どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「テナント/恐怖を借りた男」…ご近所トラブル系陰鬱サイコ・サスペンス

新居に引っ越しては粗品を持ってお隣さんにご挨拶にまわる…そんな時代じゃなくなって来たような気がする今日この頃…

ホラーなのか妄想系なのかハッキリしてませんが、ご近所トラブルを題材にしてるのが面白い76年公開のロマン・ポランスキー監督によるサスペンス。

パリの古びたアパートの一室を借りることになった主人公・トレルコフスキー。

前の住人は部屋から投身自殺といういわくつきの物件、大家のおじいちゃんも管理人のおばちゃんもめっちゃ感じ悪いのに、パリは住宅不足だそうで下手に出ては彼らの機嫌を伺う気弱な主人公。

いざ住み始めると物音にうるさい隣近所とトラブル、意にそぐわない人間は住民投票で追放されるという嫌すぎる住環境。

音を立てないよう神経使って暮らす様子は「戦場のピアニスト」の主人公の潜伏生活と何だか重なります。

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空き巣にあって警察に行けば「ポーランド人か」と問われ身分証明書を求められる、向かいの部屋の人影がいつもこちらを向いておりまるで監視されているよう…

迫害や移民差別の中で生き抜いてきたポランスキー監督の個人的な体験が大きく反映されているのかも、世知辛い主人公の姿にこちらもキリキリ追い詰められているような気分になってきます。

アパートの面々は嫌ーな人間ばっかですが、毎回注文したものを持ってこないカフェの店員がかなり不気味!

なぜかアパートの前住民が口にしていたものばかりを持ってきます。

「いかなる瞬間に人はその人でなくなるのか」…やんわり強制されてるうちに自ずとそれに順応してしまうってなんか怖いですね…

前半はいかにもヤバいご近所さんに主人公が追い詰められてく系ホラーの様相ですが、後半一気にどんでん返し!?
主人公の方が被害妄想に取り憑かれ1人発狂していく様が描かれます。

周りの人たちは不親切で身勝手だったけど決して悪意があるわけではなかったんですね…
向こうにしてみれば特に意図はなかったのに勝手に悪くとられるってそれもまたホラー。

追放されたご近所さんも主人公が被害被らなかっただけで本当にうるさくて難ありだったのかも…皆我こそは被害者だと思っているところが胸糞です。

一見善良そうな主人公も明らかに気の合わない同僚を家に呼んでパーティーしたり「無理してる奴感」があったりもして、周りに溶け込もうと必死なだけの自分がない人間にみえなくもない…

かといって一貫して個を優先した思いやり皆無のご近所さんたちが良いのかといわれるとそうでもない…とまあ八方塞がりな陰鬱ドラマになっております。

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↑女装までし始める後半の展開は急すぎる気もしますが監督(=主演)は生き生きとしたご表情(笑)。

イライラする主人公かもしれませんが、小心者の自分はトレルコフスキーの方に感情移入しつつみてしまいました。

言いたいこと言わず我慢、内にストレス溜めてものの見方が歪んでくる…ってなんか分かるような気がします。

快適さを求めるなら人付き合いなんていらん、突き詰めたら究極1人きりになるしかない…ってめっちゃ極端ですが、出てくる人出てくる人があまりにもイヤーな感じなので人間不信な心の内にどっぷり浸かった気分になります。

助演陣も印象に残る顔の人が多く、自殺した前住人の友人・ステラを演じるのはイザベル・アジャーニ

なんでこんな美人が優しくしてくれるんだろう、あとから包丁持って追いかけてこないかなーとか思ってしまう(笑)。

何を考えてるのかさっぱり分からない不思議ちゃんでしたが、他人と適度に距離とりつつ決して無関心ではない、1番バランスのとれた人だったのかも。

彼女からみれば主人公が最も迷惑な人物となってしまいました。

管理人のおばちゃんは「ポセイドン・アドベンチャー」でめっちゃいい人だったシェリー・ウィンタース。意地悪が滲み出たような人相に別人かと疑いました。

ローズマリーの赤ちゃん」の方がはっきりホラーしてて緊張感もありますが、この作品はこの作品で物寂しーい感じがすごく残る1本でした。