「サンゲリア」(79)、「地獄の門」(80)、「ビヨンド」(81)に続いて制作されたフルチ黄金期最後の1本。
ずっとみれていなかったので今回初見です。
正直思ったより大人しめでビヨンドみたいなこれから世界が終わる系のスケールの大きな話を期待してたらもっとこじんまりした内容でした。
けど「家族って一緒にいても心通じ合えないものなのかしらね…」…独特の寂寞感が漂っていて、これはこれで味わいのある作品になってるように思いました。
ニューヨーク郊外、墓地の中に佇む一軒家。
若いカップルがイチャイチャしようと空き家に侵入していましたが、男は頭皮を剥かれた死体となり、女は後頭部から口に向かって派手にナイフを刺されて死亡。
犯人の顔は映らずその片腕は化け物のような手をしていました。
そうとは知らずこのいわくつき一軒家に越してきたボイル一家。
夫・ノーマンは大学の研究者で自殺を遂げた友人の調査を引き継いでいました。妻・ルーシーは慣れない土地への引っ越しに不安があるようでメンタルが不安定気味。
一人息子・ボブはメイという少女から「その家に行っては行けない」と再三警告を受けますが、両親にはメイの姿は見えないようで、そんなボブの〝1人遊び〟もルーシーを悩ませているようでした。
しかし家では次々と恐ろしい出来事が…
大筋はオーソドックスな家系ホラーとなっていて、一軒家の外観、雰囲気がかなりいいですね。
ルーシーが部屋の床下に墓石が埋め込まれてるのを発見するも「この地域は冬は寒いから家の中に埋葬してるのさ」と説明する夫。
臭いすごそうやけど大丈夫なんか。
しかしなんと…地下には元の家の持ち主だったフロイトステイン博士が住んでいて時々地上に現れては人を殺しその死体を使って自分のボディをカスタマイズしていました。
一応博士はゾンビ??といっていい存在のようですが、死人どうこうというより完全に化け物なお顔、けれど洋服はキッチリ着てて動きは遅いのに姿勢のいい立ち姿…と妙に人っぽいというか「パラサイト半地下の家族」のような生活感があって可笑しかったです。
永遠の命を研究してるうちに自身もゾンビになったと思われる博士。(どことなく「死霊のしたたり」を思い起こさせるマッドサイエンティスト)
そして”生き永らえるためには新しい人間が必要”で他人を部屋に連れ込んでは殺すところは「ヘルレイザー」っぽいです。
子供のボブだけが危機を察知するも両親に全く信じてもらえず、1人地下室に閉じ込められ「助けて!」と叫ぶ場面。
親がチンタラしててなかなか扉開けられず何やっとんねんとイライラ。
でもなかなか理解し合えない家族の気持ちの隔たりを表している深いシーンにみえないこともない。
この映画自体が家庭を顧みない夫を軸に人間関係が崩壊していく様を描いた深いドラマのような気がしてこなくもない。
最後には夫妻は殺されボブだけがメイちゃんとともに別世界へ旅立っていきます。
そしてラストに流れるテロップ、
子供が怪物か、怪物が子供なのか、誰にも分からない
ーーヘンリー・ジェイムズ
え、どういうこと??…ってなりますが、幽霊小説の古典「ねじの回転」にオマージュを捧げているのでしょうか。
「ねじの回転」は幽霊屋敷ものしつつ信頼できない語り手による心理サスペンスにもなっていました。
じゃあこの「墓地裏の家」も全てはボブの妄想で実は不和な家庭に恐れ・憎しみを抱き夢の中で殺した…とかパンズラビリンスみたいにどうとでも解釈できるような深い映画に思えなくもないような…
夫ノーマンと意味深な目線をやり取りし不倫関係を匂わせてたベビーシッターのアンは生首ゴロゴロという1番酷い死に様でした。
家族に不協和音をもたらした罰を子供が深層心理で用意したのかも??…色々考えられそうな気もするし途中でぶん投げられただけのような気もするし、霧に包まれたような余韻がのこりました。
考えてもよう分からんのは相変わらずですが物悲しい雰囲気が伝わってきてそれでよしって感じです。
アルジェント作品にも出演していたアニア・ピエロニがアン役で出演していましたが「インフェルノ」で魔女を演じていた際はあんなに美しかったのにフルチは彼女を全く綺麗に撮れてない…!!同じ女優さんかと疑ってしまいました。
フルチ作品の常連だったルーシー役のカトリオーナ・マッコールさんもノイローゼ気味の母親役という、その役作りの賜物なのか今回はかなりお疲れ気味にみえました。
立て続けにフルチ映画に出演して散々な目にあってばかりでやつれてしまったのかもしれせんが(笑)。
子役の2人、特に「ビヨンド」のエミリーみたいな立ち位置の謎めいたメイちゃんは雰囲気があってとてもよかったです。
コウモリとかウジ虫とかなんか色々出てきたし皆結構酷い死に様だった気がするけど、残酷描写は前に撮られてる3作に比べたら控えめな印象。
そっちよりも全体的にしっとりしたムードがよかったです。