昨年劇場公開されていたのを見逃してしまったのですが、評価が高いらしく気になっていたサイコスリラー「RED ROOMS レッドルームズ」。
U-NEXTで配信が開始されていたのをようやく鑑賞しました。
予想の遥か上を行く大胆な意欲作でとても面白かったです!!
少女たちを拉致・監禁・拷問しその様子を「レッドルームズ」と呼ばれるディープウェブで配信していた凄惨な連続殺人事件。
事件の容疑者であるシュヴァリエの裁判を異常な好奇心でみつめる女性がいた…
2023年制作のカナダ映画で、舞台はモントリオール。作中話されるのはフランス語で、普段みる作品とはちょっと異なる雰囲気。
裁判ものなのかと思いきや全然違って、事件の虜になっている女性の心理をひたすら追っていく118分。
直接の残酷描写はなく、静的シーンが多くを占めていましたが、物凄い緊張感で目が離せませんでした。
スナッフフィルムを題材にした「テシス 次に私が殺される」という作品を思い出しましたが、こちらの方が深淵を感じて恐怖度が高い。構成も凝っていて圧倒的に面白い。
何を考えているのか掴み難い主人公女性に翻弄されっぱなしで、暗いけれどとても引き込まれる作品でした。
(※以下ネタバレありで語っています)
話題の殺人事件の傍聴席をゲットするべく、前日から裁判所近くで路上泊する女性・ケリー・アンヌ。
陰惨な事件が好きな変わり者なのか、被害者と何か繋がりがあって真相を追い求めている善意の人なのか…一切説明されないまま進むのが謎めいていて引き込まれます。
高級マンションに住み、オンラインポーカーで大儲け。それとは別にモデルの仕事もやっていて、富も美貌もある人なのに、なぜかシュヴァリエ事件に惹かれて止まない様子。
世の中にはシリアルキラーのファンになる女性が一定数いるらしく、ケリー・アンヌは同じく裁判を傍聴していた女性・クレマンティーヌと知り合い、行動を共にするようになります。
クレマンティーヌはシュヴァリエを無罪だと信じており、殺人鬼ファンの中でもまた異なる解釈のよう。
「瞳を見てこの人は絶対に優しい人だと思った」…って、そんなフワッとした感想で決めつけて語るのどうなんと思いましたが(笑)。
無一文で田舎から出てきて裁判所に通い詰め。主人公の誘いでマンションに居候させてもらうも返すあてもないのに「借りは絶対返す」と言うなど軽率そう。
最終的には「家に帰る」とトンズラ、帰る実家はあるんかいと思いつつ、無責任に何かに入れ込んじゃうこういう人っていそう…
でもある意味理解しやすい人ではあって、残酷写真を遺族に見せるのはよくないと怒ったり、「卵料理をお礼につくる」と気遣いをみせたり、いい加減なところはありつつも人間らしさの感じられる人ではありました。
それに比べて主人公のドス黒くて闇深いこと。
2人の少女が殺される動画をダークウェブで入手していたケリー・アンヌは、クレマンティーヌに動画をみせることにします。
あまりの残酷さに目を閉ざし涙するクレマンティーヌを横からガン見する主人公が怖すぎる。

「あなたはシュヴァリエのことを何も分かってないわよ」というオタクのマウンティング&分からせプレイだったのでしょうか。
さすがに付いていけないとクレマンティーヌは去っていき、ケリー・アンヌはまた1人きりになってしまいます。
かたや食べたくないピザを我慢して食べ、かたや興味のないラケット打ちを無理して楽しみ…人付き合いするとどうしても相手に合わせなきゃいけないところが出てくるよね…袂を分つオタク女子2人のドラマが面白かったです。
テレビ討論番組で「異常だ」と言われて落ち込んでいたクレマンティーヌ。
クールそうにみえるケリー・アンヌも他人からそう指摘されるのは癪に障るらしく、そこが意外というか計り難い人だと思いました。
「自分はお前らとは違う」と上から目線で見下しつつ、一人ぼっちは嫌だという面倒臭いオタク(笑)。
変わり者のようで”普通の人”の域を出ないクレマンティーヌに対し、内心嫉妬心があるようにも映りました。
お金があるのにモデルの仕事をしていてそれを失うと激しく動揺して涙していたのは、承認欲求というか社会との繋がりはどこかで求めていたからなのかな…
AI相手の寂しそうな生活。特別カスタマイズしたAIだと自慢気に語っていたけど、「嘘をついて溶け込もうとしても見破られてる」という内容のジョークが自分への嫌味だと思ったのか急に激昂。
自意識過剰で被害者意識だけは異様に高い、これは友達できないタイプ(笑)。
孤独を自覚したのが引き金になったのか、後半からタガが外れてさらに大暴走。
被害者女性のコスプレをして傍聴席に登場。
遺族の感情などお構いなしで、容疑者の男性に猛アピール。(シロなのかクロなのかハッキリしなかった容疑者が、目の色を変えて主人公に手を振るところはコイツ完全にクロだ…となって大変不気味)
さらにはビットコインを全額インして怪しいオークションにて3番目の被害者・カミーユの殺人動画をついに入手。
念願の動画を鑑賞後は、被害者宅に侵入しカミーユの部屋でスマホ自撮りを決行します。
聖地巡礼ということなのか、事件のファンとして被害者女性になりきりたかったのか…それにしても悪趣味すぎてドン引き。
入手した動画を提出するにしても、正義感からであれば警察に渡せばよく、遺族の目に入るようにわざわざ被害者宅に置いてくるというのがまた鬼畜。
「この事件についてはもうコンプした」という満足感からポイしたのか、「私の推しの殺人鬼はこんな立派な仕事をやってるんですよ」と世間に広めたくて無罪にはさせたくなかったのか…
冒頭からカミーユの母親に対して異常な視線を送っているようにみえて、この3番目の被害者一家に執着していたのが特に謎に思えました。
お母さんが「真相を知りたい、どんな手がかりでも欲しい」と訴えていたので、「だったら見せてあげるわよ」という当てつけだったのでしょうか。
オンラインポーカーについて語る際、「カモをみつけてじっくり息の根を止めるのが楽しい」と語っていたケリー・アンヌ。
弱ってるお母さんやクレマンティーヌを追い詰めて愉悦。
生粋のサディストでそういう部分が犯人と深く共鳴、レッドルームズの信奉者だったということだったのかな、と思いました。
自分は人を観察して見るのが好きなくせに、自身が見られたり監視されているように感じるのは嫌らしく、取り乱す場面も…
音楽もカメラワークも非凡な作品でしたが、主人公を覗き見するように淡々と映し出されていく作品のつくりが、「これを楽しんでみてるお前らも同じだぞ!!」と言われているようで、その居心地の悪さも含め実に巧妙でした。
残酷動画オークションとオンラインポーカーが同時進行する場面の張りつめた緊張感。結局闇オークションで入札された金額はUS50万ドル!?
「ブレインデッド」の廃盤DVDってレベルじゃねえぞ!!と唖然(笑)。
鑑賞困難なカルト映画や蔵出し未公開映像などずっと見たかったものを見れるときってあんな顔になるものかも…とこれまた複雑な気持ちにさせられましたが…

圧迫感のある美人、不気味な女優さんの演技に圧倒されました。
自分はホラー映画を好んで見る人間。でもリアルなやつは求めてないから…!!と異常性を否定したくなるものの、虚構の物語で感情を浄化。ドス黒い気持ちを内に抱えているのは確かだと思います。
残酷なものへの興味に取り憑かれて一線を超える人の姿には恐怖を感じました。
けれど個人的に本作で感じたのは”残酷動画に取り憑かれた人の狂気”というより”デジタル時代で感性を失った人の崩壊”という方がしっくり来るように思いました。
AI依存といい、フィットネス動画に1人勤しむ姿といい、ネットで完結した現代人の味気ない生活っぷりに何だか共感。
この主人公の場合、べらぼうにスキルが高くて誰とも関わらず大金稼げるというのが特異だけれど、生身の人間と接することなく生活できてしまって、生きてる実感に乏しくなってしまうことってありそう。
陰惨な事件に惹かれるのも、ギャンブル的行為にのめり込むのも、生きているという実感(=刺激)が欲しいから…
安全圏から死や残酷なものに触れることで自分が生きてることを確かめたい…「ファイトクラブ」の主人公が末期癌患者の会に潜入していたのと似通った精神なのかな、と思いました。
ネット内の世界が全てになって感覚が麻痺、現実の事件・他者への暴力を単なるコンテンツとして消費してしまい刺激依存だけがエスカレート。
ラストに映画が壊れたパソコン画面のように歪むのは、モニタ越しの人生しかなくなったという絶望的な結末に思われました。
何がきっかけでケリー・アンヌがシュヴァリエ事件にここまで惹かれたのかは全く説明されず、主人公の描かれ方は極めて曖昧。
でも本作では余白を持って描いているのが上手く機能しているように思いました。
オタク的行動や選民意識、孤独な現代人あるあるには理解できると思う部分があるものの、共感能力が著しく欠如していて自分本位に突き抜けているところには恐怖。
主人公を観察させられつづけられる118分、まさに深淵を覗くような体験でした。
好みの分かれる作品だと思いますが、冒頭からの裁判所での長回しカメラワークといい、あえて音だけにした動画の演出といい、とても尖っていて説明なしで描き切ろうとする力量が凄い。
チャレンジングな意欲作で、とても見応えがあって面白かったです。
