先日4K復元版を劇場鑑賞、興奮冷めやらぬ素晴らしさだった「続・夕陽のガンマン」。
先日上映されたのは178分の完全版でしたが、自分が初めて観たのは〝国際版〟と呼ばれる162分版。
〝夕陽コレクターズBOX〟で完全版を鑑賞した際にはテンポの良さが損なわれていて長く感じたのですが、劇場で観ると映像の迫力に圧倒されて全く気になりませんでした。
でも久々に短いバージョンが観たい…!!
自分が所持しているのは夕陽コレクターズDVD-BOXとBlu-ray-BOXで、こちらに収録されているのはどちらも完全版。
収録時間が〝162分〟と記載されているこちらのDVDを新たに購入してみたのですが…
なんと中身が全く違う内容で、入っていたのは178分版。
ジャケット裏面にもディスクのプレス面にも「162分」と記載されているのにめちゃくちゃいい加減な仕様のDVDでした(笑)。
Amazonで〝続夕陽〟を検索するとたくさんの品番が出てきて、一体どれを買えば短縮版がみれるんだーー!?と混乱。
1番発売年が古いやつが当たりかもしれん…と1999年発売のこちらのDVDを購入したところビンゴ。
画質は良くないし吹替もありませんが、162分バージョンがしっかり収録されていました。
やはりこちらの方がテンポがいいです。
178分の完全版と162分の国際版。どんなシーンが追加になっていて、どんな印象の違いがあるのか…気付いたところを挙げて比較してみたいと思います。
◆トゥーコが洞窟で仲間を雇うシーン
ブロンディに捨てられるも命からがら荒野を渡りきったトゥーコは銃器店で銃を強奪。
短縮版ではその後子分を引き連れてブロンディのいる町に到着するシーンに変わりますが、完全版ではトゥーコが洞窟で仲間を雇うシーンが追加されています。
「生きるためになぜせっせと働く?」…泥棒として(アウトローとして)生きることを決意したようなトゥーコの独白。
ニワトリの死骸を抱えながら、茹でた芋に手をつけるトゥーコ。
「人間には2種類ある。大勢の友達がいる奴と俺様のように孤独な奴だ。」…この映画の名台詞である〝2種類〜〟がここでも登場しますが、陰キャには突き刺さる中々切ない台詞。
まるで誰かに聞かせるように「上手い話がある、ある男を捕まえるのに協力すれば1人1,000ドル…」とトゥーコが話し出すと、洞窟の上からロープが突然下ってきて3人の男がスルスルと降りてきます。
なんだか唐突でシュールな感じもするこの場面。
もともとのイタリア公開版(177分43秒)には収録されておらず、「プレミア上映にはあったがその後削除されたシーン」だそう。
2002年にMGMが完全版を制作する際に、担当者が「このシーンがないと続く場面でいきなり子分たちが登場していて話の繋がりが悪くなる」と復活させたようです。(自分はなくてもトゥーコが男たちを囮に用意したのがなんとなく分かると思いましたが…)
暗い洞窟はまるでトゥーコの精神世界。
全体からは少し浮いた印象がして、自分は初見時冗長で勿体つけた感じがしたのですが、主人公の孤独な内面に迫ったシーンと言えるのかもしれません。
◆砦で聞き込みするエンジェル・アイズ
リー・ヴァン・クリーフ演じるエンジェル・アイズは総じて出番が少なめですが、完全版ではビル・カーソンの居場所を探るため、負傷した南軍兵士が集まる廃墟のような砦を訪ねるシーンが追加されています。
「ここはリゾート地」と皮肉る兵士に酒瓶を渡し、カーソンの情報をしっかり得るエンジェル・アイズ。
のちにエンジェル・アイズ自身が捕虜を虐待している北軍兵士であることが分かって複雑ですが、彼自身は戦争のことなどどうでもよさそう。
負傷者やうだつのあがらない兵士たちにほんの少し哀れみの目線を向けているようにもみえて、彼の人間味が僅か垣間見えるシーンになっていました。
このシーンはトゥーコがブロンディを追跡する場面の前に挿入。
短縮版では「大砲が飛んできて縄をかけたブロンディに逃げられる」→「テーマ曲と共に追跡を開始するトゥーコ」の流れになっていてテンポがいいのですが、完全版は勢いが削がれてしまっている印象。
戦争の悲惨さを描いた場面は他にもあるので、個人的にはなくてもいいのかな…と思うシーンでした。
◆砂漠でブロンディをからかうトゥーコ
復讐のためブロンディに灼熱砂漠を歩かせるトゥーコですが、完全版ではいたぶるシーンがやや長め。
横たわったブロンディがブーツを掴むも中身は空っぽで、その先には桶に水を入れて贅沢に足を洗うトゥーコの姿が…
アップで映るブロンディの顔、日焼けによる火傷が痛々しい…
このシーン、トゥーコの嫌ーな、根に持つところがよく描写されていて(そしてそんな目に遭わされてもその後フラットに接するブロンディとの差異が際立っていて)自分は嫌いじゃないかも。
悪趣味で残酷なシーンですね(笑)。
◆南軍に道を訪ねるトゥーコ
墓場の名前を聞いたと知るや否やブロンディをせっせと介抱するトゥーコ。
短縮版ではブロンディに「死ぬなよ」と言った後すぐに馬車が伝道所に着くシーンに飛びますが、完全版では夜中に移動しているシーンが追加されています。
南軍の検問所に出会し「重傷の兵士を運んでいる」と答えるトゥーコ。
現在地を聞き出すと伝道所がこの辺にあるはずだと、トゥーコがこの辺りの出身らしいということが示唆されます。
伏線を張っているシーンですが、ない方がテンポがいいかも??
◆トゥーコに行き先を尋ねるブロンディ
伝道所をあとにしてテーマ曲と共に馬車で出発するブロンディとトゥーコ。
短縮版ではその後すぐに「南軍と北軍を見間違うトゥーコ」のシーンに飛びますが、完全版ではその前に2人の会話シーンが追加。
地図で行き先を確認するトゥーコに「どこに行くんだ?」と墓場の場所について探りを入れるブロンディ。
行く道には兵士たちの死体が横たわっており、さり気なく残酷な戦争の爪痕が描かれています。
◆エンジェル・アイズの手下をみつけるブロンディ
拷問されたトゥーコとは違い、「痛めつけてもどうせ吐かないだろう」と捕虜収容所からあっさり解放されるブロンディ。
目的地に向かってエンジェル・アイズと共に野営するブロンディでしたが、手下が隠れていることに気付きその内の1人を撃ち倒します。
ゾロゾロ出てきた手下たちをみて「6人ならちょうどいい」と宣うブロンディ。
この場面がないと、続くシーンでブロンディがいきなり6人の男たちと行動を共にしていて、何があったのか分かりにくいかも…
ただこの場面はトゥーコの脱走シーンを中断して挿入。
短縮版では、「トゥーコがデブの拷問人とともに汽車に乗る」→「拷問人を騙して汽車から飛び降りる」…となっているのが、このシーンが間に挟まることでテンポの良さを損ねている気もします。
◆戦場にかける橋/名前を言わない2人
橋をかけて戦っている北軍に出会すブロンディとトゥーコ。
厭戦的な大尉との会話シーンが完全版では少し長めになっています。
南北に共通するのは酒臭いことだと自暴自棄気味に語る大尉。
多少のことでは動じないトゥーコとブロンディが戦争の悲惨さには言葉を失っている様子。
大尉に名を聞かれても答えない2人のアウトロー感が際立っていて、後に登場する墓場が「無名戦士の墓」であることを考えても意外に重要なシーン。
ここは残しておいてもよかったのではないかと思いました。
◆ダイナマイトを仕掛けるシーンが少し長い
負傷して危篤状態の大尉にいい知らせをきかせるとダイナマイトを担いでいく2人。
橋に爆薬をくくりつける場面、完全版の方が48秒長くなっています。
台詞のない完全な作業シーン、なくても印象はあまり変わらないかも。
◇◇◇
今回買った99年発売のDVDに収録されている”未公開シーン集”の特典も参考にしつつ、見比べてみて自分が気付いた追加シーンは上記の通りでした。
完全版の方が捕虜収容所のトゥーコ拷問シーンが長かった気がしていたけど、ここは全く同じ。
見比べるとそんなにたくさんのシーンが追加されているわけではないと思うのですが、テンポはかなり変わるように感じました。
特にトゥーコの洞窟の場面、エンジェル・アイズが南軍兵士と会う場面はあるかないかで全体の印象が変わり、完全版は良くも悪くも〝重厚な大作感〟が増しているように思いました。
どちらか1つを選べと言われたら、自分はテンポよく純度の高いエンタメ映画してる短縮版の方が好き。
(こういうのは”最初にみたバージョンが自分の1番”になりがちな気がしますが)
でも先日劇場で鑑賞した際には、完全版を長いと感じることがなく、壮大さが増していてこれはこれで素晴らしいと思いました。
字幕や日本語吹替の違いについては追っていませんが、日本語吹替版のオリジナル…「俺汚ねえやつ/俺悪いやつ/俺いいひと」のナレーションはユーモラスでビタっとハマっていて好き。
トゥーコの「ごめんなさーい」もトゥーコなら言いそう(笑)と思って、違和感ゼロ。
吹替は吹替で味があって素晴らしいです。
そのうち完全版・短縮版の両方が収録された4KBlu-rayが国内でリリースされるのかな…
初めて観た時の衝撃的に面白かった記憶がありつつ、劇場で完全版を鑑賞できたのも最高の体験でした。