ヘッドフォンを付けながら静かに鑑賞しつつも時折笑いだす…不思議な日本人の姿に驚かされたというエピソードも(笑)。

「ダークグラス」のパンフレットに寄稿されていたよしもとばななさんとのエピソードも初めて知るものでしたが、仄暗いものに惹かれてしまう人同士の心の共鳴、自分の悪しき部分に自覚的な人の心の孤独…

場所や時間を超越して深いコミュニケーションをとれるというのが、映画/創作物の持つ大きな力だと思いました。

 

ファンの疑問に答えるようなメイキングエピソードの数々がとにかく楽しく、「サスペリア2」のトリックを思いついた瞬間の身震いするような体験が描かれていたり、クライマックスを最初に持って来た「サスペリア」冒頭に対する並々ならぬ気概が語られていたり…

かと思えば生々しい暴力描写だった「サスペリア・テルザ」について「年を重ねることで昔より怒りが膨れ上がっていたから」とサラッとおっかないことを言っていたり(笑)。

後期の作品ほど解説があっさりしているのは、人間若い頃の思い出の方が鮮烈だからでしょうか。

アルジェントには後年はパワーが落ちたという評価があるし、本人もそれを認知しているけれど、新しい企画に取り組んだり、昔からの夢だったことを機を逃さず実現したり…精力的な人だったんだと本を読んで改めて認識させられました。

 

アルジェントの書籍といえば、2007年に出版された「ダリオ・アルジェント 恐怖の幾何学」という本があって、こちらは(客観的な目線で)深く掘り下げられた研究書。

発売当時に思い切って購入したのですが、現在は希少本になってしまったのか価格が高騰しているよう。

アルジェントはもちろんイタリアのホラーやジャーロについて知る足掛かりともなり、今も読み返させてもらっている宝物の1冊です。

今回の本もまた改めてアルジェント作品を観返してから読み直すと発見がありそうで、長く楽しめること間違いなし…!

手元にずっと置いておきたい本だと思いました。