どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「トマホーク ガンマンvs食人族」…タイトル詐欺!?真面目で硬派な西部劇アクション

2014年製作、カート・ラッセル主演の西部劇アクション。

B級感溢れる邦題からは想像もつかないとても真面目で硬派な作品。

後半の盛大な暴力描写にはビックリさせられましたが、70年代映画のような渋みを感じる作品で、とても面白かったです。

 

アメリカの小さな田舎町。
ある夜複数の住人が忽然と姿を消し、体を八つ裂きにされた死体が見つかりました。

残された物品から犯人は穴居人とよばれる原住民からも恐れられる凶暴な種族だと推定されました。

攫われた村人を救うべく4人の男が足跡を辿り荒野を進みますが…

 

前半事件が起きるまでゆっくりペースでお話が進みますが、わずかな人の支え合いで成立している小さな町の暮らし…人間関係がしっかり描かれていて、動きの少ない前半から自分は引き込まれました。

夜の場面から始まって画面が暗めですが、電気のない時代の夜を体感させられるようなリアルさ。

便利なものに溺れている自分のような現代人がこういう西部劇をみて感じる醍醐味の1つに、「人間生きることは本来とても困難なんだ」という感傷のようなものに浸れるところがあるように思います。

夫を心配する保安官の妻が口にしたように、攫われた人を助からないものとして見捨てるのは簡単なこと。でも村の決断はそうはなりませんでした。

攫われた人は誰かの家族で、村の治安を守る男性と怪我人の治療にあたっていた女性がその中にはいました。

救出に向かう4人はハンデがあったり、年寄りだったり、倫理観が欠如していたりと華々しい英雄とは程遠いメンバーですが、そんな人間が共同体(仲間)に奉仕する精神を持って困難に向かっていく…このドラマの土台がよく出来ていて惹きつけられました。

 

野営をしながら穴居人の住処を追う4人ですが、案の定トラブルが続出してしまいます。

馬を失い徒歩で移動することになるも元から足を痛めていたアーサーは具合が悪化して足を切断するかの議論に。

痛さ、疲れ、喉の渇きなどが伝わってくるような描写にヒリヒリさせられます。

妻を愛する誠実な男だというのが前半の短い時間で描かれていたゆえ、アーサーの焦燥感がジリジリと伝わってきました。

結局3人はアーサーを置いて先を急ぐことにしますが、置いていく彼にも食料や水筒などしっかり用意して、後から追いかけられるよう目印の石をしっかり置いていくのが義理堅い…!!

4人の(ベタベタしない)男の絆にも魅せられました。

道中場を和ませてくれるのは保安官補のお人好し爺さん・チコリーですが、保安官(カート・ラッセル)への信頼と尊敬が伝わってくる2人の関係性が良いです。

元軍医なので意外に活躍、高性能望遠鏡を覗いての間の抜けたやり取りにはホッとさせられました。

 

しかし穴居人のアジトまで来ると話が急展開…!!

振り返ればなぜか後ろにいる敵、矢が飛んできて全員一気に負傷してしまいます。

1番頼りになりそうだったブルーダーが深手を負ってしまう意外な展開。

自信家のキザ野郎かと思いきや「ベッドの上で死ぬなんて期待してなかった」マウンテン・ティムのような潔さを見せつけられて何とも切ない気持ちに。

幼い頃に母と姉を先住民に殺されたというブルーダー。先住民を数多く殺したことを誇らしげに語っていましたが、その中には女子供もいたのだと言います。

倫理観の破綻した男ではありますが、愛馬の死を悼んだり土壇場でも仲間に貢献しようとしたり高貴な面も持ち合わせていました。

「どんな悪人にも善の一面が、どんな善人にも悪の一面がある」…はフリードキンの言葉ですが70年代映画に登場するような人物像にシビれました。

 

結局保安官もチコリーも穴居人に囚われてしまい、攫われたサマンサたちと合流しますが、ここからは一気にホラーな展開。

穴居人は人を食べる〝食人族〟で、先に攫われていたニックが目の前で惨殺されてしまいます。

頭の皮を剥がれ口を串刺しにされ、股裂きされたあと食われるグロテスクな殺され方に絶句。

カート・ラッセルもはらわたを裂かれ、圧倒的絶望が襲う中、足を負傷していたアーサーが遅れてアジトにやって来ました。

「こんな体で生きていたくない」と言って散っていたブルーダーとは対照的に何が何でも妻の元に辿り着こうとしたアーサー。

歩かずに這って進んだのが功を奏したのか、食人族たちに中々気付かれず、また彼らの交信方法に気付いて1人ずつ敵を葬り去って仲間のもとに辿り着きます。

負傷したカート・ラッセルが1人残って残りの敵を葬ると宣言し、夫婦2人と爺さんというボロボロのメンバーで帰路に。

村に着いたかどうかまでなんて見せないけれど投げ捨てられた石で終わる…これまた渋い幕引きでグッときました。

 

後半一気にホラーな展開になるのは好みが分かれそうで、敵の食人族はかなり人間離れしたキャラクターになっていました。

もっと現実味あるストーリーにする方向性もあったのでしょうが、原住民を悪者にしなかったこと(食人族の肌は白塗り)、元々白人の物盗りが食人族の墓を荒らしたのが事件の発端だったというあたり、上手く考えてストーリーを構築しているように思いました。

 

邦題はB級映画好きを惹きつけるという点では悪くはないのかもしれませんが、作品の雰囲気とは全くあってなくてビックリ。

カート・ラッセルはハマり役で、男性も女性も気骨のある人ばかりで皆カッコよかったです。

人物に魅力があってとてもいい作品でした。