どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ダゴン」…抗う人の意志と無情な血の運命

いあ!いあ!

スチュアート・ゴードン2001年の監督作、未見で気になっていたのを初鑑賞。

「死霊のしたたり」のようなユーモアあるやりすぎエログロ路線とは全く違って、得体の知れない集団に取り囲まれる恐怖、逃れられない血の宿命…シリアスに怖い王道ホラーしてて見応えのある作品でした。

IT長者のポールは恋人のバーバラ、そして友人夫妻とスペインへボートで優雅な休暇を楽しんでいました。

休みの日も株価をチェックするポール、そんな彼に痺れを切らしパソコンを海に放り投げるバーバラ。ワイルドすぎる(笑)。

ところが突然の嵐に巻き込まれ船は座礁、救助を求めてポールたちは近くの漁村に向かいますが…

 

手に水かきのある謎神父にまばたきしないホテルのおっちゃん。
建物は傷みまくっててどこもかしこも汚い。

あれこの村おかしいぞ!?と思ったのも束の間、仲間とはぐれた主人公が村人に襲われる追いかけっこが開幕。この鬼ごっこが異様に長い(笑)。

けれど緊張感が途切れないのが凄いところで、スペインがロケ地だという町は本物の廃村のようで雰囲気満点。

一向に止まない雨は運命を操作されているような不条理感を醸し出しています。

やがてようやく話せる第一村人発見…!!

そのおじいちゃん曰く村はかつてキリスト教を信仰していたものの不漁になり海の邪神を崇めるようになりました。

村は富み村人たちは永遠の命を手に入れたものの、その代償として半魚人化、定期的に生贄を捧げなければならなくなったのでした。

遠目ではゾンビのようにもみえた村人たちですが、足が遅いのは陸地から海で生きるよう体が適応したから…世界観がしっかりしています。

そして「ウィッカーマン」「サイレントヒル」のような邪教集団の恐ろしさ。

捕らえられたおじいちゃんが聖書を読み上げながら生皮を剥がれるシーンは強烈で絶句です。

けれど両者とも救いを求める信仰者という点では同じでどこか皮肉めいたものも感じてしまいます。

ウィッカーマン」同様ダゴンの村人たちも不作になるたび生贄を必要とします。

残酷で胸糞ですが食の保障されない生活になったとき人間が選ぶ合理的な解決方法がこれだった…人は追い詰められると何かに縋りつきたくなるものなんだ…普遍的恐怖、絶望をまざまざと感じさせるストーリーです。

 

こんな恐ろしい目に遭う主人公、オタクっぽい雰囲気だし弱いに違いない…と思いきや果敢に恋人を助けに行くし、諦めずにしぶとく戦う…!!

↑だんだんジェフリー・コムズにみえてくる

「人生は二進法」と語るポール、鬼ごっこ中にはまるでゲームのように選択肢をとる場面が度々ありました。

いかなるときも自分で選択し道を切り開いていくのが人生だ…好感の持てる応援したくなる主人公です。

ところがラストに無情な事実が突きつけられます。

なんとポールにも魚人の血が流れていました。

スペイン生まれだというポールの母はかつてこの漁村の男と付き合っていてそこで身籠ったのがポールだったのでした。

最後の最後まで抵抗するも海に帰っていくポール。結局自分のルーツに勝てなかった敗北エンドですが、ラストはなぜか美しくこれでよかったんだという思いも湧き起こります。

バッドエンド感が少ないのは主人公と結ばれる運命だという異母妹・ウシアちゃんが美しいからかもしれませんが…(笑)

↑こんな美人が相手なら足がイカだっていいじゃなイカ

主人公の出自部分が唐突に思われる節もありますが、冒頭から伏線がしっかりあってテーマも明快なので「こうなるさだめだった」感がある種の安堵感すら与えてくれます。

怪物(ダゴン)の全貌をあえてみせないスタイル、回想シーンへの鮮やかなジャンプ、途切れない鬼ごっこの緊張感…演出が冴え渡っていて怪物の触手レイプも映像にせずともしっかり陰惨感がでていたように思います。

 

ラヴクラフトを全く知らないのですが、「インスマウスの影」と「ダゴン」の二篇を併せて上手く脚色したよう。

今更ですが原作も手にとってみたくなりました。

B級かと思いきやさすがスチュアート・ゴードン、完成度が高かったです。