どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「小さな巨人」…壮大なホラ話!?どっちつかずな主人公と旅する西部開拓時代

アーサー・ペン監督、ダスティン・ホフマン主演の70年公開作品。

何気にずっと未見だったのを初鑑賞してみました。

ジャケ写をみるとフェイ・ダナウェイとダブル主演のようにみえますが、ゲスト的な出演でびっくり。

内容は全然違うけど「フォレスト・ガンプ」や「ベンジャミン・バトン」に似た雰囲気で、夢のような1人の男の人生を追っていくストーリー。

同時に先住民を虐殺した白人の蛮行などアメリカの歴史の暗部が描かれていきますが、「本当のことを語っているのか分からない主人公」からおとぎ話めいた口調で語られていき、それが只ならぬ雰囲気を醸しています。

意外とコメディタッチでみやすいのに、流されるように生きる主人公の姿には人生の儚さを感じて、なにやらすごい作品でした。

 

◇◇◇

〝リトルビッグホーンの戦い〟の唯一の生き残りだと言う121歳の老人ジャックは、歴史学者のインタビューに答えて自分の数奇な人生を語り始める…

ネイティブ・アメリカンの襲撃を受け両親を失ったジャックは、心優しいシャイアン族に拾われ、村で〝息子〟として育てられます。

身体は小柄でも勇気ある者と讃えられたジャックは〝小さな巨人〟の名を授けられました。

しかしある日騎兵隊との戦いで命を落としかけ、「ジョージ・ワシントン万歳!」と叫び自らを白人だとアピール。今度は白人社会での生活をスタートさせます。

 

あっちへ行ったりこっちへ行ったり…主人公が卑怯でどっちつかずに見えるかもしれませんが、生きることに必死でその都度コミュニティに適応していく姿はある意味逞しく、人生ってこんなものかも…漂う世の無常感に共感してしまいました。

 

白人社会で出会う様々なキャラクターが皆個性的で強烈(笑)。

牧師の妻(フェイ・ダナウェイ)は敬虔な信者かと思いきや、裏では不貞を楽しんでいて実は淫乱な女性。

十数年後に再会した時には娼婦に落ちぶれていましたが「不倫も週に1〜2回ならいいけど毎日は飽きるわ」とか言いたい放題すぎる(笑)。

怪しい通販事業者みたいなおっさん、マーティン・バルサムは身体のパーツを失いながらも商売を続ける逞しすぎる詐欺師。

酒場で知り合った凄腕ガンマンはジャックをみて「人を殺すタイプじゃない」とリンゴォ・ロードアゲインのように一瞬で主人公の人間性を見抜くも、自らは刺客に怯える日々。

キリスト教社会、シビアなビジネスマンの世界、強い男が銃で生きる世界…アメリカの様々な面を映し出したような奇妙な旅。

皆善人とも悪人とも言い難い二面性を持っているキャラクターで魅力的でした。

 

対するネイティブ・アメリカンの面々もユーモラスに描かれていて、犬を可愛がってるのかと思いきや食べる…!!

一夫多妻OKで、夫を亡くした妻たちが主人公の体にむしゃぶりつく…!!

長老の予知夢、どうでもいいことは当たるのに大事なことは何も予想できない(笑)。

神秘的な遠い存在でなく、生活感漂い、人間臭い面も描かれていて見ていて楽しかったです。

 

しかし後半には凄惨なシーンが…

再びシャイアン族に助けられてネイティブ・アメリカンの社会へ戻るジャックでしたが、部族は住んでいる土地を追われ保留地へ…

しかしそこにカスター将軍がやってきて先住民を虐殺。

新しい奥さんと赤ちゃんが目の前で殺されるシーンは残酷で言葉を失います。

目の前で妻子を殺されても前に飛び出すことも出来ず…復讐しようとするも怖気付いて何も出来ず…

西部劇的ヒーローから程遠い主人公の姿はリアルに感じられて、やるせない気持ちになりました。

 

その後〝リトルビッグホーンの戦い〟直前、偶然第7騎兵隊と出くわしたジャックは、カスター将軍を誘導し騎兵隊を壊滅状態に追い込みます。

余りにもよく出来すぎていて、壮大な作り話感の漂うクライマックス。

冒頭では121歳の主人公が「リトルビッグホーンの戦いで唯一生き延びた白人」としてインタビューを受けていましたが、そもそもこの始まりからして嘘くさく、まるでおとぎ話のような不思議な軽妙さが漂っています。

聞き手の学者は「ジェノサイドがあったでしょ。あなたには認めがたいかもしれないけど」と言っていて、このおっさん、なんか偉そうで感じが悪かった(笑)。

先住民といっても色んな部族がいて、自分の親を殺したものもいれば、自分を救ってくれた人もいた…先住民からは白人だと攻撃され、白人からは裏切り者だと攻撃されることもあった…

2つの社会の中で生きてきた…というのは多分本当な、主人公の人生。

「正しい知識」を求める学者の姿勢も大事だろうけど、人の人生にはもっと複雑で測りがたい一面もあるのかも…

アイデンティティが白黒つけがたいこともあって、視点が変わればそれだけの数の真実があって決してひとくちでは語れないもの…そんな主人公の想いを託したのがこの”物語”なのかもしれない…と思わせる構造が独特で、とても深い味わいになっていました。

 

お話の終わりでジャックは自分を育ててくれた長老と再会していました。

いよいよ大往生するのかと思ったら死なない長老(笑)。

どこか間の抜けたやりとりに笑ってしまいます。

ジャックにとって、シャイアン族への感謝の気持ちや養父への愛は”本物”で心の拠り所だったのではないかと思いました。

決して英雄ではない、小さな人たちの何でもないエピソードで締めくくられるラストが静謐で美しかったです。

 

ディック・スミスの有名な特殊メイクのシーンが思ったより少なくて驚きでしたが、登場僅かでもインパクト大。140分あっても全く長さを感じさせずテンポよく駆け抜けてくストーリー。

複雑で割と悲惨な境遇の主人公ですが、色んな人と出会っては別れていく、人生の儚いこと…なぜだか共感してみてしまう不思議な旅でありました。