どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

ルチオ・フルチの「クロック」…時間逆行ゾンビ!?スタンド攻撃を受けているぞッ!

なんと…今月U-NEXTにフルチ作品が大量投下!!

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先月にはホラー秘宝まつりというのが開催されていてフルチ作品をはじめとしたカルトホラーが多数上映されていたようなのですが残念ながら全く観に行けず…配信やBlu-rayで鑑賞できる機会も大変有難いです。

どれから観ようか目移りしてしまうラインナップですが、昔中古VHSでみた89年制作の「クロック」。

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晩年のフルチ作品はこのジャンル自体が下り坂だったせいもあるのか総じて評価が低い…というか「ビヨンド」以外は真っ当な映画ファンからみれば皆ポンコツ映画なのかもしれませんが、時間逆行ゾンビもの!?ということでなぜか印象に残った作品です。

なんとテレビ映画だったらしく、ゴア描写が控えめなのも「世にも奇妙な物語」っぽい雰囲気なのも納得。

 

舞台はどっか分からんイタリアのお屋敷。
そこには老夫婦が住んでいて、置き時計、掛け時計、砂時計…と部屋はなぜか時計だらけ。

夫妻は子供に話しかけるように時計たちに声をかけ可愛がっていました。

一見いい人そうな老夫婦ですが、屋敷の中には殺害した甥っ子夫婦の死体を隠しており、それに勘づいたメイドをいきなり惨殺…とどうやら善人ではなさそう。

屋敷には片目に傷を負った庭師の男(VHSジャケ写の人)もいて、彼だけは甲斐甲斐しく老夫婦に仕えていました。

そんな中、屋敷の財産を狙った不良男女3人組が老夫婦たちを襲います。
万引きするわ、猫を虐待するわとろくでもない連中で如何にもホラー映画で最初に殺されそうな不道徳な面々。

彼らが老夫婦たちを殺害した矢先、いきなり屋敷中の時計が止まる…!!(ここは雰囲気あっていい)

さらに時計の針が突然逆回転しはじめ殺したはずの老夫婦たちが蘇って襲ってくる…!!

ファニーゲーム」のアメリカ版では撃たれた殺人鬼がリモコンで巻き戻しをするように時を戻す…という描写があったと思うのですが、ああいう不気味さがあって、「スタンドだッ!我々は今スタンド攻撃を受けているぞッ!」と今にも叫びだしそうなパニック感が良いです。

老夫婦の能力というより時計の方が本体っぽいので不良3人組は屋敷中の時計を壊せばよかったんじゃないかな。

巻き戻し描写が「知らん間に老夫婦が復活してる…!」というあっさりした見せ方で逆再生のもっと面白い映像をつくれなかったのかな、と思ってしまいますがそういう技巧派ではないのがフルチ。

テレビ映画だからとはいえグロ描写や音楽も「ビヨンド」や「サンゲリア」に比べると全くハリがないのも残念です。

老夫婦が蘇ったのちも更に時は戻り続け、やがて冒頭シーンで殺されていた甥夫婦とメイドも蘇ってきます。

土に埋められていたメイドの手がズコーッと出てくるところで「あっ、これもゾンビものだったのね」と実家のような安心感が込み上げてきます。

逆行作用で死人から生者に戻っているので正確にはゾンビとは言えないのかもしれませんが…(ややこしいな)

逆行の力は屋敷内だけに作用するわけではなく、世界そのものの時を戻しているようで、「だったら逆行の中で時間進んでるこの不良組の存在自体がおかしいのでは??」と考え出すと頭痛くなってきますが、多分作ってる方は何も考えてない(笑)。

最後にはどういう因果なのか逆行中に殺された不良組の死も取り消されて、皆すっかり数時間前の世界に。

屋敷の老夫婦の方は蘇った甥夫婦に復讐され死亡。

不良たちは虐待していた猫の返り討ちを受けて車が転落し全員死亡。ここは53年度版「恐怖の報酬」のような暗さを漂わせつつ伏線を綺麗に回収。

映画の冒頭では「時間を逆戻りすれば私たちの罪も逆戻りするーーオノレ・ド・ヴァルザック」なんてインテリな言葉が飾られてましたが、逃れられない因果律があるんだよ、悪いことやったらそれは取り消せないもんなんだよ…総じてみると道徳的ホラーになってて後味はスッキリめ。

全体的な雰囲気はスチュアート・ゴードンの「ドールズ」に似ているかもしれません。

殺害シーンには際立ったものがありませんが、ファンタジックな雰囲気が好きな作品でした。

フルチ作品、未見のものも多いので少しずつ追いかけてみられればと思います。