ドイツの巨匠ヴェルナー・ヘルツォークの82年監督作。
フリードキンの「恐怖の報酬」の特典映像で2大密林映画!?として名をあげられていたので観てみました。
(ジャケ写がもう凄い…!!(゚Д゚)
19世紀末南米ぺルー。
熱心なオペラファンのフィツカラルドはエンリコ・カルーソーの歌を聴き感動し「自分が住む近くの密林にもオペラハウスを建てる!」といきなり決意。
寄付を募ったり製氷事業に着手するも上手くいかず、資金を得るため流行りのゴム製造に手を出すことに。
しかし売れ残っている土地は急流に阻まれた辺鄙な土地ばかり。
恋人モリーにお金を借りて蒸気船を購入したフィツカラルドにあるアイデアが思い浮かびます。
あえて隣の川を進み、船を川からあげて山を越えさせ向こうの川に船を下ろす…空前絶後の計画がスタートしますが…
原住民の意向もへったくれもない〝オペラハウスを建てる〟という身勝手な夢…その姿はまるで「好きなモノを布教したいオタク」。
キラキラした目のクラウス・キンスキーにいつもの不気味さはなく、はしゃぐ姿は小さな子供のようです。
娼館のオーナーである恋人のモリーとはいつもラブラブ、プレゼントを持ってきたと思ったら2人の姿を描いた肖像画だったりバカップルのようなイチャイチャっぷり(笑)。
40歳を超えているだろうクラウディア・カルディナーレが綺麗でとても可愛いらしいです。
ボロ船に乗ってアマゾン奥地を突き進むフィツカラルドたちでしたが、昔神父たちを虐殺したというヒバロ族と出会います。
フィツカラルドが銃を向けずにレコードでオペラ曲を流しながら川を進むと、なぜか敵対心を持たれず土地の開発に協力してくれることに。
ここから、
山を1個ハゲ山にする→下にレールを敷いて船を滑車で引っ張りあげる→下りは船を滑らせ川にドボン…
という驚愕の映像が展開。
CGなしのドキュメンタリーでも観ているようなホンモノの映像に度肝を抜きます。
ヴェルナー・ヘルツォークといえばこの10年前に「アギーレ神の怒り」という作品を撮っています。
だいぶ前にレンタルで観たので朧げですが、あちらも川下りをしながら密林を突き進むお話で、「黄金郷の王様になる」という野望に取り憑かれた男が周りを省みず突き進んで自滅していく…というかなりシンドイ映画だった記憶があります。
同じく狂気的な夢に取り憑かれた男の話なのに、こちらのフィツカラルドはなぜか憎めず爽快感があります。
他人に攻撃的な素振りは見せず誰のことも対等に扱うからか、子供にも部下にもなぜか好かれる。応援したくなる。
フィツカラルドの行為には先住民の教化や自然破壊の面も含まれていると思うのですが、原住民は原住民で信仰を叶えるかたちでフィツカラルドを利用しており、二者の関係は持ちつ持たれつ。
食や音楽を通じて心を通わせる様はむしろ微笑ましく映りました。
クライマックスにはついに船が山を越える…!!
やりやがった!!と思わず一緒に喜びたくなるようなカタルシス…!!
1番の難関を乗り越えたと思ったら船は急流にのまれ1周して戻ってくるだけの結果に…
結局ゴム事業が成功して大金持ちになったわけでもなく、オペラハウスを建てられたわけでもなかったけれど、船にオペラ団を乗せてクルーズするラストが美しい。
名声や権力欲に執着していたような「アギーレ」と違って、「やるだけのことはやりきってやったぞ」とたった1人充足感に浸る姿がカッコいいです。
「アギーレ」ではエゴにひた走る人間の醜悪さを見せられつつ、こちらでは愚直なものの美しさを見せつけられたような気持ちになりました。
船のシーンもすごいけど大人数のエキストラが登場する画の迫力が凄い。
一見クールなようでとんでもないエネルギー・生命力が全編貫いていて「恐怖の報酬」と並べて語られるのには納得。
暗くて重たい作品なのかなと思っていましたが、妙な明るさのある心地よい映画でした。