(この記事のあと暫く更新をお休みします。)
アルジェントとフルチが共同制作するはずだったのにフルチが急死。〝ルチオ・フルチに捧ぐ…〟というテロップとともに幕を開ける1作。
昔VHSで一度みたきりだった「肉の蠟人形」を久々に鑑賞しました。
同時期・同ジャンルで活躍したアルジェントとフルチ。
それぞれに良さがあると思いますが、アルジェントの方が音楽と映像の繋ぎのセンスが卓越していたりビジュアルの独創性が高く、後年の作品も一定のレベル!?を保てているように思われます。
映画一家に生まれたアルジェントに対しフルチは貧しい家の生まれでもっと苦労人なイメージ。
映画制作においても低予算の中で工夫を凝らして戦ってきた職業監督の面が強いように思われます。
アルジェントについてフルチは「彼は悪夢の中の住人だ」…と評していましたが、アルジェント作品は病的な人間の内面、トラウマ、家族の秘密などを描いたものが多く、その表現が大きな魅力なのではないかと思います。
対してフルチの作品は…「フランス人は私を死の詩人と呼んだ」と自ら得意げに語っていましたが(笑)、逃れられない死(運命)への恐怖、死んだあとどうなるのか…の疑念を映像にしたような、この世ならざるものの表現などに際立つものがあるように思います。
昨年鑑賞したドキュメンタリー「フルチトークス」では監督作「エニグマ」が「サスペリア」に似てると指摘を受けるとフルチは突然ムッとした様子でした。
若くして監督デビューし大成功を収めたアルジェントに対しては強いライバル意識があったのではないでしょうか。
仲が悪かった!?と噂されていた2人ですが、94年ローマのホラー映画祭にてアルジェントは車椅子に乗ったフルチに出会います。
晩年は糖尿病が悪化していたフルチ、病気のことは公にしたがらなかったようでアルジェントはびっくりしたそうです。
同じジャンルで活躍した先輩が撮りたい映画を撮れないまま監督人生を終えてしまうことに思うところがあったのでしょうか、「一緒に仕事をしよう」と声をかけたアルジェント優しいですね。
そうして2人で話し合い製作されることになったのが、ヴィンセント・プライス主演の1953年版「肉の蝋人形」のリメイク。
しかし撮影に入る前にフルチが急死してしまいます。(薬を飲み忘れて亡くなったそうで自殺説もあり真相は不明)
結局映画はアルジェントが製作に入りつつ監督は「フェノミナ」「デモンズ」シリーズの特殊効果を担当したセルジオ・スティヴァレッティが受け持つこととなりました。
フルチが参加した脚本には大きく変更が加えられたようで、残念ながらフルチらしさはあまり感じられない作品となっています。
1900年のパリ。とあるイタリア人夫婦が惨殺されベッドの下に隠れていた幼い娘・ソニアだけが生き残る。
彼女が目撃したのは鋭い鉤爪のような黄金の義手だった。
美しく成長したソニアは名高き芸術家、ボリス・ヴォルコフが営む蝋人形館の衣装係として働くことになる。しかし町では不可解な失踪事件が起きていた…
この映画の1番アカンところは肝心の蝋人形を恐怖装置として魅力的に描けていないところでしょう。
タイトルだけでネタバレにはなっているものの53年度版は「人形の中身は人間」というショックをじわりじわりサスペンスとして描き出していて効果的でした。
大きく内容を変えた2004年の「蝋人形の館」も非常に出来がよく、人形の中に紛れて殺人鬼から逃げる…など道具や設定をホラー演出に上手く結びつけていたと思うのですが、本作では1つ1つのアイテムの出来はよくても単なる背景に収まってしまっているのが残念です。
また館の主・ボリスから狂った芸術家魂が感じられず、過去の犯罪現場を再現した蝋人形を作っているのかと思いきや無関係な子供を手にかけていたりで「どういう作品をつくりたいのか」その妄執が伝わってきません。
↑義手を隠す手袋はアルジェント作品の革手袋っぽい!?
蝋人形作成には謎の巨大装置が登場。
人間の精気を吸い取って新たな命を吹き込む…もはや芸術家じゃなくてマッドサイエンティスト(笑)。
ゴシックホラーの雰囲気を台無しにするような安っぽいCGの映像が突然あらわれます。
ヒロインが積極的に謎解きに挑むような人物でなく終始受け身なのも退屈なところで、全くいい男にみえない相棒役の新聞記者とイチャイチャ…
ソニアに心惹かれていた様子のボリス館長でしたが、結局自分の娘だったというオチで、もっと変態紳士な面を描いて欲しかったように思われます。
そんな中唯一素晴らしかったのは助手のアレックス。
父親に虐待されていたのをボリスに保護され慕うも新しく来たソニアに師匠を奪われそうで嫉妬。
↑汚いものをみるような蔑んだ目でヒロインをみるヤンデレ弟子。
殴られるのは嫌だと言いつつ娼館では娼婦に叩かれ締めつけられるドMプレイに耽溺…
作中唯一愛憎と哀しみが感じられる人物でした。
クライマックス、ボリス館長はソニアを蝋人形にしようと迫りますが、反撃に遭いさらに嫉妬を拗らせたアレックスと乱闘になります。
肉の仮面が剥がれ最後に登場するのは…
突然のターミネーター(笑)。どんな高技術なんだよ!
ターミネーターはあっさりやっつけられますが、なんとその直前にボリスは弟子アレックスと肉の面を交換して入れ替わっていた…!!(ターミネーターはアレックスだった)
ラストはボリスが逃げおおせた姿でエンドロールを迎えます。
フルチ作品もアルジェント作品も悪事が明るみになり犯人が自滅して終わるパターンが圧倒的に多いと思うのですが、ここもスッキリしないところ。
ヤンデレ弟子が愛する爺マスターの館と共に燃え盛り、ヒロインが笑いながら館から出てくる…そんなエンディングがみたかったです。
心臓鷲掴みや手首ボキーッなど特殊効果には所々見応えがあるものの、アルジェントよりも若いスティヴァレッティは「スターウォーズ」や「遊星からの物体X」が好きだったらしく、全体的にSFハリウッド作のトーンを感じさせるような仕上り。
97年の作品ですが、時代は手作りからCGへ…2004年の「蝋人形の館」はCGも上手く使って迫力ある映像がつくられていましたが、変化に乗り切れなかったイタリアンホラーの限界を感じるというか、時期的な立ち位置もあるのかどっちつかずで中途半端な印象が残ります。
全体的には残念作であるものの、デカダンな雰囲気とゴシック・ホラーの香りは味わえて、アルジェントとフルチが好きならば観ておいて損はないといえる。改めてみてもそんな印象の作品でした。