イギリス制作の2010年公開作品。
かなり低予算でつくってそうですが、スケール感はしっかり出ていて大自然をバックにゾンビが跋扈している画が新鮮。
走らないゆっくりゾンビにドキュメントタッチの硬派なつくり。ロメロを受け継いでいるともいうべき正統派ゾンビ映画で、地味だけど光る作品でした。
余計な説明をごちゃごちゃ入れず突然始まるストーリー。
アフリカで未知のウイルス感染が原因でゾンビが出現したらしく、米軍が基地を作って対応するもどうにもならず撤退。
エンジニアのマーフィー中尉は墜落した飛行機から唯一生還し車を見つけて移動を開始。
途中で地元の青年兵士・デンベレと遭遇し、2人で大陸横断することに…
出会いの場面がしんみり名シーン。
瓦礫に挟まり動けなくなった車。突然現れた黒人兵士が「後ろから押す」と言ってくれたけど、もしかしたら撃たれるかも…
無事に走り出した車、白人にいいように利用だけされて置いてけぼりにされるかも…
2人ともあちこちで見捨てられたり散々嫌な思いをしてきた中、それでも誰かの力を借りなければならず、ようやく出会えた信頼できる人間の有り難さ…
エンジニアのおっちゃんも黒人の青年も無口で淡白ですが、2人の心情が伝わってくるようでした。
草原をドライブしては出てくるゾンビにドキドキ。昼はかんかん照りの灼熱、夜はまっくらで寒い…大自然の過酷な状況がまたひと味違ったスリルです。
そんな中息子に会いたいと焦ったデンベレはスピードを出し過ぎて車をエンストさせてしまいます。
貴重な飲み水を冷却水に使うか、それとも徒歩で歩くか…人間あとから結果をどうこう言うのは簡単ですが、リスクを背負ってどちらの道が最適か選ぶのは本当に難しいこと。
マーフィーは「徒歩ではどちらにしろ移動できない」と冷静に判断をくだし車を修理する道に賭けることにしました。
結果ピンチを切り抜けることに成功します。
その後偶然立ち寄った村で休息させてもらう2人でしたが、村のリーダーは基地に避難せずずっと暮らしてきた故郷に残るのだと語ります。
「人類に天罰が下ったんだろう、自然はバランスを取り戻そうとしてる」…村長のこの台詞もロメロっぽい終末感。
家族に会うため再出発する2人でしたが、ゾンビの夜襲に遭いデンベレがあっけなく死亡。
1人残されたマーフィー、土地勘がないし絶望的と思いきやここから謎の無双。
木の上で仮眠をとる、ゾンビの着ていた服を剥ぎ取り日差しと低体温から身を守る…と高いサバイバル技術を披露。
(どこぞのアサシンみたいで強そう)
地元住民も避けるという「悪魔の爪」と呼ばれる険しい岩山に到着しても、意外にあっさり乗り越えるマーフィー。
とんでもない有能っぷりにはちょっと笑ってしまいましたが、その後もゾンビをなぎ倒しまくって無事基地に到着します。
しかし基地も物資が途絶え孤立しており、仲間と連絡をとるも米軍もゾンビに囲まれ撤退中とバッドエンド。
多数のゾンビが基地に押し寄せる中、マーフィーはデンベレの息子と出会い、お父さんが持っていた形見を渡します。
「独りでは無謀でも誰かと一緒なら可能性はある」…何がどうなるんだという圧倒的「詰み」の状況ですが、そんな中でも仄かに希望を残したようなエンディング。
「ゾンビ」のラストに似た余韻が残りました。
振り返れば音もなく傍にいて、どこにでもいるからどこにも逃げ場がない。ゆっくりゾンビの怖さがしっかりと描かれていました。
CGを使っていない特殊メイクのゾンビもよく出来ていて、ロメロゾンビのような個性やユーモアはないけれど、物哀しさはあって皆さん演技が上手かったです。
赤ちゃんを託そうとする切実な地元女性など、わずかな出番の人もリアルな演技で印象に残りました。
登場人物も話の見せ方も渋いけれど、真面目にしっかりつくられたゾンビ映画で個人的にはとても好きな作品でした。