お話的には短編ホラー漫画数十ページで終わるような内容なのに、迫力の俳優陣とジワジワ追い詰められていく恐怖描写が秀逸。
B級ホラーかと思いきや文学的な雰囲気も漂っていたりして、すごく好きな作品でした。
(※結末について言及しています)
善良な家族の生気と魂を吸い取って家が若返る…家主を変えながら邪悪な家が数百年生きていた…というオチ。
家族が徐々に崩壊していくところとか、ラスト15分が怒涛の急展開なところとか、今みると「ヘレディタリー」に少しテイストが似ている気がしました。
家がサラーっと新品のように美しくなるラストはバッドエンドなのに不思議なカタルシスも感じてしまいます。
舞台のお屋敷も雰囲気満点ですが、顔に迫力がありすぎる出演者たちが凄い…!!
家に魅せられ狂っていくお母さん役はカレン・ブラック。
家の中を切り盛りをするのは女性であることが多くて、自分の城作りにのめり込んでしまう姿が妙にリアル。住むところって人の性を変えてしまうものなのかも。
もし母親が愛情よりも自己満足の物欲や権威的なものに名を残したい気持ちを優先してしまったら…
母という柱を失い一気に崩壊してしまう一家の姿。家族ホラーの趣がしっかりあって、どこか文学的な感じもします。
父親のオリヴァー・リードは息子をプールで溺死させようとする表情が迫真すぎて恐ろしい。
自分よりも機械に強くて賢く成長していく息子への嫉妬心、妻に性生活を拒否されて傷ついたプライド…居場所を失っていく男の恐怖もリアルです。
そして立ち位置的には助演なのに存在感で他を食らうベティ・デイヴィス。
絵画が趣味で甥の子供を孫のように可愛がる、優しくて活力溢れるおばあさん。
それがどんどん家に生気を吸い取られていって、少しずつ髪の毛がグレーに…
細かいところも丁寧に描かれていて、身体まで小さく萎んだように感じられる見事な病みの演技に目を奪われます。
また父親ベンの子供時代のトラウマとして霊柩車の運転手が唐突に登場。これだけ家関係ないやん!?と思ってしまいますが、強烈な印象を残します。
監督の幼少期の実体験が元になっているらしく、子供の頃にこびりついた恐怖イメージってあると思いますが、まさしく童心に帰るような恐怖。
避けられない死がジワジワ迫ってくる感じが怖いです。
特に流血があるわけでもなく、舞台装置や小道具の使い方が上手なこの作品。
屋根裏部屋に並ぶ歴代の家の持ち主(犠牲者たち)の写真が最初に目を引きますが、家族写真でなく1人1人のポートレートなのが怖いし皆バラバラなのが何とも寂しいですね。
家に1人残っているはずのアラダイス夫人の食膳の演出も分かりやすく不気味。
いるの?いないの?絶対いないやろ??と思ってたら、カレン・ブラックがムシャムシャと自分でご飯食べるとこでギャーー!!となりました。
他にも海のように波打つプール、森にある古い三輪車、一斉に動く時計など出てくるアイテムがいちいち不安を煽ります。
改めてみると最初に家を貸した老兄妹(この2人もすごい顔の迫力)が謎。彼らも家の一部なのか何なのか…
「家を大切にしてくれる善良な人であればこそ喰われる」というのが理不尽ですが、だからこその生贄なんだろうと納得もさせられます。
登場人物は少ないし、グロがあるわけでもないのに2時間ジリジリ追い詰められたようにテンションが持続するのが凄い。
原題:Burnt Offerings(焼いた生贄)もそのままですが、それ以上にストレートな邦題が潔くていいですね。
出演者と舞台装置に呑まれるようなホラーでした。