今年1月に公開、結構長いこと上映されていたのに見逃してしまっていた1本。
ルーマニアのアカデミー賞を総なめしたという「おんどりの鳴く前に」を鑑賞しました。
ピンボケした雄鶏メインのポスタービジュアルがやけに印象的。
田舎怖い系ホラーかと思ってましたが、見応えある人間ドラマ。ジャンルの分類が難しいですがサスペンスコメディ!?
気負ってみる作品にはなっていなくて、いい意味で気の抜けたユーモアに溢れていて所々で爆笑。
情けない主人公に愛おしさが湧いてきて、「ワイルドバンチ」「ガルシアの首」に通じるスピリットを感じました。
個人的には大変好みの作品で、地味ながら見応え充分の1本でした。
◇◇◇
ルーマニアの小さな村。
中年警察官のイリエは果樹園を営むことを夢見ていました。
村は洪水の被害に遭ったばかりで、市長が復興のため奔走。
イリエは新人警察官・ヴァリを迎え入れ平和な村の案内をしていましたが、突然川辺で惨殺死体が発見。
イリエは美しい村の闇と対峙することになりますが…
(以下ネタバレあり)
犯人探し系サスペンスかと思ったら、早々に真相が明かされる展開。
権力者である村長と神父がグルで村人を殺害。
「お前は首を突っ込むな」と暗にイリエに迫り、賄賂をチラつかせながら抱え込もうとします。
割とありがちなストーリーですが、本作で面白いのは主人公のキャラ造形。
通常の映画だと〝新しく村に来た新人警官〟の方を主人公にして、イリエは徹底的に嫌な上司として描かれそうですが、今作はヒーロー味皆無な情けない男が主人公というのが新鮮。
熱心な新人にはキツくあたり、上には媚びる自己保身の嫌な奴。
冗談は寒いし、夫を亡くしたばかりの未亡人に一方的に庇護欲をかきたてて恋心を抱くなど痛々しくてどうしようもありません(笑)。

(「大した事件もない」と主人公が言ってる背後で人が乱闘、こういうユーモアのセンスが突き抜けてて笑ってしまいます)
果樹園購入の資金にしようとアパートの査定を受けている…なんて事ない冒頭の会話劇から自分は引き込まれたのですが、都合よく高値で売れると思い込んでいるあたり、とことん自分に甘い奴という感じがしました。
一方子供の話に興じる兄と元嫁をみて疎外感を感じたらしく、家庭が欲しいと呟く場面もありました。
「焦るないつかその時が…」
「来ないよ、人生も折り返しだ」
夢見がちかと思いきや意外に現実を直視している一面も…
被害者宅の子供に読み聞かせをねだられると断らずに相手するなど根は悪い人ではなさそうなのが伝わってきて、多面的に捉えられた人物描写が丁寧で惹きつけられました。
コミュニティ内で決められてる枠組みからはみ出したくない…持ちつ持たれつでやってるところを荒立てたくない…
大人であれば大いに共感してしまう板挟みの苦悩には同情もしてしまって、カッコ悪いけど絶妙に嫌いになれない主人公でした。
そして悪役である村長一派のキャラクターも大変ユニーク。

腐った権力者には違いないのですが、劇中語られるルーマニアの厳しい現実。
周りの村が過疎化する一方、イリエのいる村だけが経済的豊かさを保っていられていて、それは村長の手腕によるものなのだと語られます。
「世の中には白黒つけられないこともある」…村長お抱えの検事の台詞に納得してしまう汚い大人の自分がいます。
しかし殺人の動機が本当に卑小なものでびっくり。
村1番の美人に横恋慕。借金漬けにした夫を殺害し返済を未亡人に要求して愛人になるよう迫る…タチが悪すぎてドン引き。
〝特別扱い〟が当たり前になってしまうとさらに胡座をかいて暴走してしまうものなのかも…説得力を感じてしまうせせこましい悪党でした。
金とコネで自分の取り巻きには見返りをしっかり与えるけどそうでない人間は制裁。
美化されていないゴッドファーザーは意外とこんなものなのかもしれません。
イリエが最も欲しい果樹園を賄賂にチラつかせ、事件から手を引くよう迫る村長ですが、村長の妻も悪事を把握している様子。
「果樹園あげるわよ」と言いながらすかさず主人公のお皿にオムレツなのかケーキなのかよく分からない食べ物をイン。

(このBBA間違いなくデキる!!)
ただ者らしからぬオーラを放つやり手おばちゃんに目が釘付けでした。
そして村長に代わって反逆者に直接手を下していたのはなんと神父。
実行犯は聖職者という恐ろしすぎるルーマニア。
未亡人女性にグーで殴り掛かろうとするなどとんでもない暴力野郎で絶句。
服装がなぜか赤いジャージと身だしなみも変(笑)。
「神を許したまえ」と言えば何やってもオッケーなの鬼畜すぎて笑ってしまいました。
賄賂に心揺らぐイリエでしたが、独自に聞き込み調査をしていた後輩のヴァルが半殺しにされてしまいます。
舌の再形成が必要とか言っていてやり口がまるでマフィア、やっぱり田舎怖い系ホラーだったのか…!!と戦慄。
さらに果樹園を下見している最中に元の所有者だったと思われる家族と遭遇。
村長が血も涙もなく一家を追い出して手に入れた物件らしいことが分かり、寝覚めの悪さに悶絶。
そして美人未亡人は暴行され子供と共に家を追われることに…
夫を亡くしたばかりの女性にアクセサリーをプレゼントしようとするイリエがズレまくっててどうしようもない(笑)。
神父に殴られてる女性になんで十字架のネックレスを贈るのよ!?そのチョイスを疑いますが、明らかに一線を超えた横暴の数々にイリエのくすぶる想いが爆発。
「あなたは昔正義感でそのキャリアを無駄にしたじゃない」…元嫁から唐突に過去が明かされるのにはビックリしましたが、一度自身が痛い目に遭ったからこそ部下にあんな態度だったのかなあ。
レッツゴー、ワイノット??あんなにカッコよくなくて最後までフラフラしてて行き当たりばったり感がすごかったですが、それがなんともリアル。
けれど主人公が最後にみせたひとかけらの矜持に胸がアツくなります。
怒涛のクライマックス、スタイリッシュからかけ離れた全員素人の銃撃戦が最高。
イリエが銃口を向けると真っ先に斧を掴みかかる神父、お前が1番殺る気なのかよ(笑)。
近づいて市長に手錠をかけようとするとラリアットを喰らわせてくる妻のBBAはやはり只者じゃない。
密輸人が発砲、イリエも撃ち返すけどお互いになかなか当たらず再装填も下手くそでドキドキ。
ゴタゴタながら何とか一掃するも背中に斧を喰らうイリエ。痛みに堪える姿にこちらもヒリヒリ。
水面に浮かんだ自分の顔をみて「悪くない」と呟くラストが美しく、主人公の〝めっちゃいい表情〟に爽やかな気持ちが残りました。
暴力で解決してるしこのあと村どうなるの??…よく考えたら単純なハッピーエンドじゃない気がするけど、納得は全てに優先する…!!
誰かの幸せを犠牲にしてまで欲望を叶えたいと思わない…それで幸福になれるとは到底思えない…踏みとどまった主人公の選択が静かに感動的でした。
原題はOameni de treaba(善良な人たち)だそうで、おんどり推しなのは日本版だけ??でもポスタービジュアルも邦題も妙に印象的。
冒頭の「飼い殺しにされるだけの集団から1羽飛び出るおんどり」からラストは決まってたんだと、カッコいいオープニングとラストだと思いました。
果樹園近くの土地にゴミが落ちていると言う新人に対し「木だけを見ろ」と返すイリエの台詞が印象的でしたが、悪い部分はどこにだってあるだろと開き直りたくなる気持ち、めっちゃ分かるわーと共感。
初心を忘れておのずと楽な方を選んでしまいたくなる瞬間、なあなあで変えた方が良いのかもしれないけど声をあげない沈黙の人間関係など、身につまされる内容で主人公の心の揺らぎが胸に迫りました。

普段みる映画と異なるルーマニアの景色やムードも独特で面白く、脇役に至るまで出てくる役者さんが西部劇に出てきそうな顔つきをしていたのも大変よかったです。
骨太社会派作とはちょっと違っていてもっとエンタメ寄りだけど、芯のある丁寧なつくり。
地味だけど心に沁みるものがあって、とてもいい映画でした。
