どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ゴー・ナウ」…丁寧で優しいイギリス産闘病映画

毎年やっている24時間テレビが嫌いでほとんど視聴したことがなかったのですが、ある年夜9時ごろからやっている2時間ドラマのパートを偶然観る機会がありました。

嵐の松本潤が主演で神経性の難病にかかった主人公の闘病生活を描く…というものだったのですが、これが意外によい出来栄えで驚いてしまいました。

個人的な24時間テレビへの勝手な偏見??として誰かが亡くなった話を無理やり美談にしてて何かイヤ…なんて思っていたのですが、このドラマは主人公が亡くならずこれから良くなるか悪化するか全く分からないがリハビリに向かっていく…というエンディングになっていました。

生活感のないジャニーズタレントがこういうドラマをやるのも滑稽だ!!…とも思っていたのですが、松本潤香里奈が夫婦役で「若くして結婚したヤンキー夫婦」(←失礼!)に見えて全く浮いていなかったのも意外でした。

そしてこのドラマをみたときに思い出したのが、97年公開のマイケル・ウィンターボトム監督、ロバート・カーライル主演のイギリス映画「ゴー・ナウ」という作品です。

イギリス・ブリストルに住み休日には仲間とサッカーに興じるごく普通の男性・ニック。
ある日パブで会った女性・カレンと恋に落ちるが、その後多発性硬化症という難病にかかっていることが判明する…

この映画も主人公が死ぬわけでもなければ病気に打ち勝つわけでもない、ただ闘病の一幕が切り取られたようなドラマになっていました。

序盤は主人公の日常や女性との出会いを描きつつ、手に持っていたものを落としてしまうようになるとか目がちょっと見えにくくなるとかそういうことで異変を感じていく。

医者もすぐに病名を断定できないという下りが非常にリアルで、周りは自分の病気をとっくに知ってて自分だけが何も知らないんじゃないか…と疑いはじめる主人公の焦燥も胸に迫るものがありました。

そして恋人のカレンがめちゃくちゃいい女です。

付き合って間もない交際相手が難病だと分かったら自分なら別れを選択しないだろうか、と思うけど卑屈になる主人公を支えて「さあリハビリするわよ!」なんてハッパかけてくれる。

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先に挙げた松本潤のドラマも気の強いヤンキー嫁っぽい香里奈がハマり役で主人公を叱咤しながら支える姿にグッとくるもんがあったのですが、女性がかなり強い。

決して綺麗なところだけを描いていないところが良くて、カレンが上司とさらっと浮気してたり、「え、それでいいの!?」と思う展開もある(笑)。

博士と彼女のセオリー」では介護する側の女性の視点に重きが寄せられていましたが、こちらの作品は視点がもっと対等で全く取り繕ってない感じ。
セックスシーンも度々挟まるのですが、2人の性生活の変化、人間関係の変化もきめ細やかに描かれていました。

段々と病気が進行し元々かなり痩せているロバート・カーライルが眼鏡をかけ始め、杖をつき、車椅子姿になっていく姿はみてて辛くなってきます。

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ニックの親・親戚も病気のことを知りますが、実際に介護をしてるわけではない両親とでは気持ちにかなり隔たりがあって、家族でも理解が必ず得られるわけでない(けど間違いなく愛情はある)というところもリアリティを感じました。

全体的にはシリアスしつつ主人公のサッカー仲間たちがいい具合にコメディパートとして間に挟まってきます。

受け取る相手によっては憤慨されそうな皮肉たっぷりのジョークや下ネタを連発…!

主人公はそれに傷つくこともあれば案外けろっしたこういうやり取りに支えられたりもして自らも皮肉を言ったりします。

ブリティッシュジョークの真髄なのか分からないけどイギリスらしい強かさみたいなのが感じられる。

病気に限らずですが大変なことがあったとき、その大変さを笑ったり、非日常の中で変わらない日常を探し出せる人の逞しさが清々しいと思いました。

83分という非常に短い映画ですが、結婚式の馴れ初めVTRとアルバムをずっと見せられてたのか…と思わせるつくりも非常に洒落ています。

検査シーンなんかでオシャレな洋楽がジャカジャカ流れてくるのも新鮮、でもこれが不思議とピッタリはまっていました。

良くなるか悪くなるか先が全く分からないまま物語が終わるところが松本潤24時間テレビドラマと全く同じで、病気になったらそれで終わりというわけではなくそれと付き合っていく人の長い生活がある…そういう人の心持ちを想像させるところが両作品とも良かったと思いました。   

地味だけど心に残っている作品です。