どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「神の左手悪魔の右手/影亡者」…無情な宿命のスタンドバトル

空想の世界を行き来することができる不思議な能力を持った少年・想の活躍を描く楳図かずお先生のオカルトホラー。

5つのエピソードから成っていて「影亡者(かげもうじゃ)」は最後に収録されているお話。

他エピソードの方が心理的な怖さやストーリーの奥行きは深かったように思いますが、こちらはシンプルな設定と圧倒的画力で強烈なインパクトが残ります。

なんでこんな怖い話思い付くんだろう…こんな風にいきなり世界がみえるようになったらどうしよう…思わず想像してしまい、童心に返らされるような恐怖がありました。

◇◇◇

ある日突然「人の後ろにいる背後霊」がみえるようになった少年・想。

病院に行くと、死期が近い人たちの背後霊は皆苦しみのたうち回っていて、医師である自分の父親の後ろには3人の立派な医者の霊が佇んでいました。

運の強い人には強い霊が、ツイてない人には弱い霊がついている…自分はこの冒頭部分が震えるほど恐ろしかったです。

背後霊(ご先祖様)に嫌われていたため背中を押されてホームに転落してしまう人など理不尽の極みなのですが、「人のさだめはもう決まっていて本人の意志でどうこう出来るものではない」…絶望の運命論みたいなものが究極的に絵で表現されていると思いました。

 

この話を読んだ時に思い浮かんだのが「オーラの泉」というテレビ番組。芸能人に対してこんな守護霊が憑いているとかこんな前世だったとか占いめいたものが行われる企画がやっていました。

根拠がなくて胡散臭い、それらしいことを語って相手の心を動かすスピリチュアル系の怖さを感じるとともに、一方的に他人から「あなたはこういう因果があるからこういう人間なんだ」と上から目線で決めつけられることに対する不快さみたいなものを感じて自分はあまり好ましく思えなかった記憶があります。

しかしこの「影亡者」では背後霊の描写にあまりに迫力があって、無慈悲な宿命論が真に迫って襲いかかってきました。

その人の後ろに何かが付いているという構図はジョジョのスタンドにも似ていて「楳図先生は遥か先を行っていたんだ」と感動していたのですが、あとから「うしろの百太郎」という作品が背後霊という設定をさらに前の年に描いていたことを知りました。

ただ「うしろの百太郎」では自分が良い人間になることで良い霊たちが引き寄せられるという少年漫画らしい設定があったのに対し、影亡者では”持っているものが全て”な冒頭の描写が心底恐ろしく思われました。

ジョジョに似ていると思ったのはこの作品も意外にバトル漫画していて、中盤からまさにスタンドバトルとも言うべき様相をみせていきます。

 

ある日昭和の大女優・大森世津子に憑いていた邪悪な背後霊が善良な女子高生・みよ子にのり移ってしまいます。

押し出されて居場所のなくなったみよ子の元々の守護霊〈さぶろうた〉が想に取り憑き、想の姉・泉とともに影亡者に立ち向かうことに…

(取り憑いた霊が禍々しすぎてビビる)

協力を仰いだ霊媒師の先生が除霊しようとするも手が引き裂け内臓が飛び出し…とグロ描写が炸裂。

敵の恐ろしい姿を一目見て主人公がガタガタ震えて逃げ出す…などまるで「HUNTER×HUNTER」な〝バトル漫画的表現〟が今読んでも鮮やかです。

取り憑かれたみよ子は突然芸能界に興味を持つようになりスター街道を駆け上がっていきますが、やらせ・出来レース・利用し合う男と女…煌びやかな世界の裏の部分を覗き見しているよう。

邪悪な守護霊のついたみよ子はその中でも一際ドス黒く、他人を従わせることに長けていました。

みよ子のように側にいるだけでなぜかドッと疲れてしまう人、逆らえない圧のあるような人って現実に周りにもいるよなあ…と思ったりして「背後霊が食われてしまう」本作のグロテスクな描写は妙なリアルさも感じさせます。

「大運のついた敵にはより強大な運の持ち主をぶつけるしかない」…霊媒師の策略でときの大スター、兵藤タケルとみよ子が引き合わされることに。

兵藤タケルについている守護霊は”子供の大群”。

表向きは「感動のやらせ」の場面、裏では背後霊たちが血みどろの闘争を繰り広げる阿鼻叫喚の地獄絵図。

この見開きページは強烈で1度みたら忘れることができません。

 

神の左手悪魔の右手」はアシスタントさんの不在が原因で連載が終了してしまったそうですが、もっと他のエピソードも読んでみたかったなあと惜しまれます。

すべては想像の産物だったということなのか「影亡者」のラストは唐突で謎が残りますが、ホラー映画を1本観終えたような余韻が残りました。

ギリシャ神話の運命の三女神だったり、逃れられない死が迫ってくる「オーメン」やフリードキンの「恐怖の報酬」のような映画だったり…「絶望の運命」を感じさせる作品は他にも色々あると思いますが、本作のオカルト的恐怖の表現は激烈。怖くて堪りませんでした。