どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「マッドライダー」…イタリア製マッドマックス、チープの極みでも煌めく個性

フルチ作品をかつてないほど鑑賞している今年の秋、こうなると制作スタッフの名前も気になってきて、フルチがよく組んだ脚本家の1人としてダルダーノ・サケッティという人物がいるようです。

サンゲリア」「ビヨンド」など黄金期の作品には皆この人の名前がクレジットされていて、アルジェントの「わたしは目撃者」や「デモンズ」シリーズの脚本も担当している…

イタリアンホラーみてると脚本には複数の名前が載っていることが多く、原案だけ別の人だったり「このシーンはこの人の担当」などと振り分けられていたり、撮影がゴタゴタして当日その場で書き直したり…と想像もつかないような世界ですが、これだけの作品に関わっているのはすごいですね。

他にはどんな作品を書いてたのかしら…と調べてみたところとても楽しそうな作品が…

マッドマックス2」が81年、この「マッドライダー」が83年と旬のものを取りこぼさないスピード感が相変わらず凄い(笑)。

原題はExterminators of the Year 3000、エクスタミネーターとデスレース2000を足したようなタイトルが既にうるさいですが、舞台は西暦3000年。

核戦争後の荒廃した地球では雨が降らなくなりこの世界では石油ではなく水が枯渇していました。

生き残りの人々が暮らすコロニーに住む少年・トミーは水を探しに行った父親が帰って来ず、その捜索の旅に参加。しかし暴走族軍団に襲われ水源地の地図を片手に1人荒野を彷徨うことに…

そこで一匹狼のエイリアンと出くわし彼と協力関係を築くことになりますが…

マッドマックス2」では言葉を交わさないマックスと少年のやり取りに感動がありましたが、この2人は普通によく喋ります(笑)。

そして主人公エイリアンは一匹狼どころか平気で嘘をついてはコロコロ態度を変えるかなりのクズで、少年の方が落ち着いていて大人という予想外の関係性です。

この2人に暴走族グループ、主人公の元恋人の峰不二子的ヒロイン、メカ博士なども加わって水源地を巡ってのバトルが展開。

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主人公と敵チームは基本マッドマックスな衣装してますが、コロニーのメンバーが着ているのはユニクロでも売ってそうな質感の服…
武器も主人公はレーザー銃なのにヒロインはクロスボウだったりと文明の度合いがバラバラ(笑)。

どこにでも侵入できる超音波キーなんてのも登場しますが……あれ、もしかして私、超音波聴こえてる??……ツッコミどころには事欠きません。

ロケ地はマカロニウエスタンでよく見るような荒野が広がっているのでスペインかと思われますが、一応本作もカーアクションシーンが見せ場となっています。

主人公の乗る自称800馬力のスーパーカー、原題にもなっているエクスタミネーター号が今作の華!?

鉄の窓で覆われモニタ越しで外をみれる戦隊モノのような雰囲気の車はみていて楽しいです。

敵の車は頑張って汚して何とか荒廃感出しただけのシロモノだったり、チェイスシーンは総じてスピードが全く出ていなかったりと安い作りの作品ではありますが、太陽光パネルを模したと思われる水施設をミニチュア模型で再現するなど、イタリアのハンドメイドの良さがひしひしと伝わってくる所もあります。

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↑一応それっぽい画は撮れてる(笑)

 

さて、パクリ映画だと思って油断してると予想もつかないびっくりシーンが用意されています。(以下ネタバレ)

敵の軍団に囚われ、腕引き裂きの刑に処される少年トミー。

子供だし助かるだろうと思ってみてたら吹っ飛ぶ腕…血の気がひいたその瞬間なんとこれが義手…少年片腕サイボーグだったのかよ!?

荒廃未来の技術の進歩具合が謎すぎます。

さらにガジェットおじさんパピヨンがこれを修理改造し怪力アームを手に入れるトミー。

石ころを拾っては獣の巨人のような見事な投擲で暴走族軍団の車を次々に破壊するという予想外の展開には呆然となります。

さらに驚くべきはラスト、主人公勢が水をコロニーに持ち帰ってハッピーエンドかと思いきや、せっかく給水したタンクから水が溢れ落ちて空っぽになってしまいます。

まさに「怒りのデスロード」な行って帰ってくるだけの旅…再び水を汲もうと水源地を訪れると今度は施設が狂信者によって爆破されてしまいます。

泣き崩れるトミー少年に加えて主人公エイリアンの目からも涙が…

あれだけ冷たい男だった彼がなぜ泣いたのか…自分も欲しかった水が消えてただ悔しかったのか、トミー少年の心に触れて彼自身も未来に希望を持つようになったからなのか…なぜかは分かりませんが何だかこっちもうるっと来てしまいます。

すると突然空から雨が…
抱き合う主人公と少年とヒロイン…

なんかすっごいいいラストだなー。

神様の恵みの雨みたいな、考えようによってはかなり寒いぶん投げラストなのですが、少年が初めて出会う雨、ただ報われなかっただけの徒労感からの大逆転、クズ野郎の涙…と謎にエモーショナルなシーンで最後は意外にもじーんとなります。

時代を先駆した一級品である本家マッドマックス1・2と比べるのは大変失礼にあたるのは間違いありません。

けれど「イタリア人がマッドマックス1の予算でマッドマックス2を無理やり撮ったらこうなったよ」的なほんわか目線でみれば充分楽しめる作品ではないかと思いました。

 

監督はマカロニ・ウエスタン出身のジュリアーノ・カルニメーオ。

脚本には3人の方が参加していたようですが、ダルダーノ・サケッティとともにエリサ・ブリカンティという名前もクレジットされています。

この方はなんとサケッティの奥さん…!!サンゲリア」「墓地裏の家」もサケッティと一緒に手がけているという素敵ご夫婦でした。

単なるパクり、2匹目のどじょうでは終わらないミラクルなオリジナリティ顕現は他のジャンルでも健在、C級でもなぜだか光るものを感じてしまう1本でした。