ある日女性カレンの首に謎の腫瘍が出来た。
胎児のように日に日に大きくなり、手術で除去しようとすると謎の超常現象が勃発。
なんと腫瘍は太古の呪術師・ミスカマカスが転生しようとする前兆なのだった…
「グリズリー」のウィリアム・ガードラー監督による78年のホラー。
ストーリーだけみるとキワモノ感あり、「エクソシクト」亜流のB級映画かと思いきや、意外にしっかりした真面目な作り。
西洋の信仰が全く役に立たず、医者・占い師・霊媒師・呪術師が女性を救おうと集結。
先日鑑賞した「エクソシクト信じる者」とプロット的には共通するものがあるように思うのですが、キャラクターが皆魅力的でこちらの方が圧倒的に面白いです。
カレンのため奔走するインチキ占い師を演じるのはトニー・カーティス。
裕福なおばさんたち相手に適当なこといって商売してるいい加減なおじさんですが、根は悪くなさそうで温かみが感じられる人物。
占い顧客の婆さんがいきなり「パナ ウィチ サリトウ」と叫び出し、廊下を空中浮遊し階段から転げ落ちる場面のインパクトが強烈。
不気味なのになぜか笑ってしまう…自分はもうこのシーンだけで心を鷲掴みにされてしまいました。
ハリーはかつての自分の師匠であるアメリアを訪れ、降霊術で何が取り憑いているのか調べてもらうことにします。
霊の見た目からどうやら取り憑いているのはインディアンの霊ではないかと推測されて、次に訪ねるのが人類学者。
1つ1つ解決に向かって行こうとする主人公らの行動に説得力があり、テンポがいいのも素晴らしい。
調査の結果、400年前に死んだネイティブアメリカンで史上最強の呪術師・ミスカマカスが転生しようとカレンの肉体に宿ったことが発覚。
呪術には同じ呪術で対抗すべくハリーはアメリカ先住民ジョン・シンギングロックの協力を仰ぎます。
「自分が同じ立場だったら助けるか?」「助けんだろうな」…正直なハリーに好感を持ったのか仲間になってくれるジョン。
短いながら人物のやり取りにしっかりドラマが感じられるのもいい。
そしてとうとう転生したミスカマカスがカレンの背中から生まれ出てその姿を現しますが…放射線治療を受けたためダメージを受けて完全体でないというのが妙にリアルな設定。
フロア全体を氷漬けにしたり、召喚とともに建物を歪ませるような地震を引き起こしたり、かなりの強敵感があってドキドキ。
美術は手作り感に溢れているけれど、突然現れる非日常空間にロマンも感じてしまいます。
閉じ込めていた部屋が宇宙空間になるのにはびっくりですが、「領域展開…!!」って感じで胸が高鳴る面白バトル。
勝ち目なしかと思いきや、なぜかタイプライターを投げ付けると一瞬怯むミスカマカス。
ジョン曰くこの世のあらゆる万物には霊が宿っていて、機械には機械の霊がいるのだと言います。
ミスカマカスも白人の機械の霊を操ることはできないから、それを敵にぶつければ倒せるかもしれない…
ラストに立ち上がるのはなんと取り憑かれていたはずのカレン。
突然のスーパービーム攻撃は予算が足りなかったのかかなりシュールな映像になってますが、観終わったあとはなぜかスカッとした気分に(笑)。
西洋の価値観が全てではなく相手の土壌をリスペクトして戦わなければならないところ、最後には現代の白人文明を味方につけて打ち勝つところ…ストーリーは破綻なくしっかりしていて、異文化交流を描いた意外に深い内容!?な気もします。
復活しようとした呪術師を悪と定めるでもなく、「またいつか会うかもしれない」などと締めくくるところもフェアでクール。
「火と戦うには火を使え」「自信は聖者と愚者のものだ」…台詞も少年漫画的!?でカッコよくてシビれます。
「デビルサマナー ソウルハッカーズ」というゲームをやったときに、電霊マニトゥという敵と主人公を導くインディアンのキャラクターが出てきたのですが、この映画の影響を受けているのかな、と思いました。
ちょっとした場面もズームアップしたり下アングルから撮ったり画が工夫されていて、ラロ・シフリンの大作感あるスコアが豪華。何より俳優陣がキャラクターを魅力的にしていて素晴らしい。
グロ描写と恐怖度は低めかもしれませんが、なぜか優しさを感じる真面目ホラーで、とても好きな作品でした。