角川文庫で刊行されたのが5作目の「消えた消防車」までだったので、旧約版を入手して第6作目を読了。
読みにくいかと危惧していましたが杞憂で、むしろ硬派な文体が作品の雰囲気にマッチ。
「モンソン→モーンソン」などキャラの名前の表記に差がありつつも、違和感なくスラスラと読むことができました。
◇◇◇
華やかなサボイ・ホテルの晩餐会。
実業界の大物パルムグレンがスピーチの最中、突然何者かに撃たれた。
過激派の仕業か、企業間の内紛か、それとも狂人か…
誰1人犯人の姿を憶えているものはおらず、捜査は困難を極めるが、やがてこの大資本家の冷酷な面が次々に暴かれていく…
目の前で堂々と犯行が行われたにも関わらず誰も犯人の人相をちゃんと憶えていないなんて…でも突然の出来事だとそんなものなのかもしれません。
シリーズ毎度おなじみの聞き込み調査が行われますが、今回はお金持ちの家ばかり。
56歳で亡くなった社長の妻は32歳の美女…!!
しかし妻は以前から年下の副社長と浮気していて、夫が死んだ直後からイチャイチャ。
自宅で全裸で寝そべる未亡人に唖然となるモンソンに笑いました。
射殺されたパルムグレンは裏で兵器産業に関わっていたらしく、「政治的な理由で殺されてたら面倒すぎる」と警察上層部はビビりまくり。厄介な事件だとマルティンに捜査を丸投げします。
他にも汚い事業に手を染めていて、経営する不動産業は貧しい人を不当に追い出すなどやりたい放題。赤字になった事業だけ放棄して従業員を切り捨てていました。
高級住宅街での聞き込みではなんとラーソンの妹が登場。
「お隣さんをジロジロみるなんてそんな下品なこと、私やってませんからね…!!」なんて言いつつ、めっちゃ見とるやん(笑)。
パルムグレンの取り巻きが表面上は聞き込みに協力的で、「あんまり嫌な奴」してなくてキャラが立ってないように思われましたが、のらりくらり交わしてすました感じがリアルなのかも…
出てくる人物が皆胡散臭いので犯人は内部にいるのかと思いきや…
(ここからネタバレ)
見つかった凶器から犯人はパルムグレンが経営するグループの元従業員だと判明。
不当に解雇され、アパートを追い出され、そのせいで離婚するハメになり、まさにふんだりけったり。
射撃が唯一の趣味で射撃場を訪れていたところ、近くのホテルに自分のクビを切った社長が偶然来ていることを知り、突発的に犯行に…
逃亡方法も行き当たりばったりで無計画の犯行だったのには納得ですが、突然思いついてやってみようと思った…っていう告白がおっかないです。
捕まって安心したのか、誰かに気持ちを打ち明けたかったのか、泣きながら話す犯人のおっさんの哀しいこと…
アパートを立ち退きさせられたエピソードが1番胸糞で、資産価値の上がってきた社宅を別に利用したいので管理人とグルになって追い出す口実をでっち上げ。
「子供がうるさいと言って追い出した」としたり顔で語る意地悪婆さんが腹立たしいことこの上なかったです。
パルムグレンの側近たちは社長が死んでもウハウハで、悪いことやってても法の目を掻い潜っていて、ダメージゼロ。
頭に血が上ってやってしまった犯人だけが量刑へ…でも殺人はやったらダメだしなあ…(3作目「バルコニーの男」でもあったように私刑を認めたら法治国家が揺らいでしまう)
どこまでもモヤモヤが残る陰鬱エンドでした。
悪徳金持ちのキャラが皆薄味なのと、僅かな手がかりを掴んでいく捜査のドキドキ感がいつもより控え目なのと…物足りなく思われるところもありました。
〝住む場所の差〟はまざまざと伝わってきて、港が一望できるごっつい景色の高級オフィスと、小さい部屋に押し込められながら肩身が狭い思いして住んでる子持ち一家と…
労働者の住む下町と昔からの高級住宅街があって、高級住宅街の中でも昔からのお金持ちと成金とがいて…どこの国も似たようなもんだなーとなる住宅事情も面白かったです。
射撃が趣味の犯人が銃を持っていたから起こってしまったともいえる事件。
本シリーズではベックやコルベリが銃を持たない警官として描かれていますが、簡単に銃が手に入るがゆえの怖さはやっぱりあるもんだなーと思いました。
無計画な犯行で本来ならあっさり捕まえられたところを逃してしまったのは、ある2人組が現場に急行しなかったから…
またしても登場するクリスチャンソンとクヴァント。ラーソンに怒られるの何回目だよ(笑)。
自分たちのプライド優先で子連れの市民に突っかかってたとか嫌な警官すぎる…
前回大怪我をしたコルベリは何事もなく現場に復帰していて、ミスをしたスカッケが別部署に移動。
元はと言えば女好きのコルベリがいい女をチラ見したせいで起こった大惨事だった気もしますが…
スカッケにとってはコルベリよりモンソンの方が遥かにいい上司でよかった。
緩慢なところがあるけど落ち着いたモンソンと、覇気はあるけど経験値の足りないスカッケと…めちゃくちゃいいコンビが誕生。
田舎上司・モンソンは今回もマイペースに捜査してて面白いキャラでした。
そして…なんとマルティンはついに妻と別居、新米婦警のオーサとベッドイン…!!
親子ほど歳が離れてるし、亡くなった部下の彼女と付き合うって何だかすごい人間関係。
「ドラゴンタトゥーの女」と同様、色んな人が性的関係を持つ人物相関図にはびっくりです(笑)。
金持ちに飼われているマネキン美女より、個性的でタフな女の方がモテる…!!このシリーズの「いい女像」が分かってきたような気がします。
また上司も交代して、ハンマルが退職しマルムという新キャラクターが登場。
叩き上げでなんだかんだ現場に理解を示してくれていたハンマルから、書類仕事の部署からまわされてきた新しい上司に…苦労が予想されて先行きが厳しそうです。
今回はルンとメランダーが不在で、とても寂しく思われました。
格差社会を描いたエピソードですが、キャラやストーリーはいつもより薄味だったかも。
でも読後のモヤモヤ感が現実に沿っているようで、福祉国家スウェーデンの救いのない暗部を突き付けられたような気持ちになるラストでした。
次作はいよいよ7作目「唾棄すべき男」。以前鑑賞した映画と比較して読むのが楽しみです。