意外、もっと早くに観ておけばよかったーと後悔です。
1のラスト改変と2の全てが不満だった原作者ブラッティがついに自らメガホンを取った「エクソシスト3」。
1の続編として無理なく成立している上、ホラー映画としても怖さたっぷりでよく出来てました。
序盤の刑事ものの雰囲気は「セブン」にとてもよく似ていて、90年公開と考えると後に作られる陰鬱サイコサスペンスの先端を行った作品だったのではないでしょうか。
3の主人公は1にも登場したキンダーマン警部。
1でキンダーマンを演じたリー・J・コッブは76年に亡くなってしまっていて、今作ではジョージ・C・スコットにバトンタッチ。
ホラー作品では「チェンジリング」にも出演してましたが、ドッシリしてて安心感がありすぎで怖さを半減させる人選のような気もします。
が、キンダーマンの人の懐に入ってしまう剽軽な人柄、刑事としての優秀さなど前作の人物像は違和感なく表現されていて素晴らしかったです。
1の原作(とDC版)のラストはこのキンダーマンとカラス神父の友人であったダイアー神父が知り合うところで幕引きとなっていました。
ダイアー神父役の俳優さんも1と違う人になってましたが、堅苦さとは無縁の神父らしからぬキャラクターは健在。
カラス神父が亡くなってから15年経っても2人の友情が続いていたということにほっこりです。
しかし…!!
ダイアー神父がある日何者かに惨殺されてしまいます。折しも街では凄惨な連続殺人が起きており、その手口は15年前に解決したはずの双子座殺人事件に酷似していました。犯人は既に処刑されたはずなのになぜ…??
残酷な殺人描写は映らないものの、口頭で説明される被害者の死に様がキツい内容で想像させてくるのが怖い、怖い。
やがてキンダーマンは「自分こそ犯人だ」と名乗る隔離病棟の男と対面。男が亡くなったはずのカラス神父と瓜二つで動揺するキンダーマン。
しかし観客の目にはブラッド・ドゥーリフ演じる若い男の顔とカラス神父の顔が交互に映ります。
このミスリードも上手くててっきり「悪魔がキンダーマンを動揺させるためカラス神父の幻覚を映したのだろう」と思っていたら…なんと男は本当にカラス神父で、処刑された殺人鬼の魂を悪魔がカラス神父の死体に入れ込み無理矢理蘇生させた…ってオチ。
後半はオカルトホラー全開でしたが、信仰心のない現実主義者を主人公に据えて感情移入しやすいドラマになっていたと思います。
多くの凄惨な事件と相対してきたキンダーマンも「なぜこの世にこんな理不尽なことが溢れているのか」と胸を痛めてきた人でした。
犯人の「仕方ないだろう。俺の性格をつくったのも神様だ。」の言葉は腹立たしく絶望的です。
神の不在という信仰のテーマは自分には理解できるものではないですが、現実にある恐ろしい事件を思い浮かべたときの「人のやることじゃない」と言いたくなるような暗い気持ち…社会不安や厭世観みたいなものは共通するところがあるのかなと思います。
この世の殺人鬼=悪魔にした設定が上手いなあと思いました。
ラストは1(原作)と全く同じテーマを強調しているようでした。
「この世には確かに悪、不条理なことが存在しているがそれに立ち向かう人間の善性も含めて神の作られたものである」
…と受けとめる信仰心がブラッティの描きたかったところなのだと思います。
神様云々と言われるとピンとこないけど、「必ずしも思った結果が得られるとは限らないが希望と意思を持って行動する」…「人事を尽くして天命を待つ」っていうのは生きていく中色んな場面で人が直面する課題のように思えます。
(合格できるか分からないけど受験勉強頑張るとか、売上あげるために試行錯誤するとか日常の生活に関することでも)
一見どきついホラー映画に思えるけどエクソシストの中身は結局のところ「懸命に生きる人」を描いた人間讃歌のドラマなんじゃないかなと改めて思いました。
最後に悪の存在を認めるキンダーマンの咆哮は「ポセイドンアドベンチャー」の神を呪うスコット牧師のような迫力!!
その叫びに応えるように善なるカラス神父が再度姿を現すところは感動もありつつ、1よりも物悲しい、暗い気持ちが残りました。
カラス神父もダイアー神父も失って1人残されたキンダーマン。
きっと作者自身も歳をとって家族や友人を失う人生の別れを経験したからこそ滲み出た寂寞感…これは1になかったもので老いの哀しみも感じさせました。
カラス神父の15年を思うとあまりにも酷い処遇でしたが、エンドロールに流れてくる賛美歌が美しく最後にカラス神父は救われたのかな、と余韻が残りました。
◆ブラッティの演出が面白かった
それにしてもブラッティ、映画監督が本業じゃないはずなのに怖がらせ方が堂に入っていて見応えのあるシーンがたくさんでした。
1番印象的だったのは夜勤病棟を固定カメラで追う場面。
静かな夜の当直の雰囲気にドキドキ、丁寧に視線を追わせておいて最後はシザーマンかよ!!というホラーオチに2重にびっくり。
「メモを見ながら同じ台詞を繰り返し練習するヤブ医者のシーン」も地味に怖かったです。
先に違和感を見せつけることで次のシーンの緊張感を上げる演出が効果的。
犯人視点でみせる刑事ドラマのような見せ方をいきなりぶっ込んでいてユニークでした。
そしてビビりまくったのはやっぱり天井のバーサン!!
全体的に超常現象描写は抑え目だったところにいきなり来るので怖かった…1のスパイダーウォークを上回る効果的な使い方でした。
「精神疾患を抱えてる人は悪魔に乗っ取られやすい」という設定はどうなんだろうと思うものの、健康であることも決して自分で選べることではないと思うと、1然り、病院は不条理さを描く上ではまたとない舞台だと思いました。
(これに比べると2の「リーガンが超能力で自閉症の少女を治す」は陳腐に思えてしかたない)
後半、犯人男が真相の一切合切を都合よく語るシーンはザ・説明で粗に思ったものの、夢の幻想シーン・思い切った場面の切り替えなどには引き込まれました。
1のように一貫したトーンがあるわけではないけど、撮りたいように撮りながら雰囲気は統一されてて面白いつくりの映画でした。
1とどっちがいいかと聞かれればやっぱり1は圧倒的。
フリードキンの情け容赦ないリアリズムとブラッティの原作がもつ繊細さと…両方が奇跡的に溶け込んで、親子ドラマでもあるところがいいなあと思います。
でも3は3で90年代の猟奇殺人系作品を先取りしたようなダークさとオカルトホラーが融合してとても味わい深い作品になっていました。
原作「レギオン」は日本語訳出てないみたいだけど、読みたいなー。
Legion: A Novel from the Author of The Exorcist (English Edition)
- 作者:Blatty, William Peter
- 発売日: 2011/02/01
- メディア: Kindle版
2みてから長らくエクソシスト関連作を徹底的に拒絶してましたが、大反省。2がダメでも3で逆転ホームランする「猿の惑星」みたいなパターンあるんですね。
繰り返しみたいと思う作品です。