どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ザ・サイキック」…フルチのジャーロもの、破綻少なくセンス抜群

タランティーノの映画「キル・ビル」にてユマ・サーマンが4年の昏睡状態から目覚め暴行犯の男をメッタメタにするという場面がありました。

ここで、

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♫ランラ、ランラ、ラララン〜と壮大なオルゴール曲みたいなのが流れてきたかと思うのですが、こちらがルチオ・フルチの「ザ・サイキック」からの曲。

このあとユマ・サーマンが男の頭部をドアの扉でガッコンガッコンするところがちょっとアルジェントっぽかったり、その前にある「反射で唾を吐くことがある」という男の台詞が「パトリック」へのオマージュだったり、何気にホラーリスペクトなシーン!?となっていました。

余談はさておき、この場面の曲がめちゃくちゃ耳に残っていてずっと観たいと思いながら観れていなかった「ザ・サイキック」、今回念願の初鑑賞です。

フルチが「サンゲリア」でヒットを飛ばす前の77年の作品でジャンルとしてはジャーロもの(イタリア製サスペンススリラー)。

サスペリア2」にどことなく似ていてめちゃくちゃ好みの作品でした。

富豪と結婚した美しい妻・ヴァージニア。
彼女は幼い頃に母の自殺を幻視するという体験をしていた。
ある日また不可解な幻視に襲われたヴァージニアは夫の別荘を訪れるが、壁から白骨死体を発見してしまう…

オカルトものしつつ探偵ミステリ要素が強く、主人公が幻視からヒントを得て謎を追っていく…「サイコメトラーEIJI」みたいな大筋がオモロイです。

幻視の中で殺されていたのは50代の女性だったのに出てきた死体はなぜか20代の女性だと判明。
しかも夫の元交際相手だったらしく、警察から疑われた夫は拘束されてしまうことに。

幻視は極めて断片的で序盤は〝過去の出来事をみることができる能力なんだろう”…と観客も主人公も誤解したまま話が進みますが、実は「未来をみる予知能力」だったことが判明。

デッドゾーン」の主人公のように予知を改変できるわけでもなく、か弱い主人公に向かってただひたすら避けられない未来がやってくる…この静かな絶望感がフルチらしいように思いました。

幻視映像が伏線を回収するように迫ってくるのが巧みで、犯人のミスリードも用意されておりとてもフルチ作品とは思えない余裕と破綻の少なさ。

女性が美しく撮られているのもポイントが高く、ジェニファー・オニール演じるヴァージニアは線が細く頼りない雰囲気。

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他にも「101匹わんちゃん」のクルエラのような雰囲気の迫力ある義姉・イーダや、名推理を連発する若い潑剌娘・ブルーナなど出番の少ない女性キャラも魅力的でした。

色彩の強いインテリアやイタリアの美しい景色は非日常感たっぷり、「ビヨンド」を彷彿させるような長いトンネルと道の景色、「サスペリア」のような不安感が込み上げるタクシーライドと映像センスも抜群。

そして何と言っても主人公が譲り受けた腕時計、アラーム付きでオルゴールを奏でるというアイテムが効果的に使われており、上手い演出でした。

犯人は…まあこういう物語ではこういう展開が定石かな…という展開になってますが、かつて女性を殺し埋めた場所に今度はヴァージニアを埋める犯人。

「そんなことしたら速攻でバレそう」と思ったけど、案外同じ場所って2度捜索しないもんでしょうか。

頭部を強打され意識朦朧となったヴァージニアの視界が少しずつレンガで埋め立てられていき光が途絶えていくところが怖い…「地獄の門」でも主人公女性が棺桶に閉じ込められてましたが閉所恐怖症には堪らない恐怖。

勘のいい探偵役が警察を引き連れてやって来ると既に壁は埋め立てられしっかり家具で隠されている…犯人仕事早っ!!…って思いましたが、そこで鳴り響くあのオルゴール音…その後を全く映さない潔いエンディングが最高に洒落ていました。

 

本作の音楽を担当しているのはBixio,Frizzi &Tempera。「サンゲリア」「ビヨンド」なども手掛けているフルチ作品の常連、ファビオ・フリッツィが組んでいたユニットだと思われます。

「ビヨンド」のあの終末感漂う音楽も素晴らしかったですが、どこか物悲しくも緊張感が徐々に押し上げられていくオルゴールのメインテーマは逃れられない運命…!って感じがして名曲。

他にも動きの多いシーンでかかるビートの強い大胆なスコア、幻視シーンでかかる不穏なピアノの旋律など音楽は全体的に素晴らしかったです。

メインテーマはラストシーン以外にも主人公が追跡されるクライマックスの場面で鳴り響いていましたが、同じくヒロインがピンチを切り抜ける場面でこの曲を使った「キル・ビル」は見事なオマージュです。

正直それほど期待していなかったので、スプラッタのほぼないフルチがこれ程良いとは意外。

目のクローズアップがやたら多いのはこのときから(笑)。
個人的に「ビヨンド」の次と言っていいくらい、すごく好きな作品でした。