「食人族」のルッジェロ・デオダート監督による86年のスラッシャー映画。
全く予測のつかない珍展開、景気よく鳴り響くクラウディオ・シモネッティの音楽…アメリカのティーンスラッシャー映画とジャーロが融合したような不思議なムード。
若者たちが訪れるのがデヴィッド・ヘスとミムジー・ファーマーの夫婦が営むキャンプ場…ともう嫌な予感しかしません(笑)。
とっ散らかっていてクセありまくりの1本ですが、個人的にはとっても楽しい作品でした。
◇◇◇
コロラド州の人里離れたキャンプ地に、ロバート&ジュリア夫妻と息子のベンが引っ越して来ました。
この土地はかつてインディアンの呪術師の墓場だったらしく、シャーマンの霊が周辺を彷徨っているという噂がありました。
ある日森でキャンプしていたハイスクールの若者たちが、呪術師のマスクを被った謎の殺人鬼によって惨殺されてしまいます。
その15年後…キャンプ場にまた新たな若者たちがやって来ました。惨劇が再び幕を開けることになりますが…
妙に気合の入った体育館のシーンといい、てっきり冒頭の若者たちが主人公なのかと思いきや、いきなり話が15年後にジャンプするのに仰天(笑)。
新たなキャンパーたちは一気に2グループも登場、次から次へと出てくる新キャラに全く頭が追いつきません。
主人公たちは仲のいいカップル集団ではなく、お互い相手を取っ替え引っ替えするようなフリーセックス集団。
会話に知性と品が全くないのが素晴らしいです。
そして冒頭に出てきた息子のベンも再登場。大きく成長し、兵役を終えて実家に帰省しようとしていたところをグループに出会って一行に加わることとなります。
秋の紅葉が美しい山々の景色。
カヌーやバイクなどアクティビティを存分に楽しむ若者たち。
近くで古いシャワー小屋を発見すると、小屋の掃除をなぜか真っ暗な真夜中に始めるなど謎にアグレッシブなキャンプ集団(笑)。
そこに不気味な呪術師が忍び寄り、ナイフや斧で若者たちを1人ずつ殺していきます。
普通なら恐怖に怯えるところを、仲間が行方不明になっても気にも留めないし気付きもしない、平然とキャンプを楽しみ続ける一行が斬新すぎる(笑)。
殺人シーンは思ったよりグロ控えめですが、崖から勢いよく転落したり、狭いシャワー小屋でサディスティックに追い詰められたり…みていて退屈せずテンポよくメンバーが次々と殺されていきます。
そしてさらにここに中年夫婦の愛憎ドラマが展開。
ベンの親であるジュリア&ロバート夫妻は、妻のジュリアが長年保安官の男と浮気していました。
しかし夫は妻に異常に執着しているようで、不貞を知っても一向に別れようとしません。
ショートカットがよく似合う、中年美人妻のミムジー・ファーマー。
それに対し夫役のデヴィッド・ヘスはやばいオーラがダダ漏れ。
「呪術師を捕まえてやる」とキャンプ場のそこら中にとんでもない仕掛け罠を張り巡らしているのがおっかない(笑)。
途中には殺人鬼そっちのけで夫婦の殺し合いが勃発…!!
別れ話を切り出す妻に激昂した夫がジュリアの首を絞めますが、返り討ちにあって負傷。
まだ息のある夫のボディを納屋に隠す妻でしたが、そこにキャンパーがやって来てジュリアが殺人犯ではないかと不審に思い始めます。
結局ジュリアは起き上がって来た夫に殺されてしまいますが、若者たちはついに仲間の死体を発見してパニックに…
「お前の父親が犯人だろ!」と言ってキャンパーたちは息子のベンを締め出してしまいますが…
(ここからネタバレ)
なんと犯人は息子のベンだった…!!
正直15年前の殺人目撃シーンからかなり怪しかった(笑)。
久々に帰省してきて惨劇が再来となったら、犯人はもうコイツしかいないでしょう。
実は母親と保安官の浮気現場を幼い頃に目撃していたベン。
「お父さんに言わないでね、呪術師に言いつけられてしまうから…」とあしらわれて納得していた様子でしたが、内心ではやはり両親の不和を悲しんでいたのでしょうか。
父親の怒りを代わりに発露させていたのか、抑圧された気持ちが爆発してしまったのか…性交に励む若者たちを惨殺していたベン。
ベタながら陰鬱家族ドラマをはらんだストーリーがよかったです。
しかしラストにベンを射殺した保安官曰く、「15年前の事件はベンではあり得ない」とのこと。
昔の事件はオトンがやったのかな…と思ったら、まだ生きていたデヴィッド・ヘスが再登場。
保安官と因縁の対決になるかと思いきや、そこに本物の呪術師の霊!?が現れ、オトンを刺殺。
呪いの噂はホントだった…というまさかの心霊オチ。
それにしても呪術師、殺るなら浮気保安官の方じゃないのかよ…!!
投げっぱなし感はありますが、なぜだかスッキリ見終えられるラスト。
自分で妻を手にかけたデヴィッド・ヘスが森の中で「ジュリア…」と呟いてるところなど、病みと哀れが極まっていて何だか切ない変態親父でした。
アメリカのティーンホラーみたいな幕開けしといて、蓋を開けてみれば若者たちよりも中年夫婦が圧倒的な印象を掻っ攫っていく、びっくり仰天なスラッシャームービー。
「息子のみている夢だと思ったら母親が息子視点で見ている夢だった」という場面が意味不明で摩訶不思議だったり…15年前の惨劇をリアタイ視聴してたかのように語り出す校医が謎すぎたり(笑)…節々のとっ散らかり具合がイタリアらしく、その予測のつかなさになぜか惹きつけられてしまいます。
「フェノミナ」に似た印象のクラウディオ・シモネッティの音楽がぴったりとハマっていて、これだけでテンション爆上げ。
不思議とゴキゲンになる、楽しいジャーロ/スラッシャーホラーでした。