1978年公開のリチャード・フランクリン監督によるサイコ・サスペンス・ホラー。
昔ビデオでみてアタリだった記憶があるのですが、この度めでたく再ソフト化。
リチャード・フランクリンといえば、お猿さんがエリザベス・シューを追いかけ回す「リンク」が思い浮かぶのですが、あちらがホラー版「美女と野獣」ならこちらは「眠れる森の美女」の男女逆転版って感じでしょうか。
歪なラブストーリーホラーで好きな人間には刺さる1本でした。
冒頭は熟年の男女が激しく愛し合っているという中々気まずい場面からスタート。隣の部屋でそのイチャイチャ音を1人きいている息子パトリック。
母親に恋人が出来たことを快く思わなかったのか、風呂場でイチャつく2人に電気ストーブを投げつけ殺害。「サイコ」を思わせる設定です。
しかし青年は実の母を殺したショックから昏睡状態におちいり、3年の月日が流れました。
そこへ新任看護師のキャシーが赴任してきます。
舞台となるのは小さな私立病院ですが、なかなか雰囲気のある建物。
意地悪そうな婦長さんとの面接では、「給料は最低賃金。勤務時間は長い。予告なく解雇するけどいいわね??」…
どんだけブラックなんだよ!?嫌な予感しかしない職場ですが、ヒロインも離婚を考え中と訳ありの身らしく承諾。
婦長に続き院長先生もキテレツな人でパトリックを診ているのはあくまで研究のため…同意もなく人体実験を行うなどマッドサイエンティスト臭しかしません。
病院内でパトリックを献身的に介護するのはキャシーだけでした。
しかし段々奇妙な出来事が彼女に降りかかります。
家の中が荒らされる、好意を寄せてきた医者が溺れかける…
そして夜中にタイプライターで文書を打っていると、まるでパトリックが語りかけているような文字が…
心電図の針が大きく揺れたり、機械アイテムを使ったホラー演出が上手いです。
一体この超常現象は何なのか…
なんと心優しい看護師に惚れたパトリックが横恋慕し、彼女に近づく男性を排除している模様。
自分に危害を加える輩にやり返すならともかく、関係ない他人を平気で殺そうとするあたりこのパトリックかなり歪んだ喪男。
パトリックが元々どんな男だったのか、それは冒頭のシーンから想像するしかないのですが、しかし冒頭地点から既に意識不明の現在と全く変わらない生気のない表情しか見えませんでした。
もうこの人は不遇の事故で昏睡状態になったというより、ずっと他人に心を閉し母親の代わりになる新たな依存先の女性が現れるまで100年の眠りについている…そんな身勝手男なのではないかと思えてきます。
しかしこの映画がよく出来ているのは、途中「もしかして超能力を持ってるのはキャシー??」と不穏な気持ちにさせるところ。
離婚したいと一方的に別居を開始したというキャシー。本音では夫にいなくなって欲しかった…話しかけてくるチャラい男性医師もウザかった…
そんな彼女の精神状態がもたらしたものだと思うとめちゃくちゃ怖いです。
キャシーの知らない数式がタイプライターで打たれたりラストの対決をみても能力はパトリックのものとみるのが筋でしょうが、結局パトリックの家庭環境もキャシーの元夫との関係もハッキリよく分からないまま話は終わります。
説明だらけのつまらない映画になるでもなく、かといって曖昧でもやもやした気持ちを残すわけでもなく、想像する余白を残しつつ恐怖を煽るのが良い塩梅で優秀なホラー。
最後のタイプライターでのやり取りには切ないもんがこみ上げてきます。母親を失っても死ねなかった「キャリー」の別の姿にも思えました。
看護師キャシー役の女優さんは万人受けする美女ではないかもしれませんが、意志のある強い感じが魅力的で劇中男性にモテるのもなんか納得。
パトリック役の男優さんは、台詞ゼロ、ずっと目を開けてなきゃいけないしこの役よく引き受けたなーと思いますが、動かない彼の迫力があってこそ、ここまで盛り上がったので名演技だったと思います。
「キルビル」で昏睡状態のユマ・サーマンが唾を吐くのはこの作品へのオマージュなんだとか。
今回出たBlu-rayのメーカーさんは特典やジャケット仕様には力を入れないメーカーさんのようですが、ゴブリンが音楽を提供したというイタリア版の1部は収録されていました。(でもやっぱりこの映画には元の方がよかったと思う)
この機会に鑑賞できて嬉しいです。