どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

リチャード・マシスン「縮みゆく男」、中年男性の精神の危機を描く哲学的SF

スコット・ケアリーは、放射能汚染と殺虫剤の相互作用で、1日に7分の1インチ(3.5ミリ)ずつ身長が縮んでゆく奇病に冒されてしまう。
世間からの好奇の目、家庭の不和。
昆虫並みの大きさになってなお、孤独と絶望のなか苦難に立ち向かう男に訪れる運命とは?

ある日どこかで」「激突!」など映画化作品も多数あるマシスンの長編第4作目。1956年出版の作品です。

漫画の「ブラックジャック」でも身体がちぢむ奇病のお話がありましたがこちらは医学サスペンスに寄せておらず、カフカの「変身」さながら自らの存在を問う哲学的要素が強め、且つしっかりエンタメしててすごく面白かったです。

お話の構成としては、
・主人公が身長1インチ(2.5センチ)となり1人取り残された地下室でサバイバル生活を送るAパート
・家族と生活していた以前の生活を振り返るBパート

が交互に繰り広げられるようになっています。

自分はマシスン作品、「地球最後の男」と「ヘルハウス」しか読んだことなかったんですが、同じような描写が堂々巡りするというか、くどく思われるような執拗さが好みの分かれるところなのかな、と思います。

この「縮みゆく男」は交互パート構成が功を奏してその欠点を感じにくく、時系列交差でじわじわと主人公の苦悩が浮かび上がってくるのに引きつけられ、とても読みやすい作品になってました。

 

スコットの元々の身長は188センチ。

男性にとって身長って一種のプライドやステータスだったりしないものでしょうか。

妻よりもずっと背が低くなりベッドに誘うも気まずくなってしまう、父親の逞しさを失うとともに娘の尊敬も失われていく…

奇病のせいで家庭不和に陥るドラマが憂鬱ですが、歳重ねて夫婦の性生活がなくなっていくとか、成長した子供が父親を煙たがるようになるとか、どこの家庭でも起こりうる出来事のようにも思えます。

中年男性の切実な精神の危機をSFに落とし込んだような設定が秀逸です。

スコットがまたなんとも要領の悪い男で、ああすればよかったこうすればよかったを脳内で繰り返すヘタレ主人公であります。
内向人間としては馬鹿にできない突き刺さる器の小ささ(笑)。

さらには工場の社長をしている兄に仕事の口利きをしてもらう、夫に代わって妻が外で働くようになる…社会の中で男らしさを失った男性ってこんなに息苦しいんだろうか…縮みゆく身体とともに存在の危機を感じる主人公の独白がひたすらシンドイです。

 

闘病モノのドラマを感じさせるところもあって「お前らにはどうせ分からないさ」と心を閉ざしちゃうのがまたヘタレなんですが、こんな目にあったらそんな気持ちになっちゃうのも致し方ないよなあ、薬が明日にでも完成されないかと期待してしまう気持ちなどひたすら気の毒に思えてなりません。

家族で遊園地に出かけたある日、サーカス小屋で出会った同じ身長の女性と恋に落ちるスコット。

苦難を認めつつ生まれたときからの障害を受け入れている女性と、後天的に負った障害を受容する難しさと…同じ世界を共有できる喜びもありつつ立っている位置はまるで違うっていうのがリアルに思われて、短い章でも濃ゆいドラマが渦巻いてました。

 

一方地下生活パートは「地球最後の男」ばりの壮絶サバイバル生活にハラハラ。

長らく天敵だった蜘蛛との対決シーンは、ずっと逃げていた存在に立ち向かい勝利して男の自信を取り戻す、「激突!」にそっくりだと思いました。

たった1人の世界で消滅することが確定していても必死にもがく姿は「社会的価値や他人からの評価がなくてもそれでも生きたいと思うのか??」…ロメロの「ゾンビ」のような哲学を感じさせます。

最後にはもう一度家族に会えるのかな、と思って読み進めましたが…(以下ネタバレ)

 

結局家族とは会えないまま、別世界へ旅立つ主人公。ですが読後感は悪くなくむしろ解放されたような明るさがありました。

結局家族がいてもいなくても人間最後の最期には1人きり。不器用ながらもあくせくやってきた主人公から最後にでてくるのが感謝と納得の想いだったというところに救いを感じました。

老いて死を迎える心持ちってこんなものなのかな、他人に期待することも期待されることもなくなって自分でよし!と思える人生だったと肩の荷を下ろす姿が寂しくも感動的でした。

 

さらに訪れる最後の最後のどんでん返し!?は衝撃度こそ「地球最後の男」に劣るものの、主人公を待っていたのは天国でも地獄でもなく…人間の観測できる世界はごく一部で未知の世界が広がっているのかも…恐ろしさもロマンも両方感じさせるエンディングでここもとてもよかったです。

ヘタレ主人公が勇気振り絞って大逆転するとこは「ヘルハウス」にも似てると思ったのですが、マシスンはこういう「男の精神的葛藤」の物語が多いのかな。

中年版ミクロキッズなので映像化しても面白そうだと思ったら、1957年にすでに映画化されていたみたい。

縮みゆく人間 [DVD]

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  • 発売日: 2015/09/25
  • メディア: DVD
 

評価が高いし気になります。

文学要素が強いので脚色の良し悪しがはっきり出そうだけど、CG使って再映画化しても面白そうな作品だと思いました。