どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「センチネル」…孤独な地獄の番人、ラストの圧倒的寂寞感

人知れず大きな役目を背負い、長い年月をたった1人で過ごしている…

こういうキャラクターはアニメや漫画にも度々登場していて「セーラームーン」の時空の門扉を司るセーラープルートだったり、白面の者を封印していた蒼月須磨子だったり、「レイアース」の〝柱〟であるエメロード姫だったり…その労苦を想像すると何とも切ない気持ちにさせられます。

77年のホラー「センチネル」は序盤は「ローズマリーの赤ちゃん」を思わせるストーリーですが、選ばれし者として重荷を背負う主人公の姿に圧倒的孤独を感じる作品でした。

センチネル 特別版

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NYに住むファッションモデルのアリソン。
弁護士の恋人マイケルと結婚間近であるものの、自立した生活を送りたいとマンハッタンを眺望できる古風なアパートメントを借りることにします。

アパートの最上階にはいつも窓の外を眺めている謎めいた盲目の老人・ハリラン神父が住んでいました。

ある日アリソンは隣人にパーティーに誘われますが、猫とインコを連れ歩くどこか馴れ馴れしいおじいさん、レオタード姿のレズビアンカップルなど住人は奇妙な者ばかり。夜中には騒音に悩まされます。

不動産会社に相談を入れるアリソンでしたが「アパートに住んでいるのは貴方とハリラン神父だけのはずよ」と言われてしまいます。

アリソンは次第に心身を病み、恋人マイケルがアパートの調査に乗り出します。

彼女が会ったという住人たちの名前を調べると、全員殺人犯で死刑執行済みの故人であることが発覚します。

建物の権利者が教会だと知ったマイケルはこっそり資料を盗み見に行くことに。

そこには自殺未遂ののちに聖職者に転職している者たちの謎の名簿があり、次の候補者としてアリソンの写真も載せられていました。

実はアパートは地獄の門の入り口と繋がっており、番人(センチネル)がそれを常に見張り、悪しき者たちを遠ざけていたのでした。

悪魔たちにとっては「次の番人」に変わるときは絶好のチャンス。

番人候補を地獄に堕とすことができれば味方に引き入れることができるので、カトリックの大罪である〝自殺〟をさせようと企んで彼女を追い詰めます。

一方教会は自殺を図るような弱い人間の罪悪感を利用し、神に仕える役目を無理やり与えていたのでした。

 

吐き気を催す邪悪が教会だったというオチにびっくり…!!

神は人を救うけどタダではない…善悪も敵味方もない圧倒的孤独と報われなさに70年代らしさを感じてしまいます。

序盤はシンプルな心霊ものかと思いきや、主人公の素性と彼女に近づく者たちの目的が少しずつ明かされていくミステリもののようなプロットがよく出来ていて引き込まれます。

実はアリソンは過去に2回も自殺を図っている複雑な女性。

高校生の頃に不倫中の父親の姿を目撃しショックで自殺を図っていました。

父親が亡くなり実家に帰った際、トラウマを思い出して眼前で過去の回想が流れてくるシーンがユニークですが、太ったおばちゃん2人と肉欲に耽る父親の姿は醜悪でどこか退廃的。

後の「目の前でオナニーするレズビアンの住人」といい性的なシーンが生々しくてギョッとさせられます。

 

恋人マイケルは予想を大きく裏切り優秀な探偵役を務めますが、彼もまた善人とは程遠い存在でした。

妻帯者でありながらアリソンと付き合い、自分の身を脅かすようになった妻を密かに殺していたような男。

弁護士としても相当汚いことをやっていたことが伺えます。

十字架を首に下げるような女性であるアリソンは本来貞淑な人間で、もしかしたら彼が妻帯者であることを知らずに付き合っていたのかもしれません。

或いは大嫌いな父親と同じ道を辿ってしまった自分が許せなくなったのかもしれません。

奥さんが自殺したと聞いて罪悪感に駆られ自殺を図るも、またも未遂に終わるアリソン。
  
元は父親の不貞と暴力、またそんな父親から逃れず家庭に篭った母親をみて無力感を抱きながら育った少女時代。

脆弱さを抱えた故悪い男に騙されさらなる罪悪感を背負い、そこを宗教団体につけ込まれ利用されるだけの人生に…

最初から詰んでいたとしか言いようのない主人公が気の毒でなりません。

教会側が次の人柱を立てるのに必死だったことも伝わってくるのですが、心の弱い人を利用して死ぬまでこき使うというのは鬼畜の所業。

悪魔の爺さんの「暴君だ!」の言葉にも一理あるのではと思ってしまうほどです。

 

クライマックスに地獄の門が開いて悪魔たちが跋扈するシーンはおどろおどろしく、本物の身体障害者の人たちが異形の者として登場。

今の時代だと完全にアウトだと思いますが、でも世界観とマッチしていて本当に異世界の扉が開いたような凄みを感じさせます。

ディック・スミスによる特殊メイクも迫力満点で、突然顔に傷が出現する恋人、真っ白なゾンビのような姿の父親など、次々に迫ってくるのが恐ろしいです。

みずから命を絶とうとした矢先、ハリラン神父が現れそれを阻止、アリソンは縋るように十字架を手にします。  

「ミッドサマー」の主人公がホルガ村に残ったように、あのままモデルとして生きていても罪悪感からは一生逃れることができなかったのかも…と思うと彼女は救われたと言えるのでしょうか。

選択肢が用意されているようで用意されていないような、複雑な気持ちの残る結末です。

皆の平和を守るため必要な犠牲で大切な仕事。今日も知らない誰かの我慢や犠牲で世界は回っているものかもしれない…

窓の外を1人きり眺めるアリソンの姿にどうにも切ない気持ちが込み上げます。

人が何か役割を担うということはその分自由を失うということ…無情だけれど真実味も感じさせるラストが心に残ります。

 

キャストは驚くほど豪華で、不動産屋さんの綺麗なおばあちゃんはエヴァ・ガードナー。お喋り悪魔の爺さんはバージェス・メレディス。黒幕的存在の枢機卿アーサー・ケネディ。特殊メイクで迫力たっぷりのハリラン神父はジョン・キャラダイン。唯一人間味を感じさせる刑事役はイーライ・ウォラック。その相棒役にクリストファー・ウォーケン。モデルをしている主人公のカメラマンはジェフ・ゴールドブラム。ラストにアパートに引っ越してくる新しい住人はトム・ベレンジャー

…などなどブレイク前の人も含め、誰がどこにいるのか探すのも楽しくなるような豪華出演陣です。  

恐怖度・雰囲気も抜群のオカルトホラー。寂寞感に浸れるラストが素晴らしい作品でした。