2021年はフルチ没後25年ということでBlu-rayが出たり限定上映があったり配信がスタートしたりとこれまで観れなかった作品をみれるチャンスに満ちた1年でした。
今回ニューリリースの対象になっていないタイトルですが、「サンゲリア」以前にフルチの名を世に知らしめたといわれる「マッキラー」という作品があるそうで…
ここまで来るとどうしても気になってしまい2016年にリリースされたBlu-rayを購入し初鑑賞。
最高傑作と名高いのにも納得、「これホントにフルチが撮ったんでしょうか…」と思わず問いたくなるような、予想外に格の高い圧倒の作品でありました。
古い迷信と因習が色濃く残る南イタリアの田舎町にて少年ばかりを狙う不可解な連続殺人が発生。
容疑者となった女呪術師マッキラーは怒りに燃える住民たちから壮絶なリンチを受けて惨死するが、事件はまだ止むことはなかった…
72年の作品でオカルト要素のないジャーロもの、推理サスペンスとなっています。
冒頭田舎町を横切る高速道路の景色からして圧巻。
北部から来た娼婦たちを引き連れて小屋で情事に耽る大人たち、それを覗き見する子供たち…
何もない田舎町の荒涼感をまざまざと感じさせ、このぶっ飛んだ景色が格差の激しい南部と北部の隔絶を見事に表しているようです。
事件の容疑者として捜査線上に浮上するのは、知的障害の男、北部から来たよそ者の金持ち娘、ジプシー女性マッキラーと町の除け者たちばかり。
真偽も確かめぬまま噂に翻弄され怒りの矛先を変えては他人を攻撃する町の人間の身勝手さが最も恐ろしいものとして描かれています。
マッキラーが町の男たちにリンチされる場面では、陽気なロック音楽〜美しいバラード曲をBGMに壮絶な暴力が振るわれます。
鎖で鞭打たれ削ぎ落ちていく骨肉の描写は「ビヨンド」にもありましたが、リアリティを帯びたグロ描写の痛々しいことといったらこの上ないです。
実はアリバイがあり無罪だったマッキラー、しかし本人自身は呪殺したつもりで子供たちに明確な殺意はあったというのがまた何ともいえない陰鬱さ。
亡くなった奇形の赤ちゃんが皆と同じお墓に入れず見晴らしのいい丘に遺体を埋めた…けれど町の子供たちがそれを掘り起こして注意しても聞かなかったから激怒した…
子供たちも決して善なる存在としては描かれておらず、大人たちが疎外しているマッキラーを同様に侮蔑するに至る「差別の継承」が描かれていると思いました。
主役かと思われたマッキラーは退場し、もう1人のキーパーソンとなるのが北部から来た美女・パトリツィアですが…
全裸で少年を誘惑、オレンジジュースを裸体に溢していくドキドキプレイを披露。
「綺麗なお姉さんに誘惑される少年羨ましい」ってシチュにみえがちですが、もし男女逆パターンだったらどうなんでしょうの完全にアウトな状況…麻薬をやめられない小児性愛の女性で彼女もまた善人とはいい難い存在です。
通常のジャーロだと探偵役になりそうな新聞記者マルテッリ(トーマス・ミリアン)が終盤このパトリツィアとタッグを組んで事件の真相が明らかになっていきますが…
(以下ネタバレ)
それっぽい雰囲気とフラグはあったので決して意外性のある犯人ではありませんでしたが、「子供たちが穢れた存在になる前に殺して救ってあげる」…
純粋潔癖ゆえの全力の生の否定、且つそれでいて自分が良いことしてると思っている…ジーク・イェーガーとプッチ神父足したような厄介極まる敵でラスボスの風格に満ちた奴でした。
この犯人も少年愛っぽい雰囲気&でも決定的な描写はない…って感じでしたが、当時は神父=犯人というだけでカトリック教会を暗に批判した内容だと受け取られたのでしょうか…
先のマッキラーの処刑場所も散乱した墓地だったりと〝信仰の死〟を描いたような節があり公開時に物議を醸したというのには納得です。
元は父親の浮気で家庭が崩壊、聴覚障害を持った妹も疎外されている…と町から生み出された悪感も漂っていてよかったです。
断崖絶壁にて追い込まれるところはまさに火サス…!!…からのまさかの肉弾戦…!!
↑妹役の子の演技が上手い!!唯一無垢な存在なのが切ない(泣)
ラストは「ザ・サイキック」にもあった落下顔面破壊シーン。顔はどうみても作り物だけど、残酷な死とともに穢れない神父の胸の内が吐露される対比が凄まじく今みても斬新でした。
♫エーアーアーという耳に残る旋律がオープニングとエンディングとで景色を同じくしてか掛かり、「排他的な町だけはそのまま」という絶望感を湛えて終わるところも凄みを感じさせる幕引きです。
音楽は「女の秘めごと」でもフルチとタッグを組んでいたリズ・オルトラーニ。
メインテーマも暴力シーンでかかる物悲しいボーカル曲も耳に残り音と映像のシンクロがばっちり。
カメラを斜めにした不穏なショットなども印象的で、被害者が子供ゆえに殺人シーンは極めて控えめなものの死体発見までの画に工夫が凝らされていると思いました。
何よりイタリア南部マンフレドニアの眩しくなるような白い街並みとドラマの暗さが強烈なコントラストでロケーションが圧巻です。
ミステリものとしてみると最後の記者の推理がやや唐突で多少粗はありますが気にならない程度。
〝異国に来て殺人事件に巻き込まれる主人公視点〟が一貫している「サスペリア2」などと比べると、この「マッキラー」は誰が主人公なのかハッキリしないまま目まぐるしく視点が切り替わり話が進みますが、それもミステリの構成としてきちんと成立しており善人不在の客観視点でのドラマが陰鬱みを際立たせていました。
俳優陣はやはりマッキラー役の女優さんの演技が1番凄かった…!!
怒り狂った表情や高速道路で力尽きる姿などもう個人的にはアカデミー賞級でした。
主人公はマッキラーではないし原題もマッキラーじゃないしマチェーラって発音だったけど、なんかマッキラーって口に出したくなる言葉の響きですね(笑)。
B級ホラーのフルチ好きだけどこんな映画も撮れてたなんて凄い…!!(そしてこれをみると後期が凋落とか言われるのも分かる…)圧倒の作品でした。