♫愛されるよりもー愛したいマジでー
先日鑑賞した「アメリカの夜」が凄くよかったので年代の近しい後期のトリュフォー作品を探して観てみました。
イザベル・アジャーニが一方的に恋をするストーカー女を熱演。この方は狂気がかった役が本当にハマりますね…美しすぎて怖い!!
ヴィクトル・ユーゴーの次女アデルの日記を参考にしてつくられたドラマということで、どこまで忠実なのか詳細は分かりませんが一応史実をベースにつくられてるっぽいです。
南北戦争の真っ只中の1863年。アデルはかつて一度だけ愛し合ったイギリス人中尉ピンソンを追ってヨーロッパからはるばる彼の駐屯地・カナダまでやって来ます…
周囲に話す情報がてんでバラバラ、すぐバレる嘘を平気でつくあたりからしてヤバい人なのはお察し。
男と付き合ってた頃の描写が一切ないのが潔く、序盤は〝信頼できない語り手〟によるサイコサスペンスのようです。
親にも嘘ついては仕送りをせがむとんだ放蕩娘ですが「結婚話があったのに誑かされて捨てられた」っていうのは本当っぽくて、借金まみれ&女たらしのピンソンは碌な奴じゃなさそう…
↑どうせしょーもない男なんやろな、と思ってたら滅多にみない端正な顔の美男子でビビる…面食いかよ。
絶望的に脈がないなら思い切りよくこっちから捨ててやればいいのになんて思うけど、「浮気してもいいから」と娼婦をプレゼントしてまで結婚を迫るアデル。
とにかく何か書いてないと落ち着かないので毎日手紙、ノートに文字びっしりー。
すんごい美人なのに男が逃げるのも分かるザ・重たすぎる女。
トリュフォーみるのはこれが2本目ですが、悲壮感ありありな話でも案外ところどころコメディしていて決して暗い作品になってないのが凄いバランスでした。
男の写真を祭壇みたいな場所に飾ってんのが可笑しかったり、どう見てもインチキな催眠術師に「彼の気持ちを操って」と頼み込むやり取りが完全にコントだったり…
まさにスピリチュアルに入れ込むメンヘラさん、現代にもこういう人いるよねーとどこか親しみの湧くような人物像です。
女性が自由に恋愛結婚できなかった時代に海を越えて好きな人を追いかける…アデルさんカッケー…!!
…とは全く思えず、ピンソンが「愛ではなくエゴイズムだ」と言ってましたが、これぞ恋愛って言われるとちょっと違うんじゃないのかなー、一方的な愛でも自分で納得して相手を思って行動するのとは全く違って、相手も愛を返してくれるのが前提になっている…
一定の歳になれば自分と相手の認識が必ずしも一致しないことや期待通りに他人が反応するとは限らないと知るものかと思いますが、有名作家の娘という立場も相まってそういう人付き合いをする機会に全く出会えなかったのでしょうか…
人生で初めて自分の存在を肯定してくれた(と感じた)男性への執着を捨てに捨てきれなかっただけのようで、本音は愛するよりも愛されたい、恋に生きた幸福な女性にはとてもみえませんでした。
父親であるヴィクトル・ユーゴーの姿は一切映らず手紙の遣り取りのみ、けれどその大いなる影を感じさせるような演出になっており、結局親類も使いの者も迎えに来ずアデルは終始孤独です。
「お金あげるから帰って来なよ」としか言えないオトン、フランス中が死を悼むような偉人も子育て上手く行かんかったんやなーと透けて見える陰鬱家族ドラマに何とも言えない味わいがありました。
完全に後からネットでみただけの情報ですが、夫婦揃ってダブル不倫、愛人は多数、兄弟の恋人にも手を出した歴ありというワイルドな私生活だったらしいユーゴー。
アデルの幼少期は親の愛を十分に感じられたものではなく、またアデル自身親の恋愛体質な面を受け継いでしまっていたのかもしれません。
劇中でも語られるお姉さんの死もトラウマになっていて、兄弟姉妹の中で生き残った罪悪感やプレッシャーみたいなのもあったのかも…色々想像するとやはり悲劇的な女性で辛いことがあった人ほどなにかに依存しがち、メンタル病んでるときに出会う異性ほど問題ありっていうのがすごい説得力です。
下宿先のおばあちゃんとバルバドスで助けてくれたおばちゃん2人がめちゃくちゃ親切でこういう人の優しさに触れても引き返せなかったのが切ない…
本屋の男性とは新たな恋が始まるかと思いきや、ユーゴーの娘に「レミゼ」プレゼントってそんなん要らんやろーって、この男もモテない奴やなーとこういう細かいところで笑わせてもらいました。
登場時から虚言癖のヤバい人感を存分に醸しつつ、どんどん壊れていくイザベル・アジャーニの演技が圧巻。
静かな映画のようで独特のユーモアもあり、1人の女性の生涯をしっかり見届けたような気持ちにさせてくれました。